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2.5 コンタクトレンズ
コンタクトレンズは、角膜上に装用して視力を矯正する目的で使用される医療用具で、直径8〜16mm、中心の厚さ0.1〜0.2mmくらい、ベースカーブ(内面曲率半径)7.50〜8.50mm、頂点屈折力+8.00〜−8.00D、重量15〜25mgくらいの小さな医療用具である。
このコンタクトレンズは、ハードとソフトに大別され、さらにハードは酸素透過性と非酸素透過性に、ソフトは含水性と非含水性にそれぞれ区分される(図2.5.1-1)。
コンタクトレンズの歴史はさほど古くなく、1930年代にポリメチルメタクリレート(PMMA)やCAB(celluloseacetatebutyrate)などのプラスチックとともに、ハードコンタクトレンズが製造されるようになり、1970年代にはポリヒドロキシエチルメタクリエート(PHEMA)によるソフトコンタクトレンズが製造されるようになった。1980年代に入るとシリコーンアクリレート、シリコーンフルオロアルキルアクリレートなどの共重合体が開発され、酸素透過性ハードコンタクトレンズが製造されるようになった。
ハードコンタクトレンズは現在でも旋盤加工が主体である。ハードコンタクトレンズは患者に装用させる場合、5〜10/100mm単位でのベースカーブを選択するため、非常に多種類のベースカーブのレンズが必要であり、日本では製造業者が在庫をもち、眼科医の処方に対応している場合が多い。一方、ソフトコンタクトレンズを患者に装用させる場合、ハードコンタクトレンズのように厳密なベースカーブが必要でなく、最高3種類のベースカーブでほぼ実用的には問題がないので、製造価格上、型に注入して製造するモールド法が主体である。但し、現在でも旋盤加工で製造されているコンタクトレンズもある。
ハードコンタクトレンズは、一般に加熱消毒、蒸気滅菌はできない。国際的にも水分(または吸水率)14%以下の材料で作られ、レンズ1枚当り100生菌数以下になるように管理されている。ソフトコンタクトレンズは、一般に蒸気滅菌が可能な含水レンズである。含水率は約35〜85%の場合が多く、国際的にも滅菌医療用具として製造管理されている。
権利化された特許(378件)および係属特許(309件)を概観してみると、まずポリマー素材的には、新しいモノマーの導入と旧来のモノマーとの組合せによるコンタクトレンズ特性の改良が基本となっている。また、特許の目的や効果の点では、1つの目的・効果の追求したものは少なく、多目的で複数の効果を狙ったものがほとんどである。たとえば、高酸素透過性だけでなく、同時に耐汚染性、高含水率、形状保持性、強靭性などの特性を改良しようとするものである。従って、全体的にはコンタクトレンズに関する技術はかなり高い分野といえる。ここでは、ハードコンタクトレンズおよびソフトコンタクトレンズにとってともに重要な特性である高酸素透過性および耐汚染性をはじめ、高含水率、非含水性、濡れ性などに関する特許について重点的に選定した。
酸素透過性の改良技術の流れは、当初から嵩高いアルキル基を有する共重合性ビニルモノマー、オルガノシロキサン、特に嵩高いオルガノシロキサン含有モノマーが採用され、さらにはフルオロアルキル基含有モノマー、オルガノシロキサン含有モノマーとフルオロアルキル基含有モノマーの併用系、フルオロアルキル基とオルガノシロキサン基をともに有するモノマーに発展していった。フルオロアルキル基の導入は、どちらかと言えば耐汚染性の改良を目的としたものである。耐汚染性の改良技術は、ほとんどがフルオロアルキル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有モノマーを共重合する方法である。他に双性イオンモノマーやメチオニン誘導体を用いるものもある。MMAやHEMA、N-ビニルラクタムなどの旧来のモノマーの他に、親水性モノマーとして、N-ビニルラクタム、ジカルボン酸エステル、トリカルボン酸エステル、N-アクリロイルモルフォリン、双性イオンモノマーなどがある。
