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第2回審査基準専門委員会議事録

  1. 日時 平成21年4月7日(火曜日)13時30分~15時30分
  2. 場所 特許庁 特別会議室
  3. 出席委員
    片山委員、榊委員、竹中委員、永井委員、長岡委員、中島委員、中山委員、野間口委員
    (参考人)日本知的財産協会 山口様、日本弁理士会 小西様
  4. 議題
    1. 第1回審査基準専門委員会以降の審査基準の改訂等について
    2. 進歩性の審査基準について

開会

中山座長

時間は少々前でございますけれども、全員集まりましたので、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の審査基準専門委員会第2回を開催いたします。

本日はお忙しい中お集まりいただき、まことにありがとうございます。

前回は審査基準専門委員会での議論の方向性につきまして、その点検のポイントなどについて委員の方々から御意見をちょうだいいたしました。また、微生物等の寄託の要否に関する事例集や共通出願様式に対応する基準改訂について御議論をちょうだいいたしました。今回は進歩性をテーマに御議論をちょうだいしたいと思います。進歩性は皆様も非常に関心の高いところだと思いますので、活発な御議論をお願いいたします。

委員・参考人紹介

中山座長

議論に入ります前に、前回御欠席でありました委員の御紹介を事務局からお願いいたします。また、今回は参考人としてお二人をお招きしておりますので、そちらもあわせて紹介をお願いいたします。

田村審査基準室長

それでは、初めに、前回御欠席された委員お二人を御紹介させていただきます。

まず、豊田工業大学教授で、副学長をされておられます榊裕之委員でございます。

榊委員

榊でございます。よろしくお願いいたします。

田村審査基準室長

次に、ワシントン大学ロースクール教授で、早稲田大学大学院法務研究科の教授をされておられます竹中俊子委員でございます。

竹中委員

よろしくお願いいたします。

田村審査基準室長

また、今回はお二人の参考人に来ていただいております。

まずは日本弁理士会特許委員会委員長をお務めで、三好内外国特許事務所の弁理士でいらっしゃいます小西恵様でございます。

小西参考人

小西でございます。よろしくお願いいたします。

田村審査基準室長

次に、日本知的財産協会特許第1委員会副委員長で、進歩性の検討をされております第3小委員会の小委員長でいらっしゃいます大日本印刷株式会社の山口健一様でございます。

山口参考人

山口でございます。よろしくお願いいたします。

田村審査基準室長

以上でございます。

中山座長

ありがとうございました。

配付資料の確認

中山座長

次に、資料を事務局で用意しておりますので、確認をお願いいたします。

田村審査基準室長

それでは、お手元の資料を見ていただけますでしょうか。資料1として議事次第・配布資料一覧、資料2として委員名簿、資料3として「第1回審査基準専門委員会以降の審査基準の改訂等について」、資料4として「日本国特許庁における進歩性の判断基準について」がございます。そして資料4の添付資料として「日・米・欧特許庁の特許率」という1枚紙がございます。それから、資料5として「欧米における進歩性の判断の現状について」というペーパーがございます。それから、資料6は竹中委員に御用意いただきました「米国特許法における非自明性比較法的考察」、資料7は日本知的財産協会に御用意いただきました「進歩性の審査基準について」、資料8は日本弁理士会に御用意いただきました「進歩性審査基準に対する意見」でございます。そして資料9として、「進歩性に関する『特許・実用新案審査基準』の点検におけるポイント」というペーパーがございます。

そのほか、参考資料1として新規性・進歩性の審査基準、参考資料2として日本弁理士会の意見がございます。そして参考資料3として、平成19年3月に特許庁審判部の作成いたしました「進歩性検討会報告書(抜粋)」、参考資料4として、同じく特許庁の審判部が平成20年3月につくらせていただきました「進歩性検討会報告書2007(抜粋)」がございます。

以上でございますが、過不足はございませんでしょうか。

それでは、前回も御説明させていただきましたが、議事録作成の関係上、お手元のマイクの緑色のスイッチを入れていただきまして、マイクを近づけて御発言いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

中山座長

ありがとうございました。

第1回審査基準専門委員会以降の審査基準の改訂等について

中山座長

それでは早速、議論に入りたいと思います。まずは事務局から資料の説明をお願いいたします。

田村審査基準室長

まずは資料3を見ていただけますでしょうか。昨年11月5日に第1回審査基準専門委員会を開かせていただきましたが、その後、本日までに審査基準の改訂・訂正が行われたものの御報告でございます。

