4.8金属熱処理の技術用語

 表4.8-1に本書で使われている重要な技術用語の意味を整理した。また、金属組織の用語解説については表4.8-2に別に整理をした。

表4.8-1 金属の熱処理での技術用語の説明

区分 用語 意味
アーク放電焼入れ 火炎の代りにアーク放電を利用して表面を加熱し自己冷却焼入れをする表面硬化方法。
イオン衝撃熱処理 減圧雰囲気中で、陰極とした処理物と陽極の間に起るグロー放電を利用した表面処理。
イオン浸炭 プラズマ侵炭を参照。
H値 焼入液の急冷度を表す数値。水を1とすると油は0.3、空気は0.02。単位は水の場合1/インチ。
Ms点 マルテンサイトになり始める温度。通常300℃以下である。又、マルテンサイト変態が終わる温度をMf点という。
エコ熱処理 環境保全性(Ecological)と経済性(Economical)を合わせた効果を持つ熱処理。
液体浸炭 融解したKCN、NaCN中に鋼を侵漬させてする侵炭法。
塩浴焼入れ 融解塩を用いる熱浴焼入れ。
塩浴熱処理 融解塩中で行う熱処理。
オーステンパ オーステナイト域より急冷、Ms点以上の温度に保持、ベイナイト組織にする熱処理。
オースフォーミング 加工熱処理を参照。
応力除去焼なまし 変態点以下の適当な温度に加熱保持し鍛造、鋳造、機械加工等で生じた残留応力を除去する。
カーボンポテンシャル 侵炭能力を表す数値。この数値が高い程侵炭が強く行われる。
加圧ガス冷却 真空処理における冷却速度向上のために導入された技術。6〜40バールの気圧中で冷却する。
加圧熱処理 加圧下の焼入れ。42バールのプロセスが研究されている。
加工熱処理 オーステナイトの状態で外力をかけて成形する方法。オースフォーミングともいう。その後焼入れをするとマルテンサイトが微細になり硬く強くなる。
可鍛化焼なまし 白鋳鉄(白鉄)のセメンタイトの全部又は一部を焼なましにより黒鉛化、又は表面から脱炭させて靭性を高める。
拡散焼なまし 変態点以上の適当な温度に加熱し、拡散により鋼を均質化させる。
完全焼なまし 変態点以上の適当な温度に加熱し、その温度に十分な時間保持し除冷をして軟化させる。
枯し 鋳物の鋳造内部応力除去をするためする焼きなまし。又、長時間放置する操作のことも言う。目的は同様である。
ガス浸炭 メタン、エタン、プロパンなどに空気を混合し、Ni等の触媒のもとに混合ガスを生成、鋼材表面の炭素量との平衡関係を利用して行う侵炭法。
球状化焼なまし 冷間加工性、被削性、機械的性質を改善する目的で鋼中の炭化物を球状化する。
球状黒鉛 マグネシウム処理等をして製造した鋳鉄に生じる緻密な球状の黒鉛。
クライオ処理 サブゼロ処理の一種で超サブゼロ処理とも言う。-100℃以下のサブゼロ処理を言い、通常液体窒素等を使用して急冷する。
空気焼入れ 空気中又は適当なガス雰囲気中で冷却する焼入れ。
研磨割れ 焼入れ状態のままで表面をグラインダ研磨した際に生じるヒビ割れ。研磨後、冷却中に発生する。これを防止する為には焼戻しを行う。
コーベット 侵硫法の一種、電解侵硫のことを言う。目的は表面滑化のためであり、低温処理が可能である。
コンピュター熱処理 熱処理の無人化、自動化、ロボット化を図り、それらをコンピューターで制御する熱処理をいう。
固体浸炭 豆粒大の硬質木炭粒の表面に一定温度のBaCO3、又はNa2CO3の水溶液を被覆し乾燥させたものを侵炭剤として行う侵炭法。
高温焼戻し 500℃前後で行う焼戻しを言う。通常機械構造用鋼の靭性向上のために行う。
高周波焼入れ 高周波による表皮効果を利用し処理物の表面のみを加熱して焼入れ硬化をすることをいう。
黒鉛化焼なまし 鋳鉄の化合炭素の全部又は一部を黒鉛に変化させる為に行う。
サブゼロ処理 0℃以下の低温度に冷却する操作。焼入れした鋼に、この処理を適用する場合の目的は、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態を進行させる。深冷処理ともいう。
