<我が国における職務発明制度>
(1)職務発明制度の趣旨
職務発明制度は、「使用者、法人、国又は地方公共団体(使用者等)」が組織として行う研究開発活動が我が国の知的創造において大きな役割を果たしていることにかんがみ、使用者等が研究開発投資を積極的に行い得るよう安定した環境を提供するとともに、職務発明の直接的な担い手である個々の「従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(従業者等)」が使用者等によって適切に評価され報いられることを保障することによって、発明のインセンティブを喚起しようとするものである。つまり、全体として我が国の研究開発活動の奨励、研究開発投資の増大を目指す産業政策的側面を持つ制度であり、その手段として、従業者等と使用者等との間の利益調整を図ることを制度趣旨としている。
(2)特許法上の変遷
a.明治42年法
職務上又は契約上なした発明の特許を受ける権利は、原則としてその職務を執行させた者に帰属するとして使用者主義の立場をとっていた。
b.大正10年法
職務発明の定義、職務発明以外の発明の予約承継の無効、使用者の取得する法定実施権、予約承継に係る発明者の補償金請求権、裁判における補償金の算定等について規定し、発明者主義を基本的理念とした。
c.昭和34年法(現行)
「特許を受ける権利」や「特許権」は原始的に当該従業者である発明者に帰属するという発明者主義をとり、それの使用者への承継に際しては相当の対価(補償金)を承継する権利が従業者にあるという権利主義を基本的理念としている。
d.平成16年法(平成17年4月1日施行)
新職務発明制度は、職務発明に係る「相当の対価」を使用者等と従業者等の間の「自主的な取決め」にゆだねることを原則としている。しかし、契約、勤務規則その他の定めに基づいて対価が支払われることが不合理と認められる場合等には、従来の職務発明制度と同様に、一定の要素を考慮して算定される対価を「相当の対価」としている。
(3)職務発明に関する規定の解説
昭和34年4月13日法律第121号(特許法第35条 職務発明制度)
1.使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2.従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除きあらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定の条項は、無効とする。
3.従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4.前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。
第1項は、職務発明の定義と使用者等の取得する法定実施権について定めている。
使用者等従業者等
イ、使用者イ、従業者
ロ、法人ロ、法人の役員
ハ、国ハ、国家公務員
ニ、地方公共団体ニ、地方公務員
○使用者等の業務範囲について
・企業
定款に定める「目的」に記載された事業(業務)を一応の基準とし、又、現実に行われている業務及び近い将来具体的に計画されている事業(業務)がこれに該当する。
・国、地方公共団体
当該公務員の属する機関の所掌に属する事項の範囲がこれに該当する。
○職務について
国公立や企業の研究所において、研究をすることを職務とする者が、テーマを与えられ、又は研究を命ぜられた場合に生じた発明は明らかに職務上の発明となる。命令又は指示がない場合であっても、結果からみて発明の過程となり、これを完成するに至った思索的活動が、使用者等との関係で従業者等の義務とされている行為の中に予定され、期待されている場合をも含まれると考えられる。
○使用者等の通常実施権(法定実施権)
a.従業者等が職務発明について特許を受けたとき。
b.職務発明について特許を受ける権利を承継した者(使用者等以外)がその発明について特許を受けたとき。
この使用者等の得た通常実施権は登録しなくても、その後に特許権若しくは専用実施権を取得した者に対して対抗することができる(法第99条第2項)。この点、契約による通常実施権(第78条)とは異なる。
第2項は、職務発明以外の予約承継の無効について定めている。
職務発明以外の発明について、使用者等に特許を受ける権利や特許権を承継させ又は専用実施権を設定することを予め定めた契約等は無効である。これは雇用という関係から従業者が不利な処遇を受けることのないようにするため設けられた条文で、従業者の利益を確保するとともに発明奨励の目的にそうことを期したものである。
第3項は、発明者の対価請求権について定めている。
従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは、特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有する。
第4項は、職務発明について承継等が行われた場合の対価について定めている。
前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。
平成16年6月4日法律第79号(特許法第35条 職務発明制度)
1. 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2. 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3. 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4. 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。
5. 前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。
第1項は、職務発明の定義と使用者等の取得する法定実施権について定めている。
(昭和34年法参照)
第2項は、職務発明以外の予約承継の無効について定めている。
(昭和34年法参照)
第3項は、発明者の対価請求権について定めている。
(昭和34年法参照)
第4項は、職務発明について承継等が行われた場合の対価について定めている。
契約、勤務規則その他の定めにおいて、従業者等が支払を受けることができる対価について定めた場合には、原則としてその定めたところに基づき決定される対価を「相当の対価」としている。
ただし、従業者等と使用者等との間には、その有する情報の量や質、交渉力における格差が存在することから、対価の決定についてすべてを私的自治に委ねるのは適切ではない。このため、契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定める場合において、それが「相当の対価」と認められるためには、その対価が決定されて支払われるまでの全過程を総合的に評価して不合理と認められるものであってはならないこととしている。
第5項は、契約、勤務規則、その他の定めにより対価を支払うことが不合理と認められる場合等の対価について定めている。
使用者等と従業者等の間の多様な事情を考慮して「相当の対価」の額を算定することが妥当であることから、「相当の対価」の額を算定する際の考慮要素として、改正前の特許法第35条第4項が規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」だけでなく、その他の事情についても広く考慮した上で「相当の対価」が算定されることを条文上明確にした。
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[更新日 2005.1.7]