2.3 非導電性プラスチックの導電性付与

2.3.1 技術開発の内容

 プラスチックは今日では、軽量性、生産性、耐腐蝕性、低コストの面などから、家庭用、事務用、自動車搭載用などの用途を問わず、電気・電子機器のハウジング材やケーシング材、あるいは帯電防止材として多用されている。

 しかしながら、電気・電子機器のハウジング材やケーシング材などの原料としてプラスチックを単独で利用した場合、プラスチックには電磁波に対するシールド性がないため、電気・電子機器からの電磁波がハウジング材やケーシング材を透過して外部に放射され、電気・電子機器に妨害電波として作用してノイズや誤動作などの電磁波障害が発生する。

 また逆に、外部から放射されてきた電磁波も内部に侵入するため、同様に電磁波障害が発生する。このため、ハウジング材やケーシング材、あるいは帯電防止材として利用されるプラスチック成形品の多くは、導電性物質(導電性フィラー)を混入させることにより導電性を付与したプラスチック組成物(導電性樹脂組成物)として使用している。

 プラスチックへの導電性付与の方法については、これまで種々の技術が検討され、そのうちのいくつかのものが実用化されている。その方法として、1.は界面活性剤、帯電防止剤をプラスチックへ配合したり、また表面に塗布する方法、2.はプラスチックに導電性付与剤(カーボン系粉末や金属粉末など)を混合した組成物を作る方法、3.はプラスチック成形品表面に金属蒸着膜(酸化錫など)を形成する方法、4.は導電性プラスチックを新規設計(高分子の化学構造から導電性高分子を合成。例えばポリピロール、ポリアセチレンなど)する根本的な方法などがある。

 これらの手法のうち、価格、生産性などの面から現在の導電性プラスチックの主流となっているのが、プラスチックと導電性付与剤を混合して組成物を作る方法である。

 導電性材料とは、一般的に電気抵抗値が107Ω・cm以下の材料をいい、プラスチック(電気抵抗値が1014Ω・cm)の場合、表面または内部に導電性を付与することによってプラスチックを電気的障害防止の材料へと改造する。その到達電気抵抗値によって、帯電防止材料や電磁波吸収材料、および遮へい材料などの各種応用分野へと使い分けする。

(1) 導電性付与剤(導電性フィラー)

 導電性プラスチックに用いられる導電性付与剤は、古くからカーボンブラックが使用されており、その形状もフレーク状、粉末状、繊維状など種々のものがある。

 最近では導電性付与剤の各種素材の開発が進み、カーボンブラック以外にも銀、銅などの金属、酸化錫、酸化インジウムなどの金属化合物などの評価も進んできたが、目下カーボンブラックが主流を占めている。

 主要な導電性付与剤を表2.3.1-1に示す。

(2) 導電性付与剤利用技術

 上記導電性付与剤をプラスチックに混合する場合、導電性フィラーのプラスチックへの分散が非常に重要で混合組成や混合法により、プラスチック本来の機械的特性を低下させることがある。従って導電性を付与して、電気的特性と機械的特性との両者を均衡に満足させることが重要である。また、プラスチック同志の相溶性、さらに成形物を製品化するため押出などの成形加工や架橋法、導電性付与剤を利用する技術の開発も進んでいる。

 本章では導電性付与剤関連特許から最新の利用技術について、ポリオレフィン系プラスチック導電材料506件(権利化された特許332件、係属特許174件)ならびにポリエステル系プラスチック導電材料269件(権利化された特許143件、係属特許126件)を対象に解析した。

 研究対象をポリオレフィン系プラスチックとポリエステル系プラスチックとを比べると、ポリオレフィン系は樹脂組成物(44)、塗料・ペースト(15%)、フィルム・シート・膜とケーブル(同数の9%)であった。一方ポリエステル系は塗料・ペースト(38%)、樹脂組成物(29%)、フィルム・シート・膜(9%)が上位を占めた。

 ポリオレフィン系とポリエステル系とでは樹脂組成物と塗料・ペーストへの分類比率が異なり、ポリオレフィン系は樹脂組成物/塗料・ペースト比が約2.8倍、一方のポリエステル系は約80%弱と塗料・ペーストに対する比率が高かった。

(3) 利用された各種導電性付与剤

 導電性付与剤(導電性フィラー)は前記のごとく、カーボン系、金属系、その他に大別される。ここでは今回対象特許の技術内容を解析するため、導電性フィラーの素材を中分類して、カーボン系はカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維他に分け、また金属系は銅粉末、銀粉末、銅銀合金粉末、銅、銀を除く他金属類粉末、金属酸化物粉末に分けた。

