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2.5 醸造品
醸造とは微生物の発酵作用を応用して酒類、醤油などを造ることであり、醸造技術によって造られた加工食品は醸造品(発酵食品)と呼ばれる。古来から伝承され、培ってきた醸造技術は現代に花開いた各種医薬品や化学品の発酵工業からバイオテクノロジーまでの進歩発展の礎となっている。バイオテクノロジーの発展がフィードバックされ、現在の醸造技術の進歩を支えていると言っても過言ではない。
酵素類の使用技術、酵母や麹菌の変異株、細胞融合株、遺伝子導入による形質転換株などの微生物育種技術が醸造工業の主な技術開発の手段として用いられている。
製造法による醸造品の分類を図2.5.1-1に示す。全体を醸造品として酒類と食品類に分類した。本調査では、主として清酒、ビール、ワインの3酒類に絞って特許をとりまとめた。特許の中で使用されている微生物に関しては、清酒の他に焼酎、製パン、味噌などにも使われるケースも含まれている。

清酒、ビールおよびワインの製造工程の概略を図2.5.1-2に示す。いずれも原料処理、発酵、熟成の工程を経て製品となるが、酵素類の使用法(表2.5.1-1)、麹菌/酵母類の育種法(図2.5.1-3)、育種微生物株の実施例(表2.5.1-2)、遺伝子導入による形質転換体の実施例(表2.5.1-3)、着色酒類(表2.5.1-4)の技術に興味ある特許が多い。

<清酒>
| 酵素の種類 | 用途・効果など |
| グルコースイソメラーゼ | 清酒中のぶどう糖を果糖へ転換、酔いざめが良く、口当たりの良い清酒 (発酵調理料)甘味度向上 |
| プロテアーゼ (酸性、中性、アルカリ性) |
低精白米、低品位処理、酒質良好な清酒 |
| 酸性プロテアーゼ | (清酒)フロックの形成、清澄化、濾過性能向上 |
| 耐熱性α-アミラーゼ プロテアーゼ |
(清酒)古米酒臭発生なし、酵の生成なく、香味、色沢に優れた清酒 |
| α-アミラーゼ グルコアミラーゼ 酸性プロテアーゼ 酸性ホスファターゼ |
(清酒)原料利用率、発酵速度向上 |
| α-アミラーゼ トランスグルコシダーゼ 酸性プロテアーゼ |
コクのある低アルコール清酒 |
| α-アミラーゼ βーアミラーゼ グルコアミラーゼ |
(清酒)米粉末糖化に使用 |
| α-アミラーゼ プロテアーゼ セルラーゼ |
(清酒)連続液化、液化掛け米使用、酒質の優れた日本酒 |
表2.5.1-1 酒類製造に用いられる酵素剤(2/2)
<酒類>
| 酵素の種類 | 用途・効果など |
| マルトーストランス グルコシダーゼ |
(酒類)パノース高含有糖質原料を添加する |
| α-グルコシダーゼ | もろみへ添加、酒中のグルコース濃度を上げる |
| 耐熱性α-アミラーゼ | (酒類)原料米の液化、着色防止、雑味のない風味豊かな清酒、みりん、原料利用率向上 |
| ホスホリパーゼ | (酒類)香気改良 |
| リパーゼ | 不飽和脂肪酸を分解除去、香気の良い酒 |
| 酸性ウレアーゼ | 酒類品質保安剤、尿素分解処理用 |
| α-アミラーゼ プロテアーゼ |
(酒類)発酵期間短縮、効率化 |
| アミラーゼプロテアーゼ セルラーゼヘミセルラーゼ リパーゼペクチメーゼ |
(酒類) 原料利用率向上、香気成分増強 |
| 酸性アミラーゼ グルコアミラーゼ 酸性プロテアーゼ 酸性ホスファターゼ |
(酒類)清酒、焼酎 原料利用率、発酵速度向上、アミノ酸度、着色度、鉄分少なく貯蔵性、品質向上 |
| グルコアミラーゼ α-アミラーゼ プルラナーゼ イソアミラーゼ |
でんぷん糖化 製品収率、品質向上した酒類 でんぷんの技切り、アルコール濃度を上げ、にごり酒をさらっとさせる(粘度低下)作業性向上 |
<ビール・ワイン・焼酎・味>
| 酵素の種類 | 用途・効果など |
| キシラナーゼ | (ビール)ディスポロトリカム属より取得、麦汁、ビールの収率向上、濾過性改良 |
| α-アセトラクテート カルボキシラーゼ |
