模倣品被害レポート事例集【テーマ別レポート】
商業・サービス・営業活動に関して使用される商標・標章・商号等の保護を図り、これら知的財産制度の充実・改善・確立のために日々活動されている日本商標協会。その中で模倣品の流通による企業のブランドイメージ低下の防止を主な活動内容としている模倣対策委員会の大場さんにお話を伺いました。
日本商標協会常務理事
模倣対策委員会委員長
弁理士
大場 弘行さん
Q 日本商標協会の設立の目的はどのようなものですか?
A アメリカにINTA(International Trademark Association:国際商標協会)という企業や法律事務所の専門家が集まり、商標制度の啓蒙と発展に向けて活動する非営利団体があります。日本商標協会はINTA(前身は、USTA(United States Trademark Association:アメリカ商標協会))のカウンターパートのような形で、弁護士、弁理士、企業の商標担当者を中心に1988年11月に設立されました。そこに大学の知的財産権法の専門家にも加わっていただき、商標制度を主とする知的財産制度の充実・改善・確立のため、総合的な調査・研究・提言を行い、会員相互の啓発・親睦を深めることを目的として活動しております。企業の実務家、法律家及び学者という立場の違う専門家が、それぞれ異なる視点から意見交換、議論を重ねることにより、日本の商標制度の発展にとっても適切な意見や提言が出来るようになったと思います。
(参考:日本商標協会(Japan Trademark Association)ロゴ)
Q 日本商標協会には様々な部会、委員会がありますが、その中で模倣対策委員会はどのような役割を担っているのですか?
A 模倣対策委員会は、模倣品対策には特に商標権侵害による権利行使が有効、ということで、協会設立当初の1990年に委員会が設置され活動がスタートしました。模倣対策の場合、通常の商標権の権利行使とは違って、存在が特定できない模倣業者を突き止めて対策を打たなければなりません。そのため、対策経験やノウハウの少ない企業にとっては、なかなか充分な対策をとることが難しいこともあり、「各企業が持っている模倣品対策の知恵や経験を結集できないか?」と考え、“情報の共有化を図り、より効果的な対策がとれるように”模倣対策委員会が設置されました。特に、近年では、模倣品の精度の向上、流通経路の複雑化などといった事情から、模倣品対策の難易度が以前と比べて格段に上がってきており、模倣対策委員会の役割は増してきたと考えます。メンバーは、日本商標協会の会員企業の模倣対策の担当者を中心に、弁護士や弁理士、さらには経済産業省や特許庁の模倣対策担当の方々にもオブザーバーとして参加していただいています。委員会の活動といたしましては、各社の模倣対策の事例発表を行う月に一度の定例会を中心に、法律の専門家がトピックや法改正のアドバイスをする講演や、政府機関の方による模倣対策関連の最新トピック紹介や意見交換などを定期的に行っています。また、委員会メンバー間のメーリングリストを作成し、情報交換やコンサルティングがよりスムーズに受けられるような体制も整って来ました。
Q 企業と専門家が連携を深め、情報を共有化することでどのようなメリットがありましたか?
A 例えば、自社が経験のない形態の模倣品被害に遭った時に「どのような対応をすべきか?」などという質問、相談を、定例会の場やメーリングリストを介して、あるいは個別に、委員の弁護士や弁理士に相談することが可能になりました。委員には中国や韓国など海外の弁護士や弁理士もいらっしゃるので、模倣品の多い中国、韓国などでの模倣対策や知的財産権取得などについて、直接アドバイスをいただくこともできることもメリットの1つです。また、メーリングリストを通じて、弁護士、弁理士の委員から法改正、制度運用や手続きの変更などの情報をいち早く知ることが出来るようになりました。
Q なぜ模倣品、海賊版の商品を無くしていく必要があるのですか?
