4.3.1 免震

 免震構造を支持する絶縁装置は「免震支承」「アイソレーター」などとも呼ばれ、ゴムと鋼板を何重にも積層して接着した「積層ゴム支承」が多く用いられている(図4.3.1-1)。ゴムと鋼板を積層することにより、鉛直荷重に対するはらみ出しを防ぎ、水平剛性が鉛直剛性の数千分の1という免震支承としては理想的な特性が実現できる。形状は円筒状のものが多く、直径60cm〜120cm程度のものが多く使用されている。おおまかには鉛直支持力と水平剛性は水平断面積に、水平変形能力は直径に比例する。これらの弾性支承を用いて建物を支持した場合、固有周期は3〜4秒になり、最大水平変形30cm〜60cmに対し設計することが多い。

 付加減衰として使用されエネルギー吸収を行うダンパは「履歴ダンパ」、「粘性ダンパ」、「摩擦ダンパ」等が実用化されている。履歴ダンパは変形を鋼材・鉛などの金属の弾塑性履歴エネルギーに変換するもので、ループ状・直線状の「鋼棒ダンパ」や曲線状に加工した「鉛ダンパ」などがある。粘性ダンパは粘性体やオイルなどの粘性抵抗・水流抵抗を減衰として利用するもので、シリコンなどの粘性体を皿状の容器に満たし抵抗板をこの中で動かす粘性体ダンパやシリンダー状のピストン機構を有するオイルダンパなどがある。摩擦ダンパは焼きつけ防止の表面処理された金属板を一定圧で圧着し、相対的にこすり合わせることで摩擦エネルギーに変換するものである。いずれも全方向に対し均等で安定したな復元力特性を持ち、大きな水平変形に対応できることが要求性能となる。これらはアイソレーターとダンパを分離設置したタイプであるが、鉛ダンパをプラグとして積層ゴム内に封入した一体型、積層ゴムのゴム素材に高減衰材を用いアイソレーターをダンパとしても使用するタイプのものも実用化されている。積層ゴム支承をステンレス板などの平滑平面状で滑らせることにより摩擦減衰を期待する「すべり支承」も一体型の一種と考えられる。滑り支承は固有周期を伸ばす効果があるため、積層ゴムや他のダンパと組み合わせて使用される場合も多い(図4.3.1-2)。

 一般的に建物の足元に絶縁装置を設ける「基礎免震」は建物回りに水平移動を許容する「免震ピット」が必要となるため、敷地利用や施工費の上で負担となる。そこで免震ピットを地下階として利用したり、絶縁装置を地上一階の柱頭、あるいは建物の中間層に設ける「中間層免震」なども実用化されている。こういった構造の場合には免震支承には耐火性・耐候性が要求されるため、耐火・耐候仕様関連の技術も多く開発されている。また、免震層には30cmを超える大きな変形が予想されるため、各種の設備配管類に関しても大きな変形追従性が要求される。これらの設備類に関する技術開発項目も多い。

 一方、重量の軽い戸建住宅に積層ゴムを適用した場合、固有周期が伸びず積層ゴム径が小さくなるため変形能力が確保できない問題点があるため、積層ゴム支承を用いない住宅用の免震支承が別途各種開発されている。一般的には滑り機構を利用した金属製のものが多い。

 

4.3.2 制振部材による制振

 制振部材は従来復元力特性に優れた耐震要素として使用されていた部材をダンパとして利用したもので、主に鋼材系のものが実用化されており、代表的な物に鋼板パネルと座屈拘束ブレース等がある。代表的な装置例を図4.3.2-1に示す。鋼板パネルは外周フランジやスティフナー等で面外座屈を補強した鋼板を柱・梁で囲われた骨組内に組み込み、建物の変形に伴いせん断降伏させるもので、ある程度の幅圧比以下になれば、鋼材のせん断座屈は圧縮座屈に比べ急激な荷重低下が無く塑性化が進行する性質を利用している。形状としては柱・梁で囲われたフレーム一杯に配置する壁タイプ、梁の上下を繋ぎ間柱状の形状を持つ間柱タイプ等がある。

 一方、座屈拘束ブレースはアンボンドブレースとも呼ばれ、塑性化させる芯材を鋼管コンクリート、コンクリート、鋼管などの拘束材でで座屈補剛し、かつ芯材と拘束材を軸力方向には絶縁することによって、芯材の圧縮降伏を引張り降伏と同等の性状とした部材で、座屈しないブレースとして使用される。芯材形状や拘束材は各種のものが実用化されているが、拘束材の剛性や始端部の形状、芯材と拘束材の絶縁ディティールによってその性能は大きく異なる。