(ビール)アセトインに変換し、ダイアセチルを減少 (ワイン)酵母を共固化し、特異臭のないマストワインを作る |
| α-アミラーゼ α-グルコシダーゼ |
(ビール、発泡酒)香味に優れた、コク味のあるビールなどの酒類 |
| セルラーゼ系 プロテアーゼ系 アミラーゼ系 |
(焼酎)発酵期間短縮、香味豊かな焼酎 |
| α-アミラーゼ グルコアミラーゼ 中性プロテアーゼ 酸性カルゴキシペプチターゼ |
(みりん)もち米麹、粘着力低下、生産利用率向上 |
| セルラーゼ プロテアーゼ |
(酒粕調味料)酒粕の可溶化し、残存粕量を減少させる |
| ペクチナーゼ | 健康酒類飲料(梅果、山ぶどう果をワイン酵母で発酵) |
| グルコースオキシダーゼ グルコースカタラーゼ |
白ぬか悪臭の除去 |

表2.5.1-2 特許に見られる酒類醸造用育種微生物(1/2)
| 変異株の種類 | 変異株の内容 | 醸造特性 | ||
| 細胞融合株 (プラトプラスト融合) |
・Asp.オリーゼ×Asp.アワモリ | 麹菌 | (清酒)さわやかな酸味と香味 原料利用率向上 |
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| ・清酒酵母×焼酎酵母 | 酵母 | (酒類)エステル香、フルーツ香 耐酸性、高温耐性高アルコール 収率向上 |
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| ・清酒酵母×リジン要求酵母 | 焼酎 酵母 |
(焼酎)香り良好なソフト焼酎 | ||
| 要求性株 | ・アデニン要求性 | 酵母 | (酒類)赤色色素生産 赤色に着色した酒類 |
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| 交雑株 | ・二倍体清酒酵母より一倍体株分離 | (清酒)発酵能低下、低アルコール、清酒 | ||
| ・清酒酵母一倍体同志の交雑 | 二倍 体株 |
(清酒)酢酸イソアミル、カプロン酸エチル増大、芳香に富んだ清酒 | ||
| ・カプロン酸感受性株×醸造株 | 酵母 | (酒類)カプロン酸エチル増大、香気豊かな酒類 | ||
| キラー酵母株 | ・抗細菌性、アルコール耐性 | 酵母 | (酒類)有機酸増大、壮快な酸味、酒質改善 | |
| 感受性株 | ・酸性pHグルコース資化し、グリセリンを資化しない | 酵母 | (清酒)香味良好 | |
| ・カプロン酸、アルコール耐性 | (清酒)カプロン酸エチル増大、吟醸香を有する | |||
| ・バニリン | 酵母 | (ワイン)バニリン高生産 | ||
| ・ジメチルサクシネート(DMS) | 酵母 | (清酒)リンゴ酸増大、さわやかな酸味 | ||
| 分離株 | ・海水より | 酵母 | (清酒)香りに深みありマイルド | |
| ・海藻より | 酵母 | (清酒、焼酎)フルーティーな香り、ワイン様清酒、焼酎 | ||
| ・フィターゼ高活性 | 麹菌 | (酒類)フィチン増大、イノシトール減少 | ||
| ・低酸性カルボキシペグチダーゼ 高アミラーゼ |
麹菌 | (清酒)味の軽い淡麗型 | ||
| ・高カルボキシペグチダーゼ 高グルタミナーゼ |
麹菌 | (酒類)グルタミン酸増大、呈味性豊かな酒類 | ||
| 耐 性 株 |
ストレス耐性 | ・耐熱性 | 焼酎 酵母 |
グリセロール、酢酸イソアミル高生産 |
| ・エタノール、糖、高温耐性 | 酵母 | (酒類)原料利用率向上 | ||
| アナログ耐性 | ・α-フルオロ-β-アラニン (パントテン酸生合成経路強化) |
清酒 酵母 |
有機酸、酢酸エチル増大、香味良好な醸造酒 | |
| ・フェニルアラニンアナログ | 酵母 | (酒類)β-フェネチルアルコール、酢酸β-フェネチル高生産、香気に優れた清酒 | ||
| ・4-アザ-DL-ロイシン | 醸造 酵母 |
(アルコール飲料、パン) イソアミルアルコール、酢酸イソアミル高生産、高芳香性 |
