4.3.4 固定化技術

 バイオリアクターにおいては、生体触媒はリアクター内に保持されていなければならない。そのためには、反応液と触媒とを容易に分離する必要があり”固定化”の必要性がでてくる。固定化により、生体触媒を連続的に、繰り返して使用できるばかりでなく、生体触媒の欠点である不安定性を改善することができる。

 生体触媒の固定化にあたっては、利用目的にあった酵素や微生物菌株などの選択が大切である。併わせて、担体の種類と固定化法の組み合わせを考慮する必要がある。

 担体は、機械的強度が大きく、物理的、化学的に安定であり、無害であるとともに、生体触媒を固定化するのに必要な官能基があるか、官能基を導入できるものでなければならない。

 さらに固定化触媒は、リアクターの設計にあわせて種々の形で用いられるので、加工成形が容易でなければならないし、経済性も考慮しなければならない。

 固定化技術には下記の方法があるが、その概念図を図4.3.4-1に示した。

 

図4.3.4-1 生体触媒の固定化法

 

(1) 担体結合法

 タンパク質である酵素は、反応性に富んだアミノ酸残基やイオン性のアミノ酸残基、疎水性の部分もある。これらのうち活性の発現にできるだけ悪影響を与えないものを選んで、酵素を不溶性の担体に結合させる方法である。共有結合法、イオン結合法、物理的吸着法、生化学的特異結合法などがある。

a. 共有結合法

 共有結合法の長所は、担体と酵素の結合により酵素反応中に酵素の離脱がないこと、酵素が担体の表面にあるため基質との接触が容易であること、酵素と担体の強い結合のため、酵素の失活をもたらすタンパク質の構造変化をある程度制限し、熱安定性を増すことがあげられる。

 短所としては、酵素が部分的な修飾を受けることにより、タンパク質の高次構造や活性中心が、部分的に破壊されるおそれがあること、酵素の固定化が強いため、酵素の自由な活動が制限され、基質との相互作用が起こりにくくなり、その結果活性の低下がみられること、担体の再生ができないことなどがある。

b. イオン結合法

 操作が簡単で担体の再生が可能なことから、有用な固定化法の1つとして用いられてきたが、結合力が弱いのが欠点である。世界で初めて工業化されたアミノアシラーゼの固定化が有名である。

c. 物理的吸着法

 酵素を修飾することなしに固定化できるが、担体と酵素の結合は一般に弱く、温度や共存物質の濃度などの影響により、酵素が容易に離脱することがあるのが弱点である。

e. 生化学的特異結合法

 種々の補酵素類は、酵素のエフェクターやインヒビターとともにアフィニティークロマトグラフィーのリガンドとして用いられているが、このようなリガンドと酵素の結合が強い場合に酵素は固定化される。

 

(2) 架橋法

 2つ以上の官能基をもつ試薬と酵素とを反応させると、酵素分子間で架橋されて水に不溶な巨大分子となる。

 架橋剤としては、グルタールアルデヒド、トルエンジイソシアネートなどが使われる。

 簡単に酵素を不溶化できる反面、多量な酵素が必要なことや、多官能試薬による酵素失活の可能性もある。

 

(3) 包括法

 本法の長所は、単一の酵素だけでなく複数の酵素や微生物菌体、動植物細胞などを同じ手法で固定化できること、固定化操作中に酵素の修飾が起こりにくく、自然な状態を保ったまま固定化できることなどをあげることができる。

 しかし固定化条件によっては、酵素の変性失活がみられ、また高分子の基質は作用をうけにくく、担体の再利用ができないなどの欠点もある。

a. 格子型

 網目構造をもつ高分子ゲルの格子に、生体触媒を固定化する方法である。担体はさまざまな形状に成形できる場合が多い。

 近年、固定化微生物菌体を利用した単一反応や、多段階反応の研究が進むにつれ、本法の重要性が増している。

 代表的な方法には、ポリアクリルアミドによる包括、海草から得られる多糖類のアルギン酸の塩であるアルギン酸カルシウムによる包括、同じく海草から得られる多糖類のκ-カラギーナンによる包括、光架橋性樹脂プレポリマーやウレタンプレポリマーなどの合成プレポリマーを使った包括法などがある。特に光架橋性樹脂プレポリマーやウレタンプレポリマーは、酵素だけでなく微生物菌体や細胞内オルガネラの固定化に用いられてきた。特に疎水性担体は、脂溶性化合物を有機溶媒中で生化学的に変換する際に極めて有効であることが明らかになり、固定化生体触媒の新しい応用面を拓いてきた。

b. マイクロカプセル型

 生体においては、大部分の酵素は、細胞膜やオルガネラ膜のような一種の半透膜に包まれて存在し、一連の反応を効率的に行えるように組織化されている。すなわち生体触媒を天然高分子や合成高分子の膜で包み込む方法である。これには、相分離法、界面重合法、水中乾燥法などがある。

 相分離法は、乳化剤を含む有機溶媒に酵素液を乳化させ、水不溶性の高分子(たとえばコロジオン)を加えて水溶液を包含したカプセルを作らせ、有機溶媒は溶解するが高分子を溶解しない溶媒、次いで水に懸濁することによって安定なマイクロカプセルを得る方法である。

 界面重合法は、例えば親水性の1,6−ヘキサメチレンジアミンと酵素を、乳化剤を含む有機溶媒中に乳化させ、これに疎水性のセバコイルクロリドを加えて水と有機溶媒の界面で重合させ、生成したナイロンによって酵素溶液を包括する方法である。

 水中乾燥法は、ポリマーの有機溶媒溶液に酵素水溶液を加えて撹拌し、w/o型の一次乳化液を作らせ、これを、非イオン性界面活性剤を含むw/o/w型の二次乳化液とする。これを30〜40℃で撹拌するとポリマーを溶解している有機溶媒が徐々に水に溶け、さらに蒸発するので、次第にポリマーが酵素溶液のまわりに析出しマイクロカプセルが生成する。

 

(4) 複合法

 (1)〜(3)の方法を組み合わせた方法も存在する。すなわち架橋法と包括法の組み合わせ、イオン結合法と包括法の組み合わせ、共有結合法と包括法の組み合わせ、物理的吸着法やイオン結合法と架橋法の組み合わせなどがある。

 以上のように、固定化には種々の方法があるが、1つの生体触媒に適した方法が、必ずしも他の生体触媒の固定化に適用できるとは限らないので、生体触媒の種類や使用目的などに応じて、適宜、担体や方法を選択し改良しなければならない。