2.4 抗菌性プラスチック

2.4.1 技術開発の内容

 一般に、「抗菌」とは、微生物の発生・増殖の抑制から死滅に至るまでの広い範囲の微生物制御を意味する(滅菌、殺菌、消毒、除菌、制菌、静菌、防腐、防カビ、防菌)が、現在市場に出まわっている抗菌製品では、細菌の増殖を抑制するという意味で使われることが多いようである。抗菌性を付与する抗菌剤は、無機系、有機系、天然系に大きく分けられ、多くの種類が上市されている。またそれらを種々のプラスチックに添加した抗菌性の製品が製造、販売されている。

 人間は、古くから、人体や動物には有害でなく、微生物に対して殺菌機能や増殖抑制機能を持つ金属として、銀、銅、亜鉛などを食器などに利用してきた。また、天然の抗菌剤を含む植物、たとえば、ワサビやショウガ、竹の葉やヒノキの葉を用いて食中毒を防いだり、食品を長持ちさせるのに利用してきた。しかしながら、現在市販されている抗菌剤や抗菌性成形加工品に関する特許が出だしたのはごく最近である。

 権利化された特許(89件)および係属特許(262件)を概観してみると、樹脂などに添加する抗菌剤の製造方法、それらを樹脂やゴムなどに添加して抗菌性を付与した組成物および成形加工品を中心に広範囲にわたっているが、代表的な特許群の中でも同様なことがいえる。出願特許のほとんどが日本の出願人によるもので、外国からの出願が極めて少ないことはこの分野の1つの特徴でもある。また別な特徴は、抗菌剤や抗菌性組成物・成形加工品に関する技術発展の歴史が浅いこと、しかも抗菌剤や抗菌性組成物・成形加工品の種類は、抗菌剤の種類ではなく担体の種類によって限定されていること、1つの抗菌剤(組成物)で多くの樹脂に添加して抗菌性を付与できることなどである。そこで、ここでは、主として抗菌剤の担体の種類が異なる代表的な特許を選出し、解析した。

 無機系の抗菌剤に関する特許の出願は、1985年ごろから始まり、1990年ごろまでに多くの特許が出願され、その後は少なくなっている。ほとんどが無機系抗菌剤に関する特許であり、有機系抗菌剤に関する特許は少なかった。また、無機系抗菌剤の中でも抗菌性金属としては銀系が主体であり、さらにその担持体としては大部分がケイ酸塩系のゼオライト、シリカである。その他リン酸塩系、溶解性ガラスが担持体として用いられている。これらの多くが、抗菌剤を樹脂などに加熱混練する際や加熱加工時の変色を防止したり、抗菌剤の分散性の改良、抗菌性を長期間持続させる工夫、耐候(光)性や抗菌性の向上に関するものである。

 一方、抗菌性の樹脂組成物や繊維・フィルムなどの成形加工品に関する特許の出願は、抗菌剤よりは少し遅れて、1988年ごろからである。組成物としては特定の樹脂に抗菌性を付与するのではなく、どの樹脂に対しても、また樹脂ばかりでなく、ゴムや塗料などに添加して抗菌性を付与するものが多かった。また、成形加工品に関しては、繊維やフィルムに抗菌性を付与するものである。これらの特許の目的・効果は、抗菌剤の場合と同様で、変色性の防止、分散性の改良、持続性の向上、耐候(光)性の改良などに関するものであった。

(1) 無機系抗菌剤関連

 無機系抗菌剤は、多くの場合、抗菌性金属および担体から構成されている。さらに抗菌性金属含有担体の表面を被覆したものもある。抗菌性金属は、古くから水銀や砒素をはじめとしていくつか知られているが、安全性の面から、実際に用いることのできる金属は、銀、銅、亜鉛の3種類である。これらの中で、特に銀が抗菌効果が高く安全性が高いことから、特許においても抗菌性金属のうち、銀を特定したものが多かった。

 抗菌性金属を担持する担体としては、ゼオライト(結晶性アルミノケイ酸塩)、シリカゲル、粘土鉱物などのケイ酸塩系担体、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩系担体、およびその他として、溶解性ガラス、活性炭、金属担体、有機金属などがあるが、既述のようにケイ酸塩系、リン酸塩系と溶解性ガラスが多用されている。中でも、ゼオライトとシリカゲル、特にゼオライトを担体とするものが多かった。

 銀系抗菌剤は、抗菌効果が高く、抗菌効果を発揮できる細菌の種類が多い(広い抗菌スペクトル)、安全性が高い、効果の持続性が高いなどの長所を有する反面、光、塩素および熱に弱く、このためいずれの場合も変色して抗菌効果が低下するという短所も有する。これらの改良が特許のポイントでもあり、種々の工夫がなされている。

