平成21年5月
特許庁
1.日時
平成21年5月29日(金)10:00〜12:00
2.場所
特許庁庁舎16階 特別会議室
3.出席委員
野間口 有独立行政法人産業総合研究所 理事長(座長)
飯村 敏明知的財産高等裁判所 判事
大歳 卓麻日本アイ・ビー・エム株式会社 会長
大渕 哲也東京大学大学院法学政治学研究科 教授
奥山 尚一久遠特許事務所 弁理士
片山 英二阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士・弁理士
佐々木 剛史トヨタ自動車株式会社 知的財産部長
竹中 俊子ワシントン大学ロースクール 教授
田中 昌利長島・大野・常松法律事務所 弁護士・弁理士
山口 洋一郎レーダー・フィッシュマン & グラワー法律事務所 米国弁護士
山本 敬三京都大学大学院法学研究科 教授
渡部 俊也東京大学先端科学技術研究センター 教授
渡辺 裕二アステラス製薬株式会社 知的財産部長
4.議題
- (1)開会
- (2)迅速・効率的な紛争解決について
- (3)今後のスケジュール
- (4)閉会
5.議事要旨
事務局からの資料説明の後、討議を行ったところ、概要は以下のとおり。
<ダブルトラック1による対応負担・判断齟齬について>
- ○ キルビー最高裁判決2及び特許法104条の33は、紛争を一回的に解決することが望ましいという理念に基づく。しかし、侵害訴訟の被告の多くは無効審判も請求するため、2つのルートの利用により紛争処理の結果の予測が困難になり、侵害訴訟が紛争解決システムとして機能しなくなっている。現行制度は同じ証拠・理由であっても侵害訴訟の被告に特許を無効とするチャンスを二重に与えており、特許権者に一方的に不利な状況。侵害訴訟か無効審判かのどちらかに絞るのではなく、104条の3によって生じる特許権者のリスクを軽減させる立法措置を講ずるべき。
- ○ 制度としては、特許権の有効な権利範囲の迅速な確定とともに、シンプルで正確かつバランスの取れたシステムが望ましい。例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理の下、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能とし、侵害訴訟における特許無効の判断には対世効を持たせる4べき。特許無効の判断の効果は将来のみに及ぶ5とすれば問題ない。
- ○ 司法と行政の分担がきちんとなされていないように思う。以前は特許権には法的安定性があったが、それがキルビー最高裁判決以降に壊れてしまっており、これをどう修復するかを議論の出発点とすべき。
- ○ ダブルトラック等の問題については米国での議論も参考になる。米国では、侵害訴訟において、権利範囲の有効性が問題になる場合、特許庁に再審査6を請求すれば、裁判における訴訟手続の中止が認められる。再審査で提出された主張や証拠には拘束力があり、侵害訴訟で再び争うことはできず、訴訟と同じ証拠・理由に基づく再審査を請求することもできない。したがって、ダブルトラックだが判断齟齬が生じない。また、米国では、裁判所には技術専門性の問題があるため、特許法改正案審議において再審査制度の改善などについて議論中。
- ○ 産業界としては、現行のダブルトラックを無くするのではなく、並走する場合には無効審判の迅速化により判断齟齬の解消を図ることを希望。
- ○ 紛争は本来的には話し合いで解決されることが望ましく、訴訟になったとしても、時間・費用があまりかからず、信頼性の高い制度であるべき。また、無効審判の機会を制限するようなことにはならない方がよい。
- ○ 当事者は、無効審判よりも侵害訴訟の方に力を投じていることが多い。また、特許の有効性の判断は侵害訴訟に集約した方が効率的であると考える。死力を尽くした侵害訴訟での結果については、現状よりも強い効力を当事者間に及ぼしてもよい。
- ○ 当事者として無効審判で判断してもらいたいのは、1)最先端の技術分野について判断が必要な場合、2)進歩性の判断に関して技術の流れや相場観が必要な場合。侵害訴訟に一本化する場合には、何らかの形で専門的知識を取り込むことができれば、制度の信頼性も増す。
- ○ 米国では、裁判所が特許に関してリーダーシップをとっている。日本もそういう方向へ転換すべき。産業界としては、無効審判の請求機会を減らすべきではないとの意見があるが、大学や中小企業の意見は異なるはず。体力のない大学や中小企業が、何度も特許を無効とされるリスクの回避に対応しなければならない状況は、イノベーションを阻害する。