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| ・5'-5'-5'-トリフルオロ-DL-ロイシン | 酵母 | (酒類)イソアミルアルコール、酢酸、イソアミル高生産、高芳香性 | ||
| ・トリフルオロロイシン酸 ロイシンヒドロキサメート |
酵母 | (酒類)ロイシン酸エチル高生産、高香気性酒類 | ||
| ・モノフルオロ酢酸イソアミル | 清酒 酵母 |
(酒類)酢酸イソアミル低分解性、イソアミルアルコール増加させずに酢酸イソアミル高生成、軽快な芳香性豊かな清酒 | ||
表2.5.1-2 特許に見られる酒類醸造用育種微生物(2/2)
| 変異株の種類 | 変異株の内容 | 醸造特性 | ||
| 耐 性 株 |
アナログ耐性 (つづき) |
・カプロン酸2-フルオロエチル | 清酒 酵母 |
(清酒)カプロン酸エチル低分解性、カプロン酸エチル高生成、芳香性豊かな清酒 |
| ・ヒドロキシルバリン | 酵母 | (飲食品)活性アミルアルコール、n-プロピルアルコール高生産、香り高い飲食品 | ||
| ・メチルスレオニン アミノチロシン |
酵母 | (酒類)活性アミルアルコール、n-プロピルアルコール高生産 | ||
| 薬剤耐性 | ・トリコセン オーレオバシジA |
酵母 | (酒類)少酸、低アルコール | |
| ・トリコセン、ロリジンA ベリカリンA |
酵母 | (酒類)高アルコール生産 | ||
| ・セルレニン(脂肪酸合成阻害) | 醸造 酵母 |
(酒類、食品、化粧品)カプロン酸、カプロン酸エチル高生産、リンゴ様香気 | ||
| ・カナバニン | 清酒 酵母 |
(清酒)アルギニン資化性弱く、尿素生産少ない | ||
| ・ミコナゾール、エコナゾール アンホテリシンB |
清酒 酵母 |
(酒類)吟醸香の豊かな酒類 | ||
| ・ブラスチシジンS | 酵母 | (酒類)多酸、低アミノ酸 | ||
| ・インドメタシン クロルプロマジン (アシルCoAアシル基転移酵素阻害剤耐性) |
酵母 | (清酒)酢酸イソアミル高生産、高芳香性 | ||
| ・テノイルトリフルオロアセトン オキシカルボキシン (コハク酸デヒドロゲナーゼ阻害剤) |
酵母 | (清酒)リンゴ酸高生産、淡麗でさわやかな風味 | ||
| その他耐性 | ・エタノール耐性 | 清酒 酵母 |
(清酒・焼酎)香り良好な淡麗ですっきりした辛口、自己消化改良 | |
| ・アルコール耐性 (イミダゾール系エルゴステロール生合成阻害剤) |
酵母 | (清酒)辛口 | ||
| ・バニリン耐性 | 酵母 | (ワイン)バニリン高生産 | ||
| ・2,4-ジニトロフェノール耐性 | 酵母 | (清酒)グリセロール高資化、 寡酸性、淡麗 |
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| ・ラウリル硫酸ナトリウム耐性 | 酵母 | (酒類)カプロン酸エチル増大 | ||
| ・グリセリンモノクロロヒドリン耐性 | 酵母 | (清酒)グリセロール高生産、呈味性良好 | ||
| ・亜硫酸耐性 | 酵母 | (清酒)リンゴ酸、コハク酸高生産、高吟醸香 | ||
| ・ホップ耐性 | 醸造 酵母 |
(麦芽発泡酒)ビール酵母以外の酵母使用 | ||
| その他 | ・プリン生合成合成経路の制御解除 | 醸造 酵母 |
(酒類)フマル酸、リンゴ酸、コハク酸高生産、核酸系物質高生産味良好 | |
| ・キラー酵母(キラー耐性) | 清酒 酵母 |
爽快な酸味 | ||
| ・泡形成能欠損、物質輸送変異 浸透圧感受性 |
酵母 | (酒類)発酵能、増殖能、グルタチオン漏出能増大、グルタチオン含量多い | ||
| ・アルギナーゼ欠損 | 醸造 酵母 |
(酒類)発ガン性のカルバミン酸エチルを含まない | ||
| 固定化酵母 | ・PVA包埋ゲルに固定化 | 酵母 | (清酒)高アルコール (ビール)低アルコール |
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| クローニング遺伝子 | 形質転換株 | 効果、特徴 |