再溶融チル化 溶融表面硬化を参照。
再溶融硬化 溶融表面硬化を参照。
酸化 鋼の表面に四三酸化鉄(Fe3O4)膜を作る方法。耐食、耐磨耗性を目的とする。水蒸気処理又はホモ処理ともいう。
酸窒化 酸化をチッ化と同時にする方法。
C.C.T.曲線 焼入れを連続冷却で行ったとき、どのような変態が起きて組織が変わるかということを縦軸に温度、横軸に時間(対数目盛)をとって書き表した曲線を言う。
浸硫 鋼の表面に硫黄を染み込ませ、摩擦係数を小さくし、焼付発生を減少させるプロセス。
真空浸炭 真空中で処理物を加熱し、侵炭性ガスを導入して行う侵炭。
真空熱処理 真空中で加熱冷却して行う熱処理の総称。真空焼きなまし、真空焼入れ、真空焼戻しなどがある。
ジカ焼入れ 直接焼入れを参照。
時効 急冷、冷間加工などの後、時間の経過に伴い鋼の性質(例えば硬さなど)が変化する現象。時効硬化を目的として行う操作の意味で用いることもある。焼入れ時効、ひずみ時効などがあり、室温において起ると自然時効、室温以上の適当な温度で加熱した時に起ると人工時効という。
時効硬化 時効を参照。
自己冷却焼入 材料本体(バルク)の冷却能力により加熱された表層を冷却する。
蒸着熱処理 表面改質法の一種であり、TiCやTiNを鋼の表面に真空蒸着して耐食性、耐磨耗性を改善する。
水素脆化 鋼中に吸収された水素によって鋼材に生じる延性又は靭性が低下する現象。この現象は酸洗、電気めっきなどの場合に生じることが多い。また、引張応力が存在すると割れに至ることが多い。
セルフクエンチ 自己冷却硬化を参照。
青熱脆性 200〜300℃付近で鋼の引張強さや硬さが常温の場合より増加し、伸び、絞りが減少して脆くなる性質。青熱脆性と呼ばれるのは、この温度範囲で青い酸化皮膜が表面に形成されるためである。
赤熱脆性 熱間加工の温度範囲で鋼が脆くなる性質。
ソルトバス 冷却媒体として使用する溶融塩浴を有する浴槽。塩浴焼入れを参照
太陽熱処理 パラボラ集光器を使って、熱エネルギーを太陽熱に求める熱処理。
脱炭 鋼の表面近傍の炭素が除去されること。
チル硬化 溶融表面硬化を参照。
窒化 鉄鋼の表面層に窒素を拡散させ、表面層を硬化する操作。処理方法には、アンモニア分解ガスによるガス窒化及び青酸塩による液体窒化がある。
中断焼入れ フェライト及びパーライト生成温度以下に急冷しマルテンサイト生成温度より高い温度にある間に冷却剤から引上げ、そのまま大気中に放冷するか又は適当な媒剤中で冷却する操作。その目的は焼入れの際のひずみの発生や焼割れを防ぎ、かつ焼入れ後の性質を調節することである。
調質 焼入れ後、比較的高い温度(約400℃以上)に焼戻して、トルースタイト又はソルバイト組織にする操作。
超サブゼロ処理 クライオ処理を参照。
直接焼入れ 鋼をそのまま焼入温度まで冷却し、直ちに行う焼入れ。侵炭温度から直接焼入れする場合もある。
T.T.T.曲線 等温冷却を行なった時に変態開始と終了を縦軸に温度、横軸に時間(対数目盛)をとって書き表した曲線をいう。別名S曲線とも言う。
低温焼もどし 200℃前後で行なう焼戻しを言う。通常侵炭又は高周波焼入部品の耐磨耗性向上のために実施。
電解焼入れ 電解液中で陰極とした処理物と陽極との間で通電し、処理物を加熱後冷却する熱処理。
電解浸硫 コーベット法を参照。
電解熱処理 電解液又は塩浴中で、陰極とした処理物と陽極との間で通電して処理物を加熱し、電解液によって急冷する焼入れ。
電磁気振動応力除去 電磁場熱処理を参照。
電磁場焼入れ 電磁場熱処理を参照。
電磁場焼戻し 電磁場熱処理を参照。
電磁場熱処理 電磁場を印加して行なう熱処理の総称。電磁場焼入れ、焼戻し(磁歪現象の利用)、電磁気振動応力除去がある。
軟窒化 処理物に窒素又は炭素及び窒素を拡散させ、対摩耗性、対疲れ性などを向上させる熱処理。塩浴軟窒化、ガス軟窒化などがある。
