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(4) 開発課題・将来予測
現在、アミノ酸は、化学調味料(グルタミン酸)などの食品添加物、家畜の飼料添加物(リジン、スレオニン、トリプトファン)、ヒトの栄養供給用医薬輸液原料(各種のL-アミノ酸)、甘味剤アスパルテームの原料(アスパラギン酸、フェニルアラニン)、界面活性剤・合成医薬品中間体・合成皮革などの化成品原料(グルタミン酸などの安価なアミノ酸)などで、すでに世界的に大きな市場を確立している。今後は、特にヒトや家畜の栄養学上重要な必須アミノ酸の将来性に注目する必要がある。
ヒトや動物において必須アミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンの8種であり、豚にはさらにアルギニン、ヒスチジンも必須である。このなかで通常の食物あるいは飼料から不足しがちなアミノ酸(=制限アミノ酸)は、リジン、トリプトファン、スレオニンであるが、人口の爆発的な増加を迎える21世紀において需要の拡大は必須である。
しかしながらアミノ酸が世界の需要に応えるためには、一層安価な製造法が要望される。製造のコストダウンはメーカーにとって永遠の課題であり、アミノ酸製造において菌株改良・製造技術改良は重要な研究課題の1つである。
アミノ酸の直接発酵は、本来菌体タンパク質に合成されるべきアミノ酸がその合成経路からはずれて細胞外に排出されるという異常現象とも言える。すなわち、発酵中間物質の正常な代謝経路を打破し他の代謝経路へ導く新しい技術の展開が、アミノ酸の直接発酵を成立させてきた。これら生体物質の代謝制御を可能にした背景は、微生物遺伝学、生化学、分子生物学などの科学上の進歩に負うもので、それらの基礎的な知見に基づいて造成された各種の栄養要求株やフィードバック制御機構を解除したアナログ耐性株が、発酵の主役として登場した。さらに、それらの変異株の特性が科学的に詳細に研究されるに伴い、微生物の持つ潜在的能力の開発利用が飛躍的な進展を見せてきた。従って、科学上の進歩と発酵面での技術的発展は、相補的であったと言うことができる。
コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属の細菌(いわゆるコリネホルム型細菌)のL-アミノ酸発酵に関する基礎的な研究は、ひところ、ドイツなど欧州での研究が非常に多いことが懸念されていたが、最近、わが国においても東京工業大学の永井和夫教授、北海道大学の冨田房男教授らのグループにより、グルタミン酸発酵のメカニズムが改めて研究されている。その結果が、最近の味の素からの学会発表や特許出願「発酵法による目的物質の製造法(特開平10-87、出願日1996.06.17)」に反映されている。また、協和醗酵工業は、コリネバクテリウム・グルタミクムの全ゲノム配列をほぼ解析したとのことである。今後は機能の不明な遺伝情報を解析するゲノムインフォマテックスが、アミノ酸発酵の研究にとって非常に重要である。これらの研究の発展がアミノ酸生産菌の育種改良に活かされる日の来ることを期待したい。
現在、固定化酵素・固定化微生物菌体を用いて、アミノ酸などの製造が工業的規模で行われているが、これらは比較的単純な反応を利用しており、今後さらに複雑な反応への利用へと応用面が広がることが期待されている。それには複数の酵素の固定化や微生物菌体の固定化が要求される。上述したアミノ酸の直接発酵において、アミノ酸生産用の菌体生産のために使われる炭素源・エネルギーは無視できないもので、その使い捨ては製造コスト的に不利である。従って、直接発酵においても、固定化酵素・固定化微生物菌体を用いる酵素反応のように、それぞれのアミノ酸ごとに活性的に強い代謝経路とミニマムの生命維持機能とを持ち、生産菌体を反復利用可能な微生物に育種改良できないか、という課題があり得よう。
例えば、現在の生産菌の代謝経路と生命維持機能のうち、不安定なタンパク質をタンパク質工学的手法により安定な酵素タンパク質に置換する、あるいは、好熱菌・超好熱菌など対応するタンパク質に置換する、などである。
田辺製薬が実施した一連の固定化研究において、フマル酸からL-アスパラギン酸への転換酵素アスパルターゼの活性が50%となる半減期は、大腸菌から抽出した酵素をポリアクリルアミドゲルで固定化すると約30日間であったが、大腸菌自体をポリアクリルアミドゲルで直接固定化すると活性が10倍で半減期が120日間となり、さらにκ-カラギーナンで固定化した大腸菌をグルタルアルデヒドとヘキサメチレンジアミンで処理した場合の半減期は680日間もの長期間となったとのことである「L-アラニンおよびD-アスパラギン酸の製法(特公昭62-25039、出願日1980.08.22)」。
上述したような、強い代謝経路と最小限の生命維持機能とを持ち、生産菌体を反復利用可能な微生物への育種改良が可能となれば、それは直接発酵法から固定化菌体法への発展とも言うことができる。
また、アミノ酸は、環境にやさしい化成品原料として期待される素材の1つであり、多方面の用途開発が検討されている。今後に期待したい。
