平成21年7月
特許庁
1.日時
平成21年7月6日(月)13:30〜15:30
2.場所
特許庁庁舎16階 特別会議室
3.出席委員
野間口 有独立行政法人産業総合研究所 理事長(座長)
飯村 敏明知的財産高等裁判所 判事
大歳 卓麻日本アイ・ビー・エム株式会社 会長
大渕 哲也東京大学大学院法学政治学研究科 教授
奥山 尚一久遠特許事務所 弁理士
片山 英二阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士・弁理士
佐々木 剛史トヨタ自動車株式会社 知的財産部長
竹中 俊子ワシントン大学ロースクール 教授
田中 昌利長島・大野・常松法律事務所 弁護士・弁理士
山口 洋一郎レーダー・フィッシュマン & グラワー法律事務所 米国弁護士
渡部 俊也東京大学先端科学技術研究センター 教授
渡辺 裕二アステラス製薬株式会社 知的財産部長
4.議題
- (1)開会
- (2)迅速・効率的な紛争解決について
- (3)今後のスケジュール
- (4)閉会
5.議事要旨
事務局からの資料説明の後、討議を行ったところ、概要は以下のとおり。
<技術的争点に関する的確な判断を支える制度整備について>
- ○ どのようなサポート制度を導入するかという議論の前に、技術的知識と法律的知識の両方を備えている人材がいれば問題は解決するのではないか。しかし、我が国では理系・文系間の壁が高く、またロースクール等の現状にかんがみても、そのような人材の育つ見通しが立っているとはいえない状況。
- ○専門委員には法律の知識は必ずしも必要でないといわれているが、委員経験者からは、法律や訴訟手続に関する知識が必須との声が多い。法律の知識が必要となる点については調査官制度と重複するので、その点での役割分担も含めて両制度の在り方について検討すべき。専門委員は、現状では大学教員などが多いが、手当や勤務体系などを整備して、参加のインセンティブがわきやすい制度とすることを検討してはどうか。
- ○ 民事訴訟においては、当事者から提出された情報を基に判断することが原則であり、それ以外の情報をもとに判断することは許されない。専門委員や調査官はあくまで、裁判官をサポートするためのもので、その説明内容や調査結果は証拠にならない。
- ○裁判官に技術専門性がどの程度必要なのかがよく分からない。技術的なバックグラウンドを有する裁判官を採用したとしても、法律系のバックグラウンドのみを有する裁判官とあまり差は生じないのではないか。技術専門性の有無にこだわり過ぎない方がよい。
- ○ 訴訟当事者がそれぞれ自身に有利な証拠を提出してくる中で、裁判官には、証拠の価値を見極め、取捨選択する能力が必要とされる。また、その過程で、裁判官は調査官等を利用するが、利用する態様や程度は、事案毎に、具体的な紛争解決と真理探究のいずれを重視すべきであるかに応じて変わってくる。判断については、技術的なバックグラウンドの有無によってそれほど違いはないのではないか。
- ○ 技術的知識を有していた方が技術的事項の理解は早いため、裁判官にも技術的バックグラウンドがあった方がより望ましいということはあるが、現行の裁判制度は、特許訴訟以外の専門訴訟も含め、裁判官が専門知識を有していることを前提としていない。裁判官は、当事者の主張等を理解する能力を有していることを期待されるが、具体的な技術的知見(例えば出願当時の技術水準など)については、裁判である以上、むしろ当事者の主張・立証に委ねるべきである。したがって、技術的なバックグラウンドの有無により判断の質が変わるというわけではなく、技術的知識がなくても的確な判断を下せる裁判官は既に存在している。法曹資格を持たない技術系裁判官を任用する案には反対。
- ○ 米国には技術・法律両方の知識を有している人材が多く、それゆえに機能している制度(専門家証人や、裁判所から任命され、裁判官に代わって手続を行うスペシャルマスターと呼ばれる制度等)があるが、そのような米国の制度を、状況の異なる我が国にそのまま導入することは困難と思われる。我が国で現在活用可能な人材を使って公平な技術的知識を提示するための、我が国の実情に適したサポート制度を構築していくべき。
- ○ 米国の場合、我が国に比べて理系出身の法曹は多いが、裁判官を選ぶに際しては、理系のバックグラウンドを有しているということが重視されているわけではなく、広い視野・知見を持っていることが重要視されていると聞く。対審構造である裁判においては、当事者に、相手方が提出した証拠について、相互に攻撃・防御する機会が確保されていることが重要視されるべき。専門委員や調査官が裁判官に対してどのような内容を伝えているのかを知る機会があることも対審構造の観点から重要。
- ○ 現在の日本の法曹教育では、様々な価値基準の下で多角的な視点から物を考える訓練が行われていることにかんがみると、司法判断を下すのは法曹教育を受けた人が適切であるように思う。
