平成21年3月
特許庁
1.日時
平成21年3月27日(金)10:00〜12:00
2.場所
特許庁庁舎16階 特別会議室
3.出席委員
野間口 有三菱電機株式会社 取締役会長(座長)
飯村 敏明知的財産高等裁判所 判事
大歳 卓麻日本アイ・ビー・エム株式会社 会長
大渕 哲也東京大学大学院法学政治学研究科 教授
奥山 尚一理創国際特許事務所 弁理士
片山 英二阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士・弁理士
佐々木 剛史トヨタ自動車株式会社 知的財産部長
田中 昌利長島・大野・常松法律事務所 弁護士・弁理士
山本 敬三京都大学大学院法学研究科 教授
渡部 俊也東京大学先端科学技術研究センター 教授
渡辺 裕二アステラス製薬株式会社 知的財産部長
4.議題
- (1)開会
- (2)特許権の効力の見直しについて
- (3)今後のスケジュール
- (4)閉会
5.議事要旨
事務局から特許制度研究会に対する委員のご意見を紹介し、資料に沿って説明した後、自由討議。概要は以下のとおり。
<差止請求権の在り方について>
- ○ 2006年の米国連邦最高裁の判決(eBay判決)における差止めを認めるかどうかの考え方1は非常にバランスがとれており、イノベーション促進の観点からもそのまま日本に導入すべき。
- ○ 日米の制度の違いは、日本は原則差止めも損害賠償も認められるのに対し、米国は権利侵害に対する救済は懲罰賠償も含み得る損害賠償が原則で、差止めは裁判官の裁量による例外的措置である点。
- ○ eBay判決は米国における一般原則を特許権侵害に当てはめたものにすぎない。日米の制度及び実務の違い、差止めを制限した場合の悪影響を考えて慎重に判断すべき。
- ○ 特許権侵害の回避努力にもかかわらず、意図せずに他社の持つ特許権を侵害してしまった場合に、その後ライセンス交渉に誠実に対応しているにもかかわらず事業を差し止められるとしたら不当ではないか。
- ○ 差止請求権の行使に対応し、製品における寄与度が低い特許を回避するのは一定期間があれば容易ではないか。
- ○ 特許の技術的回避にはそれなりの時間がかかる。差止め実施までの猶予期間を適切に設定できるのであればかなりの問題が解決できるのではないか。
- ○ 有償譲渡された特許権による差止めは、目的が実施料収入や損害賠償である場合が多いと思われ、裁判で和解を勧奨されれば解決するのではないか。
- ○ 小さな企業が市場拡大・独占を目指す場合には、差止請求権が非常に大事。一方、大企業が小さな企業の特許を無視して大規模な事業活動を行った場合に、eBay判決の4要素を考慮したとして、差止請求が認められ得るのか疑問がある。
- ○ 日米の特許保護の状況は同じように見えるが、制度の厚みや深みが異なる。米国は、特許権の効力をかつて制限し、その後反省して保護を強化し、さらに揺り戻しが来ているという試行錯誤の歴史。日本は米国の後を追い特許権保護を強化したが今は停滞中、中国などの国々はまさに特許制度を整備・強化する過程にある。あたかも米国、日本、中国等が一周ずつ遅れて螺旋階段を登っているかのようである。
- ○ 日本は、各国と比較して進歩性の審査基準が厳しいため、価値のない特許権による弊害は抑制されている。また、裁判において無効の抗弁が認容される場合も多く、製品に対する寄与度を勘案して損害賠償額を算出しているため、米国に比べて高額賠償が出にくいなど、特許権が強力であることの弊害は生じにくい。
- ○ 日本では、米国でみられるような知財訴訟の弊害はないが、特許権侵害の警告事例が増加しており、企業は対応を求められている。
- ○ 特許権の性質について、従来は所有権類似のものと捉えて差止めを認めてきたが、知的財産が土地や建物などの境界線が明確な物を対象とする所有権とは本質的に異なるとすれば、必ずしも特許権を所有権と同様に考える必要はない。例えば、特許権の行使が権利濫用であるか否かを判断する際に考慮すべき要素を、特許制度特有のものとして規定してもよいと思う。
