1.3.5 錫めっき

(1) 錫めっきの特性および用途

 錫は人体への害が少ないことから食品容器向けとして重用され、缶詰用には錫を溶融めっきした鋼板(熱漬ぶりき)が古くから使用されていた。

 また錫は美しい光沢を持ち、食品中に含まれる有機酸に対して鉄を犠牲陽極的に保護することから食品や飲料用の缶用材料として今でも広く使用されている。

 鋼板に電気錫めっきしたものは、電気ぶりきと称され電気錫めっきの最大用途として現在に至っている。

 鋼板用の電気錫めっき溶液の技術進歩は、1930年代に独、米で積極的に行われ、現在の3種類の主要なめっき浴が開発された。3種類の電気錫めっき浴はいずれも酸性浴で硼フッ酸浴、フェノールスルホン酸浴、ハロゲン浴である。

 これらはSn2+を主成分として、Sn2+からSn4+への酸化を防止するために種々の酸が浴成分として含まれる他、光沢確保のための各種有機化合物が添加されている。

 3種類のめっき浴の内では、フェノールスルホン酸浴を主成分とするものが最も多く使用されている。

 電気ぶりきは昭和20年代末に米国から技術導入され、耐食性の向上(錫−鉄合金層の緻密化技術他)、外観品位の向上(光沢添加剤の改良他)が研究され多くの技術開発が行われた。また、生産設備の改善も実施され、錫の溶性陽極から不溶性陽極への転換も、昭和50年代に日本で実現された。

 電気ぶりきの製缶技術は、昭和50年ごろから溶接接合が普及し、薄錫めっきの電気ぶりきに関する研究開発が進んだ。従来の半田接合法では不可欠であった3g/m2程度の錫めっき量が、溶接接合では不要となり、飲料缶など錫の耐食性を必要としない用途には1〜1.5g/m2程度の薄錫めっき量の電気ぶりきが使用されるようになって、溶接性、塗料密着性の改善に関する技術開発が積極的に推進された。

 近年の電気錫めっきの重要な用途に電子工業部品へのめっきがある。電気部品の多くは半田付けして使用されるため、半田性に優れる錫めっきが銅やニッケルめっきの上層めっきとして重用されている。

 しかし、電気錫めっきでは、その使用条件によってはウィスカーと呼ばれる錫の針状結晶が成長して電気的な短絡事故が発生することがあり、このウィスカーの発生を防止する技術が盛んに研究されている。めっき浴の改善による方法、微量元素を合金化する方法、めっき、加工後に熱処理する方法など多くの方法が提案されている。

 半田性に優れる鉛めっきが環境問題から使用制限を受けるに伴って、錫めっきの半田性が見直され、各種のPbめっき(含むPb−Sn半田めっき)の代替としての研究が近年積極的に実施されており、Pbレスの半田めっきに関する特許出願も多数なされている。

(2) クロメート処理

 錫めっきの重要な用途は、前述したように鋼板に錫めっきを施した電気ぶりきである。この電気ぶりきは薄錫めっきに移行しており、錫めっき層の耐食性不足を補うために塗装して使用されることが多くなっている。このため電気ぶりきの分野では、塗装下地としてのクロメート処理に関する技術開発が積極的に実施され、塗料密着性に優れたクロメートが開発された。半田用途にはクロメート処理の強化は適さないが、錫の表面酸化防止技術としてクロメート処理の見直しが行われ電気ぶりきのクロメート処理に関する特許は多く出願されている。