 残りについては炭素系/金属粉末の併用とその他としてチタン酸カリウムウィスカーや金属で表面被覆した合成繊維、カーボンブラックなど上記分類に入らないものに区分した。

 導電性付与剤の使用方法が、ポリオレフィン系プラスチックでは約60%を炭素系が占め、中でも、カーボンブラックが約50%と主流であった。一方ポリエステル系プラスチックでは金属系粒子が約50%(炭素系は約30%)を占め、中でも係属特許関連は金属系粒子が約67%を占め、プラスチック間の傾向の違いを見せた。とくに銅粒子の約25%は炭素系の約21%よりも多く注目に値する。また金属系粒子では銅に次いで銀の構成比率も高い。以下、ポリオレフィン系プラスチック関連ならびにポリエステル系プラスチック関連の導電性付与剤について樹脂組成物およびペースト関連の中から若干抽出した特許を紹介する。

(4) ポリオレフィン系プラスチック関連

 ここでポリオレフィンとして他のモノマーとの共重合体の他に塩素またはフッ素を含有するオレフィンも含める。ポリオレフィン樹脂にカーボンブラック、硫黄およびチオフェノール誘導体の金属錯体を混合し、直接電気メッキ可能な導電性組成物、またフッ素樹脂にニッケル粉末またはニッケル被覆材と炭素繊維との混合物を添加し、摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れた導電性材料が報告されている。

 また呉羽化学工業はポリアクリロニトリル樹脂を酸化雰囲気中で不融化後、不活性雰囲気中で加熱・焼成して炭素前駆体粒子を作り、炭素繊維とともに樹脂を混合して制電材料として有用かつ特定の体積固有抵抗のある成形物を得た。

 またペースト関係でも、アンチモンをドープした酸化錫で被覆されたTiO2粉末(導電性フィラー)をポリ塩化ビニルプラスチゾルに混合して導電性ポリ塩化ビニルプラスチゾル組成物、さらに表面をカーボン処理したチタン酸カリウムウィスカーなどのカーボン粉末(導電性フィラー)をエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体、溶剤と混合して、プリント基板への密着性が良く、金属を腐食させないまた剥離の容易なペーストが出願されている。

(5) ポリエステル系プラスチック関連

 ポリエチレンテレフタレートに炭素繊維および黒色炭素を併用して複合化し、CFの補強効果と両導電性フィラーの導電性効果を得る方法は、疎水性熱可塑性プラスチック、親水性プラスチック、銀粒子、塩化銀粒を含んだ医療用電極作製用厚膜組成物を作り、経皮パッチとして長時間イオン浸透薬剤送達を可能にする方法が報告されている。また鐘紡はポリアミド樹脂にAl短繊維を混合した組成物を作り、電磁波シールド用素材、面発熱体を、さらに東洋インキ製造はABS樹脂に炭素繊維含有マスターペレットおよびステンレス繊維含有マスターペレットを混合した組成物を作り、外部よりの静電気破壊を防止する方法を報告している。この他、ペースト関連では芯鞘型複合繊維、熱可塑性合成パルプならびに導電性繊維(銅、ニッケルの2層メッキ合成繊維)を混合し、さらに抄紙して電磁波シールド性に優れた静電気発生防止材用導電紙を作る方法や、ポリエステル樹脂、多価フェノール化合物、金属粉末を含有したペーストを作り回路パターン用印刷特性の優れたものを得る方法を出願している。さらにポリエステル樹脂、脂肪酸、溶剤と導電性金属粒子とを混合し、転写フィルムやプラズマディスプレイパネルに適用するペースト組成物を得る方法も出願している。

(6) その他特記事項

 導電性付与剤は従来から主流である炭素系(とくにカーボンブラック)の利用は多いが、最近の傾向として、カーボンブラックおよび金属粉末の単独使用から2種類以上の併用が目立ってきた。さらに導電性フィラーのポリマー中への分散性やペースト、塗料などの長期保存性やマイグレーション性の改良法として、金属合金やマイクロカプセル化、金属メッキなどの手法が取り入れられた。

 金属合金として説明を加えたいのは銀・銅合金粉末である。これは銅・銀合金粉末粒子の表面の銀濃度を粒子中心部の銀濃度より高くした導電性フィラーの誕生である。この対策によりペーストとして使用の場合、耐酸化性や耐マイグレーション性、保存安定性などの向上が図れることとなる。この手法は貴金属使用のとき経済性と効果のバランスをとる最良の選択法と思われる。