続く

2.2.2 代表的な特許

 抽出された特許(権利化されたもの、係属中のもの)約300件より、出願日もしくは優先権主張日をベースに、時系列的にみて技術開発動向の特徴を良く表しているもの54件を選択し、レセプターについて下記のマトリックスを作製した。

(1) 発明の目的・効果と種類・利用技術のマトリックス
a. 件数一覧表 :表2.2.2-1
b. レセプターの種類とタイプ:表2.2.2-2
(2) 代表的特許リスト :表2.2.2-3
(3) 開発課題・将来予測

 上記の項目について、以下にその概要を述べる。

 レセプターはそれ自体が生理活性を有しているわけではなく、信号伝達という機能は、ホルモン、サイトカインなどのリガンドがレセプターに結合して初めて発揮されるものであり、しかも下流にはさらに複数の信号伝達経路が控えている。レセプター、リガンド、その下流という3つの要素について特許出願の可能性があり、このことを考慮しないと全体的な動きをとらえることは難しい。

 レセプター特許の基本構成は、アミノ酸配列で規定されるレセプターポリペプチド、それをコードする核酸DNA、アミノ酸、核酸配列の変異体(近年は1塩基多型も含む場合が多い)、ホモログ(配列の相同性、核酸ハイブリダイゼーション抗体による認識性などで記述)、該DNAを含むベクター、該ベクターで形質転換した宿主細胞、宿主細胞の培養によるレセプターポリペプチドの取得、ポリペプチドに対する抗体、レセプターを利用したリガンド/エフェクター(アゴニスト、アンタゴニスト)のスクリーニング/検出/分析法、スクリーニングにより得られたリガンド/エフェクター(アゴニスト、アンタゴニスト)、それらからなる医薬組成物、それを用いる治療法、と発明としては1個の出願で基本的に自己完結型である。

 またレセプターの媒介する信号は、サイトカインの項で述べたように重複して非常に多様な作用として現れる場合が多いので(重複性と多様性)、レセプターそのものが医薬として用いられるというより、それを利用して疾病メカニズムの解明を行う、スクリーニングに用いて得られたリガンドがリード化合物として展開されていくといった形で裾野を広げていく。従って独立して出願された個別のレセプターに関して「技術の発展」をとらえることは困難な場合が多い。

 しかしながら、件数一覧表(表2.2.2-1)の細胞表面受容体の項をみると、大きな変化が起きているのが分かる。年代の経過とともに、1回膜貫通型→4回→7回へと出願件数のシフトが起きているのと同時に、機能既知(すなわちリガンドが分かっている)レセプター→機能不詳のいわゆる「オーファンレセプター」が増えている。

 1990年以前に出願されたものには、IL-2受容体(本庶 佑:特公平6-1823、特公平8-9640)、IL-4受容体(イミュネックス:特許2744821)、IL-5(高津聖志:特許2749730)、腫瘍壊死因子受容体(イミュネックス:特許2721745)、塩基性繊維芽細胞成長因子受容体(三井東圧化学:特許2552942)という代表的な1回膜貫通型のサイトカイン受容体があり、90年代に入り4回、7回膜貫通型受容体の出願を中心に数を伸ばしたが、前半でピークを過ぎ、減少傾向にある。タンパク質として構造が複雑なものほど研究に時間を要することを反映するとともに、既知のリガンドに対するレセプターの探索という研究手法で取得可能なレセプターが、取り尽くされてしまい、方向として行き詰まったことを示唆している。おそらくこれらのレセプターについては、その下流の信号伝達に関わる因子についての出願が増えているのではないかと予想される。

 90年代後半からの機能不詳レセプターに関する出願の増大をもたらしたのは、生物を構成するゲノムDNAの全塩基配列を決定しようというゲノムプロジェクトの進展である。なかでも1990年からスタートしたヒトゲノムプロジェクトでは、ヒトゲノムを構成する30億塩基対のDNAをすべて解読しようとしており、2000年春までにゲノムの90%をカバーするワーキング ドラフトの完成、2003年までに完全解読を行おうとしている。また、米国のセレーラ・ゲノミックス社では、それより2年早い2001年までにヒトゲノムの全塩基配列を決定すると発表している。

 この他、異なった環境条件、発生/生育ステージにおいて、様々な臓器/器官から抽出したmRNAを元に構築したcDNAライブラリーから、実際に発現している遺伝子の配列の一部を読みとったEST(expressed sequence tag)、完全長cDNAのデータの蓄積も非常な勢いで進展している。この情報をもとに、これまで知られているレセプタータンパク質(特に7回膜貫通型のGタンパク質会合型レセプター)に特徴的な構造との類似性から、レセプターと推定される配列(あるいはその一部)を得れば、ゲノムからレセプター遺伝子を取得するのは容易である。

 このような手法が、90年代後半の機能不詳のレセプター(遺伝子)に関する多量の出願につながっている。武田薬品工業(特開平9-268、特開平8-154682など)、ヒューマンジェノムサイエンシズ(特表平10-504457、特表平11-501205など)、スミスクラインビーチャム(特開平10-201482、特開平10-179178など)に代表される出願であり、同じ手法で1つのライブラリーから一連のレセプター遺伝子をまとめて取得できるので、異なったcDNAライブラリーとの組み合わせで、1社から短期間に多量の出願がなされているのが特徴である。出願の構成は、基本的にリガンド既知のレセプターと一緒であるが、機能も分からないので、これまで知られているサイトカインのあらゆる生理作用を調節できると請求項に盛り込んでいるものも見受けられる。

 

(1) 発明の目的・効果と種類・利用技術のマトリックス

 

 


続く