- ○ 無効審判への一本化は、キルビー判決以前の状態に戻ることを意味し、弊害が大きくあり得ない。一方、侵害訴訟への一本化は、裁判所による技術的争点の判断に不安がある。結局は、裁判所と特許庁の役割分担の問題に帰着するが、技術専門官庁である特許庁の判断が何らかの形で介入することは必須。制度利用者が希望する以上、特許庁による判断を得る機会は残しておくべき。その場合、特許庁の判断を裁判所がどの程度尊重するのかという基準の明確化が必要。進歩性の判断において、いわゆる「後知恵判断」を防止する枠組みの洗練、精度向上が信頼性の高い訴訟制度への重要な課題。
- ○ 無効審判制度に存在意義はあるが、侵害訴訟で有効性判断をしている場合も敢えて全件について無効審判をやることに意味はあるのか。侵害訴訟で特許庁の知見を活かすにも、求意見制度などによれば足り、わざわざ無効審判を並走させる必要はない。
<特許の有効性をめぐる紛争の蒸し返しについて>
- ○ 最終的に決め手となるのは再審の在り方をどうするかである。事後の審決確定が侵害訴訟の再審事由7に当たることを認めるかどうかにより、今回議論している他の問題も全て影響を受ける。特許無効の審決の遡及効8の考え方を徹底するのか、既存の紛争解決の結果を尊重するのかという現実的な問題であるのみならず、理論的には、特許の効力をどのように考えるべきかという問題である。侵害訴訟では特許の有効性を判断できなかった過去の制度を前提とすれば、事後の審決確定が再審事由となるのは自然。しかし、特許法104条の3が導入され、侵害訴訟で特許の有効性が判断できる現在の制度を前提にしても、事後の審決確定が再審事由に該当すると考えるべきか、または、特許の有効性が判断された侵害訴訟の確定判決は事後の審決確定によっても覆らないとすべきかという問題。制度利用者はどちらを望むのか。
- ○ 企業の経営の安定性の観点からも、事後の審決確定により確定済みの侵害訴訟が蒸し返されることは許容できないというのが正直なところ。遡及効を制限することにはあまり抵抗はないが、むしろ法理論的に正当化できるかどうかが問題。
- ○ 生海苔の異物除去処理装置再審事件9のような極端な事例を受けて制度を根本から変えることには違和感がある。
- ○ 侵害訴訟とその後の無効審判での結論が異なる原因には、1)公知技術に関する新たな証拠の発見と、2)侵害訴訟ルートと無効審判ルートとの純粋な判断齟齬による場合が考えられる。最終的には、1)については後出しであるとして、また、2)については侵害訴訟で無効の抗弁を主張する機会が与えられていたとして、蒸し返しを制限するかどうかという価値判断の問題。公益的な側面と手続的な側面のいずれを強調するかという価値判断とも言える。
- ○ 現行制度下においては訴訟で特許無効の抗弁および訂正の再抗弁10が主張できるのであるから、侵害訴訟判決確定後に再度争う余地を認める必要はない。
- ○ 無効審判で無効とされる確率が低い場合は、当事者は審判を請求しない。無効審判請求が成功する可能性がかなり高く、かつ再審で敗訴判決を覆せるならば、何度も無効審判を請求するというのは合理的な行動。無効になる確率は、判断基準のばらつきと、新しい証拠の出現に依存する。後者が大きく影響しているのなら、それを制限するという案もある。特許の質に大きく影響する可能性も懸念されるが、一回の紛争処理手続の中で無効理由が出せなければ、無効理由に関する証拠の後出しは認めないという整理もあり得る。
- ○ 侵害訴訟判決確定後に、被告であった者が無効審判を請求することは日常的にあり得る。確定判決が後に覆る可能性があるということは、侵害訴訟は安心感のない紛争解決手段であることを意味し、紛争解決モデルとして問題があることを意味するため、再審は制限されるべき。
- ○ 日本の特許権は、侵害訴訟で勝っても後に特許が無効化され、権利行使の結果が覆される潜在的なリスクが高いというイメージから、日本での出願を見送るという国際的な動きもあると聞いている。無効審判を廃止すべきとまではいわないが、侵害訴訟で徹底的に争ったら、それで紛争解決は終結し、再審にはならないとした方が良いのではないか。
- ○ 無効審決の効果は遡及すると定める特許法125条11を改正し、将来効のみとするのはどうか。その場合であっても、過去に命じられた差止めが将来にわたって継続するという問題が残るが、それを無効にするための法律上の手当を行えばよい。権利が無効になっても、過去に支払ったライセンス契約のロイヤルティの返還義務はないとするのが有力説であり、すでに特許が無効となった場合の効果を将来のみに及ばせる考え方は存在。
<無効審判ルートの在り方について>
- ○ バランスが重要。極端な事例にとらわれて、無効にすべき特許を無効にする機会が奪われることのないようにするべき。
- ○ 審決取消訴訟における審理範囲の限定12は、行政訴訟としては理解はできるが、常識的には審理範囲を拡大してできるだけ一回の紛争で解決できるように当事者にきちんと主張してもらうようにする方がよいと思う。なお、無効審判請求の制限という方向性に対しては、ダミー(他人の名前で審判請求すること)のおそれがあるといわれることもあるが、世の中の普通の感覚からすれば、ダミーを心配するあまり制度改正に反対することにはならないのではないか。
