第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件

最終更新 2012.4

1. 明細書及び特許請求の範囲の意義

特許制度は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としている(第1条)。

すなわち、新しい技術を開発し、それを公開した者に対し、一定期間、一定条件下に特許権という独占権を付与することにより発明の保護を図り、他方、第三者に対しては、この公開により発明の技術内容を知らしめて、その発明を利用する機会を与えるものである。そして、発明のこのような保護及び利用は、発明の技術的内容を公開するための技術文献及び特許発明の技術的範囲を明示する権利書としての使命を持つ明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「明細書等」という。)を介してなされることになる。

第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載要件について、また、第36条第5項及び第6項は、特許請求の範囲の記載要件について規定しているが、技術文献としての使命及び権利書としての使命は、まさにこれらの規定の要件を満足する明細書等によって初めて、果たされるものである。

2. 特許請求の範囲の記載要件

特許請求の範囲の記載は、特許発明の技術的範囲がこれに基づいて定められる点において、重要な意義を有する。特許請求の範囲がその記載要件を満たさないときは、第三者が不当にその権利による制約を受けることがあるのみならず、権利者自身も無用の争いに対処しなければならなくなることから、特許請求の範囲の記載要件の審査にあたっては、この点に十分に留意することが必要である。

2.1 第36条第5項

第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
(1)

本項前段は、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定する際に、まったく不要な事項を記載したり、逆に、必要な事項を記載しないことがないようにするために、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明を特定するための事項を過不足なく記載すべきことを示したものである。

なお、どのような発明について特許を受けようとするかは特許出願人が判断すべきことであるので、特許を受けようとする発明を特定するために必要と出願人自らが認める事項のすべてを記載することとされている。

本項の後段は、一の発明については、一の請求項でしか記載できないとの誤解が生じないように確認的に規定されたものである。

(2)

また、本規定は請求項の性格を明らかにしたものでもある。すなわち、出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明を特定するための事項」ということがある。)を記載するのが請求項であることを明示することにより、各請求項の記載に基づいて特許発明の技術的範囲が定められるべきこと、各請求項の記載に基づいて認定した発明が審査の対象とされるべきこと等が明らかにされている。

(3)

なお、特許請求の範囲は請求項に区分され、各請求項ごとに「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」が記載される。請求項は、特許要件の判断(第29条第29条の2第39条第32条)、特許権の効力(第68条)、特許権の放棄(第97条)、特許無効審判請求(第123条)、料金(第107条第195条)などの基本的単位となる区分である。

2.2 第36条第6項

第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
特許を受けようとする発明が明確であること。
請求項ごとの記載が簡潔であること。
その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

2.2.1 第36条第6項第1号

2.2.1.1 第36条第6項第1号の趣旨

請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない。発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開していない発明について権利を請求することになるからである。本号の規定は、これを防止するためのものである。(参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042※裁判所ウェブサイトへのリンク 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」大合議判決))

2.2.1.2 第36条第6項第1号の審査における基本的な考え方
(1)

特許請求の範囲の記載が第36条第6項第1号に適合するかの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとを対比・検討することにより行う。

この対比・検討は、請求項に係る発明を基準にして、発明の詳細な説明の記載を検討することにより、進める。この際、発明の詳細な説明に記載された特定の具体例にとらわれて、必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることがないようにする。

(2)

対比・検討にあたっては、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとの表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について審査する。単に表現上の整合性のみで足りると解すると、実質的に公開されていない発明について権利が発生することとなり、本規定の趣旨に反するからである。

(3)

実質的な対応関係についての審査は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者(3.2(1)参照)が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを調べることにより行う。発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとが、実質的に対応しているとはいえず、第36条第6項第1号の規定に違反する。

発明の課題は、原則、発明の詳細な説明の記載から把握する。ただし、発明の詳細な説明に明示的に課題が記載されていない場合や、明示的に記載された課題が、発明の詳細な説明の他の記載や出願時の技術常識(注)からみて、請求項に係る発明の課題として不合理なものである場合(例:分割出願と原出願において、発明の詳細な説明に明示的に記載された課題が同じであり、当該課題が、発明の詳細な説明の他の記載や出願時の技術常識からみて、分割出願の請求項に係る発明の課題としては不合理と認められる場合)には、明細書及び図面のすべての記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮して課題を把握する。

「発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」の把握にあたっては、明細書及び図面のすべての記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮する。

(注)

技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいう。したがって、技術常識には、当業者に一般的に知られているものである限り、実験、分析、製造の方法、技術上の理論等が含まれる。当業者に一般的に知られているものであるか否かは、その技術を記載した文献の数のみで判断されるのではなく、その技術に対する当業者の注目度も考慮して判断される。

なお、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術をいい、また、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術をいう。

2.2.1.3 第36条第6項第1号違反の類型

以下に、特許請求の範囲の記載が第36条第6項第1号に適合しないと判断される類型を示す。

(1)

発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項が、請求項に記載されている場合。

例1:

発明の詳細な説明では、具体的な数値については何ら記載も示唆もされていないにもかかわらず、請求項では数値限定している場合。

例2:

請求項においては、超音波モータを利用した発明についてのみ記載されているのに対し、発明の詳細な説明では、超音波モータを利用した発明については記載も示唆もされておらず、直流モータを利用した発明のみが記載されている場合。

(2)

請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合。

例3:

ワードプロセッサにおいて、請求項に記載された「データ処理手段」が、発明の詳細な説明中の「文字サイズ変更手段」か、「行間隔変更手段」か又はその両方を指すのかが不明瞭な場合。

(3)

出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。

本類型を適用するにあたっては、以下の点に留意する必要がある。

(a)

発明の詳細な説明に記載された特定の具体例にとらわれて、必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることがないようにする(2.2.1.2(1)参照)。

(b)

請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる。発明の詳細な説明に記載された範囲を超えないものとして拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なる。例えば、物の有する機能・特性等(2.2.2.4参照)と、その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野(例:化学物質)に比べて、それらの関係を理解することが比較的容易な技術分野(例:機械、電気)では、発明の詳細な説明に記載された具体例から拡張ないし一般化できる範囲は広くなる傾向がある。審査対象の発明がどのような特性の技術分野に属するか、そして当該技術分野にどのような技術常識が存在するのかを検討し、事案ごとに、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえるかを判断する。

(c)

本類型が適用されるのは、実質的な対応関係についての審査における基本的な考え方(2.2.1.2(3)参照)に基づき、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断される場合であり、発明の課題と無関係に本類型を適用しないようにする。

(d)

拒絶理由通知に記載すべき内容については、2.2.1.4(1)を参照。

例4:

請求項には、R受容体活性化化合物の発明が包括的に記載されているが、発明の詳細な説明には、具体例として、新規なR受容体活性化化合物X、Y、Zの化学構造及び製造方法が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例1参照)

例5:

請求項には、達成すべき結果により規定された発明(例えば、所望のエネルギー効率の範囲により規定されたハイブリッドカーの発明)が記載されているが、発明の詳細な説明には、特定の手段による発明が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例2参照)

例6:

請求項には、「活性Aを有するタンパク質をコードするDNA」と、機能のみで規定されたDNAの発明が記載されているが、発明の詳細な説明には、具体例として、一つの特定の塩基配列からなるDNAが記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例3参照)

例7:

請求項には、性質により規定された化合物を有効成分とする特定用途の治療剤の発明が包括的に記載されているが、発明の詳細な説明には、請求項において有効成分として規定された化合物のうち、ごくわずかな具体的な化合物について特定用途を裏付ける記載がされているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例4参照)

例8:

請求項には、多数の選択肢を有するマーカッシュ形式で表された化学物質の発明が記載されているが、発明の詳細な説明には、選択肢に含まれる特定の骨格構造を有する化学物質についての製造例が記載されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例5参照)

例9:

請求項には、成分Aを有効成分として含有する制吐剤の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、成分Aの制吐剤としての用途を裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果についての記載がなく、しかも、成分Aの制吐剤としての用途が出願時の技術常識からも推認可能といえないため、制吐剤を提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、したがって、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでない場合。(事例8参照)

例10:

請求項には、数式又は数値を用いて規定された物(例えば、高分子組成物、プラスチックフィルム、合成繊維又はタイヤ)の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、課題を解決するために該数式又は数値の範囲を定めたことが記載されているが、出願時の技術常識に照らしても、該数式又は数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例や説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。(事例12参照)

(注)

数値範囲に特徴がある場合ではなく、単に望ましい数値範囲を請求項に記載したにすぎない場合には、発明の詳細な説明にその数値範囲を満たす具体例が記載されていなくても、本類型には該当しない(上記(c)参照)。(参考:知財高判平21.9.29(平成20(行ケ)10484※裁判所ウェブサイトへのリンク 審決取消請求事件))

(4)

請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合。

本類型を適用するにあたっては、以下の点に留意する必要がある。

(a)

発明の詳細な説明に記載された特定の具体例にとらわれて、必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることがないようにする(2.2.1.2(1)参照)。

(b)

本類型が適用されるのは、実質的な対応関係についての審査における基本的な考え方(2.2.1.2(3)参照)に基づき、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断される場合である。発明の課題は、2.2.1.2(3)に従って把握する。

(c)

発明の詳細な説明の記載から複数の課題が把握できる場合は、そのうちのいずれかの課題を解決するための手段が請求項に反映されている必要がある。

(d)

拒絶理由通知に記載すべき内容については、2.2.1.4(2)を参照。

例11:

発明の詳細な説明には、データ形式が異なる任意の端末にサーバから情報を提供できるようにするという課題のみを解決するために、サーバから端末に情報を提供する際に、サーバが、送信先となる端末に対応したデータ形式変換パラメータを記憶手段から読み取り、読み取ったデータ形式変換パラメータに基づいて情報のデータ形式を変換して端末に情報を送信することのみが発明として記載されているが、請求項にはデータ形式の変換に関する内容が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合。(事例15参照)

例12:

発明の詳細な説明の記載から把握できる課題は、自動車の速度超過防止のみであり、発明の詳細な説明からは、その解決手段として、自動車の速度上昇に伴いアクセルペダルを踏み込むのに要する力を積極的に大きくする機構のみが把握できるが、請求項には自動車の速度上昇に伴いアクセル手段を操作するのに要する力を可変とする操作力可変手段を設けたとしか規定されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、速度上昇に伴い操作力が減少する場合には発明の課題が解決できないことが明らかであるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合。

2.2.1.4 第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知
(1)

違反の類型(3)について(2.2.1.3(3)参照)

審査官は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないと判断する場合は、その判断の根拠(例えば、判断の際に特に考慮した発明の詳細な説明の記載箇所及び出願時の技術常識の内容等)を示しつつ、拡張ないし一般化できないと考える理由を具体的に説明する。また、可能な限り、出願人が拒絶理由を回避するための補正の方向について理解するための手がかり(拡張ないし一般化できるといえる範囲等)を記載する。

理由を具体的に説明せず、「出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない」とだけ記載することは、出願人が有効な反論を行ったり拒絶理由を回避するための補正の方向を理解したりすることが困難になる場合があるため、適切でない。

(2)

違反の類型(4)について(2.2.1.3(4)参照)

審査官は、請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっていると判断する場合は、自らが認定した発明の課題及び課題を解決するための手段を示しつつ、発明の課題を解決するための手段が反映されていないと考える理由を具体的に説明する。この際、発明の詳細な説明に明示的に記載された課題が、請求項に係る発明の課題として不合理なものであると審査官が判断した場合には、その理由も記載する。また、審査官は、課題を解決するための手段を示すにあたって、特定の具体例にとらわれることがないよう留意しつつ、出願人が拒絶理由を回避するための補正の方向について理解できるように努める。

理由を具体的に説明せず、「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない」とだけ記載することは、出願人が有効な反論を行ったり拒絶理由を回避するための補正の方向を理解したりすることが困難になる場合があるため、適切でない。

(3)

審査官が、出願人の反論、釈明(2.2.1.5参照)を受け入れられると判断したときは、拒絶理由は解消する。出願人の反論、釈明を参酌しても、特許請求の範囲の記載が第36条第6項第1号に適合するといえないとき(真偽不明の場合を含む)は、その拒絶理由により拒絶の査定を行う(2.2.5(2)参照)。

2.2.1.5 第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知に対する出願人の対応

出願人は第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知に対して意見書、実験成績証明書等により反論、釈明をすることができる。

(1)

違反の類型(3)について(2.2.1.3(3)参照)

出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないと判断された場合は、出願人は、例えば、審査官が判断の際に特に考慮したものとは異なる出願時の技術常識等を示しつつ、そのような技術常識に照らせば、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できることを、意見書において主張することができる。また、実験成績証明書によりこのような意見書の主張を裏付けることができる(事例6721参照)。

ただし、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるといえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できると主張したとしても、拒絶理由は解消しない(事例4589参照)。(参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042※裁判所ウェブサイトへのリンク 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」大合議判決))

(2)

違反の類型(4)について(2.2.1.3(4)参照)

請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっていると判断された場合は、出願人は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば、審査官が示した課題や課題を解決するための手段とは異なる課題や課題を解決するための手段を把握可能であり、請求項にはその課題を解決するための手段が反映されている旨の反論を行うことができる。

2.2.2 第36条第6項第2号

2.2.2.1 第36条第6項第2号の審査における基本的な考え方
(1)

特許請求の範囲の記載は、これに基づいて新規性・進歩性等の特許要件の判断がなされ、これに基づいて特許発明の技術的範囲が定められるという点において重要な意義を有するものであり、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要である。

本号は、こうした特許請求の範囲の機能を担保する上で重要な規定であり、特許を受けようとする発明が明確に把握できるように記載しなければならない旨を規定したものである。特許を受けようとする発明が明確に把握されなければ、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができず、特許発明の技術的範囲も理解し難い。

発明が明確に把握されるためには、発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されていることが必要であり、その前提として、発明を特定するための事項の記載が明確である必要がある。

(2)

また、請求項の制度の趣旨に照らせば、一の請求項に記載された事項に基づいて、一の発明が把握されることも必要である(2.2.2.3(4)参照)。

(3)

第36条第6項第2号の審査は、第36条第5項の規定により請求項に記載された、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項に基づいて行う。ただし、発明を特定するための事項の意味内容や技術的意味(2.2.2.3(2)②参照)の解釈にあたっては、請求項の記載のみでなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮する。

なお、発明の把握に際して、請求項に記載のない事項は考慮の対象とはならない。反対に、請求項に存在する事項は、必ず考慮の対象とする必要がある。

(4)

具体的には、請求項の記載がそれ自体で明確であると認められる場合は、明細書又は図面中に請求項の用語についての定義又は説明があるかどうかを検討し、その定義又は説明によって、かえって請求項の記載が不明確にならないかを判断する。例えば、請求項の用語についてその通常の意味と矛盾する明示の定義が置かれているときや、請求項の用語が有する通常の意味と異なる意味を持つ旨の定義が置かれているときは、請求項の記載に基づくことを基本としつつ発明の詳細な説明等の記載をも考慮するという請求項に係る発明の認定の運用からみて、いずれと解すべきかが不明となり、特許を受けようとする発明が不明確になることがある。

請求項の記載がそれ自体で明確でない場合は、明細書又は図面中に請求項の用語についての定義又は説明があるかどうかを検討し、その定義又は説明を出願時の技術常識をもって考慮して請求項中の用語を解釈することによって、請求項の記載が明確といえるかどうかを判断する。その結果、請求項の記載から特許を受けようとする発明が明確に把握できると認められれば本号の要件は満たされる。なお、ことさらに、不明確あるいは不明瞭な用語を使用したり、特許請求の範囲で明らかにできるものを発明の詳細な説明に記載するにとどめたりして、請求項の記載内容をそれ自体で不明確なものにしてはならないことはいうまでもない。(参考:東京高判平15.3.13(平成13(行ケ)346審決取消請求事件))

2.2.2.2 第36条第6項第2号の審査における留意事項
(1)

第36条第5項の「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」すべき旨の規定の趣旨からみて、出願人が請求項において特許を受けようとする発明について記載するにあたっては、種々の表現形式を用いることができる。

例えば、「物の発明」の場合に、発明を特定するための事項として物の結合や物の構造の表現形式を用いることができる他、作用・機能・性質・特性・方法・用途・その他の様々な表現方式を用いることができる。同様に、「方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明」の場合も、発明を特定するための事項として、方法(行為又は動作)の結合の表現形式を用いることができる他、その行為又は動作に使用する物、その他の表現形式を用いることができる。

(2)

他方、第36条第6項第2号の規定により、請求項は、一の請求項から発明が明確に把握されるように記載すべきであるから、出願人による前記種々の表現形式を用いた発明の特定は、発明が明確である限りにおいて許容されるにとどまることに留意する必要がある。

(3)

請求項中に用途を意味する記載のある用途発明(第Ⅱ部第2章1.5.2(2)参照)において、用途を具体的なものに限定せずに一般的に表現した請求項の場合(例えば「〜からなる病気X用の医薬(又は農薬)」ではなく、単に「〜からなる医薬(又は農薬)」等のように表現した場合)については、その一般的表現の用語の存在が特許を受けようとする発明を不明確にしないときは、単に一般的な表現であることのみ(すなわち概念が広いということのみ)を根拠として第36条第6項第2号違反とはしない。

