第1章 特許からみた技術開発の動向

1.1 技術の広がり

1.1.1 細胞利用技術を構成する技術

 細胞利用技術は、細胞株の持つ有用物質生産能力および元の個体への再生能力を最大限に発揮させ、それを利用する技術である。本書でいう細胞とはヒト・動物・植物の未分化細胞、ウイルス、ファージのことを指し、微生物、藻類は含まない。

図1.1.1-1 細胞利用技術の広がり

 

 

 細胞を利用した物質生産は、微生物を利用する方法に比べ生産速度が遅いという問題はあるが、微生物では生産の困難な糖鎖のついたペプチド・タンパク質やアルカロイドなど付加価値の高い物質の生産に好適な方法である。また微生物による物質生産と同様に高温・高圧を必要としない省資源・省エネルギー型であり、選択性が高い、簡易な装置で生産可能であるなどの特徴も持っている。その細胞利用技術は図1.1.1-1に示すように細胞株の樹立、細胞株の育種、細胞の培養などの基礎技術と、細胞培養によるペプチド・タンパク質、アルカロイドなどの生産、細胞の固定化、ES細胞としての利用など細胞の直接的利用などの応用技術および細胞培養のための装置・制御システム、細胞を含む測定・試験などの関連技術から構成されている。

 細胞利用技術は図1.1.1-1に示した流れで展開される。

 すなわち

 1) 最初に動物細胞、植物細胞、ウイルスなどの細胞株の樹立が図られる。
2) これらの株は遺伝子組換え、変異、細胞融合などの育種技術によりその機能の向上が図られる。
3) このようにして得られた育種株は最適条件下で培養され、目的の培養生産物が得られる。
4) 細胞はまた長期的に生産に利用されるために、固定化されることもある。
5) 物質生産ではなく、自己再生能、特異的分化能を持った胚性幹細胞(ES細胞)などを医療の目的に直接利用することもある。
6) 細胞の培養のためにはそれぞれの目的に応じた装置・制御システムが開発される。
7) 細胞を含む系での測定、試験方法が開発される。

 図1.1.1-1に示した「細胞株」、「培養」と「細胞直接利用」の3技術は、特許分類上では区別されず1グループとされており、本書でも広義の培養技術としてまとめて考えることとする。従って細胞利用を構成する技術は「育種、培養、固定化、生産物、装置・制御システム、測定・試験」の6つからなることとして整理を進めることとする。図1.1.1-2にみられる通り培養・育種・生産物に関する技術が3本の柱となっており測定・試験、装置・制御システム、固定化の順となっている。培養の中には細胞株そのもの、細胞の直接利用などが含まれ、遺伝子工学を中心とした育種技術とともに出願は増える傾向にある。多くの生体内生理活性ペプチドの生産を主体とする生産物に関する出願は最近では減少の傾向にある。

 

図1.1.1-2 細胞利用構成技術の出願件数とその推移