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2.6.3 バイオ医薬品の代表的特許
バイオ医薬品の特許技術は、a.ペプチド蛋白の物質特許技術、b.遺伝子工学による製造改変技術、c.ペプチド蛋白の製剤技術に大別される。
ペプチド蛋白の物質特許を出願するためには、有用物質の分離同定がスタートラインでありまた主要な課題である。遺伝子工学による製造改変技術では、遺伝子クローニング、遺伝子の発現技術(発現宿主ベクター系の開発)、生産物の精製プロセスの開発、遺伝子改変により天然物とは異なるアミノ酸配列とすることにより、有用な性質を示す誘導体の開発が主要な課題である。
製剤技術には、薬剤の安定化、注射以外の投与の方法、製剤から薬効物質の放出のされ方などが主要な課題として存在する。
薬剤の放出のされ方などを変える目的で、薬効物質への分子修飾あるいは遺伝子を改変することによって誘導体を作製する方法もある。
バイオ医薬品の創出は、通常、病態の解析、モデル動物での薬理実験などの種々の実験を重ねた上で病態の治療、改善に有効であるペプチド蛋白を探索し同定・単離することから始まる。従って、あらかじめ主な用途を念頭において未知物質の探索が行われる。しかし、販売開始後に臨床現場や基礎実験での新たな薬効の発見や、製剤技術上の工夫、例えば、他の成分との併用・合剤化、投与方法の変更などによって、用途の拡大が達成できる場合も多い。
第2章ではバイオ医薬品について、特許件数が多くバイオ医薬品としての広がりが大きいインスリン、成長ホルモン、造血因子(G-CSFとエリスロポエチン)に関するものを取り上げ、物質・製造技術、製剤技術、用途に関する技術領域に位置し、産業的・技術的に影響力の大きいものを、代表的特許とした。
これらの代表的特許について、2.7発明の目的の技術マトリックス(件数一覧表、バイオ医薬品の種類と発明目的)、2.8技術発展図、2.9課題解決図、2.10代表的特許リストにまとめた。
糖尿病の治療薬としてインスリンは常に重要な地位を占めてきた。数多くの糖尿病薬が開発されてきたが、機能の低下した膵臓に代わってインスリンを投与する方法は、血糖値を下げる有力な治療方法であり続けている。
インスリンは膵臓のβ細胞によって、産生・分泌され、肝臓、筋肉、脂肪組織などに作用して、血糖値を正常値に下げる働きをする生理活性ポリペプチドである。
インスリンはカナダのバンティングとベストにより1921年にイヌの中に含まれる血糖を下げる物質として発見された後、翌22年にはウシの膵臓の抽出物を糖尿病患者へ投与することが試みられ、その有効性が確認された。
遺伝子工学によるインスリンが利用されるようになるまで、長い間ブタとウシの膵臓から抽出・精製されたインスリンの注射製剤が使用されてきた。また注射以外のインスリンの投与方法で患者の血糖をコントロールする方法は多様な開発がなされているが、実用化はされていない。
ヒトとは異なる動物由来のポリペプチドを医薬品として用いる場合には、いずれもアレルギー反応につながる可能性のある2つの問題点があった。1つは動物由来の夾雑物の存在であり、もう1つは、ヒトと異なるアミノ酸配列が抗原となる可能性があることである。図2.6.3-1にヒト、ブタ、ウシのインスリンでのアミノ酸配列の違いを示す。ブタとヒトでは1アミノ酸(◎印)、ウシとヒトでは3アミノ酸(◎と●印)が異なっている。
図2.6.3-1ヒト、ウシ、ブタ由来インスリンのアミノ酸配列上の相違

インスリンはA鎖、B鎖と呼ばれる2本のアミノ酸の鎖が結合した構造をしている。A鎖は21個、B鎖は30個のアミノ酸でできている。A鎖6位(図中
と示す。以下同様)とB鎖7位、A鎖20位とB鎖19位、A鎖7位とA鎖11位のアミノ酸はジスルフィド結合という架橋構造で結ばれており、この結合はインスリンの立体構造の形成、そして薬理活性にとり重要である。
本章では、1977年〜99年7月までの登録特許と94年〜99年7月までの公開特許のうちからインスリンに関する代表的特許として29件を取り上げた。
成長ホルモンは、脳下垂体から分泌されるタンパク質である。成長ホルモンは脳以外のすべての組織の成長を促し、特に骨の成長促進作用は著しい。
ヒトの他ウシ、ウマおよびヒツジの成長ホルモンは、いずれも191個のアミノ酸から構成されているが、生物ごとに少しづつアミノ酸が異なっていて、生物種が異なると効き目を示さない場合が多い。ヒトに対しては、霊長類以上の成長ホルモンしか効果がない。
成長ホルモンは遺伝的疾患である成長ホルモン欠乏による小人症の治療の特効薬である。小人症の患者は、幼少期からヒトの成長ホルモンの投与を続ければ、正常な背丈まで伸びることができる。
1960年代後半から死体の脳下垂体からの抽出物を用いる治療が始まったが、供給には限りがあり、すべての患者に用いることができなかった。
遺伝子工学によるヒトの成長ホルモンの生産技術は、1979年に米国カリフォルニア州のシティー オブ ホープ研究所が先鞭を付けた後、81年には、早くも臨床試験へと進んでいる。そして1985年にはFDAの承認を受け販売が開始された。
日本では、1982年に臨床試験が始まり、86年に販売されている。さらに現在ではインスリンと同様に、患者の自己注射が認められている。
本章では、1977年〜99年7月までの登録特許と94年〜99年7月までの公開特許のうちから成長ホルモンに関する代表的特許として32件を取り上げた。
CSFはコロニー刺激因子(colony stimulating factor)の略称である。血液中に存在するすべての細胞は造血幹細胞と呼ばれる祖先の細胞から枝分かれ(分化)しながら増殖した結果である。細胞が分化する過程には様々な造血因子が働いている。
造血因子には、エリスロポエチン(erythropoietin;EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor;G-CSF)顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony stimulating factor;GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony stimulating factor;M-CSF)、巨核球形成を刺激する巨核球コロニー刺激因子(megakaryocyte colony stimulating factor;Meg-CSF)、インターロイキン3、4、5、6(IL-3、4、5、6)、トロンボポエチン(TPO)などが知られている。
白血球の数を増やす機能をもつG-CSF、そして赤血球の数を増やす機能をもつエリスロポエチンは、白血球が減少した患者あるいは貧血患者に投与した場合、白血球と赤血球をそれぞれ増やす効果がある。
本章では、1977年〜99年7月までの登録特許と94年〜99年7月までの公開特許のうちからG-CSFに関する代表的特許として26件を取り上げ、同様にエリスロポエチンに関する代表的特許として15件を取り上げた。
なお、本章で掲載した特許は、上記各技術分野について特徴のあるものを抽出したものであり、権利関係を分析したものではない。権利調査を行う場合は別途調査が必要である。
また、係属中の特許については、その後権利化されるか否かを示すものではない。