また、組成物において、請求項中に用途や性質による特定がないものについては、単に用途や性質の特定がないことのみをもって、第36条第6項第2号違反とすることは適切でない。

2.2.2.3 第36条第6項第2号違反の類型

特許請求の範囲の記載が第36条第6項第2号に適合しない場合の例として、以下に類型を示す。

(1)

請求項の記載自体が不明確である結果、発明が不明確となる場合。

請求項に日本語として不適切な表現がある結果、発明が不明確となる場合。

例えば、請求項の記載中の誤記や不明確な記載等のように、日本語として表現が不適切であり、発明が不明確となる場合。ただし、軽微な記載の瑕疵であって、それによって当業者にとって発明が不明確にならないようなものは除く。

明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項中の用語の意味内容を理解できない結果、発明が不明確となる場合。

例1:

「化合物Aと化合物Bを常温下エタノール中で反応させて化合物Cを合成する工程、及び、化合物CをKM−Ⅱ触媒存在下80〜100℃で加熱処理することによって化合物Dを合成する工程、からなる、化合物Dの製造方法」(「KM−Ⅱ触媒」は、発明の詳細な説明中に定義が記載されておらず、出願時の技術常識でもないため、「KM−Ⅱ触媒」の意味内容を理解できない。)

(2)

発明を特定するための事項に技術的な不備がある結果、発明が不明確となる場合。

発明を特定するための事項の内容に技術的な欠陥がある場合。

例1:

「40〜60質量%のA成分と、30〜50質量%のB成分と、20〜30質量%のC成分からなる合金」

(三成分のうち一のもの(A)の最大成分量と残りの二成分(B、C)の最小成分量の和が100%を超えており、技術的に正しくない記載を含んでいる。)

発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合。

請求項に係る発明の範囲(2.2.2.1(1)参照)が明確である場合には、通常、請求項の記載から発明を明確に把握できる。

しかしながら、発明の範囲が明確であっても、発明を特定するための事項の技術的意味を理解することができず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合には、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができない。このような場合には、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能(2.2.2.1(1)参照)を担保しているといえないから、第36条第6項第2号違反となる。

発明を特定するための事項の技術的意味とは、発明を特定するための事項が、請求項に係る発明において果たす働きや役割のことを意味し、これを理解するにあたっては、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。

発明を特定するための事項が、請求項に係る発明において果たす働きや役割は、発明の詳細な説明の記載(3.2.1(2)②③参照)や出願時の技術常識を考慮すれば理解できる場合が多く、そのような場合には、本類型には該当しない。

また、発明を特定するための事項がどのような技術的意味を有しているのかが理解できないというだけでは本類型には該当せず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合に、本類型に該当する。発明を特定するための事項が不足していることが明らかであるとの判断は、発明の属する技術分野における出願時の技術常識に基づいて行うため、その判断の根拠となる技術常識の内容を示せない場合には、本類型を適用しない。

例1:

「鋳造製ベッドと、弾性体と、金属板と、自動工具交換装置のアームと、工具マガジンと、を備えたマシニングセンタ」

請求項においては、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係は何ら規定されておらず、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、弾性体及び金属板の技術的意味(請求項に係る発明において果たす働きや役割)を理解することができない。そして、マシニングセンタの発明においては、部品の技術的意味に応じて他の部品との構造的関係が大きく異なることが出願時の技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項において、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係を理解するための事項が不足していることは明らかである。したがって、請求項の記載から発明を明確に把握することができない。(事例17参照)

(補足説明)

出願時の技術常識を考慮すると、「鋳造製ベッド」、「自動工具交換装置のアーム」、及び、「工具マガジン」については、それらの技術的意味は自明であるが、単に「弾性体」、「金属板」を備えることが規定されただけでは、弾性体及び金属板の技術的意味を理解できない。また、例えば、弾性体が鋳造製ベッドの下部に、及び、金属板が弾性体の下部に取り付けられ、いずれも制振部材としての役割を有するという具体例が明細書に記載されていた場合、弾性体及び金属板が当該具体例において果たす役割を理解できるとしても、請求項にはそのような構造的関係が何ら規定されていないため、弾性体及び金属板が請求項に係る発明において果たす役割をそのように限定的に解釈することはできない。したがって、明細書及び図面の記載を考慮しても、弾性体及び金属板の技術的意味を理解することができない。

例2:

「入力した画像データを圧縮してX符号化画像データを出力する画像符号化チップにおいて、外部から入力した画像データを可逆のA符号化方式により符号化してA符号化データを生成するA符号化回路と、生成されたA符号化データをA復号方式により元の画像データに復号するA復号回路と、復号された画像データを非可逆のX符号化方式により符号化してX符号化画像データを生成し、生成したX符号化画像データを外部に出力するX符号化回路と、からなることを特徴とする画像符号化チップ」

画像符号化チップの発明においては、高速化、小規模化、省電力化、低コスト化が重視されることが出願時の技術常識であり、請求項に記載されているように、一度符号化したデータを、単に元のデータに復号するという回路を設けることは技術常識に反することであるので、明細書及び図面の記載を考慮しても、A符号化回路及びA復号回路の技術的意味(請求項に係る発明において果たす働きや役割)を理解することができない。そして、画像符号化チップの発明においては、チップに設けられる回路の技術的意味に応じて、当該チップにおける処理内容等が大きく異なることが出願時の技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項において、A符号化回路及びA復号回路の画像符号化チップにおける役割に関する事項が不足していることは明らかである。したがって、請求項の記載から発明を明確に把握することができない。(事例18参照)

(補足説明)

例えば、A符号化回路において符号化時間を測定し、その符号化時間に基づいて、X符号化に用いるパラメータを決定するという具体例が明細書に記載されていた場合、A符号化回路及びA復号回路が当該具体例において果たす役割を理解できるとしても、請求項にはA符号化回路で得られた情報をX符号化に用いる点が何ら規定されていないため、A符号化回路及びA復号回路が請求項に係る発明において果たす役割をそのように限定的に解釈することはできない。したがって、明細書及び図面の記載を考慮しても、A符号化回路及びA復号回路の技術的意味を理解することができない。

発明を特定するための事項どうしの関係が整合していない場合。

例1:

請求項に「出発物質イから中間生成物ロを生産する第1工程及びハを出発物質として最終生成物ニを生産する第2工程からなる最終生成物ニの製造方法」と記載されており、第1工程の生成物と第2工程の出発物質とが相違しており、しかも、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して「第1工程」及び「第2工程」との用語の意味するところを解釈したとしても、それらの関係が明確でない場合。

発明を特定するための事項どうしの技術的な関連がない場合。

例1:

特定のエンジンを搭載した自動車が走行している道路。

例2:

特定のコンピュータープログラムを伝送している情報伝送媒体。 情報を伝送することは伝送媒体が本来有する機能であり、発明を「特定のコンピュータープログラムを伝送している情報伝送媒体」とすることは、特定のコンピュータープログラムが、情報伝送媒体上のどこかをいずれかの時間に伝送されているというにすぎず、伝送媒体が本来有する上記機能の他に、情報伝送媒体とコンピュータープログラムとの関連を何ら規定するものではない。

請求項に販売地域、販売元等についての記載がある結果、全体として技術的でない事項が記載されていることとなる場合。

(注)

商標名を用いて物を特定しようとする記載を含む請求項については、少なくとも出願日以前から出願当時にかけて、その商標名で特定される物が特定の品質、組成、構造などを有する物であったことが当業者にとって明瞭でないときは、発明が不明確になることに注意する。

(3)

特許を受けようとする発明の属するカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)が不明確であるため、又は、いずれのカテゴリーともいえないものが記載されているために、発明が不明確となる場合。

第68条で「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」とし、第2条第3項では「実施」を物の発明、方法の発明及び物を生産する方法の発明に区分して定義している。これらを考慮すれば、標記に該当する発明に特許を付与することは権利の及ぶ範囲が不明確になり適切でない。以下に発明が不明確となる例を示す。

例1:

「〜する方法又は装置」

例2:

「〜する方法及び装置」

例3:

作用、機能、性質、目的、効果のみが記載されている結果、「物」「方法」のいずれとも認定できない場合(例:「化学物質Aの抗癌作用」)。

なお、「方式」又は「システム」(例:電話方式)は、「物」のカテゴリーを意味する用語として扱う。また、「使用」及び「利用」は、「方法」のカテゴリーである使用方法を意味する用語として扱う(例えば、「物質Xの殺虫剤としての使用(利用)」は「物質Xの殺虫剤としての使用方法」を意味するものとして扱う。また、「〜治療用の薬剤の製造のための物質Xの使用(利用)」は「〜治療用の薬剤の製造のための物質Xの使用方法」として扱う。)。

(4)

発明を特定するための事項が選択肢で表現されており、その選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しないために発明が不明確となる場合。

本号の趣旨からみれば、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要である。また、請求項の制度の趣旨に照らせば、一の請求項に記載された事項に基づいて、一の発明が把握されることが必要である。

したがって、特許を受けようとする発明を特定するための事項に関して二以上の選択肢があり、その選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しない場合には、第36条第6項第2号違反となる。

以下の例は本号の違反となる。

例1:

「特定の部品又は該部品を組み込んだ装置」

例2:

「特定の電源を有する送信機又は受信機」

例3:

一の請求項に化学物質の中間体と最終生成物とが択一的に記載されている場合。ただし、ある最終生成物に対して中間体となるものであっても、それ自身が最終生成物でもあり、他の最終生成物と共にマーカッシュ形式の記載要件(③参照)を満たすものについてはこの限りでない。

特に、マーカッシュ形式などの択一形式による記載が化学物質に関するものである場合、それらは以下の要件が満たされれば、類似の性質又は機能を有するものであるので、一の発明を明確に把握することができる。

(i)

すべての選択肢が共通の性質又は活性を有しており、

かつ、

(ⅱ)
(a)

共通の化学構造が存在する、すなわちすべての選択肢が重要な化学構造要素を共有している、

又は、

(b)

共通の化学構造が判断基準にならない場合、すべての選択肢が、その発明が属する技術分野において一群のものとして認識される化学物質群に属する。

上記(ⅱ)(a)の「すべての選択肢が重要な化学構造要素を共有している」とは、複数の化学物質が、その化学構造の大きな部分を占める共通した化学構造を有しているような場合をいい、また化学物質がその化学構造のわずかな部分しか共有しない場合においては、その共有されている化学構造が従来の技術からみて構造的に顕著な部分を構成する場合をいう。化学構造要素は一つの部分のことも、互いに連関した個々の部分の組合せのこともある。

上記(ⅱ)(b)の「一群のものとして認識される化学物質群」とは、請求項に記載された発明の下で同じように作用するであろうことが、その技術分野における知識から予想される化学物質群をいう。言い換えると、この化学物質群に属する各化学物質を互いに入れ換えても同等の結果が得られる、ということである。

(5)

範囲を曖昧にする表現がある結果、発明の範囲が不明確な場合。

否定的表現(「〜を除く」、「〜でない」等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。

上限又は下限だけを示すような数値範囲限定(「〜以上」、「〜以下」)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。

比較の基準又は程度が不明確な表現(「やや比重の大なる」、「はるかに大きい」、「高温」、「低温」、「滑りにくい」、「滑りやすい」等)があるか、あるいは、用語の意味が曖昧である結果、発明の範囲が不明確となる場合。

「所望により」、「必要により」などの字句と共に任意付加的事項又は選択的事項が記載された表現がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。「特に」、「例えば」、「など」、「好ましくは」、「適宜」のような字句を含む記載もこれに準ずる。

このような表現がある場合には、どのような条件のときにその任意付加的事項又は選択的事項が必要であるかが不明で、請求項の記載事項が多義的に解されることがある。

請求項に0を含む数値範囲限定(「0〜10%」等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。

発明の詳細な説明中に当該数値範囲で限定されるべきものが必須成分である旨の明示の記載があるときは、当該成分が任意成分であると解される「0〜10%」との用語と矛盾し、請求項の用語が多義的になり、発明の範囲が不明確となる。これに対し、発明の詳細な説明に、それが任意成分であることが理解できるように記載されている場合には、0を含む数値範囲限定を記載してもよい。

請求項の記載が、発明の詳細な説明又は図面の記載で代用されている結果、発明の範囲が不明確となる場合。

例1:

「図1に示す自動掘削機構」等の代用記載を含む請求項

(一般的に、図面は多義的に解され曖昧な意味を持つものであることから、適切でない。)

例2:

引用箇所が不明な代用記載

次の例のように、発明の詳細な説明又は図面の記載を代用しても発明が明確になる場合もあることに留意する。

例:

合金に関する発明において、合金成分組成の相互間に特定の関係があり、その関係が、数値又は文章によるのと同等程度に、図面の引用により明確に表せる場合。

「図1に示す点A( )、点B( )、点C( )、点D( )で囲まれる範囲内のFe・Cr・Al及びx%以下の不純物よりなるFe・Cr・Al耐熱電熱用合金。」

2.2.2.4 請求項が機能・特性等による表現又は製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合

本項では、請求項が機能・特性等(作用・機能・性質又は特性を意味する。以下同じ。)による表現又は製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合に、特に留意が必要となる点や、第36条第6項第2号違反となる典型的な例について説明する。

なお、これらの場合においても、他の場合と同様、第36条第6項第2号の審査における基本的な考え方(2.2.2.1参照)に基づいて審査され、第36条第6項第2号違反の類型(2.2.2.3参照)のいずれかに該当する場合には、第36条第6項第2号違反となる。

(1)

請求項が機能・特性等による表現を含む場合。

留意が必要な点

(i)

出願人は、発明を特定するための事項として、作用・機能・性質又は特性による表現形式を用いることができる(2.2.2.2(1)参照)。しかしながら、特許請求の範囲を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、ことさらに不明確あるいは不明瞭な用語を使用して記載すべきではない(2.2.2.1(4)参照)。

(ii)

機能・特性等による表現形式を用いることにより、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例を拡張ないし一般化したものを請求項に記載することも可能であるが、その結果、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものになる場合には、第36条第6項第1号違反となる(2.2.1.2(3)参照)。

また、機能・特性等による表現を含む請求項であって、引用発明との対比が困難となる場合において、引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第Ⅱ部第2章1.5.5(3)参照)。同様に、審査官が、両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第Ⅱ部第2章2.6参照)。

発明が不明確となる類型

(i)

明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された機能・特性等(注)の意味内容(定義、試験・測定方法等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合(2.2.2.3(1)②参照)。

例1:

「X研究所試験法に従って測定された粘度がa〜bパスカル秒である成分Yを含む接着用組成物」

(「X研究所試験法」は、発明の詳細な説明中に定義や試験方法が記載されておらず、また、出願時の技術常識でもないので、「X研究所試験法に従って測定された粘度がa〜bパスカル秒である」との機能・特性等の意味内容を理解できない。)

(注)

原則として、発明を特定するための事項として記載する機能・特性等は、標準的なもの、すなわち、JIS(日本工業規格)、ISO規格(国際標準化機構規格)又はIEC規格(国際電気標準会議規格)により定められた定義を有し、又はこれらで定められた試験・測定方法によって定量的に決定できるもの(例えば、「比重」、「沸点」等)を用いる。

標準的に使用されているものを用いないで表現する場合は、それが当該技術分野において当業者に慣用されているか、又は慣用されていないにしてもその定義や試験・測定方法が当業者に理解できるものを除き、発明の詳細な説明の記載において、その機能・特性等の定義や試験・測定方法を明確にするとともに、請求項中のこれらの用語がそのような定義や試験・測定方法によるものであることが明確になるように記載しなければならない。

(ii)

出願時の技術常識を考慮すると、機能・特性等によって規定された事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載から発明を明確に把握できない場合。

請求項に係る発明の範囲(2.2.2.1(1)参照)が明確である場合には、通常、請求項の記載から発明を明確に把握できる。

しかしながら、機能・特性等による表現を含む請求項においては、発明の範囲が明確であっても、出願時の技術常識を考慮すると、機能・特性等によって規定された事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載に基づいて、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができない場合がある。このような場合には、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能(2.2.2.1(1)参照)を担保しているといえないから、第36条第6項第2号違反となる。

機能・特性等によって規定された事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであるとの判断は、発明の属する技術分野における出願時の技術常識に基づいて行うため、その判断の根拠となる技術常識の内容を示せない場合には、本類型を適用しない。

また、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば請求項の記載から発明を明確に把握できる場合には、本類型には該当しない(事例11参照)。

例1:

「R受容体活性化作用を有する化合物」

明細書には、「R受容体」は出願人が初めて発見したものであることが記載されているが、新たに見出された受容体を活性化する作用のみで規定された化合物が具体的にどのようなものであるかを理解することは困難であることが出願時の技術常識である。したがって、かかる技術常識を考慮すると、上記作用を有するために必要な化学構造等が何ら規定されず、上記作用のみで規定された「化合物」は、技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載から発明を明確に把握することができない。(事例1参照)

(注)

物の有する機能・特性等からその物の構造の予測が困難な技術分野に属する発明であっても、例えば、出願時の技術常識を考慮すれば当該機能・特性等を有するものを容易に理解できる場合には、当該機能・特性等によって規定された事項は技術的に十分に特定されているといえる(事例4参照)。