- ○ 特許は相当な規模の投資を伴うものであり、いったん成立した特許が無効になりにくく安定している状況でないとその後の事業戦略や投資戦略が立たない。したがって、ビジネスの観点から、技術的な判断を支援する制度の整備には賛成。これに加えて、特許の安定性を担保する仕組みの工夫があればなお良い。
- ○ 技術の流れや相場観に関しては、特許庁の判断を尊重するという考え方が大事であり、これが権利の安定性につながるものと思う。
<審決の確定・訂正の許否判断の在り方について>
- ○ 近時の判例は、訂正請求については請求項ごとに許否判断し部分確定させるという流れになってきている。現在はインターネットでの公示方法などもあり、技術的にも難しくないと思われるので、判例の流れに沿って、審決・訂正について部分確定させ、適切に公示するという方向で制度改正を進めてもらいたい。なお、訂正審判についても、同様に扱うことが適切であると思う。
- ○ ビジネス安定化の観点からすると、権利は随時部分確定させ、早急に活用可能にすることが望ましい。また、現行制度は外からみて権利状態が分かりにくいので、IT技術を活用するなどして、ユーザーにとって分かりやすい公示制度となるよう、対策を講じるべき。
- ○ 権利を早く確定させるのが適切であり、現行法の解釈からしても、結論としては、部分確定で良いと思う。ただし、国際的な制度調和にも配慮すべき。
- ○ 米国では、全ての請求項について判断が確定した段階で公報により最終的に確定した権利状態が公示されるが、公報発行までの間も、特許性が認められ争いがなくなった請求項については、その段階で部分確定して行き、部分確定した権利の内容は、誰でも閲覧可能な経過情報をたどれば確認できるようになっている。本来は、経過情報を閲覧可能とするだけでなく、部分確定するごとに、部分確定した請求項の内容が直接確認できる形での公示がなされる方が望ましい。
- ○ 迅速性という観点からすると部分確定が適しているが、分かりやすさという観点からすると、特許全体で確定とする方が適している。大企業であればどのような制度であっても対応できるだろうが、一般的な人にとっては部分確定は複雑で対応は困難かもしれない。部分確定の方が現実的であると思うが、どのようなレベルの人をターゲットにするのかを考えて制度構築すべき。
- ○ この問題は、権利を特許単位で考えるのか、請求項単位で考えるのかという、特許制度の本質論とも関係する。特許単位で考えるとするならば、訂正請求の一部が認められないためにすべての訂正請求が不認容となるという権利者にとって酷な事態が生じ得るから、権利者の防御のために予備的な訂正請求を可能とするかどうかという難しい論点が生じる。請求項単位で考えるのであれば、このような論点に入らなくてすむ。また、請求項の訂正に併せて、明細書の訂正の許否判断・確定・公示の取扱いをどうするか等、関連する論点は多い。
<無効審判の確定審決の第三者効(特許法第167条)について>
- ○ これまでこの制度は当然の前提として受け入れてきており、個人的な感覚としては、制度改正の必要性は特に感じていない。
- ○ 無効不成立審決が確定した審判の証拠に、一つでも違う証拠を加えれば、「同一の証拠」とされずに再度の無効審判請求は可能と思われ、現実にはこの制度により問題は生じないのではないか。
- ○ この制度を変えるそれほど大きなニーズはないようだが、逆に残しておくべきニーズがあるのかも分からない。また、この規定が維持されたとしても、無効不成立審決が確定した審判と同一の事実及び同一の証拠に基づき、侵害訴訟において特許法第104条の3の無効の抗弁を主張できるなら、実害はあまり生じないだろう。しかし、この規定導入時のモデルとなったオーストリアにおいては、同規定が違憲を理由としてすでに削除されているにもかかわらず、我が国において同規定を維持することが適切であるのか、国際的に見て良い状況であるのか疑問がある。また、侵害訴訟において無効の抗弁が認められ実質的に権利行使ができなくなっている特許権について、この規定があるために、無効の抗弁が成立した無効理由に基づき特許権の登録を抹消すべく無効審判請求をすることが許されない事態が生じ得る状況を看過して良いのかについても議論がある。このような特許制度の在り方の観点からも検討すべき。
- ○ 同一の証拠等に基づいて何度も無効審判が請求されることとなると、特許権者の対応負担は大きい。大企業であれば対応できるだろうが、中小企業や大学にとっては難しいだろう。
- ○ 167条の条文を読んだとき、無効不成立審決が確定した審判の証拠に一つだけ別の証拠を加えたというだけで、「同一の証拠に該当しない」と解することは、解釈として奇異に感じる。この制度には実害がないといわれるが、このような解釈を前提に憲法問題を回避しているとも思われ、検討の必要がある。
※本議事録は事務局の文責にて作成したものであり、出席者各位の了承を得た ものではない。
- <この記事に関する問い合わせ先>
- 特許庁総務部総務課
- 担当:龍崎、片山
- 電話:03-3581-1101 内線2101
- FAX :03-3593-2397
- E-mail:問い合わせフォーム
[更新日 2009.7.23]