1.は、先ほど座長から御説明のございました共通出願様式への移行に伴う訂正、そして微生物の寄託事例集の改訂が含まれておりまして、これらは第1回委員会で既に御了承いただいた点でございます。

2.として2点ございます。こちらは審査基準に不明瞭な部分がございましたので、そこを訂正させていただいたところを御報告させていただきます。

3.は4月1日に施行になりました平成20年法改正に対応するための審査基準の改訂でございます。こちらは審判請求期間が30日から3カ月に延長になりましたので、形式的な基準改訂を4月1日にやらせていただいたということでございます。資料の下のほうに特許庁のホームページでアナウンスされたものが添付されております。

資料3については以上でございまして、資料4に移らせていただければと思います。

進歩性の審査基準について
(事務局資料説明)

田村審査基準室長

本日のテーマであります進歩性でございますが、こちらは特許法29条2項に規定がございます。下線が引かれていますが、通常の知識を有する者が先行技術発明に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができないという規定がございまして、こちらを進歩性というふうに呼んでおります。

そして3段落目に、進歩性のない発明には特許を付与しないとした理由についての説明がございまして、「公知材料から容易に推考することができる発明に特許を付与すると第三者の技術実施の自由を不当に圧迫し、産業の発達に寄与することを目的とする特許制度設営の趣旨に反する」というところが書かれています。そして、次に書いてありますように、拒絶理由通知の83%が特許法29条2項違反、進歩性なしという拒絶理由だということで、非常に重要な条文であるということがわかろうかと思います。

2.に進歩性の判断基準の沿革が書いてございます。大正10年法の中では新規性に関する規定はございますが、進歩性についての規定はございませんでした。しかしながら、2段落目に書いてありますように、実務上は、単なる材料の置換や、単なる設計の変更などは、発明を構成しないものとして排斥していた状況にございました。

特許法上、進歩性の規定が入ってきたのは昭和34年の法律改正からでございまして、そのときはアメリカの特許法103条をモデルに導入されたということでございます。

審査基準について御説明させていただきますと、従来は産業別審査基準の中に進歩性の基準がございまして、現行のような一般的な基準になったのは平成5年の基準からでございます。こちらの基準の中では進歩性なしという論理づけをやっていくわけですが、その論理づけについては、(2)に書いてありますように、本願発明と引用発明を対比して論理づけができれば進歩性なしということになるわけですが、そこの論理づけをやる際に、従来の基準では引用発明に動機づけを行う記載があるかどうかというところを主たる観点として論理づけが行われていました。

こういう硬直的な判断に対して、平成12年12月改訂のところを見ていただきますと、当時、特許無効審判の審決取消訴訟による審決取消率が非常に高くなってまいりましたことから、産業界からも、進歩性の判断が適切になされていないのではないか、判断が甘いのではないかというような御指摘がございました。そこで、これを受けたような形で、2000年の進歩性の基準改訂が行われた次第でございます。

具体的にどういう改訂が行われたかというのが(1)から(6)に書かれています。論理づけの観点として、「動機づけ」以外にも、こちらに書かれています「最適材料の選択・設計変更」、さらには「単なる寄せ集め」も論理づけの具体例ということで、「動機づけ」がなくても、こういうものについては論理づけができたとして、進歩性なしとできるようにした。

さらに、動機づけの具体例である「作用、機能の共通性」、さらに「技術分野の関連性」については、必ずしも「課題の共通性」は要しないことが確認されました。

さらに、「課題の共通性」についても、引用発明の中に明示的にこの辺が書かれていなくても、「自明の課題」とか「容易に着想し得る課題」であれば、「課題の共通性」の動機づけがなされたと判断できるというところ等いろいろ改訂されまして、進歩性の判断基準が裁判所と齟齬しなくなっていったという状況でございます。

その後、平成15年になりますと、刊行物に記載された発明の認定に関して、従来は頒布時の技術常識を参酌して刊行物に記載された発明の認定をやっていたわけでございますが、出願時の技術常識を参酌して刊行物に記載された発明の認定をやるというふうに改訂されています。

3.の審査の現状に移らせていただきます。「日・米・欧特許庁の特許率」という添付資料がございます。こちらを見ていただきますとわかりますように、日本の特許庁では、2000年以前からですが、65%の特許率だったものが50%まで落ちてまいりまして、ここ数年は安定しているような状況にございます。一方、米国の特許率は、従来70%以上あったものが、国内の批判、さらにはKSR事件等を契機にいたしまして、2007年には50%、最近では45%も切っているような状況で、米国は急激に特許率が落ちています。欧州のほうもだんだん特許率が落ちてまいりまして、現在は50%前後になっている状況でございます。

