2.5 DNAの合成・配列決定法

2.5.1 技術開発の内容

 遺伝子工学を支える技術として、DNAの合成法と配列決定法は欠かせない技術である。DNAの配列決定のためには、ある程度のDNAの量を確保する必要があるが、この目的のためにはPCR法(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)が重要な貢献を果たしている。また新しい原理に基づくDNAの配列解析法として、DNAチップ(DNAアレー)法と呼ばれるハイブリダイゼーションに基づく手法も開発されている。本節ではこれら遺伝子工学を支える技術について紹介する。

DNA合成

 望みの塩基配列をもつDNAを自動的に合成する装置をDNA自動合成機といい、遺伝子をクローニングするためのプローブの作成、点および欠損突然変異の導入や塩基配列決定に用いるプライマーの作製などに多く用いられる。DNAの化学合成法として、ホスホアミダイト法がよく知られており、この方法を基にマイクロコンピュータを内蔵した全自動DNA合成機が開発され、塩基配列を入力することにより、100塩基程度までの1本鎖DNAを合成することができる。

塩基配列解析

 これまでの塩基配列決定法としてはマクサム・ギルバート法、サンガー法などが知られていた。マキサム・ギルバート法は1977年、米国ハーバード大学のマクサムおよびギルバートにより開発された方法で、化学分解法ともいわれる。DNAの一端を32Pで標識し、これをさまざまな長さの断片が得られるように化学的に分解し、電気泳動にかけた後オートラジオグラフィを行って、塩基配列を読み取るというものである。

 一方、1975年、サンガー・カルソンはDNAポリメラーゼを用いた新しい塩基配列決定法を開発した。その後改良が加えられ、今日ジデオキシ法と呼ばれて、広く用いられている。

 その方法は目的とするDNA断片にプライマーDNAをアニーリングして、DNAポリメラーゼでcDNAを複製する。このとき基質として、32Pで標識したデオキシヌクレオチドリン酸と反応停止のためのジデオキシヌクレオチド3リン酸を加える。ジデオキシヌクレオチド3リン酸が取り込まれるとそこで反応が停止し、末端にジデオキシヌクレオチド3リン酸を持ついろいろな長さのDNA断片が合成される。これを電気泳動にかけてオートラジオグラフィにより、断片を検出して塩基配列を読み取るというものである。

 これらの方法にあっては、ラジオアイソトープを用いることから、その処理量には限界があった。米国カリフォルニア工科大学のフッドらは、ジデオキシ法を用いるが、32Pなどのアイソトープを用いず、4種の蛍光色素で標識したDNA断片を電気泳動処理にかけ、電気泳動中のゲルパターンをレーザーで識別して、塩基配列を決定するという方法を開発した。この方法はアプライド・バイオシステムズ社(米国)によって商用化され、全自動DNAシークケンサーとして広く用いられ、さらに日立製作所などのメーカーにより、改良が加えられている。

遺伝子配列増幅

 1985年R.K.サイキ(米国)らによって開発されたPCR法と呼ばれる遺伝子配列増幅方法は、現在の遺伝子工学にとっては欠かせない技術となっている。既知の遺伝子配列をもとにデザインした2種類のプライマーを用いて、極めて少量の目的遺伝子配列を試験管内で短時間のうちに大量に増幅できる簡便な方法である。増幅したい領域を含むDNA断片を熱変性させて1本鎖にする。目的増幅領域を挟んだ2種類のプライマーを結合させた後、DNAポリメラーゼを用いて相補鎖を合成する。この反応を繰り返して、特定DNA領域を数十万倍に増幅する。

 当初のPCR反応においては、大腸菌のDNAポリメラーゼを用いていたため、熱変性の際に酵素が失活するという問題があったが、1986年サイキらにより、好熱菌テルムス・アクアチクス由来の耐熱性DNAポリメラーゼを用いる方法が開発され、さらに簡便で一般的な方法となった。

DNAチップ

 新しい原理に基づくDNA塩基配列解析法として、DNAチップ法(DNAアレー法)と呼ばれるハイブリダイゼーションを用いた手法が注目されている。これは最初ドルマナク(ユーゴスラビア、現ハイセク社(米国))らによって提唱された方法でSequence analysis By Hybridization(SBH法)とも言われる方法で、DNAがマトリックス上に並べられた基板上で、複数のハイブリダイゼーション反応を並行して行い、得られるハイブリダイゼーションシグナルを解析することにより、DNA塩基配列を解析・決定する手法である。

 DNAチップ法が実用化されれば、従来法の100倍以上のスピードで塩基配列の解析が可能となるが、末端ミスマッチ判別の困難さや、プローブ配列よりも長いリピート配列の解析が原理的に不可能なことなどから、未知塩基配列の決定法としてはまだ実用化されていない。しかし、遺伝子機能を解析する上で重要な遺伝子発現モニタリングや、既知塩基配列の変異同定、診断分野への応用については、盛んな技術開発が進行中である。