4.2 熱処理の種類

 熱処理は大きく分けて、(1)バルク(全体)熱処理、(2)サーフェース(表面)熱処理の2つになる。バルク熱処理は物品(ワーク)全体の体質改善、サーフェース熱処理はワークの表面だけの体質改善を狙って行う熱処理である。それぞれ目的が違うので熱処理のテクニックも異なる。

4.2.1 バルク熱処理

(1)焼なまし(アニーリング)

 赤めた温度(オーステナイト化温度TA:約800℃)からゆっくり冷やす(炉冷100℃/h以下)プロセスで、軟らかくすることが目的である。この処理で鋼は全く軟らかくなるので、完全焼なましということもある。温度を高くして(1,000〜1,100℃)化学成分や組織の均一化をはかるのを拡散焼なましといい、鋳物に適用される。また、500〜600℃に加熱して行う焼なましを応力除去焼なまし(SR)といい、溶接や加工のストレスを除くためのプロセスである。これを歪取り焼鈍という人がいるが、これは誤りで、歪を取るのではなくて応力(ストレス)を取るための焼なましである。鋳物に対しては枯し(aging)ということもある。ストレスを取って機械加工による変形を防ぐためのプロセスである。

(2)焼ならし(ノルマライジング)

 赤めた温度(TA:約800℃)から空冷(300℃/h以上)するプロセスを焼ならしという。この処理で鋼は焼なましよりは硬く、焼入れよりは軟らかく、鋼本来の硬さ、強さになる。つまり持って生まれた性質になるのである。焼なましは鋼をむりやりに軟らかくしたのであり、焼入れはむりやり硬くした状態であるが、焼ならしは鋼本来の状態にするということで、昔は焼準し、つまり焼いて標準状態にするということで、こういう字を書いたが、今ではひらがなになっている。焼ならしによると、鋼は軟らかからず硬からず、適当な硬さ、強さを発揮するので、案外実用性が高く、非調質鋼(熱処理不要鋼、焼入れ・焼戻し不要鋼)の原点となっている。

(3)焼入れ(クエンチング)

 赤めた温度(TA:約800℃)から急冷(水冷、湯冷)するプロセスをいう。急冷すると鋼は硬くなるので、これを焼入硬化(クエンチ・ハードニング、Q-H)ということがある。クエンチしても硬くならないときがある。ステンレス鋼(SUS304)がこれである。このときは溶体化処理(ソリューション・トリートメント)という。焼入れのことをハードニングということがあるが、これは正しくない。焼入れは早く冷やすこと、つまりクエンチング(Q)のことで、Qの結果硬くなるので、Q-H(クエンチ・ハードニング)というのが正しい。Qは急冷という意味である。水焼入れはWQ、油焼入れはOQである。

 急冷には三態がある。連続冷却、二段冷却、等温冷却の3つである。連続冷却は赤めた温度から冷めたくなるまで(冷媒温度)冷やし切る方法で、最も一般に使われるやり方である。しかし、この連続冷却によると、危険区域(約300℃以下)も早く冷えるので、焼歪みや焼割れの危険を多発するので注意を要する。そこへいくとの二段冷却は危険区域をゆっくり冷やすことになる(引上げ冷却または時間冷却ともいう)ので、焼割れを生ずることなく、「硬く、割れずに」焼きを入れることができる。このため、現場的に便利な焼入れ冷却である。の等温冷却は約350〜400℃まで急冷してこの温度に長時間等温保持してから冷却する(オーステンパ)か、約250℃まで急冷してこの温度に短時間(4分/25mm厚)保持してから空冷する(マルクエンチ、マルテンパともいう)方法で冷却媒体には溶融ソルトを使用する。この等温冷却はオーステンパやマルクエンチに必要な冷却方法である。

(4)焼戻し(テンパ・テンパリング)

 焼入れしたものは硬いが脆いので、硬さを下げて粘くしたり、耐磨耗性をアップするために、焼入れ後行う再加熱、つまりアブリ返しを焼戻しという。この焼戻しには約200℃で行う低温テンパと500℃前後で行う高温テンパの二通りがある。低温テンパは主として耐磨耗性アップ(浸炭、高周波焼入部品)、高温テンパは強靭性アップ(機械構造用部品)に適用される。焼入れ−高温テンパは別名調質ともいわれている。

(5)溶体化(ソリューション・トリートメント)

 固溶体温度(炭化物や化合物を固溶した状態。ステンレス、高マンガン鋳鋼は約1,100℃、アルミニウム合金は約600℃)から急冷(水冷)する処理をいう。固溶体化処理ともいわれていた。

 溶体化処理の後では再加熱して強度をアップさせる。これを時効(エージング)といっている。一種の焼戻し処理である。