4.5 免震・制振関連技術

 建築物を中心に開発された免震・制振技術は、耐震改修や他の分野にも多く応用されており、ここではその概要を紹介する。

4.5.1 耐震改修技術

 耐震設計基準が改定され新しい免震・制振技術が開発されても、それ以前に建設された建物は数多く都市の中に残っており、これらの建物は必要とされる耐震性能を満足していない可能性がある。こういった建物は建設時の設計施工資料や建物自身を検査し、必用な耐震性能が満足されているかどうかを判断する「耐震診断」を行うことが望ましい。耐震診断の結果、必用な耐震性能を有していない建物を「既存不適格」と呼び、何らかの耐震改修を行う必要がある。耐震改修の方法としては以下の方法がある。いずれも建物が使用されている状態での改修となるため、短期間で大掛かりな重機を必要とせず、建物使用を妨げない方法が望ましい。

(1)上層階の徹去

 上部の数層の構造を徹去することにより下層部にかかる地震荷重を減らし、現在保有している耐震性能のままで性能を向上させる方法。

(2)部材補強

 充分なあばら筋が入っておらず、せん断破壊の恐れのある鉄筋コンクリート柱に関しては、炭素繊維シートや鋼板を巻き付け、柱のせん断耐力を向上させる。またピロティなど充分な耐震壁が設けられていない階は耐震壁を増設したり、鉄骨ブレースつきフレームを梁・柱間に設置しフレーム強度を向上させる。

(3)フレーム補強

 建物内部に壁やフレームを増設する余地の無い建物では、外部にブレース・耐震壁等を付加したフレームを増設し、これらを各層で対象建物と緊結することにより補強する方法が考えられる。ブレース・耐震部材の代わりに各種のダンパを増設フレーム内に設置する場合もある。

(4)制振化

 対象建物内に、4.3.2、4.3.4で記述した各種のダンパを付加設置し、減衰を高めることにより建物への地震入力を低減させ、耐震性能を向上させる方法。既存の構造がダンパの反力に耐えられない場合は、周囲のフレームを増設する場合もある。

(5)免震化

 文化遺産など建物の内外観を変更すること無く耐震性能を向上させる必要がある場合、改修の方法としては免震化がある。一般的には対象建物下部を基礎と分断し、地下部に新たに頑強な基礎梁および免震ピットを増設して、ここに免震装置を付加する方法が取られることが多い。他の改修方法と比べ大掛かりとなるが、内外装を補修しなくて済むため、適用例もいくつか見られる。

 

4.5.2 土木分野における適用例

 土木分野では今回の兵庫県南部地震に至るまで土木構造物の大きな地震被害が無かったため、構造物の振動制御の考え方は建築ほど浸透しておらず、現在でも設定された静的地震荷重に対する弾性設計が構造物の設計手法の主体となっている。しかしながら兵庫県南部地震ではコンクリート製高速道路高架が横倒しになるなど甚大な被害が発生したため、徐々に弾塑性設計や免震・制振の思想が取り入れられ始めている。最も顕著なのは橋梁・道路鉄道高架であり、支承に積層ゴムを使用し、橋脚上部で免震化する例が多くなっている。長大吊橋の支持塔では、直交方向の風揺れを制御する目的で、付加質量機構が設置される例が多い。また、煙突、鉄塔、機械プラント、自動倉庫などのトップヘビーな工作物を中心に、各種のダンパによる制振化の試みが多く研究されている。これらの制振構造では、地震の揺れを制御する目的とともに、交通振動や機器振動など他の振動を制御する目的で設置されるものも多い。

 

4.5.3 床免震・機器免震

 床免震とは、建物全体は従来の耐震構造のままで、床組みおよび床だけを主構造から絶縁して免震化し、その上に乗る機器類を転倒・破損から守ろうとする技術であり、コンピュータセンターなどに多く使用されている。住宅免震と同様に、免震化された質量が小さいため積層ゴムは使用されず、ベアリングなどの支承にスプリング、オイルダンパなどを組み合わせて床組みを支持しているケースが多い。エレベータホールなどの非免震床と免震床の間にはエキスパンジョイントが設けられ、相対変位に追従できるようになっている。この場合、地震による建築そのものの振動は制御できないため、建物自身の性能は、一般の耐震構造と同様となる。また、高価な機器、美術品のショーケースなど、限られた什器を免震化し、転倒・破損から守る機器免震も多く使用される。やはり質量が軽いため、絶縁装置にはベアリングとスプリングを組み合わせた物が多い。

 

4.5.4 内外装における適用例

 建築的な意味での免震とは意味合いが異なるが、内外装材の取り付け方法において、構造物の地震時の層間変形に対し壊れずに追従できる工夫を凝らした物を「免震構法」と呼ぶ例がある。通常は壁パネルを相対的に水平変位する上下の梁間に取り付ける際、上下いずれかの梁への取り付け金具を水平方向にスライディングできるようにしたもの(スゥエイ方式)またはパネル全体が回転することにより層間変形に追従できるようにしたもの(ロッキング方式)がある。