2.3 酵 素

2.3.1 技術開発の内容

(1) 遺伝子工学技術に必要な酵素

 遺伝子工学技術の確立と普及を目指して、種々の酵素標品が開発された。1980年代には主に長い認識配列を持つ新規制限酵素、ATに富む認識配列を持つ新規制限酵素が探索され、在来の生化学的調製法で標品化され、量産された。1980年代後半、制限−修飾系酵素を一緒にクローニングすることで遺伝子工学的精製法が取り入れられた。他に逆転写酵素、DNAリガーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼなどが製品化された。特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の開発に伴い、耐熱性DNAポリメラーゼの開発が進んだ。

(2) その他の酵素利用

 遺伝子工学技術の発展は、工業生産、医薬、工業的または臨床分析の分野における酵素の利用を拡大した。嫌気性菌、毒性のある菌など培養しがたい微生物由来の有用な酵素、ある条件下でしか生産されない誘導性の酵素、高等動物由来の酵素、組織特異的酵素、特異的活性と局在性を備えた酵素、膜酵素など、在来の生化学的精製法のみでは製造、利用するに至らなかった酵素をも量産することができるようになった。本来細胞質性の酵素を細胞質外に分泌するように発現させることで、形質転換菌体をそのまま用いれば、酵素を精製することなく工業的目的は十分達成される。供与菌が特異性の近い複数の酵素を産生している場合にも、目的酵素の遺伝子のみを採取することで容易に単離精製できる。また、工業的には安定な酵素が望まれる。そこで好熱菌の産生する耐熱性酵素を常温菌中で容易に大量に製造することがもくろまれ、目的酵素の遺伝子を一部改変して安定な酵素を得る工夫もなされた。部位特異的突然変異誘発法の開発は設計図通りに酵素の特異性や安定性の一部改変を可能にした。さらに、遺伝子レベルでの連結、挿入、欠失は容易に行えるので、2種の酵素の特徴を備えたキメラ酵素を目的に応じて作成することも可能となった。生産性の悪い活性ポリペプチドを生産効率の高い酵素遺伝子に連結して融合タンパク質として効率よく生産することもできる。

 酵素の生産物ではなく酵素自身を医薬として用いる場合は、完全精製されて不純物を全く含まないこと、免疫原性を考えるヒト由来の酵素であること、本来機能すべき局所でできる限り持続的に存在することなどが要求される。それには天然酵素と同様に翻訳後修飾される必要から真核細胞生物(酵母、昆虫細胞、動物細胞)を宿主としたタンパク質発現系を用いた。

 よく利用される酵素としては、特異性の高い酸化還元力を備えた酸化還元酵素、高分子物質から特定の物質、特定の大きさのオリゴマーを生産する加水分解酵素、特にタンパク分解酵素、糖分解酵素などが挙げられる。