例2:

「X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa〜b%であるハイブリッドカー」

ハイブリッドカーの技術分野においては、通常、電気で走行中のエネルギー効率はa%よりはるかに低いx%程度であって、a〜b%なる高いエネルギー効率を実現することは困難であることが出願時の技術常識であり、かかる高いエネルギー効率のみで規定されたハイブリッドカーが具体的にどのようなものであるかを理解することは困難である。したがって、上記エネルギー効率を実現するための手段が何ら規定されず、上記エネルギー効率のみで規定された「ハイブリッドカー」は、技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載から発明を明確に把握することができない。(事例2参照)

(2)

請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合。

留意が必要な点

(i)

発明の対象となる物の構成を、製造方法と無関係に、物性等により直接的に特定することが、不可能、困難、あるいは何らかの意味で不適切(例えば、不可能でも困難でもないものの、理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるときは、その物の製造方法によって物自体を特定することができる(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)。(参考:東京高判平14.06.11(平成11(行ケ)437異議決定取消請求事件「光ディスク用ポリカーボネート形成材料」))

(ii)

請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、通常、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(第Ⅱ部第2章1.5.2(3)参照)。そして、製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む請求項であって、その生産物自体が構造的にどのようなものかを決定することが極めて困難な場合において、当該生産物と引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第Ⅱ部第2章1.5.5(4)参照)。同様に、審査官が、両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第Ⅱ部第2章2.7参照)。

発明が不明確となる類型

(i)

明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された事項に基づいて、製造方法(出発物や製造工程等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合。

出発物や各製造工程における条件等が請求項に記載されていなくても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すればそれらを理解できる場合には、本類型には該当しない。

(ii)

明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、生産物の特徴(構造や性質等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合。

請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、通常、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解して、請求項に係る発明の新規性・進歩性等の特許要件の判断を行うため、当該生産物の構造や性質等を理解できない結果、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができない場合がある。このような場合には、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能(2.2.2.1(1)参照)を担保しているといえないから、第36条第6項第2号違反となる。

例えば、請求項に係る物の発明が製造方法のみによって規定されている場合において、明細書及び図面には、その物に反映されない特徴(例:収率がいい、効率よく製造ができる等)が記載されているだけで、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る物の特徴(構造や性質等)を理解できない場合には、第36条第6項第2号違反となる。

例1:

「タンク内で米の供給を受けて水洗いによって肌ぬかを除去する工程、肌ぬかを除去した米をタンクの下部に設けた投下弁を開いて下方に待機する容器に投下する工程、及び、容器内に投下した米を乾燥する工程、を含む無洗米製造方法において、米の供給前に、タンクの内壁に油性成分Xを噴霧する工程、及び、投下弁を開く直前に、タンク内へ空気を噴出する工程を設けた無洗米製造方法によって製造された無洗米」

明細書には、米の供給前に、タンクの内壁に油性成分Xを噴霧することにより、タンクの内壁に潤滑性を付与し、米の付着を抑制できるとともに、投下弁を開く直前に、タンク内へ空気を噴出することによってタンクの内壁に付着した米を、効率的に下方に待機する容器に投下できることが記載されているが、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、洗米タンクの内壁に油性成分Xを噴霧することによって、得られる無洗米がどのような影響を受けるかが不明であり、請求項に係る無洗米の特徴を理解することができない。(事例19参照)

2.2.2.5 第36条第6項第2号違反の拒絶理由通知
(1)

審査官は、特許を受けようとする発明が明確でないと判断する場合には、例えば、理解できないと判断した請求項中の用語を指摘するとともに、その判断の根拠(例えば、判断の際に特に考慮した発明の詳細な説明の記載箇所及び出願時の技術常識の内容等)を示すことなどにより、発明が明確でないと考える理由を具体的に説明する。

理由を具体的に説明せず、「請求項に係る発明は明確でない」とだけ記載することは、出願人が有効な反論を行ったり拒絶理由を回避するための補正の方向を理解したりすることが困難になるため、適切でない。

(2)

審査官が、出願人の反論、釈明(2.2.2.6参照)を受け入れられると判断したときは、拒絶理由は解消する。出願人の反論、釈明を参酌しても、特許請求の範囲の記載が第36条第6項第2号に適合するといえないとき(真偽不明の場合を含む)は、その拒絶理由により拒絶の査定を行う(2.2.5(2)参照)。

2.2.2.6 第36条第6項第2号違反の拒絶理由通知に対する出願人の対応

出願人は第36条第6項第2号違反の拒絶理由通知に対して意見書等により反論、釈明をすることができる。

例えば、審査官が理解できないと判断した請求項中の用語について出願時の技術常識から理解できる旨や、審査官が判断の際に特に考慮したものとは異なる発明の詳細な説明の記載箇所や出願時の技術常識を示しつつ、発明を明確に把握できる旨を、意見書において主張することができる。

2.2.3 第36条第6項第3号

2.2.3.1 第36条第6項第3号の趣旨

請求項の記載は、新規性・進歩性等の特許要件や記載要件の判断対象である請求項に係る発明を認定し、特許発明の技術的範囲を明示する権利書としての使命を担保するものであるから、第36条第6項第2号の要件を満たすものであることに加え、第三者がより理解しやすいように簡潔な記載とすることが適切である。こうした趣旨から本号が規定されている。

第36条第6項第3号は、請求項の記載自体が簡潔でなければならない旨を定めるものであって、その記載によって特定される発明の概念について問題とするものではない。また、複数の請求項がある場合も、これらの請求項全体としての記載の簡潔性ではなく請求項ごとに記載の簡潔性を求めるものである。

2.2.3.2 第36条第6項第3号違反の類型

特許請求の範囲の記載が第36条第6項第3号に適合しない場合の例として、以下に類型を示す。

(1)

請求項に同一内容の事項が重複して記載してあって、記載が必要以上に冗長すぎる場合。

ただし、請求項には出願人自らが発明を特定するために必要と認める事項を記載するという第36条第5項の趣旨からみて、同一内容の事項が重複して記載してある場合であっても、その重複が過度であるときに限り、必要以上に冗長すぎる記載とする。請求項に記載された発明を特定するための事項が当業者にとって自明な限定であるということや、仮に発明を特定するための事項の一部が記載されていないとしても記載要件(本号を除く。)及び特許要件を満たすということのみでは、当該請求項の記載が冗長であることにはならない。

なお、請求項の記載を発明の詳細な説明や図面の記載で代用する場合においては、請求項の当該記載と発明の詳細な説明又は図面の対応する記載とが全体として冗長にならないように留意する必要がある。

(2)

マーカッシュ形式で記載された化学物質の発明などのような択一形式による記載において、選択肢の数が大量である結果、請求項の記載の簡潔性が著しく損なわれているとき。

請求項の記載の簡潔性が著しく損なわれているか否かを判断するに際しては、以下に留意する。

選択肢どうしが重要な化学構造要素を共有しない場合には、重要な化学構造要素を共有する場合よりも、より少ない選択肢の数で選択肢が大量とされる。

選択肢の表現形式が条件付き選択形式のような複雑なものである場合には、そうでない場合よりも少ない選択肢の数で選択肢が大量とされる。

なお、この類型に該当する場合においても、審査官は、請求項に記載された選択肢によって表現される化学物質群であって実施例として記載された化学物質を含むもの(実施例に対応する特定の選択肢で表現された化学物質群)の少なくとも一つを選び、これについての特許要件の判断を行うこととする。特許要件の判断を行った化学物質群は、特許要件の適否にかかわらず、拒絶理由通知中で特定する。

2.2.4 第36条第6項第4号

本号は、特許請求の範囲の記載に関する技術的な規定を、経済産業省令に委任するものである。

特許法施行規則第24条の3

特許法第三十六条第六項第四号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。

請求項はその記載形式によって、独立形式請求項と引用形式請求項とに大別される。独立形式請求項とは、他の請求項の記載を引用しないで記載した請求項のことであり、引用形式請求項とは、先行する他の請求項の記載を引用して記載した請求項のことである。そして両者は、記載表現が異なるのみで、同等の扱いを受けるものである。

2.2.4.1 第36条第6項第4号違反の類型
(1)

引用形式請求項が後に記載されている請求項を引用している場合。

(2)

引用形式請求項が、他の請求項をその請求項に付された番号により引用していない場合。

例1:

1.外輪の外側に環状緩衝体を設けた請求項2記載のボールベアリング

2.特定構造のボールベアリング

3.特定の工程による先に記載したボールベアリングの製法

2.2.4.2 請求項の記載形式―独立形式と引用形式―
(1)

独立形式請求項

独立形式請求項の記載は、その独立形式請求項に係る発明が他の請求項に係る発明と同一か否かに係わりなく可能である。

(2)

引用形式請求項

典型的な引用形式請求項

引用形式請求項は、特許請求の範囲における文言の重複記載を避けて請求項の記載を簡明にするものとして利用されるが、引用形式請求項による記載は、引用形式請求項に係る発明が引用される請求項に係る発明と同一か否かに係わりなく可能である。

請求項を引用形式で記載できる典型的な例は、先行する他の一の請求項のすべての特徴を含む請求項を記載する場合である。

このような場合に引用形式で請求項を記載すると、文言の繰り返し記載が省略できるとともに、引用される請求項とその記載を引用して記載する請求項との相違をより明確にして記載できるので、出願人の手間が軽減されるとともに、第三者の理解が容易になるといった利点がある。

例1:

典型的な引用形式請求項

1.断熱材を含んだ建築用壁材

2.断熱材が発泡スチロールである請求項1記載の建築用壁材

上記以外の引用形式請求項

先行する他の請求項の発明を特定するための事項の一部を置換する請求項を記載する場合、先行する他の請求項とはカテゴリー表現の異なる請求項を記載する場合などにも、請求項の記載が不明瞭とならない限り他の請求項の記載を引用して引用形式請求項として記載し、請求項の記載を簡明にすることができる。

例2:

引用される請求項の発明を特定するための事項の一部を置換する引用形式請求項

1.歯車伝動機構を備えた特定構造の伝動装置

2.請求項1記載の伝動装置において、歯車伝動機構に代えてベルト伝動機構を備えた伝動装置

例3:

異なるカテゴリーで表現された請求項の記載を引用して記載する引用形式請求項

1.特定構造のボールベアリング

2.特定の工程による請求項1記載のボールベアリングの製法

例4:

サブコンビネーションの請求項の記載を引用して記載する引用形式請求項

1.特定構造のねじ山を有するボルト

2.請求項1記載のボルトと嵌合する特定構造のねじ溝を有するナット

(注)

サブコンビネーションとは、二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明や、二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションという。)に対し、組み合わされる各装置の発明、各工程の発明等をいう。

多数項引用形式請求項

多数項引用形式請求項とは、他の二以上の請求項(独立形式、引用形式を問わない。)の記載を引用して記載した請求項のことであり、特許請求の範囲全体の記載を簡明にするものとして利用される。

この形式による請求項は、通常の引用形式で複数の請求項に別々に記載する場合と比較して、記載面、料金面でのメリットがあるとしても、放棄、無効審判の単位としては一つであるため、まとめて放棄、無効の対象となる等のデメリットをも内包しているといえる。このため、通常の引用形式請求項とするか多数項引用形式請求項とするかは、このような点を十分比較考慮の上なされるべきものであり、その選択は出願人の判断に委ねられる。

多数項引用形式で請求項を記載するときには、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用し、かつ、これらに同一の技術的限定を付して記載することが、簡潔性及び明確性の観点から望ましい。(特許法施行規則様式第29の2[備考]14ニ)

例5:

多数項引用形式請求項で請求項を記載

1.特定の構造を有するエアコン装置

2.風向調節機構を有する請求項1記載のエアコン装置

3.風量調節機構を有する請求項1又は請求項2記載のエアコン装置

他の二以上の請求項の記載の引用が択一的でなく、同一の技術的限定を付していない場合であっても、次のような場合は、特許請求の範囲の記載が簡明となり、請求項の記載が不明瞭とならないので、その記載が認められる。

例6:

1.特定構造のネジ山を有するボルト

2.特定構造のネジ溝を有するナット

3.請求項1記載のボルト及び請求項2記載のナットからなる締結装置

(3)

請求項の記載形式に関する施行規則様式備考と拒絶理由との関係

多数項引用形式で記載する場合において、他の二以上の請求項の記載の引用が択一的でなかったり、同一の技術的限定を付していないときは、特許法施行規則の様式備考中の請求項の記載形式に関する指示に合致しないこととなるが、この指示は法律上求められる要件ではないから、ただちに第36条第6項違反とはならない(例3)。しかし、例1又は例2のような場合には請求項に係る発明が不明確となり第36条第6項第2号違反となる。

例1:

請求項の記載の引用が択一的でないことによって記載が不明瞭となる結果、特許を受けようとする発明が不明確となる例(2.2.2.3(1)違反)

1.特定の構造を有するエアコン装置

2.風向調節機構を有する請求項1記載のエアコン装置

3.風量調節機構を有する請求項1及び請求項2記載のエアコン装置

例2:

引用される請求項に同一の技術的限定を付していても、異なるカテゴリーの請求項を含むことによって特許を受けようとする発明のカテゴリーが不明瞭となる例(2.2.2.3(3)違反)

1.特定構造の人工心臓

2.特定工程による特定構造の人工心臓の製造方法

3.特定の安全装置を備えた、請求項1記載の人工心臓、又は請求項2記載の人工心臓の製造方法

例3:

択一的に引用される請求項が同一の技術的限定を付していないので様式備考の指示に合致していないが、請求項記載の選択肢は類似の性質又は機能を有しており、前記2.2.2.3(4)の違反にはならない例

1.特定の構造を有するエアコン装置

2.風向調節機構を有する請求項1記載のエアコン装置

3.風量調節機構を有する請求項1記載のエアコン装置、又はタイマー機構を有する請求項2記載のエアコン装置

2.2.5 第36条第6項違反の拒絶理由通知

(1)

審査官は、第36条第6項違反として拒絶理由を通知する場合は、違反となる請求項及び違反する号(第1号から第4号)を、その理由と共に記載し、その判断の根拠となった明細書等の特定の記載を指摘する(2.2.1.42.2.2.5参照)。

(2)

審査官が、出願人の意見書等における反論、釈明を受け入れられると判断したときは、拒絶理由は解消する。出願人の反論、釈明を参酌しても、特許請求の範囲の記載が第36条第6項各号に適合するといえないとき(真偽不明の場合を含む)は、その拒絶理由により拒絶の査定を行う(2.2.1.42.2.2.5参照)。

3. 発明の詳細な説明の記載要件

3.1 第36条第4項第1号

前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。

一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

特許法施行規則第24条の2(委任省令)

特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。

3.2 実施可能要件

「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。

一 …その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(第36条第4項第1号)

(平成14年8月31日以前の出願については次の条文が適用される。)

「発明の詳細な説明は、…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」(第36条第4項)

(1)

この条文は、その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(当業者)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味する(「実施可能要件」という)。

(2)

したがって、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。

(3)

条文中の「その実施」とは、請求項に係る発明の実施のことであると解される。したがって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項に係る発明(すなわち、第Ⅱ部第2章1.5.11.5.2に記載した取扱いに従って、請求項に記載された事項に基づいて把握される発明)を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。

しかし、請求項に係る発明以外の発明について実施可能に発明の詳細な説明が記載されていないことや、請求項に係る発明を実施するために必要な事項以外の余分な記載があることのみでは、第36条第4項第1号違反とはならない。

なお、二以上の請求項に対応する記載が同一となる部分については、各請求項との対応が明瞭であれば、あえて重複して記載されていなくてもよい。

(4)

条文中の「その(発明の)実施をすることができる」とは、請求項に記載の発明が物の発明にあってはその物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、方法の発明にあってはその方法を使用できることであり、さらに物を生産する方法の発明にあってはその方法により物を作ることができることである。

3.2.1 実施可能要件の具体的運用

(1)

発明の実施の形態

発明の詳細な説明には、第36条第4項第1号の要件に従い、請求項に係る発明をどのように実施するかを示す「発明の実施の形態」のうち特許出願人が最良と思うもの(注)を少なくとも一つ記載することが必要である。

(注)

PCT(特許協力条約)に基づく規則5.1(a)(v)でいう「発明の実施をするための形態」と同じである。以下適宜「実施の形態」ともいう。なお、発明の実施の形態について、特許出願人が最良と思うものを記載するという点は、第36条第4項第1号により求められている要件ではなく、特許出願人が最良と思うものを記載していないことが明らかであっても、拒絶理由等にはならない。

(2)

物の発明についての「発明の実施の形態」

物の発明について実施をすることができるとは、上記のように、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであるから、「発明の実施の形態」も、これらが可能となるように記載する必要がある。

当該「物の発明」について明確に説明されていること

この要件を満たすためには、当業者にとって一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れる必要がある。

例えば、化学物質の発明の場合には、化学物質そのものが化学物質名又は化学構造式により示されていれば、通常、発明は明確に説明されていることになる。

また、請求項に係る物の発明を特定するための事項の各々は、相互に矛盾せず、全体として請求項に係る発明を理解しうるように発明の詳細な説明に記載されていなければならない。