 この他、ブレースをわざと偏心させて梁に接合し、梁をせん断降伏させ、せん断パネルダンパとして利用する偏心ブレースなども実用化されている。

 これらの部材は1970年〜80年代より降伏点が240Mpa前後の普通鋼を用い主に高層ビルの耐震壁として使用されてきたが、90年代に入り降伏点が100Mpa前後の「極低降伏点鋼」や220Mpa前後の「低降伏点鋼」などの開発に伴いこれらを用いて低い地震入力レベルから積極的に降伏させることにより、制振ダンパとしても利用する事例が増大している。これらの部材は、制振ダンパとして使用されても「耐震部材」として分類・申請されているケースが多い。

4.3.3 ダンパによる制振

 ダンパによる制振は、前項の制振部材と同じく主構造内の各層に各種のダンパ(付加減衰装置)を組み込み、振動エネルギーを吸収させて振動を抑制するもので、免震ダンパと同様に、金属の塑性エネルギーを利用した履歴ダンパ、粘(弾)性体の粘性抵抗を利用した粘(弾)性ダンパ、摩擦抵抗を利用した摩擦ダンパなどが実用化されている。分類によっては前項の制振部材をこのダンパの一種として分類する場合も多い。一般的には上下の梁より伸ばしたたれ壁・腰壁の間やV型ブレース・梁間に設置し、各層のせん断変形に対し機能させる配置が多く用いられているほか、軸力材に組み込みブレースとして使用する例もある。

 履歴ダンパの例としては鋼板せん断パネル状のものから鋼板にスリットを設けたもの、鉛を封入したものなど様々である。地震後の取り替えを目的とし小さく軽量化したものが多いが、鋼材に変形が集中する分塑性歪が大きくなるため塑性繰返し性能は悪化することが多い。

 粘(弾)性ダンパの例としては免震と同じくシリコン系の粘性体を壁状の箱内に封入したもの、シート状のアクリル系・高減衰ゴム系の粘弾性体を鋼材間に挟み込んだもの、シリンダー状のオイルダンパなどが挙げられる。小振幅から減衰性能を発揮する一方、材料によっては温度依存性・振動数依存性を有するため、それぞれの特性を設計上考慮する必要がある。

 摩擦ダンパの例としては表面処理鋼板を積層したものやシリンダー状のものが実用化されている。

 

4.3.4 付加質量機構による制振

 付加質量機構は構造物頂部に共振質量を設け、これを振動させることで本体の振動を抑制する物で、「T.M.D(Tuned Mass Damper)」、「動吸振器」と呼ばれることもある。最初の適用例は1970年代に米国で見られ、これらは主に風振動制御を目的としている。その後日本に技術導入され、多くの高層ビルやタワーの振動制御に利用されるようになった。付加質量には鋼塊やコンクリート塊が用いられていたが、その後質量の大きい設備機器や畜熱槽等を質量に利用する例も現れた。質量は構造物頂部にレール、ばね、積層ゴムなどで支持され、多くの場合オイルダンパなどの付加減衰が付加されている。構造物形状がスレンダーで曲げ変形による頂部振動が顕著な振動制御に有効であるが、ある程度以上の入力に対しては付加質量の相対変位が過大となるため、稼動範囲に上限のある場合が多い。

 この他、各種の形状を有する水槽中の水を質量として利用し、その共振波動減衰を利用する付加質量機構も実用化されており、「スロッシングダンパ」「T.L.D.(Tuned Liquid Damper)」などと呼ばれている。

 一方、これらの受動的(パッシブ)な制振に対し、付加質量にアクチュエータまたはサーボモーターなどの駆動装置を付加し、これをコンピュータ制御で能動的に動かし振動制御効果を向上させる機構を主導的(アクティブ)制振と呼ぶ。アクティブな付加質量機構はT.M.D.に対しA.M.D.(Active Mass Damper)と呼ばれ、その機構や制御理論・アルゴリズムに関し多くの研究開発が行われている。また、アクティブとパッシブの中間的存在として剛性・減衰だけを変化させるもの、アクティブとパッシブを入力レベルによって切り替えるものなどもあり、「H.M.D.(Hybrid Mass Damper)」などと呼ばれている。

 この他、付加質量機構は小型のものを長スパンの梁や屋根に取り付け、これらの鉛直振動を制御する目的などにも利用されている。

 

4.3.5 その他の免震・制振技術

 以上の他、免震・制振技術には構法・部材共に多岐にわたる応用例が技術開発されている。可変剛性・可変減衰機構はダンパ・ブレース内に剛性・減衰を外部信号によって変化させる機構を組み込み、地震計とコンピュータ制御でこれらを最適値に変化させることによって振動制御を図る技術で、制振技術に分類される。免震構法の一種として、各種の吊構造を利用したものもある。また、単体の建物だけでなく、複数の建物や人工地盤を免震・制振化するアイデアも多く発表されている。