本文のほうに戻らせていただきまして、資料4の4ページでございます。よく議論になりますのは「特許の質」と進歩性の関係でございます。「特許の質」について、ここには東京大学の渡部俊也先生の御解説を書いてございますが、3つの観点があるのではないかと。1つ目の観点は「特許の技術的な質」ということで、技術的に非常に優れているのか、それほど優れていないのかというような観点で進歩性を判断していくということでございます。2つ目は法的安定性、すなわち一度特許になったら裁判所に行っても無効になりにくい、そういう意味での特許の質。3つ目は経済的な観点でございまして、ビジネスをやる上で重要な特許であるかどうか。そういう3つの観点がございます。特に審査基準と関連してまいりますのは(2)の法的安定性の観点であろうかと思われます。

しかしながら、2段落目に書いておりますが、2000年の基準改訂のように審査基準を少し書きかえることによって、「進歩性のレベル」を上げるとか下げるということも結果的にやれないわけではない。ただし、2000年の基準改訂は裁判所と特許庁の判断のそごを埋めるために行った基準改訂でありますので、「進歩性のレベル」を上げ下げすることによって法的安定性が損なわれていくという問題点も十分留意しなければならない点かと思われます。

5.として、実際に審査基準がつくられても、それを実行する審査官がしっかり守っていなければならないという観点がございまして、品質監理(管理)が重要になろうかと思います。特許庁といたしましてもこの辺の品質監理(管理)には力を入れさせていただいておりまして、1)は品質管理、そして2)は品質監理というふうに分けてやらせていただいております。違いは、1)の品質管理は特定の技術分野で審査官同士が協議をして質の担保を行う、そして管理職も内容チェックをするというものでございます。そして2)の品質監理のほうは技術分野横断的な品質監理もやっていくということでございます。こちらにつきましては、特許庁内の第三者によって個別案件を技術分野横断的にチェックさせていただいているという点、さらにはユーザー評価の収集ということで、企業の知財部に御意見を伺ったり、特許事務所に御意見を伺わせていただいたり、そのほか統計情報を審査官に逐次提示して自己評価ができるようにしている、そういう技術分野横断的な品質監理もやらせていただいております。

6.ですが、グローバルにビジネスをされている皆様からすれば欧米での審査基準も重要になってくることから、国際的な審査基準の調和が求められてくるということで、視点に入ってございます。

資料4については以上でございます。

資料5は「欧米における進歩性の判断の現状について」ということで、特許庁では日・米・欧の三極における審査実務の研究をやらせていただいておりますが、記載要件と進歩性については既に比較研究が終わりました。その比較研究を踏まえて事例研究も併せてやらせていただいてございます。時間の関係で説明を割愛させていただきますが、進歩性についての三極の比較研究について特許庁のホームページで公開されているという御紹介でございます。以上でございます。

中山座長

ありがとうございました。

(竹中委員プレゼンテーション)

中山座長

引き続きまして、竹中委員から欧米、特にアメリカのKSR最高裁判決以降の進歩性の考え方につきまして、プレゼンテーションをお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

竹中委員

ワシントン大学の竹中です。きょうは米国特許法を中心に、米国特許法における進歩性に対応する非自明性について御紹介したいと思います。今ちょうど田村室長から日本の進歩性についての沿革を御紹介いただきましたけれども、私の発表もそれに沿うような形で進めていきたいと思います。

最初に非自明性の規定ですが、現在では103条(a)項に規定がございます。田村室長から御紹介がありましたように、この規定が現在の日本の特許法のモデルになったものでありまして、1952年の法改正によって導入されました。

アメリカの特許制度をつくり、またアメリカの憲法草案者の一人であるジェファーソンは、特許制度をつくった当初から、新しいだけでは特許に値せず、それ以上のものを求めるということを考えていたわけであります。しかしながら、特許制度ができた当時は、それ以上のものを求めるための客観的な基準をつくることができないので、判例の蓄積を待って、その基準を明確にしたいということがジェファーソンの手記に残されているわけであります。結局200年近くたった1952年に初めて103条として規定されたわけであります。

ここで赤い字で書いてあるところに注目していただきたいと思います。「全体として」発明を評価する、また「発明の行われ方によっては否定されない」と書かれておりますが、これらの部分は日本やヨーロッパの特許法の進歩性の規定には無い文言であります。それはなぜかと言いますと、規定ができるまでの歴史に関連しているわけであります。