- ○ 米国的発想からも、一つの手続で出せるものは出してもらって決着を付けるという方法が良いと思う。度重なる無効審判の請求において、実際に証拠として出されていた先行技術にそれほど大きな違いはあったのだろうか。米国の再審査制度のように、特許性について実質的で新たな問題を生ずるような証拠ではない場合には審判請求できないとするのはどうか。
<裁判所が公衆の意見を聴取することを可能とする手続の導入について>
- ○ 世の中が何を求めているのかを把握するためにも、このような制度を導入する意味は大きい。
- ○ 裁判所へ多くの情報が提供されることになるため、非常にいいと思う。
- ○ 米国の大学の知財学者がアミカスブリーフ13を出す機会は多い。これには学生も関与でき、法曹教育の面でも有益。
※本議事録は事務局の文責にて作成したものであり、出席者各位の了承を得たものではない。
1紛争処理における特許の有効性判断が、無効審判と侵害訴訟の二つのルートで行われ得ること。
2最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決(平成10年(オ)第364号)。特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきである旨、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である旨を判示した。
3「裁判所法等の一部を改正する法律(平成16年法律第120号)」により、特許法第104条の3の規定が新たに設けられ、この制度改正により、特許権等の侵害訴訟等において、「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」は、特許権者等は「相手方に対しその権利を行使することができない」とされ、被疑侵害者に特許無効の抗弁が認められた。
4侵害訴訟における無効判断の効果は、訴訟当事者間にのみ及ぶが(相対効)、これを訴訟当事者間のみならず第三者にも及ぶようにしようとする考え方のこと。現行制度では、特許無効が対世効を備えるには、特許庁の無効審判でなされた無効審決が確定する必要がある。
5現行制度においては、特許庁の無効審判における特許無効審決が確定した場合、特許権は過去に遡って存在しなかったものとみなされる(特許法第125条。後掲注8参照)。
6米国において、特許権が成立した後、他の特許又は刊行物である先行技術を証拠として、米国特許庁に、再度、特許の審査を請求する制度。
7民事訴訟法第338条第1項には、「次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。」と規定され、同項第1号〜第10号に再審事由が列挙されており、無効審決の確定は、その第8号「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。」に該当するとされる。
8特許法第125条は、「特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす」と規定しており、無効審決の効果が、審決確定以後のみならず過去にも遡及することとなっている。
9知財高裁平成20年7月14日判決(平成18年(ム)第10002号事件、同第10003号事件)。特許権侵害に基づく差止請求を認容した判決の確定後、特許無効審決が確定したことにより、再審請求を認め、確定判決を取り消して、特許権者の請求を棄却した。
10侵害訴訟において、被告(被疑侵害者)からなされた特許無効の抗弁に対し、原告(特許権者)が「訂正により被告が主張する無効理由が解消され、その訂正がなされた後であっても被告の製品が当該訂正後の特許権を侵害することになる」旨を主張し返すこと。
11前掲注8参照。
12審決取消訴訟では、専ら、当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された無効理由(拒絶理由)のみが審理対象とされるべきと解されている(最高裁昭和51年3月10日判決〔メリヤス編機事件判決〕、昭和42年(行ツ)第28号事件)。
13未確立の法律問題や審理において留意すべき事項について、公衆又は利害関係を有する第三者を代表して、訴訟当事者以外の者が、裁判所に対し情報を提供する米国の制度。
- <この記事に関する問い合わせ先>
- 特許庁総務部総務課
- 電話:03-3593-0436(直通)
- FAX :03-3593-2397
- E-mail:問い合わせフォーム
[更新日 2009.6.12]