 抗菌性金属を担体に担持させる方法として、ゼオライトを抗菌性金属イオンの水溶液に、所定のpH条件で、所定温度、所定時間浸漬してゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部または全部を抗菌性金属イオンで置換させ、イオン交換終了後、水洗し、加熱乾燥して得る方法などがある。イオン交換時に複数の抗菌性金属イオンを用いたり、金属イオン以外のイオンを併用したりして、種々の改良が試みられている。
ゼオライト中のイオン交換可能なイオンを抗菌性金属イオンだけでなくアンモニウムイオンを併用することにより経時的変色を改良している。
銀イオンを含有する溶解性ガラスの場合は水分によって溶解性ガラスが微量ずつ溶解し、銀イオンが食品衛生法で定められた範囲内で、長期間にわたり溶出することにより抗菌性が発現している。

 抗菌性ゼオライトの表面を流動パラフィン、フッ素系樹脂、シリコーン系コーティング剤でコーティングして、ゼオライト系抗菌剤の吸湿性を抑制している。また、シランカップリング剤や加水分解性オルガノシランで処理して塗料や接着剤中への分散性や耐熱性・耐摩耗性の改良が行われている。耐変色性を目的として抗菌性金属イオン担持ゼオラトを金属酸化物で被覆しているものもある。

 N-アシルアミノ酸の抗菌性金属塩は、担体を必ずしも必要としない抗菌剤であり、広い抗菌スペクトルを有し、抗菌作用が強く、抗菌性金属が離脱することがない安全な抗菌剤である。また、この抗菌剤は紫外線に安定であるので、透明樹脂、発泡体、塗料への混入が可能である。

 銀含有化合物にリン酸化合物を共存させ、銀化合物の抗菌性を抗生物質とほぼ同程度まで向上させることができる。

 無機系抗菌剤は既にいろいろなタイプのものが開発されてきているが、今後もその応用はさらなる展開が期待されている。一方、有機系抗菌剤に関しては特許件数は少ないが、無機系では得られない特性を有するものが開発される可能性があり、今後の動向が注目される。

(2) 抗菌性組成物・成形加工品

 抗菌性組成物や成形加工品に関する特許においても、技術の目的や効果は、無機系抗菌剤と同様に抗菌性の長期間持続性を狙ったもの、耐候(光)性、抗菌性や耐変色性の向上を目的としたもの、安全性の確保などである。

 長期間の抗菌持続性の組成物を得る目的で、ゼオライト含有ポリマーを成形後に、抗菌性イオン水溶液に浸漬したり、特定のアンモニウム塩、N-長鎖アシルアミノ酸の抗菌性金属塩や抗菌性金属イオン含有リン酸塩などを添加する方法が出願されている。これらの組成物を用いたフィルムや繊維の成形加工品も出願されている。抗菌持続性を目的としたフィルムでは溶解性ガラスを用いたもの、抗菌剤含有樹脂層を積層した複合フィルムもある。

 耐候(光)性の改良では、抗菌性金属の脂肪酸塩を担持したセラミック粒子、抗菌性金属イオン含有リン酸塩などを添加してなる樹脂組成物やポリオレフィン、ナイロン、ABSなどの樹脂を特定した組成物特許がある。

 安全性を目的として、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤、ε-ポリリジン(塩)やヒバ油などを添加した抗菌性組成物が出願されている。

 耐変色性を目的として、特定の抗菌性ゼオライトを焼成して結晶構造を破壊し、次いで粉砕したもの、抗菌性金属イオン含有結晶性二酸化ケイ素を主成分とするもの、抗菌性金属イオン担持ゼオライトを金属酸化物で被覆するものなどがある。無機系抗菌剤に有機系の抗菌剤や顔料を共存させたものとして、抗菌性ゼオライトや抗菌性シリカゲルとチアベンタゾール(TBZ)、ベンゾトリアゾールや白色粉末顔料を併用するものなどが出願されている。

 また、繊維加工品の耐洗濯性を改良するために、銅類の微粒子と銅とイオン化傾向の異なる金属類微粒子などや含水率の小さいポリε-リジン(塩)を練りこむ方法が出願されている。

 抗菌性を有しない樹脂などに抗菌性を付与する技術はほぼでき上がって、種々の抗菌性の組成物や成形加工品が開発されている。今後は個々の用途に応じた抗菌性の付与や抗菌性以外の機能を同時に付与する技術の開発も望まれよう。

(3) その他特記事項

 天然材を原料とする抗菌剤は、安全性には信頼が置けるが加工に制約があり、大きな市場にはなっていないようである。天然素材の代表的な抗菌剤はキトサンであるが、特許ではキトサンを抗菌性金属イオンの担体として使用しているものがあった。ヒノキチオールやヒバ油を樹脂に練り込むものもあったが、効果の持続性など課題もある。しかしながら、安全性の点では無機系および有機系の抗菌剤に比べ各段に優れているので今後期待される抗菌剤であろう。