その沿革です。1952年の改正が行われる前も、先ほど御紹介したジェファーソンの手記にもありましたように、アメリカの裁判所は、連邦最高裁を含め、新規性以上の基準、すなわち発明が無いという発明性の基準によって、たとえ出願に係る発明が新規であっても特許を与えない、そういう判例法をつくってきたわけであります。そのような発明性の基準がNegative Tests of Inventionと呼ばれております。すなわち、発明性を否定する、これらの複数のテストであります。このスライドに示したテストを見ていただければ、現在の特許庁の審査基準にある進歩性のない発明の典型例に大体一致しているわけであります。

ただし、この中でも特に注目すべき点は、「発明努力の結果ではない」とか「天才のひらめきが存在しない」という非常に恣意的な基準が混じっていたということであります。このような恣意的な基準によって発明を評価しないようにということで、発明の仕方によって非自明性の判断はしないということが強調されました。

また、「単なる材料の選択」、「設計変更」、「寄せ集め(組合せ)発明」というのは、現在日本の進歩性の基準にも残っておりますけれども、このような理由で非常に多数の発明が特許性なしとして差別され、特許の対象とされなかったわけであります。このことを戒めるために、103条には、発明はたとえ個々の要素が公知であっても、組み合わせ全体として非自明であれば特許の対象になるというわけで、全体としての評価が強調されているわけです。

次の2つのグラフに、Negative Test of Inventionを使って否定されてきた特許の無効率というものが示してあります。特許の無効率は制度導入の当初からずっと上昇していきまして、1952年前後で70%まで無効、すなわち特許権を行使しても、たったの30%しか有効と判断されないという状況になったわけであります。

1953年の法改正以降もこの状況は変わらなかったわけでありまして、これを改善するために、現在の連邦巡回控訴裁判所に統一的に特許の有効性を判断させる、すなわち控訴審における特別な専属管轄を持つ裁判所をつくることに至ったわけであります。

このような歴史的背景を考えますと、今も御紹介がありました2005年のKSR判決は、1952年の法改正103条導入の趣旨を問うものであったわけであります。すなわち、「発明全体による評価」という文言及び「発明の行われ方による特許性判断の禁止」という過去の歴史に基づいて挿入された文言の意義を問う意味があったわけであります。

また、1952年の改正後、103条の意義を初めて問うた連邦最高裁判決は1966年のGraham判決でありまして、これは3つの事件を連邦最高裁が非自明性について一度に判断した事件であります。この中で一番重要なことは、103条導入の趣旨が確認されたことであります。すなわち、1952年以前、特許制度創設当初からずっと培われてきた連邦裁判所による判例法の発明性の基準を確認するとともに、グラハムテストという一定の非自明性の判断手法を統一的に使うという、そういうテストが導入されたわけであります。

ここでグラハムテストですが、グラハムテストというのは現在の日本の特許庁が使っている進歩性の判断手法と非常に似た内容になっております。また、後で御紹介するように、欧州のProblem Solution Approach、課題解決のアプローチともある程度似たような内容となっております。

このテストの内容ですが、最初に先行技術の範囲及び内容を確認します。次にクレームに係る発明の内容を確認し、そして基準となる当該発明の技術分野の通常の経験を有する者の技術レベルを設定した上で、その観点から先行技術と発明を比較した相違から発明に想到可能かということを判断する、そのような4段階のテストとなっているわけであります。

さらに詳しい内容は次のスライドに書いておりますが、特に今回問題となるのは第4段階目の自明か非自明かの判断になります。

2005年のKSR判決で問題となったのは、連邦巡回控訴裁判所が、それまで連邦裁判所における無効率が余りに高かったために、有効率を上げ、特許の信頼性を向上させることを目的に創設されたことから、同裁判所は、創設以来、どちらかと言えば特許権者有利の判例をつくり上げてきたわけであります。

その一つがTSMテストと呼ばれるものであります。TSMテストというのはteaching・suggestion motivation Testと言いまして、先行技術等の中に、教示、発明に到達する示唆または動機づけが存在するかということによって、発明全体の自明性・非自明性を判断する手法であります。そのTSMを見つける素材は、典型的には先行技術でありますが、発明の技術課題及び当業者の技術常識からもそのような示唆を見つけることができるということが、判例上、明らかになっております。

連邦巡回控訴裁判所はCAFCと略されますが、連邦巡回控訴裁判所の判例の大きな特徴として、立証責任について、特許庁の責任と出願人の責任の分担を明らかにした点があります。アメリカの特許法の規定上、特許庁がまずは新規性がないことを立証しなくてはいけないことになっているわけであります。そして非自明性につきましては、Prima-facie Obviousnessと言いますが、一応の自明性の立証を特許庁が行わなくてはいけないことが、連邦巡回控訴裁判所の判例により明らかになっております。この「一応の自明」の立証を行うためには、グラハムテストによって自明であるということを立証するために、多くの場合、TSMテストを使ってきたわけであります。