A 模倣品製造業者は自ら投資や創造をせず、他の人の成果を無断で使用し、安いコストで“自分たちの商品”として売っています。ニセモノが出回ることにより企業の売り上げは低下し、商品開発の為に投下した資本の回収が難しくなります。そして何よりもブランドイメージが落ちてしまいます。日本の企業は何十年もかけて築き上げてきたブランドへの信頼をもとに仕事をしていますが、模倣品によりその信頼が壊されてしまいます。さらに模倣品と知らずに購入してしまった消費者も、正規品のような品質、満足を得られず、被害を受けることがあります。例えば、自動車やオートバイにおいて、粗悪な模倣部品を使われていると人命にも関わる事故を招く可能性があります。また、ニセブランドの化粧品や医薬品を使った健康被害例も多く見られます。正規商品で被害を受けた場合は製造物責任を追及することが出来ますが、模倣品の場合は責任をどこにも求めることが出来ません。模倣品は企業、消費者の双方に重大な被害、損害を及ぼすので、例え、もぐら叩きになったとしても、模倣品、海賊版を無くしていく努力を継続する必要があると考えます。
Q 模倣品が出回ったことにより、会員の企業や、一般消費者が受けた被害の具体例や実例があれば教えてください。
A 最近増えてきているのがインターネット人口の急増に伴いネットオークションやネットショピングでの模倣品被害です。例えば、「出品者は日本からオークションに参加しているのですが、商品は中国から」というケースが増えてきております。この例のように、ネットオークションやショッピングを利用する人が増えた結果、今まではあまり見られなかった模倣品の流通経路が出てきています。インターネットですと写真で商品を判断する為、店頭販売に比べて、模倣品を買ってしまう可能性が高くなっています。モニター上はカタログの本物の写真を使うこともできますし、模倣品の精度が上り、写真ではなかなかニセモノと判別できなくなっています。このようなインターネットでの模倣品流通により、ますます一企業だけでは対策が難しくなっていますので、より効果的な対策のために模倣対策委員会のような組織が重要になって来ると思います。
Q 模倣品製造業者の手口に変化は見られますか?
A 中国の例ですが、模倣品で捕まる人は再犯が非常に多いです。そのため、一度捕まると次は違う手口を考えます。例えば、最近では、ニセモノの製品とニセブランドマークを違う業者が作り、その2つをまた違う業者が合わせるというケースもあります。このためか、日本の税関ではニセのブランドステッカーが差し押さえられることが多くなりました。また、以前でしたら模倣品を一度に大量生産して、在庫として持っていたので摘発し易かったのですが、最近では、注文を受けた量だけ少量生産して、すぐ出荷し在庫を持たないようにして摘発を免れる、ということも多いです。
Q 企業としてはどのようにして模倣品を見つけるのですか?
A 消費者や販売店から模倣品の情報が入って来ることが多いです。最近は専門の部署を設け積極的に模倣対策を行っている企業が増えていますので、特約店やディーラー、海外に支店がある企業でしたら現地法人から模倣品の情報が入ってきます。調査会社に定期的に市場における模倣品調査を依頼している会社もあります。その他には税関から情報が伝えられるケースもあります。また、海外での展示会に模倣品が出展されていないかを調査するケースもあります。日本では考えにくいのですが、海外では “将来の模倣品”が出展されることが多いのです。中国の展示会に行きますと、日本企業の商品とデザインが酷似した電化製品が中国のメーカー商品として出展されているということもあります。それ自体、意匠権の侵害の可能性があるのですが、次の段階として日本企業のブランドマークに付け替えて市場に売り出されることが推測されます。このような事態を防ぐために、展示会調査などで“将来の模倣品”を早めに見つけ、対策を取ることも最近では重要になってきております。
Q 消費者から模倣品の情報が寄せられるのは、日本では知的財産の重要性が認知されているということですか?
A 日本では特許庁をはじめ、様々な団体・企業が広報活動を行ってきた結果、一般にも知的財産の重要性は認知されていると思います。しかし、発展途上国ではまだ日本ほどの認識がないのが現状です。受けてきた教育や、その国の歴史的背景もありますのですぐには変わらないと思います。例えば、中国では政府レベルでは模倣品対策を推進しており、模倣業者に対して厳しい措置を取ろうとしていますが、それが中国全土の末端組織、市民レベルにまで行きわたるにはまだまだ時間がかかると思います。
Q これだけ模倣品が出回っていますと消費者が模倣品を手にする可能性も高いと思いますが、その時はどのように対応をしたらいいのですか?
A 模倣品を発見した場合、その商品の真正品を販売している会社(権利者)が分かれば、その会社(権利者)のカスタマーセンターに連絡していただくのが良いと思います。インターネットサイトで模倣品を手にしてしまった場合は、会社(権利者)への連絡のほか、そのサイトの管理者に連絡することも有効と考えます。知的財産保護プログラムがしっかりしているサイトであれば、不正行為を行う出品者に対して、出品を停止するなどの対応をしてもらえる可能性もあります。また、被害額が大きかったり、詐欺まがいで悪質な場合は警察に被害届を出すことも考えた方がよいでしょう。ただ、模倣品を購入した場合、販売者から返金してもらうのは難しい場合が多いと思いますので、まずは、模倣品を購入しないために「不当に安いと思うものは買わない。信頼できる業者から買う。」ように注意する必要があると思います。
Q 模倣品対策を進めるためにはどのようなことが大切なのでしょうか?
A 私たちは日本商標協会模倣対策委員会として活動していますが、経産省、特許庁をはじめ様々な団体が模倣対策を推進しています。そうした団体と連携を深めて、“情報共有による効果的な模倣対策の推進”につなげることが重要になると思います。