「作ることができること」

物の発明については、当業者がその物を製造することができるように記載しなければならない。このためには、どのように作るかについての具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を具体的に記載しなければならない。

機能・特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能・特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法を示す必要がある。

なお、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野(例:化学物質)において、機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が、技術常識を考慮してもどのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)は、実施可能要件違反となる。

実施可能要件違反の例:特定のスクリーニング方法で得られたR受容体活性化化合物

発明の詳細な説明には、実施例として、新規なR受容体活性化化合物X、Y、Zの化学構造及び製造方法が記載されているが、それ以外の化合物については化学構造も製造法も記載されてなく、かつ、化学構造等を推認する手がかりもない。(事例1参照)

また、当業者が発明の物を製造するために必要であるときは、物の発明を特定するための事項の各々がどのような働き(役割)をするか(すなわち、その作用)をともに記載する必要がある。

他方、実施例として示された構造などについての記載や出願時の技術常識から当業者がその物を製造できる場合には、製造方法の記載がなくても本号違反とはしない。

「使用できること」

物の発明については、当業者がその物を使用できるように記載しなければならない。これは発明の詳細な説明において示されていることが必要であるから、どのように使用できるかについて具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を使用できる場合を除き、どのような使用ができるかについて具体的に記載しなければならない。

例えば、化学物質の発明の場合は、当該化学物質を使用できることを示すためには、一つ以上の技術的に意味のある特定の用途を記載する必要がある。

また、当業者が発明の物を使用するために必要であるときは、物の発明を特定するための事項の各々がどのような働き(役割)をするか(すなわち、その作用)をともに記載する。

他方、実施例として示された構造などについての記載や出願時の技術常識から当業者がその物を使用できる場合には、これらについての明示的な記載がなくても本号違反とはしない。

(3)

方法の発明についての「発明の実施の形態」

方法の発明について実施をすることができるとは、その方法を使用できることであるから、「発明の実施の形態」も、これが可能となるように記載する必要がある。

当該「方法の発明」について明確に説明されていること

この要件を満たすためには、一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れることが必要である。

「その方法を使用できること」

物を生産する方法以外の方法(いわゆる単純方法)の発明には、物の使用方法、測定方法、制御方法等、様々なものがある。そして、いずれの方法の発明についても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用できるように記載しなければならない。

(4)

物を生産する方法の発明についての「発明の実施の形態」

方法の発明が「物を生産する方法」に該当する場合は、「その方法を使用できる」というのは、その方法により物を作ることができることであるから、これが可能となるように「発明の実施の形態」を記載する必要がある。

当該「物を生産する方法の発明」について明確に説明されていること

この要件を満たすためには、一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れることが必要である。

「その方法により物を作ることができること」

物を生産する方法の発明には、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法などがあるが、いずれの場合も、(ⅰ)原材料、(ⅱ)その処理工程、及び(ⅲ)生産物の三つから成る。そして、物を生産する方法の発明については、当業者がその方法により物を製造することができなければならないから、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できるように、原則としてこれら三つを記載しなければならない。

ただし、この三つのうち生産物については、原材料及びその処理工程についての記載から当業者がその生産物を理解できる場合(例えば、単純な装置の組立方法であって、部品の構造が処理工程中に変化しないもの等)には、生産物についての記載はなくてもよい。

(5)

説明の具体化の程度について

「発明の実施の形態」の記載は、当業者が発明を実施できるように発明を説明するために必要である場合は、実施例を用いて行う(特許法施行規則第24条様式第29参照)。また、図面があるときにはその図面を引用して行う。実施例とは、発明の実施の形態を具体的に示したもの(例えば物の発明の場合は、どのように作り、どのような構造を有し、どのように使用するか等を具体的に示したもの)である。

実施例を用いなくても当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて発明を実施できるように発明を説明できるときは、実施例の記載は必要ではない。

物の発明を特定するための事項として、物の構造等の具体的な手段を用いるのではなく、その物が有する機能・特性等を用いる場合は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて当該機能・特性等を有する具体的な手段を理解できるときを除き、具体的な手段を記載する。

一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質)に属する発明については、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。また、物の性質等を利用した用途発明(例:医薬等)においては、通常、用途を裏付ける実施例が必要である。

(6)

請求項の記載と発明の詳細な説明との関係

上記(1)に述べたように、「請求項に係る発明」についてその実施の形態を少なくとも一つ記載することが必要であるが、請求項に係る発明に含まれるすべての下位概念又はすべての選択肢について実施の形態を示す必要はない。

しかし、請求項に係る発明に含まれる他の具体例が想定され、当業者がその実施をすることは、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしてもできないとする十分な理由がある場合は、請求項に係る発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないといえる。

例えば、請求項に係る発明が上位概念のものであり、発明の詳細な説明には当該上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施の形態のみが記載されている場合において、当該実施の形態の記載に基づくのみでは、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、上位概念に含まれる他の下位概念(出願時に当業者が認識できるものに限る。以下、実施可能要件の項において同じ。)についての実施をすることができないという具体的な理由があるときは、そのような実施の形態の記載のみでは、請求項に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明したことにはならない。

また、請求項がマーカッシュ形式のものであり、発明の詳細な説明には当該選択肢に含まれる一部の選択肢についての実施の形態のみが記載されている場合において、当該実施の形態の記載に基づくのみでは、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、他の選択肢についての実施をすることができないという具体的な理由があるときは、そのような実施の形態の記載のみでは、請求項に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明したことにはならない。

なお、請求項が達成すべき結果による物の特定を含む場合においては、発明の詳細な説明に記載された特定の実施の形態の記載に基づくのみでは、請求項に係る発明に含まれる他の部分について、当業者がその実施をすることができるといえない程度に発明の概念が広くなることがある。

3.2.2 実施可能要件違反の類型

3.2.2.1 発明の実施の形態の記載不備に起因する実施可能要件違反
(1)

発明の実施の形態の記載において、請求項中の発明を特定するための事項に対応する技術的手段が発明の詳細な説明中に単に抽象的、機能的に記載してあるだけで、それを具現すべき材料、装置、工程などが不明瞭であり、しかもそれらが出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない場合。

(2)

発明の実施の形態の記載において、発明を特定するための事項に対応する個々の技術的手段相互の関係が不明瞭であり、しかもそれが出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない場合。

(3)

発明の実施の形態の記載において、製造条件等の数値が記載されておらず、しかもそれが出願時の技術常識に基づいても当業者に理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない場合。

3.2.2.2 請求項に係る発明に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能でないことに起因する実施可能要件違反
(1)

請求項に上位概念の発明が記載されており、発明の詳細な説明に当該上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当該上位概念に含まれる他の下位概念については、当該一部の下位概念についての実施の形態のみでは当業者が出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意)を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない具体的理由があるとき。

例:

請求項には、「合成樹脂を成型し、次いで歪是正処理を行う合成樹脂成型品の製造方法」に関して記載されているが、発明の詳細な説明には実施例として、熱可塑性樹脂を押し出し成型し、得られた成型品を加熱して軟化させることによって歪を除去するもののみが記載されており、その加熱による処理方法は、熱硬化性樹脂からなる成型品については不適切と認められる(例えば、熱硬化性樹脂は熱によって軟化するものではないとの技術的事実から、実施例記載の方法では歪みが除去できないとの合理的推論が成り立つ)場合。

(2)

請求項がマーカッシュ形式で記載されており、発明の詳細な説明に一部の選択肢についての実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、残りの選択肢については、当該一部の選択肢についての実施の形態のみでは当業者が出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意)を考慮しても実施できる程度に説明がされているとはいえない具体的理由があるとき。

例:

請求項には置換基(X)としてCH3、OH、COOHが択一的に記載された置換ベンゼンの原料化合物をニトロ化してパラニトロ置換ベンゼンを製造する方法が記載されているが、発明の詳細な説明には、実施例として原料化合物がトルエン(XがCH3)の場合のみが示されており、その方法は、CH3とCOOHとの著しい配向性の相違等の技術的事実からみて、原料が安息香酸(XがCOOH)の場合については不適切であるとの合理的推論が成り立つ場合。

(3)

発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されているが、その特定の実施の形態は請求項に係る発明に含まれる特異点である等の理由によって、当業者が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意)を考慮しても、当該実施の形態を請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由がある場合。

例:

請求項には「物体側から順に正、負、正のレンズからなるレンズタイプを採用したレンズ系であって、像高hにおける歪曲収差が○○%以内となるように収差補正された一眼レフ用写真レンズ系」が記載されており、発明の詳細な説明中には、当該収差補正を可能とするための各レンズの屈折率等についての特定の数値例又はこれに加えて特定の条件式のみが実施の形態として記載されている。

そして、レンズの技術分野においては、特定の収差補正を実現できる数値例等は一般に特異点であるとの技術的事実が知られており、しかも、その特定の数値例・条件式その他の記載が、一般的な製造条件等を教示していないため、当業者に一般的に知られている実験、分析、製造等の方法を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてどのように実施するかを当業者が理解できないとの合理的推論が成り立つ。

(4)

請求項が達成すべき結果による物の特定を含んでおり、発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意)を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるとき。

例:

請求項には「X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa〜b%であるハイブリッドカー」が記載されており、発明の詳細な説明中には、そのようなハイブリッドカーとして、上記エネルギー効率を得るために特定の制御手段を備えた実施の形態のみが実施可能に記載されている。

そして、ハイブリッドカーの技術分野においては、通常、上記エネルギー効率はa%よりはるかに低いx%程度であって、a〜b%なる高いエネルギー効率を実現することは困難であることが技術常識であり、しかも、上記特定の制御手段を備えたハイブリッドカーに関する記載が上記高エネルギー効率を実現するための一般的な解決手段を教示していないため、当該技術分野における一般的技術を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてどのように実施するかを当業者が理解できないとの合理的推論が成り立つ。(事例2参照)

3.2.3 実施可能要件違反の拒絶理由通知

(1)

審査官は、第36条第4項第1号における実施可能要件違反として拒絶理由を通知する場合は、違反の対象となる請求項を特定するとともに、実施可能要件違反である(すなわち委任省令違反ではない)ことを明らかにし、不備の原因が発明の詳細な説明又は図面中の特定の記載にあるときは、これを指摘する。審査官は、実施可能要件に違反すると判断した根拠(例えば、判断の際に特に考慮した発明の詳細な説明の記載箇所及び出願時の技術常識の内容等)を示しつつ、実施可能でないと考える理由を具体的に説明する。また、可能な限り、出願人が拒絶理由を回避するための補正の方向について理解するための手がかり(実施可能であるといえる範囲等)を記載する。

理由を具体的に説明せず、「出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明は、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない」とだけ記載することは、出願人が有効な反論を行ったり拒絶理由を回避するための補正の方向を理解したりすることが困難になる場合があるため、適切でない。

さらに、理由は、できる限り文献を引用して示すことが好ましい。この場合の文献は、原則として出願時において当業者に知られているものに限る。ただし、明細書又は図面の記載内容が当業者が一般に正しいものとして認識している科学的・技術的事実と反することにより本号違反が生じていることを指摘するために引用しうる文献には、後願の明細書、実験成績証明書、特許異議申立書、又は出願人が他の出願において提出した意見書なども含まれる。

(2)

審査官が、出願人の反論、釈明(3.2.4参照)を受け入れられると判断したときは、拒絶理由は解消する。出願人の反論、釈明を参酌しても、実施可能要件(当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載する)を満たすといえないとき(真偽不明の場合を含む)は、その拒絶理由により拒絶の査定を行う。

3.2.4 実施可能要件違反の拒絶理由通知に対する出願人の対応

出願人は実施可能要件違反の拒絶理由通知に対して意見書、実験成績証明書等により反論、釈明をすることができる。

例えば、審査官が判断の際に特に考慮したものとは異なる出願時の技術常識等を示しつつ、そのような技術常識を考慮すれば、発明の詳細な説明は、当業者が当該請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえることを、意見書において主張することができる。また、実験成績証明書によりこのような意見書の主張を裏付けることができる(事例6721参照)。

ただし、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明が、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、明確かつ十分に記載したものであると主張したとしても、拒絶理由は解消しない(事例4589参照)。(参考:東京高判平13.10.31(平成12(行ケ)354審決取消請求事件))

3.3 委任省令要件

3.3.1 第36条第4項第1号の規定による委任省令

「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。

一 経済産業省令で定めるところにより、…記載したものであること。」(第36条第4項第1号)

「特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」(特許法施行規則第24条の2)

(平成14年8月31日以前の出願については次の条文が適用される。)

「前項第三号の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、…記載しなければならない。」(第36条第4項)

「特許法第三十六条第四項の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」(特許法施行規則第24条の2)

3.3.2 委任省令の趣旨

発明をすることは新しい技術的思想を創作することであるから、出願時の技術水準に照らして当該発明がどのような技術上の意義を有するか(どのような技術的貢献をもたらしたか)を理解できるように記載することが重要である。そして、発明の技術上の意義を理解するためには、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのようにして解決したかという観点からの記載が発明の詳細な説明中においてなされることが有用であり、通常採られている記載方法でもある。

また、技術開発のヒントを得ることや有用な特許発明を利用することを目的として特許文献を調査する場合には、解決しようとしている課題に着目すれば容易に調査を行うことができる。

さらには、発明の進歩性(第29条第2項)の有無を判断する場合においては、解決しようとする課題が共通する先行技術文献が公知であればその発明の進歩性が否定される根拠となりうるが、判断対象の出願の明細書等にも先行技術文献にもこのような課題が記載されていれば、その判断が出願人や第三者にも容易になる。

こうした理由から、委任省令では発明がどのような技術的貢献をもたらすものかが理解でき、また審査や調査に役立つように、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきものとし、記載事項の例として課題及びその解決手段を掲げている。

3.3.3 委任省令要件の具体的運用

(1)

上記の趣旨に鑑み、委任省令で求められる事項とは以下のものをいうものとする。

発明の属する技術の分野

発明の属する技術の分野として、請求項に係る発明が属する技術の分野を少なくとも一つ記載する。

ただし、発明の属する技術分野についての明示的な記載がなくても明細書及び図面の記載や出願時の技術常識に基づいて当業者が発明の属する技術分野を理解することができる場合には、発明の属する技術分野の記載を求めないこととする。

また、従来の技術と全く異なる新規な発想に基づき開発された発明のように、既存の技術分野が想定されていないと認められる場合には、その発明により開拓された新しい技術分野を記載すれば足り、既存の技術分野についての記載は必要ない。

発明が解決しようとする課題及びその解決手段

(i)

「発明が解決しようとする課題」としては、請求項に係る発明が解決しようとする技術上の課題を少なくとも一つ記載する。

「その解決手段」としては、請求項に係る発明によってどのように当該課題が解決されたかについて説明する。

(ii)

ただし、発明が解決しようとする課題についての明示的な記載がなくても、従来の技術や発明の有利な効果等についての説明を含む明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、当業者が、発明が解決しようとする課題を理解することができる場合については、課題の記載を求めないこととする(技術常識に属する従来技術から課題が理解できる場合もある点に留意する)。また、そのようにして理解した課題から、実施例等の記載を参酌しつつ請求項に係る発明を見た結果、その発明がどのように課題を解決したかを理解することができる場合は、課題とその解決手段という形式の記載を求めないこととする。

(iii)

また、従来技術と全く異なる新規な発想に基づき開発された発明、又は試行錯誤の結果の発見に基づく発明(例:化学物質)等のように、もともと解決しようとする課題が想定されていないと認められる場合には、課題の記載を求めないこととする。

なお、「その解決手段」は、「発明が解決しようとする課題」との関連において初めて意義を有するものである。すなわち、課題が認識されなければ、その課題を発明がどのように解決したかは認識されない。(逆に、課題が認識されれば、請求項に係る発明がどのように当該課題を解決したかを認識できることがある。)したがって、上記のように、そもそも解決しようとする課題が想定されていない場合には、その課題を発明がどのように解決したか(解決手段)の記載も求めないこととする。(ただし、実施可能要件を満たす開示がなければならないことはいうまでもない。)

(留意事項)

二以上の請求項がある場合において、一の請求項に対応する発明の属する技術分野、課題及びその解決手段の記載が他の請求項のそれらと同一となるときは、それらの記載と各請求項との対応関係が明瞭であれば、あえて各請求項に対応して重複する記載をしなくてもよい。

(2)

実施可能要件は、特許の付与の代償として社会に対し発明がどのように実施されるかを公開することを保証する要件であるから、この要件を欠いた出願について特許が付与された場合には、権利者と第三者との間で著しく公平を欠くことになる。

一方、委任省令要件の趣旨は、発明の技術上の意義を明らかにし、審査や調査等に役立てるというものである。

したがって、本要件は以下のように扱う。

上記(1)に述べたように、あえて記載を求めると発明の技術上の意義についての正確な理解をむしろ妨げることとなるような発明と認められる場合には、課題及びその解決手段を記載しなくても差し支えない。また、発明の属する技術分野については、既存の技術分野が想定されていない場合には、請求項に係る発明の属する新規な技術分野を記載すれば足りる。

これ以外の発明の場合には、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明の属する技術分野、又は課題及びその解決手段を理解することができない出願については委任省令要件違反とする。

