2.6.2 代表的な特許

 ここでは権利化された特許に加えて公開ないし公表された特許をもとに遺伝子治療に関する代表的特許67件について以下のように整理してまとめる。

 (1)発明の目的・効果と種類・利用技術のマトリックス

  a.件数一覧表 :表2.6.2-1

:表2.6.2-2

:表2.6.2-3

:表2.6.2-4
  b.遺伝子の細胞への導入 :表2.6.2-5
  c.ベクター開発と対象疾患    :表2.6.2-6
  d.ベクターの改良 :表2.6.2-7
  e.アンチセンス法と対象疾患 :表2.6.2-8
  f.リボザイム法と対象疾患 :表2.6.2-9
 (2)技術発展図
  a.遺伝子の細胞への導入 :図2.6.2-1
  b.ベクターの開発 :図2.6.2-2
  c.ベクターの改良 :図2.6.2-3
  d.アンチセンス法 :図2.6.2-4
  e.リボザイム法 :図2.6.2-5
 (3)代表的特許リスト :表2.6.2-10

 以下に上記各図表のテーマごとにその概要を述べる。

遺伝子の細胞への導入

 遺伝子の細胞への導入方法には直接導入法と間接導入法があるが、間接導入法は組み込んだ細胞の培養に時間がかかり、1回の治療に1〜2ケ月これを数ケ月ごとに繰り返さなければならず、あまり実用的とはいえない。表2.6.2-5に示すように今回抽出した特許は特定の病気の治療に特定の遺伝子を使うという限定されたものを選択したが件数はそれ程多くない。この中で例えばMIT(特許  2779192)(米国)の特許は赤血球の疾患であるサラセミアおよび異常血色素症の有効な遺伝子治療のために、赤血球中の遺伝子の転写を増強するヒト転写エンハンサー要素に関するもので、エンハンサー要素は赤血球由来細胞のトランスフェクションのための遺伝子の構成体を改良しようとするものである。また鐘淵化学工業の「新規遺伝子導入法及びこれに用いる複合体」(特開平10-194997)では、アルギニン含量が極めて高く(65%)、DNAと複合体を形成するプロタミンとDNAとの複合体が細胞を形質転換することを見出し、またアルギニンのホモポリマーとDNAの複合体が高効率に細胞に取り込まれ導入されたDNAが細胞内で機能することを確認している。

ベクターの開発と対象疾患

 ここでは表2.6.2-6に示すように疾患と結びついた特許を抽出したが、遺伝子導入効率が低く発癌性の疑いもあるレトロウイルスベクターからアデノウイルスベクターに研究の中心が移ってきている。ただし免疫原性があるので抗体を生じアレルギー反応を起こすとか感染の効率が低下するなどの問題もある。例えばアデノウイルスベクターの代表例として、住友製薬の特許(特開平10-146191)ではウイルソン病治療のための新規なベクターとして、アデノウイルスベクターのE1A遺伝子領域全域、またはその1部が欠失したゲノムにヒトの肝臓のmRNAを鋳型にしてRT-PCRでクローニングしたヒト由来の銅輸送タンパクをコードする遺伝子、およびこの遺伝子の発現を制御するCAGプロモーターを組み込むことで達成できるとしている。先に述べたようにウイルスベクターには種々問題点があるので、非ウイルス性ベクターの開発、例えばリポソームベクターの開発も進められている。例えば癌研究会の特許(特開平7-69933)ではリン脂質および第4級アンモニウム塩を主要な膜の構成成分とし、その膜の中にN-アシル化シアロフェツインを含み対象治療ペプチド発現遺伝子を内包しているリポソームベクターで、この場合肝臓疾患の治療が実現できるという。

ベクターの改良

 表2.6.2-7に示すようにベクターの改良点は具体的には安全性のアップ、発現効率のアップ、毒性の低減などであり今後この分野の特許が増加すると思われる。レトロウイルスやアデノウイルスを利用する方法でも種々の改良がなされてきており、また実績もあるが、ウイルス自体の病原性や免疫原性は必ずしも十分に解決されていない。一方ウイルスを用いない方法としてカチオン性脂質やポリ-L-リジンを用いる方法が提案されているが、毒性が比較的強いこと、導入効率、発現効率が低い問題がある。日本油脂の特許(特開平9-313180)では特定のアミノ基含有ポリオキシアルキレン化合物と高級脂肪酸との分子集合体が核酸のキャリアーとして核酸を有効に細胞内へ導入できることを見出している。応用生化学研究所の特許(特開平9-248182)ではリポソームを構成する脂質に第4級アミンを有する正電荷脂質を加えることが遺伝子の導入に効果的であり、多重膜リポソームが調整の上で簡便でありかつ細胞に対する毒性の低いことを実証している。

アンチセンス法と対象疾患

 主要な特許を表2.6.2-8に示す。アイシス社(米国)の特許が多数あるのが特色でこれを裏付けるように、アイシス社は1998年8月に世界で初めてアンチセンス医薬品としてサイトメガロウイルス性網膜炎を実用化した。権利をカバーする特許は特許 2708960と思われるが、サイトメガロウイルスのmRNAとハイブリッドを形成して、そのmRNAの機能を阻害することができるオリゴヌクレオチドを提案している。

リボザイム法と対象疾患

 主要な特許を表2.6.2-9に示す。リボザイムは核酸を切断する酵素活性を持つRNAで、RNAの形で直接薬剤化する場合とcDNAの形で遺伝子医薬として利用することが考えられる。将来的にはアンチセンスDNAと同様にアンチセンス医薬としての期待が大きい。この分野では米国のリボザイム 社が注目される。エイズ患者の幹細胞にリボザイムを導入することにより遺伝子治療する治験が進行中といわれるが、特表平9-501318はそれをサポートする特許のひとつと思われる。