続く

2.3.3 遺伝子改変動物

(1) 技術開発の内容

 遺伝子改変動物(トランスジェニック動物)は、機能の不明な遺伝子を生物に導入してその機能を調べるための手段として使われる。遺伝子改変動物は、遺伝子産物であるポリペプチドの生体内大量発現あるいは乳汁中への分泌により機能未知の遺伝子を解明するための手段、および病態モデル動物として疾病機構を解析するための手段として用いられている。

 ここでは、遺伝子改変動物に関する技術を以下の2つの軸により分類した。

  a.動物種

  b.作成・利用技術

 

(2) 代表的な特許

 (i)図1.2-1「ゲノム技術を支える遺伝子工学の基礎技術」の集合と「IC=A01K67/027 or FT=4B065AB04 or FT=4B024KG00」との積集合、(ii)PATOLIS検索集合「FK=ES*細胞 or FK=幹細胞*胚 or FK=クローン」の集合などから読込みにより遺伝子改変動物に関する特許を抽出した。抽出にあたっては、記載のみがあるものおよび単に技術を利用したものは除いている。また、未請求取下げおよび拒絶が確定した特許も除外している。得られた代表的な特許55件をもとに、動物の作出、ポリペプチド等の生体内大量発現・分泌生産、病態モデル動物の3つ観点から整理し、下記のマトリックスおよび図を作成した。

a. 遺伝子改変動物に関する代表的特許の年次別出願件数   :表2.3.3-1
b. 遺伝子改変動物に関する代表的特許一覧 :表2.3.3-2〜4
c. 遺伝子改変動物に関する技術発展図 :図2.3.3-1〜3
d. 遺伝子改変動物に関する代表的特許の概要 :表2.3.3-5〜7

 遺伝子改変動物の作出方法は、通常、相同組換え法により胚性幹細胞の標的遺伝子を改変し、これを疑似妊娠した動物の子宮に挿入して増殖・分化させる。1995年までは、このプロセスに基づく技術が出願されている。ところが、95年になって、外来遺伝子とリポソームから成るDNA導入試薬を自然交配の場に共存させたり、精巣または卵巣にあらかじめ注入する新しい方法が出願されている。この方法は作出期間を短縮でき、また確率的にも高い(7%〜53%)ので期待が大きいが、厳密な意味では、目的とする遺伝子以外に改変を生じない技術の開発が必要である。

 ポリペプチド等の生体内大量発現・分泌生産においては、ヒト成長ホルモン、ヒトインシュリンなどの有用物質がターゲットとされている。ミルク中への分泌はマウス、ラットでの実施例があるが、期待されるウシやヤギでは見られない。ブタでは臓器移植をにらんで、ATP-ジホスホヒドラーゼ活性を有するポリペプチドの遺伝子を保有する遺伝子改変ブタが原理的に可能であるとした出願もある。

 病態モデル動物ではマウスおよびラットが中心であるが、変異原物質検出用にゼブラフィッシュの改変体が作られている。

 遺伝子改変動物は、遺伝病治療薬・治療法開発のツールであるとともに、動物の作出が、表現形質と遺伝子の関連性解析の場そのものとなっている。遺伝子表現型の解析技術の1つとしての遺伝子改変動物に関する技術は、ヒトゲノムプロジェクトに見られるように遺伝子機能解析手段の主力として大いなる発展が期待される。また、ゲノムの表現型解析を通して、動物工場、移植臓器の供給、希少動物の種の保存等への利用も拡大するものと思われる。

 

表2.3.3-1 遺伝子改変動物に関する代表的特許の年次別出願件数

   作成・利用
技術

動物種

動物の作出

ポリペプチド等の生体
内大量発現・分泌生産

病態モデル動物

'90末 '93末 '96末

'90末 '93末 '96末

'90末 '93末 '96末

齧歯類
(マウス・ラット)























   




























有蹄類
(ウシ・ブタ・
ヤギ・ヒツジ)

 

 

 

 

 

 


   



         

哺乳動物
(不特定)

 

 

 

 

 



   



             

魚類

                   

 

注)・*は1件の特許を表す。

  ・動物種は実施例に基づいて分類

  ・出願年または優先権主張年で整理

 

表2.3.3-2 遺伝子改変動物の作出に関する代表的特許一覧

 作成・利用
技術

動物種

動物の作出

日本

米国

ヨーロッパ

齧歯類
(マウス・ラット)

特許2651316
92.05.26
理化学研究所

特開平7-67629
92.09.29(優)
ディナード

特開平10-304790
95.09.29
ヘキストジャパン

特開平9-140292
95.11.20
住友製薬

特開平9-220039
96.02.14
小池 千裕

特開平9-224528
96.02.26
小池 千裕

特開平11-192036
98.01.04
小池 千裕

特公平5-48093
85.06.21
プレジデント・アンド・
フェロウズ・オブ・
ハーバード大学(米国)

特表平6-506105
90.08.29(優)
ジェンファーム
インターナショナル(米国)

特表平7-503848
92.02.11(優)
セル ジェネシス、
プレジデント・アンド・
フェロウズ・オブ・
ハーバード大学(米国)

特表平7-508410
92.06.18(優)
ジェンファーム
インターナショナル(米国)