例えば、発明を特定するための事項に数式又は数値を含む場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題と当該数式又は数値による規定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない場合には、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件違反に該当する。

(3)

従来技術及び有利な効果について

従来の技術

《平成14年9月1日以降の出願に適用》(なお、平成14年9月1日以降の出願における先行技術文献情報開示要件については、第3章参照。)

従来の技術を記載することは委任省令要件として扱わないが、従来技術の記載から発明が解決しようとする課題が理解できる場合には、課題の記載に代わるものとなりうるため、出願人が知る限りにおいて、請求項に係る発明の技術上の意義の理解及び特許性の審査に役立つと考えられる背景技術を記載すべきである。

《平成14年8月31日以前の出願に適用》

従来の技術を記載することは委任省令要件として扱わないが、従来技術の記載から発明が解決しようとする課題が理解できる場合には、課題の記載に代わるものとなりうるため、出願人が知る限りにおいて、請求項に係る発明の技術上の意義の理解及び特許性の審査に役立つと考えられる背景技術を記載すべきである。

また、従来の技術に関する文献は、請求項に係る発明の特許性を評価する際の重要な手段の一つである。したがって、特許を受けようとする発明と関連の深い文献が存在するときは、できる限りその文献名を記載すべきである。

従来技術と比較した場合の有利な効果

請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載することは委任省令要件として扱わないが、請求項に係る発明が引用発明と比較して有利な効果がある場合には、請求項に係る発明の進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これが参酌される(第Ⅱ部第2章2.5(3)参照)から、有利な効果を記載することが、進歩性の判断の点で出願人に有利である。また、有利な効果の記載から課題が理解できる場合には課題の記載に代わるものとなりうる。したがって、請求項に係る発明が有利な効果を有する場合には、出願人が知る限りにおいて、その有利な効果を記載すべきである。

(4)

産業上の利用可能性について

産業上の利用可能性を記載することは委任省令要件として扱わない。産業上の利用可能性は、発明の性質、明細書等から、それが明らかでない場合のみに記載する。産業の利用可能性は発明の性質、明細書等から明らかな場合が多く、その場合は、明示的に産業上の利用可能性を記載する必要はない。

3.3.4 委任省令要件違反の拒絶理由通知

(1)

審査官は、委任省令要件に反する旨の心証を得た場合は、第36条第4項第1号に基づく委任省令違反である旨を指摘するとともに、記載が必要な事項のいずれが不備であるかを示して拒絶理由を通知する。

(2)

審査官が、出願人の主張(3.3.5参照)を受け入れられると判断したときは、拒絶理由は解消する。出願人の反論、釈明を参酌しても、委任省令要件(当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載する)を満たすといえないとき(真偽不明の場合を含む)は、その拒絶理由により拒絶の査定を行う。

3.3.5 委任省令要件違反の拒絶理由通知に対する出願人の対応

委任省令要件違反の拒絶理由通知に対して出願人は、例えば意見書等の提出や新規事項を追加しない範囲の補正書の提出等により審査官が認識していなかった従来技術等を明らかにして、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明が属する技術分野並びに解決しようとする課題及びその解決手段を理解することができた旨を主張することができる。また、実験成績証明書によりこのような意見書の主張を裏付けることができる。

ただし、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、当業者が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段を理解できるとはいえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、解決しようとする課題及びその解決手段を理解することができたと主張したとしても、拒絶理由は解消しない。

4. 明細書等の記載不備一般

次に掲げる場合において、発明の詳細な説明の記載が当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとき、又は、請求項に記載された事項を当業者が正確に理解できないため特許を受けようとする発明が明確でないときは、第36条第4項第1号又は第6項違反となる。(各要件違反であるかどうかは、上記に示された具体的取扱いに従って判断する。)

(1)

発明の詳細な説明又は特許請求の範囲が日本語として正確に記載されていないため、その記載内容が不明瞭である場合(いわゆる「翻訳不備」を含む)。

日本語として正確に記載されていないものとしては、例えば主語と述語の関係の不明瞭、修飾語と被修飾語の関係の不明瞭、句読点の誤り、文字の誤り(誤字、脱字、当て字)、符号の誤りなどがある。

(2)

用語が、明細書等の全体を通じて統一して使用されていない場合。

(3)

用語が、学術用語、学術文献などで慣用されている技術用語ではなく、かつ発明の詳細な説明で用語の定義がなされていない場合。

(4)

商標名を使用しなくても表示することのできるものが商標名によって表示されている場合。

(5)

明細書等に計量法に規定する物象の状態の量を記載する際に、計量法で規定する単位に従って記載されていない場合。

(6)

図面の簡単な説明の記載(図面及び符号の説明)が、発明の詳細な説明、特許請求の範囲又は図面との関連において不備である場合。

5. 事例集

以下においては、本章に関連する運用をより明確化するために、具体的な事例に基づいた明細書及び特許請求の範囲の記載要件の判断、出願人の対応等について説明する。

(留意事項)

各事例に複数の記載要件違反の拒絶理由が存在する場合(例えば、発明が不明確であり、かつ、実施可能要件も満たしていない場合)には、原則としてそれらはすべて最初に通知される。

ただし、一方の拒絶理由が解消されれば、他の拒絶理由も解消されることが明らかである場合(例:第36条第6項第1号違反及び第2号違反の拒絶理由を同時に解消することが可能な補正の方向が明らかな場合)においては、必ずしも複数の拒絶理由を重畳的に通知する必要はない(第Ⅸ部第2節4.3.1(2)参照)。

なお、各事例において記載要件違反以外の拒絶理由がないことを意味するものではない。

事例一覧
事例番号タイトル第36条第6項第1号第36条第6項第2号実施可能要件委任省令要件備考
事例1R受容体活性化化合物××× 機能・特性等
事例2ハイブリッドカー××× 機能・特性等
事例3DNA××× 機能・特性等
事例4抗アレルギー剤× × 機能・特性等
事例5化合物× × マーカッシュ
事例6ペプチダーゼZ阻害剤× × マーカッシュ
事例7オレフィン重合用触媒× × マーカッシュ
事例8制吐剤× × 薬理試験結果
事例9ワクチン× × 薬理試験結果
事例10動脈硬化予防剤    薬理試験結果
事例11ポリプロピレンフィルム    パラメータ
事例12包装用延伸フィルム× ××パラメータ
事例13鉛筆芯  × パラメータ
事例14半導体素子の製造方法×    
事例15情報提供システム××   
事例16使い捨ておむつ×    
事例17マシニングセンタ××   
事例18画像符号化チップ××   
事例19無洗米 ×  プロダクト・バイ・プロセス
事例20細胞    プロダクト・バイ・プロセス
事例21微生物× ×  

(×は拒絶理由が存在することを意味する)

事例
1

特許請求の範囲

【請求項1】

R受容体活性化作用を有する化合物。

【請求項2】

請求項1記載のR受容体活性化作用を有する化合物を有効成分として含有する肥満抑制剤。

発明の詳細な説明の概要

R受容体は出願人が初めて発見したものであり、R受容体活性化作用を有する化合物をスクリーニングする方法は、本出願人が初めて見出したものである。

発明の詳細な説明には、R受容体活性化作用の有無を識別するために実施するスクリーニング工程を含む一連の手順が記載され、その識別のための判断手法(どの程度受容体が活性化された場合、R受容体活性化化合物とするのかの判断手法)が具体的に定義されている。

実施例において、互いに基本骨格が大きく異なる新規のR受容体活性化化合物X、Y、Zの化学構造及び製造方法が記載されており、それらがR受容体活性化作用を有することの確認もなされている。

さらに、このR受容体の活性化により肥満が抑制されることについては、その薬理学的なメカニズムが明細書中に理論的に記載されており、かつ、化合物Xについて、当該薬理効果を奏することが具体的な薬理試験方法及び薬理試験結果と共に記載されている。

(ただし、X、Y、Z以外のR受容体活性化化合物については、化学構造についても、製造方法についても記載されていない。)

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):請求項1、2

請求項1には、R受容体活性化作用を有する化合物が包括的に記載されているが、発明の詳細な説明には、具体例として、新規なR受容体活性化化合物X、Y、Zの化学構造及び製造方法が記載されているのみであり、それ以外のR受容体活性化化合物については、化学構造も製造方法も記載されていない。そして、新たに見出された受容体を活性化する作用を有する化合物が具体的にどのようなものであるかを理解することは困難であるということが出願時の技術常識であり、R受容体活性化作用のみにより規定された請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、X、Y、Z以外のR受容体活性化化合物が具体的にどのようなものであるかを理解することができないから、請求項1に係る発明の実施にあたり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

請求項1に記載の化合物を有効成分として含有することが規定されている請求項2に係る発明に関しても、同様である。

第36条第6項第2号:請求項1、2

新たに見出された受容体を活性化する作用のみで規定された化合物が具体的にどのようなものであるかを理解することは困難であるということが出願時の技術常識である。したがって、かかる技術常識を考慮すると、上記作用を有するために必要な化学構造等が何ら規定されず、上記作用のみで規定された「化合物」は、技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

請求項1に記載の化合物を有効成分として含有することが規定されている請求項2に係る発明に関しても、同様である。

出願人の対応

請求項を補正することによって化合物の具体的な化学構造が規定され、かつ、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化でき、また、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえれば、拒絶理由はいずれも解消する。

例えば、以下のように補正すれば、拒絶理由は解消する。

【請求項1】

化合物X、Y、又はZのいずれかである、R受容体活性化作用を有する化合物。

【請求項2】

請求項1記載のR受容体活性化作用を有する化合物を有効成分として含有する肥満抑制剤。

(補足説明)

(1) 有効成分が機能・特性等のみで特定されたものであっても、第36条第6項第2号の要件を満足する場合については、事例4を参照。

(2) アゴニスト、アンタゴニストについて

請求項1に係る発明の末尾が、仮に、「R受容体アゴニスト」、「R受容体アンタゴニスト」であっても、当該用語の意味をふまえ、それぞれ、「R受容体活性化化合物」の発明、「R受容体阻害化合物」の発明として取り扱う。

(3) 「R受容体アゴニストを有効成分とするR受容体活性化剤」の発明について

本例では取り上げていないが、「R受容体アゴニスト(活性化化合物)を有効成分とするR受容体活性化剤」の発明については、末尾の「R受容体活性化剤」という用途の記載は、有効成分である化合物の「R受容体活性化」という作用を単に言い換えたものにすぎないから、この形式のクレームの記載要件は、上記の「R受容体活性化化合物(アゴニスト)」の請求項と同様に取り扱う。

事例
2

特許請求の範囲

【請求項1】

X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa〜b%であるハイブリッドカー。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、電気で走行中のエネルギー効率が高いハイブリッドカーを提供することにある。

実施例において、ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備えたハイブリッドカーが記載されており、X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中の該ハイブリッドカーのエネルギー効率が、a〜b%の範囲内であることが示されている。また、ベルト式無段変速機は、無段変速機の下位概念であるが、ベルト式以外の形式の無段変速機に対してY制御を行う制御手段を採用してもよいことが記載されている。

さらに、X試験法の定義についても記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):

請求項1には、a〜b%という高いエネルギー効率のみによって規定されたハイブリッドカーが記載されているが、発明の詳細な説明には、上記エネルギー効率を実現したハイブリッドカーの具体例として、ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーが記載されているのみである。出願時の技術常識に照らせば、ベルト式以外の形式の無段変速機に対してY制御を適用した場合にも同様の高いエネルギー効率を達成できることが理解できるから、無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーまで、上記具体例を拡張ないし一般化できると認められるが、ハイブリッドカーの技術分野においては、通常、上記エネルギー効率はa%よりはるかに低いx%程度であって、a〜b%なる高いエネルギー効率を実現することは困難であることが出願時の技術常識であり、上記エネルギー効率のみにより規定された請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、請求項1に係る発明に含まれる、無段変速機に対してY制御を行う制御手段を採用した場合以外について、どのように実施するかを当業者が理解できない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第36条第6項第2号

ハイブリッドカーの技術分野においては、通常、電気で走行中のエネルギー効率はa%よりはるかに低いx%程度であって、a〜b%なる高いエネルギー効率を実現することは困難であることが出願時の技術常識であり、かかる高いエネルギー効率のみで規定されたハイブリッドカーが具体的にどのようなものであるかを理解することは困難である。したがって、かかる技術常識を考慮すると、上記エネルギー効率を実現するための手段が何ら規定されず、上記エネルギー効率のみで規定された「ハイブリッドカー」は、技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

出願人の対応

請求項を補正することによって、上記エネルギー効率を実現するための手段が規定され、かつ、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化でき、また、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえれば、拒絶理由はいずれも解消する。

この際、発明の詳細な説明に具体的に開示されたベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備えたハイブリッドカーに限定する必要は必ずしもない。例えば、以下のように補正すれば、拒絶理由は解消する。

【請求項1】

無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備え、X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa〜b%であるハイブリッドカー。

事例
3

特許請求の範囲

【請求項1】

活性Aを有するタンパク質をコードするDNA。

発明の詳細な説明の概要

活性Aを有するタンパク質をコードするDNAとして、一つの塩基配列「atgc……」のみが記載されており、実施例において、当該DNAによってコードされるタンパク質が活性Aを有することを確認した実験結果が記載されている。

塩基配列「atgc……」と異なる配列からなるDNAであって、活性Aを有するタンパク質をコードするものは、該配列を基にした、いわゆるポイントミューテーション法又はストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーション法により得ることができる、と記載されている。(ただし、その方法により実際に取得した実施例の記載はない。)

また、「ストリンジェントな条件」についても記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):

請求項1には、「活性Aを有するタンパク質をコードするDNA」が記載されているが、発明の詳細な説明には、具体例として、一つの特定の塩基配列からなるDNAが記載されているのみである。そして、当該特定のDNAの塩基配列と大きく異なる配列、つまり、相同性の低い塩基配列からなるDNAであって、同じ活性を有するタンパク質をコードするものを取得することは困難であることが出願時の技術常識であり、該特定の塩基配列と相同性が低い塩基配列からなり、活性Aを有するタンパク質をコードするDNAをも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、上記特定の塩基配列と相同性が低い塩基配列からなり、活性Aを有するタンパク質をコードするDNAを取得することは、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第36条第6項第2号

請求項1は「活性Aを有するタンパク質をコードする」という機能のみでDNAが規定されているが、活性のみで規定されたタンパク質や、それをコードするDNAが具体的にどのようなものであるかを理解することは困難であることが出願時の技術常識である。したがって、かかる技術常識を考慮すると、塩基配列が何ら規定されず、上記のような機能のみで規定されたDNAは、技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

出願人の対応

発明の詳細な説明に具体的に記載された塩基配列からなるDNAと相同性が低い塩基配列からなるDNAが包含されないよう、請求項の記載を補正すれば、拒絶理由はいずれも解消する。

補正後の請求項の記載としては、例えば、

以下の(a)又は(b)のDNA。

(a)塩基配列atgc……からなるDNA

(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ活性Aを有するタンパク質をコードするDNAが考えられる。

(注1)

発明の詳細な説明に「活性Aを有するタンパク質をコードするDNA」として具体的に記載されているのは、塩基配列「atgc……」からなるDNAのみである。

ここで、塩基配列「atgc……」と異なる配列からなるDNAであって、「活性Aを有するタンパク質をコードする」ものを取得する方法としては、出願時の技術常識を考慮すると、該配列を基にした、いわゆるポイントミューテーション法又はハイブリダイゼーション法が一般的である。

しかし、両者とも実際に取得したDNAの塩基配列を基にした手法であるから、該DNAの塩基配列と大きく異なる配列、つまり、相同性の低い塩基配列からなるDNAであって、「活性Aを有するタンパク質をコードする」ものを取得することに該手法を用いることはできない。

(注2)

ポイントミューテーション法:元のDNAの塩基配列の望みの部位だけを人為的に改変する技術。

ハイブリダイゼーション法:元のDNAと塩基配列の相同性を有するDNA、RNA等を塩基の2重鎖形成能を利用して取得する方法。

事例
4

特許請求の範囲

【請求項1】

A酵素阻害活性を有する化合物を有効成分とする抗アレルギー剤。

【請求項2】

A酵素阻害活性を有する化合物が、式(Ⅰ) [式中、Yは酸素原子又は硫黄原子、R1及びR2は水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1-6アルキルから独立に選ばれる。]で表される化合物である、請求項1に記載の抗アレルギー剤。

化合物
発明の詳細な説明の概要

本発明は、A酵素阻害活性を有する化合物の新規な用途に関するものである。A酵素阻害活性を有する化合物としては極めて多くの化合物が知られており、例えば特許第○号公報による一般式(Ⅰ)で表される化合物、特開平△号公報、文献××に、一般的又は具体的に開示された化合物等、様々な化学構造を有する化合物が含まれるが、その中で、特に化合物Aと化合物Bとが好ましい。

実施例において、式(Ⅰ)で表される複数の具体的化合物(化合物A、化合物Bを含む)について抗アレルギー作用を確認した薬理試験方法と薬理試験結果が記載されている。

(ただし、A酵素阻害活性を有する化合物が抗アレルギー作用を有することの理論的な説明は記載されていない。)

