|
|
![]() |
|
2.3 遺伝子表現型の解析
遺伝子の機能を解析するには、遺伝子を生物に導入して遺伝子の表現型を調べる必要がある。動物においては、機能を調べたい当該遺伝子を組み込んだ核を、全能性を有する胚性幹細胞や卵細胞に移植し(核の入れ換えを行う)、これを子宮内に移して育て、クローン動物や遺伝子改変動物(トランスジェニック動物)を作成する技術が使われる。ここでは、胚性幹細胞を導く技術、クローン動物や遺伝子改変動物を作成する技術について述べる。
遺伝子の機能解析に用いるクローン動物あるいはトランスジェニック動物の作成には、それらの元となる胚性幹細胞の樹立技術が必要である。最初の胚性幹細胞樹立は、1981年にマウスに関して発表された(Evance M.J.& Kaufman K.H.:Nature, 292,7634-7638 (1981).およびMartin G.R.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78,7634 (1981))が、その後、対象となる動物種が、鳥類、魚類、有蹄類等に拡がってきている。
一方、胚性幹細胞の樹立技術自体としては、セルラインの樹立あるいは樹立の効率化に関する技術が開発されてきている。
ここでは、胚性幹細胞に関する技術を以下の2つの軸で分類した。
a.動物種
b.樹立技術
(i)図1.2-1「ゲノム技術を支える遺伝子工学の基礎技術」の集合と「IC=A01K67/027 or FT=4B065AB04 or FT=4B024KG00」との積集合、(ii)PATOLIS検索集合「FK=ES*細胞 or FK=幹細胞*胚 or FK=クローン」の集合などから読込みにより胚性幹細胞に関する特許を抽出した。抽出にあたっては、記載のみがあるものおよび単に技術を利用したものは除いている。また、未請求取下げおよび拒絶が確定した特許も除外している。得られた代表的な特許13件をもとに下記のマトリックスおよび図を作成した。
| a. 胚性幹細胞に関する代表的特許の年次別出願件数 | :表2.3.1-1 |
| b. 胚性幹細胞に関する代表的特許一覧 | :表2.3.1-2 |
| c. 胚性幹細胞に関する技術発展図 | :図2.3.1-1〜2 |
| d. 胚性幹細胞に関する代表的特許の概要 | :表2.3.1-3 |
前述のEvance M.J.らおよびMartin G.R.の発表以降、その基本技術に匹敵する技術の開発は特許上見られない。胚性幹細胞に関しては、遺伝的に新規なセルラインの樹立が主な技術開発の流れとなっている。これは、後述する種々の病態モデル動物等の作出を目的としたものであり、動物種ではほとんどがマウスである。マウス以外では、畜産への応用を目的とした有蹄類のブタ、変異原物質検出用のゼブラフィッシュの胚性幹細胞が樹立されている。
一方、樹立の効率化技術においては、分化して全能性を失った細胞からの胚性幹細胞の選別、および胚性幹細胞の培養における成長因子あるいは安定化因子の添加、あるいは繊維芽細胞などの支持細胞との混合培養などの技術が開発されてきている。成長因子あるいは安定化因子については、これまで白血病抑制因子(LIF)、インシュリン様成長因子U型、インターロイキン-6または同レセプターが発見されている。今後、新規な因子の発見が新しい展開につながるものと期待される。
表2.3.1-1 胚性幹細胞に関する代表的特許の年次別出願件数
|
樹立技術 動物種 |
セルラインの樹立 |
樹立の効率化 |
||||||
|
'90末 '93末 '96末 |
'90末 '93末 '96末 |
|||||||
|
齧歯類 |
|
* * |
|
* * |
* |
* |
* * |
|
|
有蹄類 |
|
* |
* * |
|||||
|
鳥類 |
|
* |
||||||
|
魚類 |
|
* |
||||||
注)・*は1件の特許を表す。
・動物種は実施例に基づいて分類
・出願年または優先権主張年で整理
|
樹立技術 動物種 |
セルラインの樹立 |
樹立の効率化 |
|
|
日本 |
日本 |
ヨーロッパ |
|
|
齧歯類 |
特開平5-328878 |