また、コンタクトレンズの素材として天然のものがいくつか出願されている。プルラン、コラーゲン、絹フィブロイン、光架橋性ヒアルロン酸、重合性官能基を付与したデキストランなどがその例である。
重合は、一般的なラジカル重合法の他に紫外線や高周波を照射する方法などが出願されている。
表面処理による濡れ性改良や親水化などを狙ったものもある。表面処理の方法としては、高周波スパッタエッチング、高周波グロー放電、プラズマ処理後酸素に触れさせグラフト重合、硫酸第1鉄アンモニウム存在下で低温溶液グラフト重合、フィブロイン水溶液で処理して親水化、アクリレートポリマーをアルカリ処理して親水化する方法などが出願されている。
まとめるに当たり、目的・効果として、高酸素透過性、耐汚染性、高含水率、非含水性および濡れ性を選び、これらを達成するための技術として、Siを含む系、Fを含む系、SiおよびFともに含む系、SiおよびFともに含まない系に分けた。目的効果についてはさらにソフトコンタクトレンズ系、ハードコンタクトレンズ系およびコンタクトレンズ一般にそれぞれ区分してまとめた。
技術発展図では、上記の目的・効果の項目の他に、コンタクトレンズの着色技術についてもまとめた。
角膜組織は血管が全く透明な組織であるので、角膜表面からガス状の酸素を供給する必要がある。コンタクトレンズを装用することにより角膜に酸素の供給が不足した場合、角膜の生理的な状況が変化し、角膜潰瘍、細菌性角膜潰瘍、新生血管の発生をもたらす。その結果、失明につながる場合もあり、コンタクトレンズ素材を改良していくのに非常に重要な性質の1つである。
初期の特許の1つに、繊維を一方向に配列して重合した後に繊維のみを溶解除去して、涙液の通過や酸素の供給を容易にすることが出願されている。1980年には既にシロキサン含有モノマーを使う特許が出願されている。例えば、ソフトコンタクトレンズ用にトリス(トリメチルシリル)シロキサン含有モノマーの使用である。
ソフトコンタクトレンズでは、1980年前後からSi含用モノマーが選定され、1986年ごろにフルオロアルキル基含有モノマーが、あるいはSi含有モノマーとの併用系が出願され、1995年にはフルオロアルキル基とSi含有アルキル基を分子内にもつモノマーが出願されている。
元来、酸素透過性を向上させる方法としては、嵩高い置換基をポリマー中に導入することが基本であり、そこに生理的に不活性である嵩高いオルガノシリコーンが導入されたわけである。フルオロアルキル基は酸素透過性への寄与を期待してではなく、次に述べるタンパク質などの沈着抑制(耐汚染性)を主な目的としている。もちろんフルオロアルキル基は気体に対する親和力が大きいため酸素透過性は良好となるので効果がないわけではない。モノマーは(メタ)アクリレートが主体であるが、アクリルアミド系、フマレート系なども出願されている。ポリマーの構造を検討したものとして、疎水性と親水性ポリマーの相互貫入網目構造が出願されている。いずれにしろSiを全く含まない高酸素透過性ソフトコンタクトレンズ材料に関する特許は非常に少ない。
ハードコンタクトレンズの酸素透過性改良技術は、基本的にはソフトコンタクトレンズの場合と同じであるが、その発展の速度が若干速いようであった。例えば、SiとFをそれぞれ含むモノマーの併用系の出願は、1982年に既にあった。また(メタ)アクリレートやフマル酸エステルなどの多価カルボン酸エステル以外にスチレン系誘導体、例えばシランまたはシロキサン結合含有スチレンを使用した特許もある。さらに、SiとFをともに含まないモノマーあるいはモノマーミックス、例えばジ-t-ブチルフマレートを用いた特許が比較的多かった。
コンタクトレンズの角膜への安全性に関し、涙液中に溶出する乳酸脱水素酵素への影響、角膜細胞への影響、角膜への緑膿菌の接着性の変化などの研究結果から、一般に高酸素透過性ハードコンタクトレンズは、コンタクトレンズを装用しない裸眼に近い結果を示していることから、酸素透過性の向上を目的とする技術開発は非常に高い位置にあると判断される。