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):請求項1

請求項1には、「A酵素阻害活性」という性質によって規定された化合物を有効成分とする抗アレルギー剤が包括的に記載されているが、発明の詳細な説明には、請求項2に規定された具体的な化合物について抗アレルギー剤としての用途を確認したことが記載されているにすぎず、A酵素阻害活性を有する化合物一般について、抗アレルギー剤として有効であることを示す理論上ないし実験上の根拠は示されていない。また、「A酵素阻害活性」という性質のみで規定された有効成分には様々な化学構造を有する化合物が包含されるところ、化学構造が大きく異なる化合物が同じ薬理作用を有するとは限らないことが出願時の技術常識であり、請求項2に規定された化合物と化学構造が大きく異なる化合物を有効成分とする場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、A酵素阻害活性を有する化合物一般を有効成分とする抗アレルギー剤を使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

備考

請求項1においては、「A酵素阻害活性」という性質によって規定された化合物を有効成分とする抗アレルギー剤の発明が記載されているが、出願時の技術常識を考慮すれば、上記性質を有する化合物を容易に理解できるため、「A酵素阻害活性」という性質によって規定された化合物は、技術的に十分に特定されているといえ、請求項1の記載から発明を明確に把握できるので、請求項1は第36条第6項第2号の要件を満足する。

また、請求項2は第36条第6項第1号の要件、及び、第36条第6項第2号の要件を満足し、発明の詳細な説明は、請求項2に関する実施可能要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正すれば、拒絶理由はいずれも解消する。

(補足説明)

請求項1に係る発明における有効成分には、様々な化学構造を有する化合物が包含されるところ、発明の詳細な説明には、式(Ⅰ)で表される複数の化合物について抗アレルギー作用を確認した実施例が示されているのみであり、A酵素阻害活性を有する化合物一般について、抗アレルギー剤として有効であることを示す理論上ないし実験上の根拠は示されていないので、第36条第6項第1号の要件、及び、実施可能要件を満足するといえるための根拠(審査官が判断の際に考慮したものとは異なる出願時の技術常識等)を出願人が示すことは困難である。

このような場合に、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化でき、また、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると主張したとしても、拒絶理由は解消しない。

事例
5

特許請求の範囲

【請求項1】

式(Ⅰ)で表される化合物又はその塩。

化合物

[式中、A環は、群Wから選択される置換基によって置換されていてもよい、群Xから選択される含窒素芳香環を、B環は、群Yから選択される置換基によって置換されていてもよい、群Zから選択される炭素環又は複素環を示す。

群W:炭素数1〜20のアルキル、…;

群X:ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、…;

群Y:炭素数1〜20のアルキル、…;

群Z:ベンゼン、…、ピリジン、…、フラン、…、チオフェン、… ]

【請求項2】

式(Ⅱ)で表される化合物又はその塩。

化合物

[式中、R1、R3は水素、炭素数1〜6のアルキル、又はハロゲンであり、R2はフェノキシ又は炭素数3〜6のシクロアルコキシであり、R4はヒドロキシ、炭素数1〜6のアルコキシ、又はアミノである]

発明の詳細な説明の概要

本発明では、式(Ⅰ)で表される化合物又はその塩が、HIVインテグラーゼ阻害作用を有する新規化合物であることを見出した。

実施例において、式(Ⅱ)で表される複数の化合物について、具体的な製造方法が記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):請求項1

請求項1には、式(Ⅰ)で表される化合物が記載されており、該請求項には、多種多様な化学構造を有する化合物が包含されるが、発明の詳細な説明において、具体的に記載されている化合物は、請求項1に含まれる化合物のうち、式(Ⅱ)で表される複数の化合物のみである。式(Ⅰ)には、式(Ⅱ)と化学構造が大きく異なる化合物も包含されているところ、化合物の化学構造が大きく異なれば、その製造方法や酵素に対する活性も大きく異なることが出願時の技術常識であり、式(Ⅱ)と化学構造が大きく異なる化合物をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、式(Ⅰ)に包含されるすべての化合物を製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤が必要であると認められる。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

備考

請求項2は第36条第6項第1号の要件を満足し、発明の詳細な説明は、請求項2に関する実施可能要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正すれば、拒絶理由はいずれも解消する。

(補足説明)

請求項1に係る発明には、多種多様な化学構造を有する化合物が包含されるところ、発明の詳細な説明には、式(Ⅱ)で表される複数の化合物についての実施例が示されているのみであるので、第36条第6項第1号の要件、及び、実施可能要件を満足するといえるための根拠(審査官が判断の際に考慮したものとは異なる出願時の技術常識等)を出願人が示すことは困難である。

このような場合に、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化でき、また、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると主張したとしても、拒絶理由は解消しない。

事例
6

特許請求の範囲

【請求項1】

式(Ⅰ)[式中、R1、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を、Xはハロゲン基を、Lは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。]で表される化合物又はその塩を有効成分とするペプチダーゼZ阻害剤。

化合物
発明の詳細な説明の概要

式(Ⅰ)で表される化合物又はその塩は、公知の化合物であるが、ペプチダーゼZ阻害作用を有することは知られていなかった。

本発明では、式(Ⅰ)で表される化合物又はその塩が、ペプチダーゼZ阻害作用を有することを見出した。

実施例において、式(Ⅰ)で表される複数の化合物について、それらを用いたペプチダーゼZ阻害剤の製剤例が記載されており、また、R1、R2が共にプロピル基、Lがブチレン基、Xが塩素基である化合物について、ペプチダーゼZ阻害作用を確認した薬理試験方法と薬理試験結果が記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(実施可能要件):

請求項1には、式(Ⅰ)で表される化合物を有効成分とするペプチダーゼZ阻害剤が包括的に記載されているが、発明の詳細な説明には、R1、R2が共にプロピル基である特定の化合物についてペプチダーゼZ阻害作用を確認したことが記載されているにすぎない。式(Ⅰ)で表される化合物には、例えば、R1、R2が共にナフチル基である場合のように、側鎖が大きい化合物も包含されるが、側鎖の大きさが異なれば、立体障害等の影響のため、特定の酵素との相互作用も変化しうることが出願時の技術常識であり、上記特定の化合物と側鎖の大きさが大きく異なる化合物を有効成分とする場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、式(Ⅰ)で表される化合物一般を有効成分とするペプチダーゼZ阻害剤を使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

出願人の対応

意見書において、審査官が判断の際に考慮したものとは異なる出願時の技術常識として、側鎖の大きさがある程度異なっても、基本骨格が同じである化合物は同様の作用を有することが多いという技術常識を示しつつ、発明の詳細な説明の記載全体と当該技術常識を考慮すれば、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できること、及び、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることを主張し、さらに、例えば、製剤例において用いられた式(Ⅰ)で表される化合物のうち、側鎖がナフチル基等の大きなものである複数の化合物が実際にペプチダーゼZ阻害作用を有することを示す実験成績証明書を提出してその主張を裏付けることによって、拒絶理由はいずれも解消する。

(補足説明)

審査官が判断の際に考慮した技術常識と、出願人が意見書において示した技術常識が、いずれも出願時に存在しており、意見書による主張のみでは、いずれの技術常識が請求項1に係る発明に妥当するものであるかが不明である場合(すなわち、出願人の主張の真偽が不明である場合)には、拒絶理由が解消するとはいえない(2.2.1.4(3)3.2.3(2)参照)。このような場合において、実験成績証明書を提出することにより、出願人が意見書において示した技術常識が請求項1に係る発明に妥当することが裏付けられれば、当該技術常識に照らして、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化でき、また、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、拒絶理由は解消する。

事例
7

特許請求の範囲

【請求項1】

(A)一般式 Q(C5H4)2MX2

(式中、C5H4はシクロペンタジエニル基であって、Qは2つのC5H4基を架橋する基であって、―S―、―NR′―、―PR′―からなる群より選ばれ、Mはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルからなる群より選ばれる遷移金属であり、Xはハロゲン、―OR"、―NR"2からなる群より選ばれ、R'及びR''は脂肪族、脂環族あるいは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。)で表されるメタロセン成分及び

(B)アルモキサン成分

とからなるオレフィン重合用触媒。

発明の詳細な説明の概要

本発明のオレフィン重合用触媒は、従来のシクロペンタジエニル基を結合するQがアルキレン基、エーテル結合であった場合に比して、特定のQを選択することにより……という効果を有するものであることが記載されている。そして、一般にメタロセン系オレフィン触媒は、メタロセン成分とアルモキサンを組み合わせることにより製造されるものであり、本発明に係るアルモキサンとしても通常のメタロセン系オレフィン触媒に用いられる……等が使用できる旨が記載されている。

実施例として、メタロセンの中心金属Mがジルコニウムである触媒が記載されており、それらの触媒が活性を有することを確認した実験結果も示されている。

実施例
実施例1234
N(Me)P(Ph)N(C6H11)
ZrZrZrZr
ClOBuN(Me)2OPh
拒絶理由の概要

第36条第4項第1号(実施可能要件)/第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、具体例として、オレフィン重合用触媒におけるメタロセン成分の中心金属Mがジルコニウムである触媒のみが記載されている。そして、中心金属としてジルコニウムを用いた場合に触媒活性があれば、同族の遷移金属であるチタン及びハフニウムを用いた場合にも同様に活性が示されるが、異なる族の遷移金属を用いた場合については、通常、活性がないか、又は活性がかなり低く触媒として使用できるとは限らないことが、触媒分野一般における技術常識である。そうすると、チタン、ハフニウムについては、実施例で用いられたジルコニウムと同様に活性を示し触媒として使用することができると考えられるが、その他の金属(バナジウム、ニオブ、タンタル)については、触媒として使用することができるということはできない。

したがって、発明の詳細な説明は、中心金属Mがバナジウム、ニオブ、タンタルである場合をも包含する請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

出願人の対応

メタロセン触媒の中心金属としてジルコニウムを用いた場合に触媒活性があれば、バナジウム、ニオブ及びタンタルを用いた場合にも同様に活性を有しうることが出願時の技術常識であることを示す技術文献等を提示するなどして、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていること、及び、出願時の技術常識に照らせば、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できることを、意見書において主張することができる。また、実験成績証明書によりそのような意見書の主張を裏付けることができる。

そしてそれにより、出願人の主張を受け入れられると判断されたときは、拒絶理由はいずれも解消する。

(補足説明)

審査官が判断の際に考慮した技術常識は、触媒分野における一般的なものであるのに対し、出願人が意見書において示した技術常識は、触媒分野のうち、メタロセン触媒という特定の分野におけるものである。請求項1に係る発明はメタロセン触媒の分野に属するものであるので、技術文献等を提示するなどにより、出願人が意見書において示した技術常識が出願時に存在していたことが裏付けられれば、審査官が判断の際に考慮した技術常識が、請求項1に係る発明に妥当するものでないといえる。

そして、出願人が意見書において提示した技術常識を考慮すれば、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、また、当該技術常識に照らせば、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえるので、拒絶理由は解消する。

このような場合には、必ずしも実験成績証明書を提出する必要はないが、意見書の主張を裏付けるために、実験成績証明書を提出してもよい。

事例
8

特許請求の範囲

【請求項1】

成分Aを有効成分として含有する制吐剤。

発明の詳細な説明の概要

本発明は成分A(成分A自体は公知)の新規な用途に関するものである。

発明の詳細な説明には、成分Aの有効量、投与方法、製剤化方法について記載されている。

(ただし、薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されておらず、しかも、成分Aの制吐剤としての用途が出願時の技術常識からも推認可能といえない。)

拒絶理由の概要

第36条第4項第1号(実施可能要件)/第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、成分Aの制吐剤としての用途を裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されておらず、しかも、成分Aの制吐剤としての用途が出願時の技術常識からも推認可能といえないため、成分Aを有効成分として含有する制吐剤を使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明である、成分Aを有効成分として含有する制吐剤の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、請求項1には、成分Aを有効成分として含有する制吐剤の発明が記載されているのに対し、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明には、成分Aを有効成分として含有する制吐剤を提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

出願人の対応

制吐剤としての薬理試験方法及び薬理試験結果を記載した実験成績証明書を提出し、制吐剤として機能することを主張した場合であっても、拒絶理由は解消しない。

(補足説明)

出願当初の明細書に、成分Aが制吐剤として利用できることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されておらず、しかも、成分Aの制吐剤としての用途が出願時の技術常識からも推認可能とはいえないので、出願後に提出した実験成績証明書のみを根拠として、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、また、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると主張したとしても、拒絶理由は解消しない。(参考:東京高判平10.10.30(平成8(行ケ)201審決取消請求事件))

事例
9

特許請求の範囲

【請求項1】

以下の(a)及び(b)からなるワクチン。

(a)アミノ酸配列「Met-Ala-Ala-……」からなるタンパク質

(b)(a)の薬学的に許容される担体

発明の詳細な説明の概要

(1)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のアミノ酸配列「Met-Ala-Ala-……」からなるタンパク質(以下、タンパク質Aという)をコードするDNAを同定、取得したこと、(2)該DNAにコードされるタンパク質Aを発現、取得したこと、(3)該タンパク質Aをマウスに投与したところ、該タンパク質Aに対する抗体が産生されたことが具体的に記載されている。

(ただし、該タンパク質Aに対する抗体の中に、中和抗体が存在することは記載されていない。また、上記アミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列からなるタンパク質がワクチンとして機能するとの先行技術はない。)

拒絶理由の概要

第36条第4項第1号(実施可能要件)/第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、タンパク質Aのワクチンとしての用途を裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果についての記載がなく、また、タンパク質Aに対する抗体がHIVの活性を中和したとの具体的な記載もない。さらに、タンパク質Aと相同性が高いタンパク質でHIVに対するワクチンとして機能するものは出願前に知られておらず、タンパク質Aのワクチンとしての用途が出願時の技術常識からも推認可能といえないことから、タンパク質Aを含むワクチンを使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明である、タンパク質Aを含むワクチンの発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、請求項1には、タンパク質Aを含むワクチンの発明が記載されているのに対し、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明には、タンパク質Aを含むワクチンを提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

出願人の対応

タンパク質Aがワクチンとして機能するとの薬理試験方法及び薬理試験結果を記載した実験成績証明書を提出し、タンパク質Aがワクチンとして機能することを主張した場合であっても、拒絶理由は解消しない。

(補足説明)

出願当初の明細書に、タンパク質Aがワクチンとして利用できることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されておらず、しかも、タンパク質Aがワクチンとして利用できることが出願時の技術常識からも推認可能とはいえないので、出願後に提出した実験成績証明書のみを根拠として、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、また、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると主張したとしても、拒絶理由は解消しない。

(注)

アミノ酸配列「Met-Ala-Ala-……」からなるタンパク質Aがワクチンとして機能するためには、「タンパク質Aを投与された動物(例えばマウス)がタンパク質Aを異物として認識し、タンパク質Aに対する抗体を体内に産生すること」、つまり、「免疫原性」を有することのみでは不十分であり、「該抗体が、タンパク質Aの活性部分等に作用してHIVの活性を阻害する」ことが必要である。

しかしながら、ある物質の活性を阻害するための抗体、つまり中和抗体は、該物質中に一般には稀にしか存在しない中和エピトープを認識する必要があり、そのような抗体が調製される蓋然性は通常低いので、タンパク質Aを投与した動物の中で、タンパク質Aに存在するか否かが不明の「中和エピトープ」を認識する抗体が産生される蓋然性は極めて低いものと考えられる。

事例
10

特許請求の範囲

【請求項1】

物質Xを有効成分とする動脈硬化予防剤。

発明の詳細な説明の概要

本発明では、物質Xが強力なヒドロキシラジカル消去活性を有し、活性酸素によって誘発される動脈硬化の予防に極めて効果的であることを見出した。

実施例1には、物質Xを製造する方法が記載され、実施例2には、物質Xがヒドロキシラジカル消去活性を有することを確認した実験結果が記載されている。また、実施例3には、物質Xを有効成分とする、動脈硬化予防剤の製剤例が具体的に記載されている。

拒絶理由の概要

なし。

備考

発明の詳細な説明には、物質Xが高いヒドロキシラジカル消去活性を有することを確認した実験結果が記載されており、また、ヒドロキシラジカル消去活性を有する物質が動脈硬化の予防に有効であることは、出願時の技術常識である。そうすると、物質Xが動脈硬化予防に有効であることを直接的に示す薬理試験方法及び薬理試験結果が記載されていなくても、物質Xを有効成分とする動脈硬化予防剤を使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているといえる。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明である、物質Xを有効成分とする動脈硬化予防剤の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、発明の詳細な説明は、請求項1に関する実施可能要件を満足する。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明には、物質Xを有効成分とする動脈硬化予防剤を提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項1は第36条第6項第1号の要件を満足する。

事例
11

特許請求の範囲

【請求項1】

アイソタクチック成分の割合(P)とA測定装置で測定された流動性指数(Q)との関係が1.00≧P≧0.025log Q+0.940 である結晶性ポリプロピレンを60〜90重量%、及び、樹脂Xを10〜40重量%混合した組成物を用いてなる延伸ポリプロピレンフィルム。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、高い防湿性及び剛性を有する延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。