特開平7-51060 |
特許2740320
|
|
有蹄類 |
特再平7-834636 |
特開平8-116966 |
|
|
鳥類 |
|
特開平5-227947 |
|
|
魚類 |
特開平6-38653 |
|
|
・年月は出願日または優先権主張日。動物種は実施例に基づいて分類

図2.3.1-2 胚性幹細胞の樹立効率化技術発展図

|
公報番号 |
出願日または |
出願人または |
概 要 |
|
特許 |
88.08.04 |
アムラド |
インビトロにおける動物胚からの胚性幹細胞の増殖・分離方法。白血病抑制因子(LIF)を含有する培地を用い、発育に充分な時間および条件下で、哺乳動物胚から胚性幹細胞を誘導し維持する。実施例はマウス |
|
特開平 |
91.11.12 |
サッポロビール |
形質転換魚の製造法。外来遺伝子をもつプラスミドを魚(例:ゼブラフィッシュ)の二倍体胚細胞に導入し、次いで形質導入細胞を魚の胞胚に導入し、これを孵化 |
|
特開平 |
92.01.14 |
理化学研究所 |
鳥類原始生殖細胞の分離方法。浸透圧を維持したまま比重を変えうる溶液を重層して用いる。遺伝子操作、系統保存、トランスジェニック動物の作成等に有用な原始生殖細胞を血液の中から高効率に分離 |
|
特開平 |
92.05.26 |
理化学研究所 |
胚性未分化細胞。129マウス以外の系統のマウスに由来し、子孫マウスを効率良く生じる。例えば、C57BL/6マウス雌とCBAマウス雄とを交配させて得られた4日胚由来の胚性未分化細胞 |
|
特開平 |
93.07.06 |
武田薬品工業 |
病態モデル動物の作出等に有用なマウスなどの非ヒト哺乳動物胚性幹細胞。ニューロトロフィン-3遺伝子の発現能を抑制し、同タンパクの活性を喪失させ、同遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物を作出 |
|
特開平 |
93.08.11 |
東ソー |
胚性幹細胞の増殖・維持を行うために使用される培養液。インターロイキン-6またはインターロイキン-6レセプターを有効成分として含有させた胚性幹細胞に対する分化抑制または増殖促進培養液。実施例はマウス胚性幹細胞 |
|
特表平 |
94.01.25 |
ピーピーエル テラ |
動物の胚性幹細胞の単離方法。分化した細胞を選択的に殺すことにより、マウス胚の培養物から幹細胞を単離する。薬剤選択マーカーシステムまたは致死遺伝子(ジフテリア毒素産生等)の発現によって殺生 |
|
特開平 |
94.10.25 |
雪印乳業 |
ウシ胚性幹細胞およびその作製方法。ウシの受精卵由来の胚盤胞より内部細胞塊と栄養外胚葉とを取り出し、不活性化したフィーダー細胞上/白血病制御因子および塩基性線維細胞増殖因子等を含む培地中で培養 |
|
特開平 |
94.12.01 |
伊藤ハム |
ウシ白血病細胞増殖阻害因子(LIF)をコードする遺伝子。LIFはウシ胚の分化抑制による胚性幹細胞樹立、受精卵の着床促進等の作用 |
|
特再平 |
95.06.15 |
明治乳業 |
有蹄類のEG細胞。ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の有蹄類の始原生殖細胞由来であって胚性幹細胞様または全能性分化能を有する細胞を得る方法 実施例はブタ |
|
特開平 |
96.12.27 |
農林水産省 |
抗体磁気ビーズを用いた生殖幹細胞の分離、精製と幹細胞株の樹立方法。哺乳動物(ヒトを除く)の胚または胎子由来の生殖幹細胞を分離・精製するため、抗体磁気ビーズおよび未分化生殖幹細胞識別用抗体を利用 |
|
特開平 |
97.05.20 |
理化学研究所、 |
近交系マウス由来の胚性幹細胞。C3H/HeN系統、C57BL/6N系統、DBA/1J系統、およびBALB/c系統からなる。遺伝子ノックアウトマウス等の作成に有用 |
|
特開平 |
97.08.21 |
国立がんセンター |
ポリ(ADP-リボース)合成酵素活性欠損マウス胚性幹細胞株。上記酵素遺伝子の遺伝子対の双方に外来遺伝子を挿入して、上記酵素生産能を有せず、抗癌剤の評価、開発等に有用なマウス胚性幹細胞株を生産 |
