I 免疫工学

1.1 技術開発の状況

1.1.1 免疫工学の概要

 免疫工学とは、生体に害を与える細菌やウイルスなど(抗原)から自己を防衛する免疫現象(抗体)を利用して、病気の診断や治療を行うものである。免疫現象は、外来因子だけでなく、癌などの変異細胞を排除する働きがあり、これらの診断や治療に用いられる。

 図1.1.1-1に示すように、免疫系は、大きく自然免疫系と獲得免疫系に分けられる。自然免疫系は、インターフェロンやマクロファージなど、体内に常在して防衛に当たっているものをいう。これに対し、獲得免疫系は、非常に強い毒性を持つものや、体の中に進入しやすい病原菌やウイルスに感染した場合に働くものである。免疫現象といった場合には、一般に獲得免疫系を指し、免疫工学の対象も獲得免疫系に関するものである。

 獲得免疫系には、細胞性免疫と液性免疫がある。細胞性免疫は、ウイルスなどが体内に侵入してきたときに、キラーT細胞と呼ばれる細胞が抗原を認識して直接攻撃するものである。液性免疫は、バクテリアなどが進入してきたときに、細胞が抗体を分泌して、抗原に取り付いてその働きを失わせたり、排除する働きである。

 また、獲得性免疫は、一度獲得すると長い間免疫が記憶されることも大きな特徴の1つであり、これを利用したものがワクチンである。

図1.1.1-1 免疫工学の構成

 免疫工学を構成する具体的な技術群としては、図1.1.1-2に示すものがある。まず、応用という面から、医薬品製造に関する技術と免疫を応用した診断技術とに大別される。1977年〜99年7月までに公開された出願件数は、医薬品に関するものが12,413件、診断に関するものが16,824件になっている。ただし、抗原と抗体は、診断と治療の両方に用いることができるため、両者に関わる技術も4,401件あることが、免疫工学の特徴である。その他に、動物用飼料の改良や食品に関する技術などが4,214件ある。

 診断技術は、抗原と抗体の反応を利用するので両者を使った技術といえるが、医薬品に関しては、ワクチンのように主に抗原を利用するものと抗体医薬のように抗体を利用するものに分けることができる。そのほかに抗体を利用する技術としては、医薬品の開発などに用いられるアフィニティクロマトグラフィーがある。

 また、診断技術の中には、抗体を標識する技術や標識した抗体を用いた画像診断技術のような特殊な技術群が含まれる。

図1.1.1-2 免疫工学を構成する技術群