本発明で用いる結晶性ポリプロピレンは、1.00≧P≧0.025log Q+0.940を満たすものである。かかる特定の結晶性ポリプロピレンを用いることにより、アイソタクチック成分の割合(P)がこの値の範囲外である一般の結晶性ポリプロピレンに樹脂Xを添加して得られる延伸フィルムに比べて、高い防湿性及び剛性を得ることができる。一般の結晶性ポリプロピレンを用いて高い防湿性を有するフィルムを得るためには、より多くの樹脂Xを添加する必要があるが、樹脂Xを多量に添加すると、得られる組成物の加工性が著しく悪化し、またコスト高となる。

本発明において、「アイソタクチック成分の割合(P)」とは、ポリプロピレンを構成する全プロピレンモノマー単位に対して、5個連続してアイソタクチック結合(プロピレン側鎖のメチル基がすべて同じ方向を向いていてかつプロピレンが頭−尾結合している結合状態のこと)しているプロピレンモノマー単位の占める割合を意味する。

発明の詳細な説明には、Pの算出方法及びA測定装置によるQの測定方法が記載されている。

実施例1〜7及び比較例1〜7には、P及びQとして様々な値を有する結晶性ポリプロピレンを製造したこと、並びに、これらの製造した結晶性ポリプロピレンを60〜90重量%、及び、樹脂Xを10〜40重量%の範囲で混合した組成物を用いて延伸フィルムを製造し、それらの透湿度及び剛性率を測定した結果が記載されている。具体的には、PとQとが上記の数式を満たす結晶性ポリプロピレンを用いた実施例1〜7の延伸フィルムは、PとQとが上記の数式を満たさない結晶性ポリプロピレンを用いた比較例1〜7の延伸フィルムに比べて、防湿性及び剛性が優れていることが示されている。また、PとQとが上記の数式を満たす結晶ポリプロピレンを用いた場合であっても、樹脂Xの添加量が少ないと優れた防湿性が得られず(比較例8)、添加量が多すぎると製膜が不可能になる(比較例9)ことも示されている。

拒絶理由の概要

なし。

備考

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(委任省令要件):

発明の詳細な説明には、本発明の課題が高い防湿性及び剛性を有する延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにあること、及び、当該課題が、請求項1の数式を満たす結晶性ポリプロピレンを用いることにより達成できることが記載されている。そして、実施例1〜7及び比較例1〜7には、P及びQとして様々な値を有する結晶性ポリプロピレンを製造したことが記載されており、実施例1〜7(PとQとが上記の数式を満たす場合)の延伸フィルムが、比較例1〜7(PとQとが上記の数式を満たさない場合)の延伸フィルムに比べて、防湿性及び剛性が優れていることが示されていることから、上記数式を満たす結晶性ポリプロピレンを用いれば、高い防湿性及び剛性を有する延伸ポリプロピレンフィルムが得られることを、当業者が認識できる。

したがって、請求項1には、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲の発明が記載されているといえるので、請求項1は第36条第6項第1号の要件を満足する。

また、発明の課題と上記数式との実質的な関係を理解することができ、請求項1に係る発明の技術上の意義を理解できるので、発明の詳細な説明は、請求項1に関する委任省令要件を満足する。

第36条第6項第2号

高分子化合物を化学構造で規定することは必ずしも容易ではないため、高分子化合物は特性値を用いた数式により規定されることがある。その場合、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮することによって、当該数式がもたらす具体的な物性値等を定量的に理解できれば、当該数式により規定された高分子化合物を発明特定事項として含む発明について、新規性・進歩性等の特許要件の判断の前提となる発明を明確に把握できることが多い。

請求項1に係る発明においては、明細書の記載を考慮すると、上記数式を満たす結晶性ポリプロピレンを用いれば、特定の範囲の透湿度及び剛性率を有する延伸ポリプロピレンフィルムが得られることを理解できる。したがって、明細書の記載を考慮することにより、請求項1の記載から発明を明確に把握できるので、請求項1は第36条第6項第2号の要件を満足する。

事例
12

特許請求の範囲

【請求項1】

生分解性ポリマーを含有する樹脂を原料とする包装用延伸フィルムであって、式(1)を満足することを特徴とするフィルム。

式(1):1.61na−1.78≧NS≧1.61na−2.43

(NSは面配向係数、naは平均屈折率を意味する)

【請求項2】

前記樹脂が、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなり、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下に延伸されていることを特徴とする請求項1に記載の包装用延伸フィルム。

発明の詳細な説明の概要

本発明の課題は、生分解性ポリマーを含有する樹脂を原料とする、ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを提供することにある。一般に、生分解性ポリマーは脆く、伸びが悪いため、ストレッチ性が要求される包装用フィルムとすることが困難であったが、式(1)を満足するフィルムとすることによって、かかる課題を解決できることを見出した。

ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを得るためには、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなる樹脂を用い、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下に延伸されていることが重要であり、従来、このようなフィルムは知られていなかった。

発明の詳細な説明には、面配向係数及び平均屈折率の測定方法が記載されている。

実施例1〜5には、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなる樹脂に、無機粒子Yを配合した樹脂組成物を、押出成形によりフィルムとし、その後、70℃で、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下の範囲内の所定倍率で二軸延伸を行い、さらに所定温度、所定時間の熱処理を行うことにより、式(1)を満足するフィルムを製造したことが記載されている。また、比較例1、2として、ポリ乳酸樹脂と樹脂Xとの配合割合が異なる樹脂を用いた以外は、実施例1、2と同様の方法でフィルムを製造したこと、比較例3、4として、ポリ乳酸樹脂と樹脂Xとの配合割合は実施例3、4と同様であるが、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下の範囲外の倍率で延伸することによりフィルムを製造したこと、及び、比較例1〜4のフィルムは式(1)を満たさないものであったことが記載されている。さらに、実施例1〜5、比較例1〜4のフィルムについてのストレッチ性及び開封性に関する測定結果が記載されており、実施例1〜5のフィルムが比較例1〜4のフィルムに比べ、ストレッチ性及び開封性に優れることが示されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号第36条第4項第1号(委任省令要件):請求項1

発明の詳細な説明には、本発明の課題として、生分解性ポリマーを含有する樹脂を原料とする、ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを提供することが記載され、請求項1の式(1)を満足するフィルムとすることにより、当該課題を解決したことが記載されている。

発明の詳細な説明における、「ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを得るためには、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなる樹脂を用い、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下に延伸されていることが重要」との記載、及び、実施例、比較例の記載から、上記特定の樹脂組成及び延伸倍率のフィルムについては式(1)を満足すればストレッチ性及び開封性に優れたものであることが認められる。しかしながら、延伸フィルムの樹脂組成や延伸倍率が延伸フィルムのストレッチ性や開封性に大きく影響を及ぼすことは、出願時の技術常識であり、上記特定のフィルムの樹脂組成や延伸倍率と大きく異なるフィルムについてまで、式(1)を満足しさえすれば課題を解決できるといえる根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明は、発明の課題と請求項1の数式との関係を実質的に理解できるように記載されていないから、請求項1に係る発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件を満足しない。

第36条第4項第1号(実施可能要件)/第36条第6項第1号:請求項1

発明の詳細な説明において、式(1)を満足する包装用延伸フィルムとして具体的に記載されているのは、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなり、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下に延伸された樹脂を用いたもののみであるが、生分解性ポリマーとしては様々な物性を有するものが知られており、これを延伸フィルムとしたときの面配向係数や平均屈折率は、樹脂組成や製造条件によって大きく異なることが出願時の技術常識である。よって、上記特定の樹脂組成や延伸倍率とは大きく異なる、式(1)を満足する包装用延伸フィルムを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤が必要であると認められる。

したがって、発明の詳細な説明は、樹脂組成や延伸倍率が何ら特定されていない請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、請求項1には、式(1)を満足する、生分解性ポリマーを含有する樹脂を原料とする包装用延伸フィルムの発明が記載されているのに対し、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明に記載された特定の樹脂組成や延伸倍率とは大きく異なるフィルムをも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

備考

発明の詳細な説明には、本発明の課題が、生分解性ポリマーを含有する樹脂を原料とする、ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを提供することにあること、及び、ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムを得るためには、ポリ乳酸樹脂20〜40重量%及び樹脂X60〜80重量%からなる樹脂を用い、長手方向2.5倍以上3.5倍以下、幅方向に1.5倍以上2.5倍以下に延伸されていることが重要であることが記載されている。そして、上記のような特定の樹脂組成、及び、延伸倍率のフィルムを用いれば、ストレッチ性及び開封性に優れた包装用延伸フィルムが得られることを、当業者が認識できる程度に、実施例及び比較例が記載されている。

したがって、請求項2には、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲の発明が記載されているといえ、請求項2は第36条第6項第1号の要件を満足する。

また、発明が解決しようとする課題及びその解決手段を理解することができ、請求項2に係る発明の技術上の意義を理解できるので、発明の詳細な説明は、請求項2に関する委任省令要件を満足する。

さらに、発明の詳細な説明は、請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、発明の詳細な説明は、請求項2に関する実施可能要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正すれば、拒絶理由はいずれも解消する。

事例
13

特許請求の範囲

【請求項1】

黒鉛、結合材を混練・焼成して得られる炭素からなる鉛筆芯であって、気孔率が15〜35%であり、気孔の占める全容積に対して、0.002≦a≦0.05(μm)の範囲にある気孔径aを有する気孔の占める容積の割合A(%)と、0.05<b≦0.20(μm)の範囲にある気孔径を有する気孔の占める容積の割合B(%)との関係が、1.1<A/B<1.3、A+B≧80%であり、鉛筆芯の径の50%を占める中心部に存在する気孔径aを有する気孔の容積の割合(A1)が0.8≦A1/A≦0.9であることを特徴とする鉛筆芯。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、適正な強度を有し、良好な書き味及び実用的な濃度を有する鉛筆芯を提供することにある。鉛筆芯を製造する際の原材料や、混練条件、押出条件、焼成条件等の製造条件を様々に変化させて試行錯誤した結果、鉛筆芯の気孔が特定の条件を満足する場合に、上記の目的を達成できることを見出した。

実施例、比較例として、それぞれ、本発明の数値条件を満たす鉛筆芯、満たさない鉛筆芯について、強度、書き味及び濃度の測定結果が記載されており、上記の条件を満たす鉛筆芯が、満たさない鉛筆芯よりも、強度、書き味及び濃度の点で優れていることが示されている。

(ただし、本発明の数値条件を満たす鉛筆芯を製造するために、どのような原材料を用いるか、製造条件をどのように設定すればよいか等について具体的な記載はない。)

拒絶理由の概要

第36条第4項第1号(実施可能要件):

鉛筆芯の気孔率、気孔径、気孔分布の制御は難しく、原材料や、混練条件、押出条件、焼成条件等の多くの製造条件が密接に関連するものであることが出願時の技術常識である。しかしながら、発明の詳細な説明には、原材料や上記の製造条件をどのように調整することにより本発明に係る鉛筆芯を製造することができるか(特に、径の異なる2種類の気孔の容積量、及び気孔の分布状態を制御する製造条件)については記載されておらず、またこれが出願時の技術常識であるということもできない。よって、これらの原材料や製造条件を設定するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

出願人の対応

拒絶理由を解消することは困難である。

(補足説明)

発明の詳細な説明に、本発明に係る鉛筆芯を製造することができる程度に原材料や製造条件が記載されておらず、これが出願時の技術常識であるともいえないので、出願後に意見書や実験成績証明書を提出して原材料や製造条件を明らかにすることによって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであると主張したとしても、拒絶理由は解消しない。

一般に、物の製造に必要な原材料や製造条件の具体的な数値等は、出願当初の明細書に記載する必要がある。

事例
14

特許請求の範囲

【請求項1】

Inを含む化合物半導体混晶を形成する方法において、Inを含む化合物半導体混晶層の形成工程の前後に、In原料とその他のⅢ族原料の供給量との比を一定にしたまま、温度を昇温又は降温することによってIn組成を徐々に変化させた層を形成する工程を、さらに備えることを特徴とする化合物半導体素子の製造方法。

【請求項2】

前記化合物半導体混晶は窒化物系化合物半導体混晶であることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体素子の製造方法。

発明の詳細な説明の概要

MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて窒化物系化合物半導体素子を製造する際に、InGaN活性層の成長温度は800℃以下であり、それを挟むAlGaNクラッド層の成長温度は1100℃程度であり、結晶成長温度が大きく異なっているため、Inを含む層の成長前後に、原料供給を止めて降温、昇温を行う過程が必要であった。しかし、それらの昇温過程、降温過程で大きな温度変化を経ることによって、また、その間に極めて高温の下に結晶が露出されることによって、ヘテロ界面及びInGaN層の結晶性が著しく悪くなるという問題が生じていた。

本発明は、AlGaN層とInGaN層の成長温度間におけるInを含む窒化物層の熱分解の温度依存性、すなわち結晶成長時のInの取り込み率の温度依存性、を積極的に利用し、昇温過程、及び降温過程においても原料ガスを供給し、かつ原料の供給比を一定にしたまま、温度を昇温又は降温することによってIn組成を徐々に変化させたグレイテッド層の形成をInGaN活性層の成長の前後に行う工程をさらに備えるものである。この工程を付加することによって、ヘテロ界面及びInGaN層の結晶性の劣化を従来と比べて大きく抑制することが可能になった。

実施例において、上記工程を付加した方法によってInGaN層を含む化合物半導体混晶を製造することにより、ヘテロ界面及びInGaN層の結晶性の劣化を抑制できることを確認した実験結果が記載されている。

基板
温度
拒絶理由の概要

第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、発明の課題として、MOCVD法を用いてInGaNを成長させる際に、その前後で昇温、降温が必要であることから生じるヘテロ界面及びInGaN層の結晶性劣化を抑制することが記載されているが、InGaN以外のInを含む化合物半導体混晶において、成長前後で昇温、降温過程が行われることや、あるいは昇温降温過程に伴う課題が生じていることについて何ら説明されていない。そして、窒化物系に限らず、Inを含む化合物半導体混晶一般において、Inを含む層と含まない層で成長温度が異なり、昇温過程、降温過程の間に下地結晶が露出されるため、ヘテロ界面及び成長層の結晶性が劣化するという問題が出願時の技術常識であるという根拠は示されていない。むしろ、窒化物系以外の化合物半導体混晶(GaAs等)をMOCVD法を用いて成長させる温度は、Inを含むか否かに関わらず通常800℃より低い温度であるから、窒化物系以外の化合物半導体混晶を成長させる温度範囲においてInの取り込み率に顕著な変化はない、というのが出願時の技術常識である。

さらに、発明の詳細な説明において、上記課題を解決するものとして記載された具体例は、InGaN層を含む化合物半導体混晶を形成する場合のみである。

上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、窒化物系化合物半導体混晶を形成する場合まで、発明の詳細な説明に記載された上記具体例を拡張ないし一般化できると認められるが、窒化物系に限らず、Inを含む任意の化合物半導体混晶を形成する場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

備考

請求項2は第36条第6項第1号の要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正することにより、拒絶理由は解消する。

事例
15

特許請求の範囲

【請求項1】

複数の端末と、データベースから第1情報を取得して端末に送信する情報処理装置と、各端末に対応した第2情報を記憶した記憶手段とから構成され、

情報処理装置が記憶手段から第2情報を読み取り、端末に第1情報を送信するための処理を行うことを特徴とする情報提供システム。

発明の詳細な説明の概要

発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題として、データ形式が異なる任意の端末にサーバ(情報処理装置)から情報(第1情報)を提供できるようにすること、また、課題を解決するための手段として、サーバから端末に情報を提供する際に、サーバが、送信先となる端末に対応したデータ形式変換パラメータ(第2情報)を記憶手段から読み取り、読み取ったデータ形式変換パラメータに基づいて情報(第1情報)のデータ形式を変換して端末に情報を送信することが記載されている。

実施例には、これに対応するものとして、送信先となる端末ごとに、各端末の具体的なタイプ(A社タイプ〜D社タイプ)に対応するデータ形式変換パラメータを記憶手段から読み取り、読み取ったデータ形式変換パラメータに基づいて情報のデータ形式を変換して端末に情報を送信する例が記載されている。

概念図
拒絶理由の概要

第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、発明の課題として、データ形式が異なる任意の端末にサーバ(情報処理装置)から情報(第1情報)を提供できるようにすることが記載され、当該課題を解決するための手段として、サーバ(情報処理装置)が、情報提供時に、送信先となる端末に対応したデータ形式変換パラメータ(第2情報)を記憶手段から読み取り、読み取ったデータ形式変換パラメータ(第2情報)に基づいて、情報(第1情報)のデータ形式を変換することが記載されている。

しかしながら、請求項1には、送信先となる端末に対応した第2情報に基づいて第1情報のデータ形式を変換することに関して何ら規定されておらず、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。

そうすると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

第36条第6項第2号

請求項1には、第2情報に関し、「各端末に対応した第2情報」、及び、「情報処理装置が記憶手段から第2情報を読み取り、端末に第1情報を送信するための処理を行う」との規定があるが、これらの規定のみでは、情報提供システムにおいて第2情報をどのように用いるか明らかではなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、第2情報の技術的意味(請求項1に係る発明において果たす働きや役割)を理解することができない。