- ○ 日本において、理論的には一定の場合に権利の濫用であるとの理由(いわゆる「権利濫用法理2」)により差止請求権を制限する余地はあるが、実務的には制限した場合の代替措置などバランスを取る方策を検討すべき。
- ○ 特許権の効力として将来分の金銭的填補と差止請求はセットで考えるべき。特許権が財産権である以上、代替措置やその後に発生する損失を経済的に填補するような制度を整備しなければ、国民の財産権を保障する憲法の規定に違反することにもなり得る。
- ○ 裁判実務では、他の法域と同様に、一般原則である権利濫用法理により差止請求権を制限するのは困難ではないか。差止請求が相当でない場合には、特許権を無効または権利範囲を狭いと判断し、問題を回避していると言われている。しかし、これでは侵害自体が否定され、損害賠償まで否定することとなり、行き過ぎたこととなる。権利侵害を認めた場合に権利濫用と判断した事例はないのではないか。したがって、現行制度では損害賠償だけ認めて差止請求を認めないという運用を行うのはかなり難しく、これでは硬直的であり立法措置が必要。例えば、損害賠償請求を原則として例外的な場合に差止請求を認める制度があり得るが、特許権の保護のベースが下がることが懸念される。
- ○ 差止めを制限したとしても、特許権侵害として損害賠償を認めている場合には、理論上は侵害行為に刑事罰が適用され得るが、それでは行き過ぎであるため、刑事罰を適用されることのないよう、侵害の違法性を打ち消す目的で、裁定と同様の効果を差止制限に伴わせるような制度設計はできないか。
<裁定実施権制度の在り方について>
- ○ 現行の裁定実施権制度3については、公益上必要な場合の裁定以外は不要ではないか。ライセンス交渉を有利に進める材料として裁定制度の存在が利用されうるが、現実には裁定制度そのものまで利用するニーズはあまり無い。リサーチツール4についても自動的に裁定の対象にまでする必要はない。
- ○ 他国の強制実施権制度に関する政策への影響などを考慮すべき。
- ○ 裁定は、行政が行うものとして導入されたもので、裁判所が裁定を行ってよいのか疑問がある。
<特許権の効力の例外範囲について>
- ○ 特許権の効力の例外範囲である「試験・研究」に何を含めるかについて、具体的には、リサーチツールの使用、他社が特許権を有する医薬の研究などについて含めるべき。
- ○ リサーチツールを使う側と開発する側のインセンティブとのバランスを調整すべき。なお、大学では実際には問題にはなっていないのではないか。
- ○ 判例の積み重ねにより例外範囲が明確になるよう運用し、そこで問題があれば法改正を検討すべき。
※ 本議事録は事務局の文責にて作成したものであり、出席者各位の了承を得たものではない。
1差止めを認めるかを判断する際の考慮事項として、次の4つの要素を示した。
- 1)侵害を放置した場合、権利者に回復不能の損害を与えるか
- 2)損害に対する補償が、金銭賠償のみでは不適切か
- 3)I両当事者の辛苦を勘案して差止めによる救済が適切か
- 4)差止命令を発行することが公益を害するか
2「権利の濫用は、これを許さない」と定める民法中の一般原則(1条3項)。
3特許権を有している者の意思にかかわらず、行政庁が強制的に通常実施権を設定する制度であって、公益上必要な場合、その特許が実施されていない場合、そして、その特許を利用する特許発明を実施する場合に裁定を求めることができる。
4実験用の動物や実験装置・機器、データベースやソフトウエアなど、研究のため必要とされるあらゆる技術をいう。
- <この記事に関する問い合わせ先>
- 特許庁総務部総務課
- 電話:03-3593-0436(直通)
- FAX :03-3593-2397
- E-mail:問い合わせフォーム
[更新日 2009.4.14]