鼠鋳鉄 鋳鉄鋳造時、急冷せず片状黒鉛を析出させた鋳鉄。
熱処理 加熱と冷却の組み合わせで材質を変化させるプロセス。
熱浴焼入れ 冷却に適当な温度に保った熱浴(溶融金属、溶融塩、油など)を用い、この熱浴で急冷し適当な時間保持した後、引き上げて空冷する焼入れ。
白鋳鉄 共晶セメンタイトとパーライトからなり、黒鉛を含まない銑鉄。
バーミキュラ黒鉛 球状黒鉛と片状黒鉛との中間的な芋虫状の黒鉛。コンパクト黒鉛ともいう。
表面滑化 表面の摩擦係数を小さくして焼付を少なくする熱処理。
表面硬化 表面を硬くする熱処理。
表面軟化 表面を軟らかくする熱処理。
噴射焼入れ 冷却材を噴射して行なう焼入れ。
噴霧焼入れ 霧状の冷却液中で行なう焼入れ。
プラズマ浸炭 減圧化でプラズマを利用して処理物を加熱、ガス侵炭を行なう方法。
プレスクエンチ プレスした状態で行なう焼入れ。焼入変形を極度に嫌う機械部品に応用され、ダイクエンチともいう。
プレステンパ 焼戻し温度に保持しながら行なうプレス。
片状黒鉛 ねずみ鋳鉄中に生じる片状の黒鉛。ばら状黒鉛、共晶黒鉛もこれに含まれる。
変態 温度を上昇示降させる場合にある結晶構造から他の結晶構造へ変化する現象。
ホモ処理 酸化を参照。
炎焼入れ ガス火炎により処理物表面を加熱、焼入硬化する方法。通常、酸素−アセチレン火炎を使用。
マルクエンチ マルテンパを参照。
マルテンパ マルテンサイト生成温度域の上部又はそれよりやや高い温度に保持した冷却剤中に焼入れして、各部が一様にその温度になるまで保持した後徐冷する操作。その目的は焼入れによるひずみの発生や焼割れを防ぐと共に適当な焼入組織を得ることである。マルクエンチともいう。
焼なまし 適当な温度に加熱し、その温度に保持した後徐冷する操作。その目的は残留応力の除去、硬さの低下、被削性の向上、冷間加工性の改善、結晶組織の調整、所要の機械的、物理的又はその他の性質を得ることである。
焼ならし 変態点以上の適当な温度に加熱した後、通常は空気中で冷却する操作。その目的は前加工の影響を除去し、結晶粒を微細化して機械的性質を改善することである。
焼割れ 焼入応力によって生じる割れ。
焼入れ 約800℃から急冷(水冷、湯冷)するプロセスを言う。通常硬化を目的として行なうが、ステンレス鋼等の高合金鋼の場合は異なる。
焼入れ性 鋼を焼入硬化させた場合の焼きの入りやすさ、すなわち焼きの入る硬さと深さの分布を支配する性能。
焼戻し 焼入れをした硬く脆い材料を粘くしたり、対摩耗性を向上させる為に行なう再加熱。200℃前後の低温焼もどしと、500℃前後の高温焼戻しの2通りがある。
焼戻割れ 焼入れした鉄鋼を焼戻しする際、急熱、急冷又は組織変化のために生じる割れ。
焼戻脆性 焼入れした鉄鋼をある焼戻温度に保持した場合、又は焼戻温度から徐冷した場合、脆性破壊が生じやすくなる現象。500℃前後の焼戻しで生じる一次焼戻脆性及び更に高い温度の焼戻しで生じる二次焼戻脆性を高温焼戻脆性といい、300℃前後の焼戻しでは低温焼戻脆性という。
焼歪み 焼入れによって生じる形状又は寸法の変化。
Uカーブ 丸棒を焼入れ・焼戻しをした時の横断面の硬さをプロットとした際に得られる曲線がU字形をなすことから名ずけられた。
溶体化処理 鋼の合金成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時下保持し、急冷してその析出を阻止する操作。
溶融表面硬化 主として鋳鉄品の表面硬化に利用される方法であり、フレーム・高周波加熱等により鋳物表面を溶融、自己冷却によりチル化(白銑化)して硬化するプロセス。
レーザ焼入れ レーザ・ビームを使って鋼の表面を加熱焼入れする方法で、冷却は急冷又は自己冷却による。
露点 炉内の雰囲気中の水分が凝縮し始める温度を言う。ガス侵炭の場合、露点でカーボンポテンシャルを調節する。