そして、情報提供システムの発明においては、取り扱う情報の技術的意味に応じて、システムにおける処理内容等が大きく異なることが出願時の技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項1において、第2情報の役割に関する事項が不足していることは明らかである。したがって、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

出願人の対応

補正により、請求項1において、発明の詳細な説明に記載されている課題を解決するための手段が反映され、かつ、第2情報の技術的意味が理解できるようになれば、拒絶理由はいずれも解消する。

例えば、以下のように補正すれば、拒絶理由は解消する。

複数の端末と、データベースから第1情報を取得して端末に送信する情報処理装置と、各端末に対応した第2情報を記憶した記憶手段とから構成され、

情報処理装置が、記憶手段から送信先となる端末に対応した第2情報を読み取り、読み取った第2情報に基づいて第1情報のデータ形式変換処理を行うことを特徴とする情報提供システム。

なお、発明の詳細な説明においては、端末のタイプ及びデータ形式変換パラメータとして具体的なタイプ(A社タイプ〜D社タイプ)と、それぞれに対応するパラメータが開示されているが、発明の課題は、送信先となる端末に対応したパラメータを読み取り、読み取ったパラメータに基づいてデータ形式を変換することにより達成されるので、端末のタイプやパラメータを具体的なものに限定する必要はない。

事例
16

特許請求の範囲

【請求項1】

液透過性の表面シート(11)と液不透過性の裏面シート(12)とこれら両シート間に介在された、材料Xからなる液保持性の吸収体(13)とを具備する縦長の使い捨ておむつ。

【請求項2】

前記使い捨ておむつの幅方向の中間領域に長手方向に沿って、前記吸収体(13)を折り返すことを容易にする一対の折り返し手段を形成した請求項1記載の使い捨ておむつ。

【請求項3】

前記一対の折り返し手段は、前記吸収体(13)に形成した肉薄部又は小坪量部である請求項2記載の使い捨ておむつ。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、コンパクトな折り畳みが可能な使い捨ておむつを提供することにある。

本発明は、液透過性の表面シート11と液不透過性の裏面シート12とこれら両シート間に介在された、材料Xからなる液保持性の吸収体13とを具備する縦長の使い捨ておむつの発明に関しており、本発明では、そのような使い捨ておむつの幅方向の中間領域に長手方向に沿って、材料Xからなる液保持性の吸収体を折り返すことを容易にする一対の折り返し手段を形成することにより、当該折り返し手段に沿って折り曲げた場合の幅方向の折り畳み寸法を短くすることができ、コンパクトな折り畳みを行うことが可能であることを見出した。

実施例において、一対の折り返し手段として、(1)吸収体13に肉薄部を形成した場合、及び、(2)吸収体13に小坪量部を形成した場合、の具体例が記載されている。

おむつ
おむつ
拒絶理由の概要

第36条第6項第1号:請求項1

発明の詳細な説明には、発明の課題として、コンパクトな折り畳みが可能な使い捨ておむつを提供することが記載され、当該課題の解決手段として、おむつの幅方向の中間領域に長手方向に沿って、材料Xからなる液保持性の吸収体を折り返すことを容易にする一対の折り返し手段を形成することが記載されている。

しかしながら、請求項1には、折り返し手段について何ら規定されておらず、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。

そうすると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

備考

第36条第6項第1号の要件を満足するためには、請求項において、発明の詳細な説明に具体的に開示された、肉薄部あるいは小坪量部により形成した折り返し手段(請求項3)そのものを反映する必要は必ずしもない。

請求項2には、発明の詳細な説明から把握される課題を解決するための手段である、吸収体に形成した折り返し手段に関連する事項が反映されているので、請求項2,3はいずれも、第36条第6項第1号の要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2,3のみへと補正することにより、拒絶理由は解消する。

事例
17

特許請求の範囲

【請求項1】

鋳造製ベッドと、弾性体と、金属板と、自動工具交換装置のアームと、工具マガジンと、を備えたマシニングセンタ。

【請求項2】

鋳造製ベッドと、前記鋳造製ベッドの下部に設けられた弾性体と、前記弾性体の下部に設けられた金属板と、自動工具交換装置のアームと、工具マガジンと、を備えたマシニングセンタ。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、マシニングセンタの周囲の振動が、加工精度に影響を与えることを防止するため、制振性能を有するマシニングセンタを提供することにある。

実施例において、鋳造製ベッドの下部に弾性体が取り付けられ、さらに、弾性体の下部に金属板が取り付けられたマシニングセンタが優れた制振性能を有することが開示されており、弾性体及び金属板は、いずれも制振部材としての役割を有することが記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号:請求項1

発明の詳細な説明には、本発明の課題として、マシニングセンタの周囲の振動が加工精度に影響を与えることを防止することが記載されており、実施例において、鋳造製ベッドの下部に弾性体を取り付け、さらに、弾性体の下部に金属板を取り付けることによって、当該課題を解決できることが示されている。

しかしながら、請求項1においては、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係等、発明の課題を解決するための手段が何ら反映されていないと認められる。

そうすると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

第36条第6項第2号:請求項1

請求項1においては、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係は何ら規定されておらず、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、弾性体及び金属板の技術的意味(請求項1に係る発明において果たす働きや役割)を理解することができない。

そして、マシニングセンタの発明においては、部品の技術的意味に応じて他の部品との構造的関係が大きく異なることが出願時の技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項1において、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係を理解するための事項が不足していることは明らかである。したがって、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

(補足説明)

出願時の技術常識を考慮すると、「鋳造製ベッド」、「自動工具交換装置のアーム」、及び、「工具マガジン」については、それらの技術的意味は自明であるが、単に「弾性体」、「金属板」を備えることが規定されただけでは、弾性体及び金属板の技術的意味を理解できない。また、弾性体及び金属板が上記実施例において果たす役割(いずれも制振部材)を理解できるとしても、請求項1には実施例に記載されているような構造的関係が何ら規定されていないため、弾性体及び金属板が請求項1に係る発明において果たす役割をそのように限定的に解釈することはできない。したがって、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1に係る発明における弾性体及び金属板の技術的意味を理解することができない。

備考

請求項2には、鋳造製ベッドの下部に弾性体を設け、さらに、弾性体の下部に金属板を設けることが規定されているため、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえるので、請求項2は第36条第6項第1号の要件を満足する。

また、請求項2においては、弾性体及び金属板と他の部品との構造的関係が規定されているため、上記実施例の記載を考慮すると、弾性体及び金属板は、請求項2に係る発明において、制振部材としての役割を果たすことを理解できる。したがって、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると弾性体及び金属板の技術的意味を理解でき、請求項2の記載から発明を明確に把握できるので、請求項2は第36条第6項第2号の要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正することにより、拒絶理由はいずれも解消する。

事例
18

特許請求の範囲

【請求項1】

入力した画像データを圧縮してX符号化画像データを出力する画像符号化チップにおいて、

外部から入力した画像データを可逆のA符号化方式により符号化してA符号化データを生成するA符号化回路と、

生成されたA符号化データをA復号方式により元の画像データに復号するA復号回路と、

復号された画像データを非可逆のX符号化方式により符号化してX符号化画像データを生成し、生成したX符号化画像データを外部に出力するX符号化回路と、

からなることを特徴とする画像符号化チップ。

【請求項2】

入力した画像データを圧縮してX符号化画像データ出力する画像符号化チップにおいて、

外部から入力した画像データを可逆のA符号化方式により符号化してA符号化データを生成するA符号化回路と、

生成されたA符号化データをA復号方式により元の画像データに復号するA復号回路と、

復号された画像データを非可逆のX符号化方式により符号化してX符号化画像データを生成し、生成したX符号化画像データを外部に出力するX符号化回路と、

A符号化回路における符号化時間を測定する測定回路と、

測定回路から通知された前記符号化時間に基づいて非可逆のX符号化に用いられるパラメータを決定し、X符号化回路に通知する決定回路と

からなることを特徴とする画像符号化チップ。

発明の詳細な説明の概要

画像符号化チップの分野において、従来、外部からのデータを所定のパラメータに基づいて非可逆のX符号化回路によってX符号化すること、及び、前記所定のパラメータは、同じデータを可逆のA符号化回路によって符号化した際に要した時間に基づいて設定するとX符号化が効率よく行えることは知られていたが、その際、ユーザが、可逆のA符号化回路による符号化に要した時間に基づいて、X符号化回路に対するパラメータを設定しなければならず、人手による作業があるため、非効率的であること、また、人手によるミスが発生することが問題であった。

本発明は、上記問題点を解決した画像符号化チップを提供することを課題とする。本発明の画像符号化チップでは、人手を介さずに、自動でX符号化回路にパラメータを設定できるため、効率的であり、かつ、ミスもなくなるという効果が奏される。

実施例において、外部からのデータを可逆のA符号化方式により符号化するA符号化回路、A符号化されたデータをA復号方式により復号するA復号回路、復号されたデータをX符号化して外部に出力するX符号化回路、A符号化回路における符号化時間を測定する測定回路、当該測定回路からの通知に基づいてX符号化のパラメータを決定しX符号化回路に通知する決定回路が1チップ上で構成された画像符号化チップが開示されており、X符号化回路では、A復号回路からのデータを決定回路からのパラメータによりX符号化すること、及び、A符号化方式・A復号方式・X符号化方式の詳細が記載されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第1号:請求項1

発明の詳細な説明には、本発明の課題として、従来技術の問題点(非効率的であること、人手によるミスが発生すること)を解決することが記載されており、実施例において、A符号化回路における符号化時間に基づいて決定されるパラメータをX符号化回路に通知することによって、当該課題を解決できることが示されている。

しかしながら、請求項1においては、A符号化回路で得られた情報をX符号化に用いる点等、発明の課題を解決するための手段が何ら反映されていないと認められる。

そうすると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

第36条第6項第2号:請求項1

画像符号化チップの発明においては、高速化、小規模化、省電力化、低コスト化が重視されることが出願時の技術常識であり、請求項1に記載されているように、一度符号化したデータを、単に元のデータに復号するという回路を設けることは技術常識に反することであるので、明細書及び図面の記載を考慮しても、A符号化回路及びA復号回路の技術的意味(請求項1に係る発明において果たす働きや役割)を理解することができない。そして、画像符号化チップの発明においては、チップに設けられる回路の技術的意味に応じて、当該チップにおける処理内容等が大きく異なることが出願時の技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項1において、A符号化回路及びA復号回路の画像符号化チップにおける役割に関する事項が不足していることは明らかである。したがって、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。

(補足説明)

上記実施例におけるA符号化回路及びA復号回路が果たす役割(X符号化に用いるパラメータを決定する)を理解できるとしても、請求項1にはA符号化回路で得られた情報をX符号化に用いる点が何ら規定されていないため、A符号化回路及びA復号回路が請求項1に係る発明において果たす役割をそのように限定的に解釈することはできない。したがって、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1に係る発明におけるA符号化回路及びA復号回路の技術的意味を理解することができない。

備考

請求項2には、A符号化回路で得られた情報をX符号化に用いることが規定されているため、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえるので、請求項2は第36条第6項第1号の要件を満足する。

また、請求項2においては、A符号化回路で得られた情報をX符号化に用いる点が規定されているため、A符号化回路及びA復号回路の、請求項2に係る発明における役割も理解できる。したがって、A符号化回路及びA復号回路の技術的意味を理解でき、請求項2の記載から発明を明確に把握できるので、請求項2は第36条第6項第2号の要件を満足する。

出願人の対応

請求項1を削除し、請求項2のみへと補正することにより、拒絶理由はいずれも解消する。

事例
19

特許請求の範囲

【請求項1】

タンク内で米の供給を受けて水洗いによって肌ぬかを除去する工程、肌ぬかを除去した米をタンクの下部に設けた投下弁を開いて下方に待機する容器に投下する工程、及び、容器内に投下した米を乾燥する工程、を含む無洗米製造方法において、米の供給前に、タンクの内壁に油性成分Xを噴霧する工程、及び、投下弁を開く直前に、タンク内へ空気を噴出する工程を設けた無洗米製造方法。

【請求項2】

請求項1に記載の無洗米製造方法によって製造された無洗米。

発明の詳細な説明の概要

本発明の目的は、水洗いによって肌ぬかを除去した後にタンク内に米が留置せず、確実に米を排出できるような無洗米製造方法を提供することにある。

本発明では、米の供給前に、タンクの内壁に油性成分Xを噴霧することにより、タンクの内壁に潤滑性を付与し、米の付着を抑制できるとともに、投下弁を開く直前に、タンク内へ空気を噴出することによって、タンクの内壁に付着した米を、効率的に下方に待機する容器に投下できることを見出した。

実施例において、請求項1に記載の無洗米製造方法を用いることによって、タンクの内壁への米の付着を防止でき、上記目的を達成できることが示されている。

拒絶理由の概要

第36条第6項第2号:請求項2

請求項2においては、請求項1に記載の無洗米製造方法のみによって、無洗米の発明が規定されている。

しかしながら、明細書には、上記無洗米製造方法によって、水洗いによって肌ぬかを除去した後にタンク内に米が留置せず、確実に米を排出できることが記載されているものの、米の供給前に、タンクの内壁に油性成分Xを噴霧することによって、得られる無洗米がどのような影響を受けるかについて何ら記載されておらず、出願時の技術常識からも明らかではない。

したがって、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、上記無洗米製造方法によって製造された無洗米の特徴を理解することができず、請求項2に係る発明は不明確である。

備考

請求項1は第36条第6項第2号の要件を満足する。

出願人の対応

請求項2を削除し、請求項1のみへと補正することにより、拒絶理由は解消する。

事例
20

特許請求の範囲

【請求項1】

(1) ヒト体内から採取したW細胞を、サイトカインXを0.1〜0.2重量%含有する培地A中で5〜10時間培養し、回収する工程、及び

(2) 工程(1)で回収された細胞を細胞外マトリックスY上に播種し、サイトカインZを0.1〜0.2重量%含有する培地B中で24〜48時間培養し、回収する工程、

からなる工程により得られる細胞。

発明の詳細な説明の概要

W細胞は公知の細胞であるが、W細胞を培養することにより、血管新生抑制因子Aの産生能を有する細胞を得られることは知られていなかった。

本発明では、W細胞を特定の条件下で培養することにより、血管新生抑制因子Aの産生能を有する新規な細胞を取得できることを見出した。

実施例において、(1)〜(2)からなる工程により得られた細胞が、血管新生抑制因子Aの産生能を有することを示す実験結果が記載されている。

拒絶理由の概要

なし。

備考

請求項1においては、製造方法のみによって細胞の発明が規定されているが、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると、請求項1に記載された事項に基づいて、上記製造方法、及び、上記製造方法によって得られた細胞の特徴(血管新生抑制因子Aの産生能を有すること)を理解でき、請求項1の記載から発明を明確に把握できるので、請求項1は第36条第6項第2号の要件を満足する。

事例
21

特許請求の範囲

【請求項1】

抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウス。

発明の詳細な説明の概要

本発明では、一般的に入手可能なストレプトミセス グリゼウスを特定の方法により人為的突然変異処理し、新規抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスを取得した。

実施例において、上記人為的突然変異処理の方法が詳細に示されており、抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスを1菌株取得したことが記載されている。

(ただし、該菌株を寄託したとの記載はない。)

拒絶理由の概要

第36条第4項第1号(実施可能要件)/第36条第6項第1号

発明の詳細な説明には、本発明に係る微生物である抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスを1菌株取得したことが記載されているのみであり、出願前に寄託したとの記載もない。

一般に、人為的突然変異処理の場合、ある性質を有する微生物を取得できたとしても、同様の性質を有する微生物を再現性をもって取得できることはまれであることが出願時の技術常識であるから、発明の詳細な説明に記載された手法により、抗生物質Aを産生するという性質を有するストレプトミセス グリゼウスが複数菌株取得されたとの記載がない以上、当業者が追試をした時に再現性をもって該ストレプトミセス グリゼウスを取得できるものとすることはできない。

したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明である、抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスの発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、請求項1には、抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスの発明が記載されているのに対し、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明には、抗生物質Aを産生するストレプトミセス グリゼウスを提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

出願人の対応

発明の詳細な説明に記載された人為的突然変異処理の方法を用いて追試を行えば、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とせずに、抗生物質Aを産生するという性質を有するストレプトミセス グリゼウスを再現性をもって取得できることを、意見書において主張するとともに、実験成績証明書を提出してその主張を裏付けることによって、拒絶理由はいずれも解消する。

(補足説明)

一般に、人為的突然変異処理の場合、ある性質を有する微生物を取得できたとしても、同様の性質を有する微生物を再現性をもって取得できることはまれであることが出願時の技術常識であるから、意見書において、実施例を追試すれば、請求項1に係る発明を再現性をもって取得できることを主張するだけでは、その主張の真偽が不明であるので、拒絶理由が解消するとはいえない(3.2.3(2)参照)。一方、実施例を追試した実験成績証明書を提出することにより、発明の詳細な説明の記載に基づいて、請求項1に係る発明を再現性をもって取得できることが裏付けられれば、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、また、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるので、拒絶理由は解消する。

(注)

ストレプトミセス グリゼウス:代表的な放線菌であり、抗生物質であるストレプトマイシンを産生するものであることが知られている。