このような動機づけ等が存在することで、発明に到達する論理づけを行った後に初めて立証責任は出願人に移りまして、出願人が一応の自明の立証を反駁することになりますが、そのときには、日本で阻害事由と言われますTeaching Away、または二次的考察事項と言われる商業的成功や予期しない効果、市場における課題解決の要求等を示すことによって反駁することができるわけであります。また、一たん特許が有効に発生いたしますと、その有効性の推定により、明瞭かつ信憑性のある証拠でのみ無効を立証することができるということを連邦巡回控訴裁判所は判例により徹底させたわけであります。

このスライドに化学・バイオ分野の非自明性判断の特徴を書いておきましたけれども、時間の関係もございますので、ここは飛ばします。

そこでTSMテスト適用の効果でありますが、特に機械・電機分野では、多くのものが組み合わせ発明であったために、連邦巡回控訴裁判所創設以前は差別的な扱いを受けておりました。すなわち、構成要素が公知であることを示して組み合わせ発明だというふうな一定のカテゴリーに入りますと、それだけで自明性の立証が行われ、したがって、「予期せぬ効果」等の反駁の理由がない限りは特許の対象にならないという考え方です。連邦巡回控訴裁判所は、このような創設前の考え方を否定し、組み合わせ発明についても組み合わせ全体に対するTSMの立証がなければ自明の立証ができなくなったわけであります。

これについては化学・バイオ分野においても適用されますので、例えば選択発明のような場合でも、選択に至る論理づけとしてTeaching・Suggestion Motivationがなければ、たとえ実験自体は非常によく知られたものであって、一つ一つやり続けていけばObvious to Tryで行き当たるだろうということだけでは自明性の立証にはならないということが連邦巡回控訴裁判所によって明らかにされたわけであります。

その結果として、連邦巡回控訴裁判所創設以降、無効率が50%以下になったわけであります。

このスライドは、更に最近のデータを示しています。

しかしながら、先ほどお話に出てきましたKSR事件においては、事案の詳しい内容を示すスライドは飛ばしますが、主に連邦巡回控訴裁判所のTSMテストの適用が非常に拘束的であり、先例が拘束的に適用される限りは違法であるということで、連邦最高裁は連邦巡回控訴裁判所の判断を覆し、この事件の特許は無効であると判断したわけであります。

その判決の中での論点といたしましては、組み合わせ発明の非自明性判断であります。すなわち、組み合わせ発明については差別的取り扱いをしてもいいのかということが上告人と被上告人の間で争われたわけですが、最高裁自体はそれについてはっきりとした見解を示しませんでした。ただし最高裁は、1966年のグラハムの後の2件を含めたKSR事件以前の最高裁判例の内容のサマリーを列挙するような形で、どのようなものが典型的な自明な発明であるかということを示したわけであります。その中には組み合わせ発明について自明と判断したものが多く入っていたわけであります。

また、連邦巡回控訴裁判所のTSMテスト適用の問題点として、最高裁は、先ほど話ましたObvious to Tryを挙げました。少なくともこの事件では、有限な数の選択肢しかない中で一つを選択することだけでは自明であると判断し、最高裁は、Obvious to Tryだけでは自明とはできないという拘束的な基準を用いる連邦巡回控訴裁判所の判例についても批判したわけであります。

その結果として、お手元の資料にありますように、USPTOは、非自明性審査の基準として、連邦最高裁が自己の先例の具体例、すなわち発明に至る論理づけが存在する具体例として7つの具体例を挙げることになったわけであります。

そして、従来通り動機づけが必要なものというのが7つ目になりますが、(A)から(F)の6つは日本の審査基準の下で動機づけ以外で論理づけが認められるものと非常によく似た内容となっております。

この後のスライドにKSR判決の審査実務及び判例への影響について細かいことが書いてありますけれども、興味があったらお読みください。

総括になりますけれども、その結果、組み合わせ発明については、例えば技術課題がよく知られたものであって、組み合わせられる先行技術がその技術課題と共通しているような場合においては、それだけで論理づけが認められることになったわけであります。その結果として拒絶査定が審判によって支持される率が非常に上がってきたわけでありまして、先ほど田村室長から御紹介があった特許査定率が下がっているというのは、こういうところからもうかがえるわけであります。