ある期間装用するとコンタクトレンズ表面に眼脂、タンパク質、化粧品などが付着して汚れ、レンズ表面が涙液をはじくことにより物が見えにくくなる場合がある。そこで長期間連続装用を目的としての改良技術の1つが、耐汚染性の改良である。原理的にはレンズ表面の表面エネルギーを下げることである。この点表面エネルギーの低いフルオロアルキル基の導入は合目的的であるといえる。従って、耐汚染性の改良を狙ったものはほとんど何らかの形でF含有基を材料中ないしは材料表面に導入している。また、高酸素透過性と同時に耐汚染性を付与する技術となっている。長期連続着用のためには高酸素透過性が必須であるからであろう。
フルオロアルキル基を含むモノマー、例えばヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートを共重合成分とする特許は、1980年代の初期に既に出願されている。(メタ)アクリレート系、フマレート系の他、スチレン系の含フッ素モノマーが用いられている。Fを含まない特許として、アンモニウムとホスフェートを含む双性イオンモノマーを使用したり、生体類似成分を含む親水性モノマーをグラフト重合、メチオニン誘導モノマーを使用するなどの出願がなされている。
今後もできるだけ長い連続着用を目的とする耐汚染性の改良技術の開発が行われると考えられる。
(3) 高含水率コンタクトレンズ、非含水性コンタクトレンズおよびその他の改良技術
高含水率コンタクトレンズ(材料)に関するものとして、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラジカル重合性基含有ポリエステル、N-ビニル-2-ピロリドンやN-アクリロイルモルホリンを用いる特許があり、またポリビニルアルコールをモノマーに溶解させた後重合して補強性をも付与する技術が開発されている。当然のことながら親水性モノマーを使いこなして、高含水率とすると同時に折り曲げ強度などの力学的性質や煮沸滅菌性を確保する技術となっている。
非含水性コンタクトレンズ(材料)は、オルガノシロキサンなどのSiを含む系とSiを含まない系に分けられ、最近はどちらかといえば、非Si系が多いようである。非Si系のものとして、水酸基含有スチレン誘導体の重合体やポリスチレン-ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物などが出願されている。
濡れ性に関しては、高酸素透過性のコンタクトレンズで、使用するシリコーンポリマーの特性で涙液をはじく場合があり、新品のコンタクトレンズでも物が見えにくくなることが認められている。そのため、レンズ表面の濡れ性を改良する研究が行われている。ポリシロキサン-ポリオキシアルキレン主鎖単位のブロック共重合体、ポリシロキサンプレポリマーと親水性モノマーの併用系などシリコーン系が出願されているが、非Si系として水酸基含有スチレン系ポリマーやグルコフラノース誘導体を含む共重合体レンズ材料を酸化処理して共重合体中のケタール基を水酸基に変換する技術が出願されている。
コンタクトレンズは、薄くて小さくて無色透明であるので落すと探すのに大変である。そこで着色レンズの開発が進められている。当初の着色技術は、例えば水不溶性の染料分散液中にレンズを浸漬するものであった。その後水酸基と共有結合する発色剤を浸透したのちアルカリ処理する方法、さらに水酸基と共有結合する反応性染料を共重合したのちアルカリ処理する方法、あるいは反応性染料と共有結合するモノマーを共重合する方法が出願されている。すなわち染料を共有結合でしっかり繋ぎとめてコンタクトレンズ中からの溶出を防ぐ技術が開発されている。
紫外線吸収剤についても同様の考え方で紫外線吸収剤の溶出防止技術が開発されている。
最近の特許で、老眼用コンタクトレンズや遠近両用のコンタクトレンズ、滲出可能な吸収性抗体を含有するコンタクトレンズなどが出願されている。また、反応射出成形によるコンタクトレンズの高速生産、溶融成形用のソフトコンタクトレンズ材料の出願や大量製造ができ、取扱いやすいポリビニルアルコール製のコンタクトレンズの製法が出願されている。どの技術も高機能化ではなく、従来のニーズでありながら未検討だった分野である。