特表平3-504335
89.03.20(優)
パスツール研究所
(フランス)

特表平6-506357
91.04.02(優)
インゲニー・ペストロ
ーテン・フェンノート
シャップ
(オランダ)

特開平8-51890
94.05.27(優)
バイエル・アクチエン
ゲゼルシヤフト
(ドイツ)

有蹄類
(ウシ・ブタ・
ヤギ・ヒツジ)

特開平10-150882
96.11.18
小池 千裕

 

 

 

 

哺乳動物
(不特定)

 

特表平7-506252
92.04.24(優)
エス・アール・アイ・
インターナショナル
(米国)

特表平7-501930
91.09.10(優)
エイエフアールシー・
バブラハム研究所
(イギリス)

・年月は出願日または優先権主張日

・動物種は実施例に基づき分類

 

表2.3.3-3 遺伝子改変動物のポリペプチド等の生体内大量発現・分泌生産に

関する代表的特許一覧

 作成・利用
技術

動物種

ポリペプチド等の生体内大量発現・分泌生産

日本

米国

ヨーロッパ

齧歯類
(マウス・ラット)

特許2707466
88.07.06(優)
第一製薬

特開平7-194380
93.12.28
住友金属工業

特表平1-502716
86.05.20(優)
ジェネラル ホスピタル
(米国)

特許2802634
87.05.01(優)
ジェネラル ホスピタル
(米国)

特表平4-506751
89.09.11(優)
ティー エス アイ
(米国)

特表平6-500233
90.08.29(優)
ジェンファーム
インターナショナル
(米国)

特表平7-509137
92.07.24(優)
セル ジェネシス(米国)

特開平8-140528
93.12.03(優)
ジェンファーム
インターナショナル
(米国)

特表平6-508515
91.06.12(優)
ナシオナル ド ラ
ルシェルシュ
アグノロミク研究所
(フランス)

有蹄類
(ウシ・ブタ・
ヤギ・ヒツジ)

 

特表平6-509474
91.07.31(優)
ローヌ プーラン ローラー
インターナショナル
(米国)、
ペリ ディベロップメント
アプリケーションズ
(イスラエル)

 

特表平11-503905
95.03.24(優)
ノバルティス(スイス)、
ベス・イスラエル・ディ
ーコネス・メディカル・
センター
(米国)

哺乳動物
(不特定)

 

特許2874751
86.04.09(優)
ジェンザイム(米国)

特開平9-294586
86.04.09(優)
ジェンザイム(米国)

 

 

 

 

・年月は出願日または優先権主張日

・動物種は実施例に基づき分類

 

表2.3.3-4 遺伝子改変病態モデル動物に関する代表的特許一覧

 作成・利用
技術

動物種

病態モデル動物

日本

米国

ヨーロッパ

齧歯類
(マウス・ ラ
ット)

特開平6-125773
92.10.21
理化学研究所

特開平6-245670
93.02.19
住友製薬

特開平8-131021
94.11.14
実験動物中央
研究所

特開平8-322427
95.01.19(優)
藤田学園、
アメリカ合衆国

特開平8-280300
95.04.13
日本たばこ産業

特開平9-9965
95.06.30
化学及血清療法
研究所

特開平9-74946
95.09.18
神奈川科学技術
アカデミー、
野口 茂

特開平9-131146
95.11.10
ワイエスニュー
テクノロジー
研究所

特開平9-172908
95.12.22
ヘキストジャパン

特開平10-56915
96.06.13(優)
武田薬品工業

特開平10-117632
96.10.16
塩野義製薬

特開平10-117633
96.10.21
三井製薬工業、
金井芳之、
藤田学園

特開平10-309148
97.03.10(優)
岸本 忠三

特開平10-295216
97.04.30
三菱化学

特開平11-9140
97.04.30(優)
武田薬品工業

特開平11-79
97.06.09
塩野義製薬

特開平11-123035
97.10.24
富士薬品

特開平11-146743
97.11.17
科学技術振興
事業団

特開平11-155420
97.12.02
雪印乳業

特開平11-196709
98.01.07
塩野義製薬

特許2801228
87.12.23(優)
スタンフォード
大学
(米国)

特表平6-507782
90.06.15(優)
サイオス ノバ
(米国)

特開平7-107882
93.09.02(優)
ブリストル 
マイヤーズ 
スクイブ
(米国)

特表平9-507746
93.10.27(優)
アテナ ニュー
ロサイエンシズ
(米国)、
イーライ・リリー
(米国)

特開平10-201396
97.01.10(優)
オーソ・ファーマ
シューチカル
(米国)

 

特開平8-19352
93.03.29(優)
セントロ・デ・
インベステイガイシ
オネス・エネル
ゲテイカス,メデ
イオアムビ エン
タレス・イ・テク
ノロヒ カス
(スペイン)

特開平8-242866
94.12.14(優)
パスツール
研究所
(フランス)

 

魚類

特開平8-205708

95.01.31

理化学研究所

 

 

・年月は出願日または優先権主張日

・動物種は実施例に基づき分類

 

図2.3.3-1 遺伝子改変動物の作出技術発展図(1/2)

 

 

図2.3.3-1 遺伝子改変動物の作出技術発展図(2/2)

 


続く