連邦巡回控訴裁判所の判断につきましても、自明と判断されるケースの割合が上がってきております。技術分野別に見ますと、特に電機とかビジネスモデル発明、または機械等の分野で無効とされる、またはObvious(自明)とされる率が高くなってきているわけで、影響が顕著となってきています。化学につきましては、Obvious to Tryであっても、無限な数の中から選択する場合はObvious to Tryの立証だけでは自明ではないという判例の考え方が維持されることによりまして、特に予期せぬ効果が立証される場合には非自明と判断されることが多いため、影響が比較的少なくなってきております。

今までも日本法との比較について簡単に御紹介してきましたが、動機づけ不要の典型的自明発明を列挙しているという点で、現在の日本の審査基準とアメリカ法の基準が似てきているということが言えるかと思います。特に米国特許商標庁のKSRの解釈は日本の特許庁の進歩性の審査基準と非常によく似た内容になっております。

ただし、連邦巡回控訴裁判所の判例につきましては、まだ裁判官の間で考え方に相違があるようであります。特に化学分野におきましては、先ほども御紹介しましたように「組み合わせ発明」という形で表現できる場合が少ないこと、また論理づけをただ単に実験だけすれば選択できるということだけでは不完全で、予期しない効果を立証したり、または無限の選択肢があったことを立証すれば非自明となることから、比較的KSRの影響を受けていないということが言えるかと思います。

これに対して欧州はどうかと言いますと、課題・解決のアプローチというのは、課題の重要性、課題から発明に到達することが非自明であることが進歩性判断に非常に重要な意味を持っておりますが、アメリカにおきましてもKSR後は課題が非常に重要性を増しているということで、欧州の考え方に似てきているのではないかと思います。ただし、欧州のように最も近い先行技術を決めて判断するような手法は行っていないので、その点の違いはKSR後も存在しています。

時間の制限がありますので、これで終わらせていただきます。

中山座長

ありがとうございました。

(日本知的財産協会プレゼンテーション)

中山座長

続きまして、第1回の会合におきまして委員の皆様から実際に実務をされている方々の御意見も伺いたいということでございましたので、日本知的財産協会と日本弁理士会から意見をちょうだいすることになっておりましたけれども、きょうは参考人としてお二方にいらしていただいております。

まず、日本知的財産協会の山口様からお願いします。

山口参考人

知財協から参りました大日本印刷の山口と申します。よろしくお願いします。私のことを申しますと、入社以来15年間実務をやっておりまして、日々、拒絶理由通知とか出願の対応といった仕事をやっております。知財協では3年ぐらい前から進歩性の検討をやらせていただいています。また、特許庁の審判部が開催されております進歩性検討会、今は特許性検討会と言いますが、そちらのほうに3年ほど出させていただいております。

お手元の資料7に沿って説明させていただこうと思います

ここ数年の進歩性ですが、12年の改訂以降、産業界から要望したことではありましたが、実際に来る拒絶理由等を見ていますと、かなり厳しくなりました。そこで進歩性に関して問題提起がされて、それ以降、進歩性検討会等、いろいろなところで妥当なのかということが検討されてきました。これは私見ですが、ここ数年は厳しいとか厳しくないといった議論は比較的落ち着いてきているような現状でございます。ただ、一部にはまだ、もっとやさしくしろとか厳しくしろという意見はございます。進歩性を検討するにあたり審査基準を見直してみますと、不明瞭な点とか、わかりやすくしてほしいとか、そういったところが大分出てきておりますので、きょうはその辺をまとめて話させていただければと思っております。

それでは資料の(1)から簡単にポイントを御説明しようと思います。

(1)審査基準改訂時の産業界との議論です。裁判所では審査基準が法規範ではないということで、審査のレベルと裁判所のレベルが違う判断をしているのではないかといった疑念が多少あるのですが、これに関しては審査基準自体を法制化という極端なところで解決するのではなくて、特許制度が産業立法のようなところもございますので、産業界も一緒につくり上げていって、産業界としてもそれなりに納得いくような形ができたものにすれば、法規範とはしないまでも、地位の向上が期待できるのではないかと存じます。そういったこともありまして、審査基準改訂等をする場合には、具体的な案を作成する段階から産業界と十分議論を行わせていただければと思っております。

(2)の世界ハーモナイゼーションに関してですが、企業は外国においての特許権の取得といったことを予測して企業活動を行っているところがございます。そこで、先ほどの田村室長のプレゼンテーションにもございましたが、三極特許庁の比較研究等を続けていただいて、今後、他国への働きかけも含めて審査基準等の制度調和の推進をしていただきたく思います。