 

表4.8-2金属組織に関する用語説明

 
用語
 
説明
 
変態
温度を上昇、又は加工させた時に、結晶構造が変化する現象をいう。鋼の場合、固体状態で5種類の変態点を持つが、熱処理において最も重要な変態は、727℃で起こる。通常の鋼では、この温度以上でオーステナイト組識があらわれ、それ以下の温度では、パーライト組織があらわれる。
α鉄 純鉄において、910℃以下で安定な鉄をいう。結晶構造は、体心立方構造である。
フェライト
炭素を固溶したα鉄であり、最大の固溶限度は727℃で0.02%である。
セメンタイト 鉄の炭化物(FeC)組識状の名称。セメンタイトは、金属的光沢をもち、非常に硬くて脆く又磁性をもっている。
パーライト フェライトとセメンタイトとの層状組識をいう。通常オーステナイト状態の組識を徐冷した(焼なまし)時に、727℃以下で得られる組織であり、硬さの強さは小さく磁性を持ち、鋼の組織の中で最も安定している。
γ鉄 純鉄で、910℃から1400℃で安定な鉄をいう。結晶構造は、面心立方構造であり、炭素の最大溶解度は、1140℃で2.1%である。
オーステナイト 727℃以上の通常の鋼であらわれる組識であり、炭素を固溶しているγ鉄をいう。オーステナイトは、炭素量が多いほど硬さを増し、非磁性体で電気抵抗は大きい。熱処理の際には必要不可欠の組織である。
マルテンサイト オーステナイトを急冷した場合に、マルテンサイト変態点(M点)以下で拡散を伴わずに生ずる組織。従って、炭素を固溶限度以上に固溶しており、結晶構造はオーステナイトの面心立方、フェライトの体心立方の中間であり、正方晶である。鋼の焼入れ組織のなかで最も硬く脆く強磁性を有し、オーステナイトよりも密度が小さい。従って、変態に際し膨張する。
ベイナイト オーステナイトを冷却した時に生ずる変態生成物の一つであり、パーライト生成温度とマルテンサイト生成温度との中間の温度範囲で生ずるもの。顕微鏡的には、パーライト変態温度近くで生じたものは羽毛状、マルテンサイト生成温度近くで生じたものは、針状を示し、前者を上部ベイナイト、後者を下部ベイナイトという。一見、マルテンサイトを焼き戻して得られるトルースタイト、ソルバイトに類似している。性質的には、パーライトとマルテンサイトの中間的な性質をもつ。
ソルバイト マルテンサイトをやや高い温度に焼戻しをして粒状に析出成長したセメンタイトとフェライトの混合組織。
トルースタイト マルテンサイトを焼戻ししたときに生ずる組織であり、光学顕微鏡では識別出来ないほど微細なフェライトとセメンタイトからなり、極めて腐食されやすい。