| アルコールデヒドロゲナーゼ欠損/欠落 | 酵母 | (清酒、雑酒)グリセロール増大 |
| アルコールアセチルトランスフェラーゼ (AATase、G418耐性遺伝子) |
酵母 | (酒類) 酢酸エステル増大 |
| リンゴ酸デヒドロゲナーゼ (アイソザイム遺伝子破かいまたは高発現) |
酵母 | (酒類、食品) 酒質多様化 |
| α-イソプロピルリンゴ酸シンターゼ (LEU4遺伝子) |
酵母 | イソアミルアルコール増大 または生成量調節 |
| イソクエン酸デヒドロゲナーゼ 遺伝子(IDH1、IDH2、IDP1)低減または消失 |
酵母 | (酒類、食品) 有機酸組成変化 |
| β-グルクロニダーゼ | 麹菌 (ASP、オリーゼ) |
(清酒)糖分解促進 |
| グルコアミラーゼ(Asp、オリーゼ) | ASP、オリーゼ | (酒類、糖類) でんぷん糖化 |
| グルコアミラーゼ(Asp、オリーゼ) | 酵母 | グルコアミラーゼ増大 熱、プロテアーゼ安定性大 |
| グルコアミラーゼ(リゾープス) | 酵母 | でんぷん糖化、アルコール発酵 |
| アルギナーゼ遺伝子破かいまたは置換 | 酵母 | (酒類) 発癌性のカルバミン酸エチルを 含まない酒類 尿素を生成しない。 |
| ロイシンアナログ耐性遺伝子(LEU4) | 酵母 | 発酵飲食品 |
| α-アセト乳酸脱炭酸酵素 (大腸菌、酵母遺伝子) |
酵母 | (ビール)ダイアセチル臭(不快臭) の発生しないビール |
| α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ | 酵母 | 工業用アルコール生産、 バイオマス生産用 |
| 中性トレハラーゼ遺伝子部分破壊 | 酵母 | (醸造酒、パン) トレハロース増大、耐ストレス性増 大(アルコール、浸透圧、耐熱性) |
| [6-ホスホグルコネートデヒドロゲナーゼ (PGD)2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグコネートアルドラーゼ(KGA)] |
酵母 | エタノール発酵の効率化 |
| 酒の種類 | 製造法など |
| 清酒 黄色 |
・エレモシエシュウム菌で着色、ビタミンB2含有 |
| 赤色 |
・アデニン要求性酵母株または非要求性酵母株使用 ・レッドキャベツ使用 |
| 褐色 |
・加熱によるカラメル化 |
| 緑色 |
・茶葉添加 |
| 褐色 |
・褐色米 |
| 赤褐色 |
・赤褐色米 |
| 紫紅色 |
・紫紅色米など有色米を使用 |
| 黒色 |
・黒米使用 ・黒豆の種皮にMgCl2、エタノールを加え抽出した着色料を添加 |
| 赤色系 |
・ピロガロールタンニン、カテコールタンニン、植物の樹皮、 果実のタンニン類に電磁波を照射し赤色系に着色 |
| 清酒、ワイン 赤色 |
・富士桜の実の破砕物使用 |
| ワイン 赤色 |
・赤紫蘇を砂糖でアク抜きし着色、香味良く、甘味あり |
酵素類は清酒など酒類製造の原米処理に使われることが多く、でんぷんの液化、糖化、原料利用率の向上、発酵期間の短縮、作業の効率化、および酒質の改善などについて技術開発が行われた。
酒類の醸造に使用される育種株としては、細胞融合株、交雑株や分離株が見られる。変異株では、感受性株の他、各種耐性株の実施例が最も多い。(1)原料利用率発酵速度の向上、(2)グリセロール高生産による呈味性の改善、リンゴ酸など有機酸高生産による爽快な酸味を持った淡麗辛口清酒の醸造、(3)エステル香、フルーツ香など吟醸酒の醸成による貴醸酒タイプ清酒の醸造の3つが菌株育種の主な開発目的となっている。
遺伝子工学技術の微生物の育種への応用として、遺伝子導入(組換え)による形質転換体の作出技術が目立つ、これらの技術は、主に酒類、ビール醸造に用いられる酵母に実施例が多く、変異株の場合と同様、作業の効率化、呈味性や香味といった酒質の改善のために開発が行われている。
また、ファジイ推論による作業の効率化、あるいは音の刺激による発酵の促進により酢酸イソアミル香を持った清酒を醸造する試みも行われている。