(3)は審査基準への裁判例の掲載についてでございます。産業界として、審査基準への裁判例掲載の充実といった要望はかねてからございます。現在の審査基準に関しても幾つか裁判例が載っていることがありますけれども、裁判例掲載の目的とか審査基準における掲載例の位置づけ意義等を明確にした上で載せなければいけないと考えております。

そこで、具体例として(3)の2段落目に「例えば、1)審査基準の具体例として掲載する場合、2)審査基準の解釈として引用する場合、3)審査基準の文言として引用する場合等が考えられます」とありますが、具体例として示すだけであれば利用者の理解のためということなので、具体的な裁判例、審決例、あるいは創作された例でも問題はないと考えられます。

次のページにまいりまして、2)ですが、審査基準の解釈として、特に限界事例を判示するようなものを引用するような場合、その判決の射程やその裁判例が判例として認知されているか否かを慎重に検討し、掲載する判示内容についても吟味をお願いしたいということです。裁判例を掲載することでかえって疑義が生じる可能性があり得るという認識も必要かと考えております。

それから、3)として、審査基準の文言として裁判例を利用する場合は、ある事実関係を前提にした判決文を一般的記載である審査基準の文言とするので、より一層の慎重な検討をお願いしたいと考えております。特に進歩性に関してはグレーな部分も多くて、判決自体、全体をとらえないと意味を取り違えてしまうことも多少あることから、ヨーロッパにおいては別に判例集を設けたりしているようなこともありますので、そういった運用も考えていただければと思っております。

(4)では審査基準の運用に関して述べさせていただきます。審査基準と両輪で運用がきちんといかないと特許制度は成り立たないと考えておりまして、知財協としても平素から審査基準室、品質監理室とも意見交換をさせていただいております。そこで、進歩性の判断において見受けられるところですが、審査基準においては容易に想定できたことについて論理づけができたか否かが進歩性の判断に関して肝になるところですが、実際に実務をやっていると、ここら辺の論理づけがどのようになされたのか、拒絶理由通知を見ただけではわからないような事例が幾つかございます。こちらに関しましては、具体的なポイントが記載されていないと、受け取った出願人側からしても、どういった論理づけなのか、そこら辺が予測できないまま反論することになりますので、双方のコミュニケーションがとれないといった問題点がございます。これに関しては、今後、意見交換等をしながら、そのポイントは何ぞやというところを極めていきたいと思っています。ただ、その議論をする上でも、最後の段落にありますように、「論理づけ」等、実務上不明確な点、理解しにくい点がございますので、よりわかりやすく、出願人にとっても使いやすくなるように要望したいと思っております。

(5)は「特許性/進歩性検討会の報告書」という項目です。先ほども申しましたけれども、3年間、こういった検討会をしておりまして、その中から一般化できるような事例も蓄積されていると思いますので、そういったところを審査基準等に反映させていただくようなことも検討していただければと思っております。

(6)からは細かい話になりますが、現状、明確でないと考える点を挙げて問題提起をさせていただきたいと思っております。なぜ問題提起で終わるかと言いますと、これを明確にした後に実務的に受け取る拒絶理由通知にどうやって反映されているのだろうかということを考えないと、実務上混乱を来たしてしまうこともありますので、まずは問題点として挙げさせていただいて、その後、具体的な議論につなげていければと思っております。

それでは各論に関して簡単に説明させていただきたいと思います。

まず1番目、「動機づけとなり得るもの」に関しては、1)「技術分野の関連性」、2)「課題の共通性」、3)「作用、効果の共通性」、4)「引用発明の内容中の示唆」と列挙されています。これら4つ列挙されているものをどうとらえるかというところが審査基準に関しては少し不明確な点がございますので、そこら辺を明らかにしていただきたいということがございます。

次のページに移りますが、周知技術に関してでございます。これも審査基準の中では1)引用発明の認定の基礎として用いる場合、2)当業者の知識または能力の認定の基礎として用いる場合、3)他の引用発明として用いる場合、4)事例の中での紹介というのがございますけれども、記載の相互の関係とか周知技術の役割が必ずしも明確に記載されているとは思えませんので、ここら辺を明確にしていただければと思っております。

それから、運用の問題ではあるのですが、3)の他の引用発明として用いる場合に関しては、再度の拒絶理由通知の発行の要不要といった問題があって、実質新たな引用例でも周知技術の認定として引かれた場合は再度の拒絶理由通知を出していない運用が散見されますので、そこら辺、実際に新たな引例として追加されたときに、手続的な問題として、新たな拒絶理由通知を発するのか発しないのかというところも明確にしていただければと思っております。

