2.3 免疫グロブリン

2.3.1 技術開発の内容

 魚類から哺乳類にいたるすべての脊椎動物に異物(抗原)を与えると、免疫反応により、体液中にその抗原に特異的に結合するタンパク質(抗体)が誘導される。この抗体の本質が、リンパ系細胞により産生される免疫グロブリン(イムノグロブリン:Ig)である。免疫グロブリンは、物理化学的、免疫学的な性状から5つのクラス(G、M、A、D、E)に分類されるが、分子の基本構造は各クラスに共通で、分子量約23,000の2つの同一の軽ポリペプチド鎖(L鎖)と分子量53,000〜70,000の2つの同一の重ポリペプチド鎖(H鎖)とから構成されている。模式的にはアルファベットのY字状に2つのH鎖が対合し、枝部分にはさらにL鎖が1個づつ対をなしている。H鎖の「幹」の部分から枝分かれした「枝」の途中までは、定常領域(不変領域)と呼ばれ、抗体の5つのクラスを規定すると同時に、動物種により特徴的な配列を有している。H、L鎖ともアミノ末端に位置するドメインは、同種の動物の同一クラスの免疫グロブリンであっても、アミノ酸配列が一定せず、可変領域と呼ばれ、この部分が抗原認識の特異性、結合に関与する。可変領域では、H、L鎖それぞれにつき3つのアミノ酸配列の変異の著しいループが集合し抗原結合部位を形成し、3つのループは相補性決定領域(CDR)と呼ばれ、残りの部分はCDRの構造を保持するための「フレームワーク」と呼ばれる。図2.3.1-1に免疫グロブリンGの構造を示す。

図2.3.1-1 免疫グロブリンGの構造

 通常、単一な抗原を動物に免疫しても、抗原分子上の抗原決定基に対する特異性、親和性の異なった構造の不均一な一連の抗体分子(ポリクローナル抗体)が産生される。これに対して、単一クローンの抗体産生細胞の産生する一次構造の均一な抗体をモノクローナル抗体と呼ぶ。このような抗体分子の不均一性は、免疫グロブリン分子の、主として抗原結合部位のアミノ酸配列の多様性が反映している。通常、モノクローナル抗体は、抗体産生細胞と骨髄腫細胞を細胞融合させて作製した融合細胞から、目的とする特性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択することにより生産される。

 低分子〜高分子化合物を問わず種々の抗原を特異的に認識して結合するという抗体の特性を活かして、ケミストリー、ライフサイエンスの基礎から応用に到るさまざまな分野で利用がなされてきた。

 (1) 分析、精製分野…微量の分析対象物の検出、定量、アフィニティー精製など

 (2) 検査、診断分野…疾病特異的抗原の検出、定量、局在性など

 (3) 医薬、医療分野…医薬組成物、ドラッグデリバリー、ターゲッティングなど

 (4) 化学分野   …触媒抗体など

 抗原分子、その中の抗原決定基の多様性は、事実上、無限なので免疫グロブリンに関する出願も、カタログ的にとらえればこれまた無限に存在しうる。しかしながら、近年、ただ単純にポリクローナル、モノクローナルの抗体免疫グロブリンを取得するのとは別に、遺伝子工学、細胞融合などの手法により異種の生物由来の抗体同士を組み合わせたキメラ抗体、ヒト型抗体の作製、相同組換えを利用した遺伝子破壊動物に異種抗体遺伝子を導入したトランスジェニックな抗体作製法といった、新しい技術に基づく抗体作製技術が登場してきている。