3番目、最適材料の選択・設計変更等についてです。これに関しても、ペーパーに明示してあるように、その適用基準が明確であるとは言えないと思われます。例えば「技術の具体的適用に伴う設計変更」という言葉が審査基準上あるのですが、これに関する定義等が明らかではございません。これに関しても適用要件を明確にしていただければと思います。

次のページにまいりまして、4番目、阻害要因でございます。阻害要因というのは、竹中先生のプレゼンテーションにもいろいろございましたように、言葉としては比較的メジャーな言葉ですが、審査基準上は具体的な例等がそれほど充実しているとは思えませんし、実務上、使う面では不明確な点がございますので、使う上での具体的な事例の充実等をしていただければと思います。特にこれは出願人側として拒絶理由通知が来たときの抗弁として使われるケースがありますので、出願人側にとって阻害要因が肯定されるような立場からの事例の充実が望まれます。

5番目、その他でございます。審査基準の中で使われている言葉がいろいろ出てきて、その使用方法が厳格ではないので、ここら辺の改善等もしていただければと思っております。

以上でございます。

中山座長

ありがとうございました。

(日本弁理士会プレゼンテーション)

中山座長

それでは、続きまして日本弁理士会の小西様、よろしくお願いいたします。

小西参考人

本日は日本弁理士会の立場から進歩性審査基準に関する意見を申し述べる機会をいただきまして、どうもありがとうございます。言うまでもなく進歩性というのは特許要件の中核でございまして、我々弁理士は日々、進歩性審査基準と格闘していると言っても過言ではないわけでございます。

まず基本的な考え方です。もちろん審査基準というのは審査をするための基準でございまして、特許法29条2項を特許庁がどのように解釈運用するかということについての客観性・妥当性を担保するのが基本的な考え方だと思っております。つまり、裁判所というのは当然に審査基準に追従してくれるわけではなく、裁判例から乖離しないことが審査基準にとって重要なことだと考えております。

誰のためのものかということを考えますと、もちろん審査官のためのものでありますが、同時に、出願人・代理人にとって審査基準というのは、その発明を出願するかどうか、どのようにクレーム・ドラフティングするか、あるいはどのように拒絶理由に応答するか、いずれにおいても非常に重要なよりどころ、指針になっているものです。

その審査基準を軸にしてどのように円滑なコミュニケーションが図れるかということは、特許庁、代理人、出願人、すべてにとって非常に重要なことであると考えております。さらに裁判所にとって、これは規範性がないということは当然ですが、どのように納得感――事実上の規範性と言ってもよろしいかと思いますけれども、それを持っていただいて、特許庁で判断が覆らない、判断が一貫していることが出願人・代理人にとって欠かせざることだと思っております。つまり、誰にとっても予見可能性・納得感を向上するための記載の充実・明確化を図っていただきたい。そして、適正な進歩性の判断のための指針を与えていただきたいというのが基本的なお願いであります。

現状を考えますと、現状の審査基準は、審査官が出願を拒絶するための指針としては非常によくできているというふうに考えています。しかし残念ながら、もっぱら進歩性を否定するためのロジック、進歩性を否定している裁判例のみが掲載されていて、それに基づいた拒絶理由を受け取ったときに出願人がどのように反論したらよいのかということについての具体的な指針が示されていないというふうに言えます。また、進歩性の判断について十分な相場感、つまり進歩性の判断に習熟し技術内容も知悉しという者にとっては非常に運用しやすい基準であると思いますが、逆にそれまでの相場感がない者にとっては、やや行間が多いと言わざるを得ないのではないかと思っております。

この点、例えばEPOの審査基準や米国の審査マニュアル(MPEP)などでは、よりニュートラルな記載になっています。つまり、進歩性を肯定する考え方と否定する考え方がパラレルに書いてあるというのが基本的な立て付けになっています。裁判例を見直す、あるいは記載を見直すという暁には、ぜひ進歩性を肯定するためのロジック、裁判例の記載ということをお考えいただきたいと思っております。

次に判断プロセスですけれども、進歩性の判断プロセスは一般にこのチャートのように理解されていると思います。まず本願発明の要旨を認定し、そして引用発明を認定し、その中から主引用発明を決定し、そしてその一致点・相違点を認定し、最後に論理づけという順番になっています。

ところが、今の審査基準を見ますと、この判断の(1)から(4)については「新規性判断手法と共通である」というなお書きがあるのみで、その直後から(5)の「論理付けの具体例」の記載のみという立て付けになっているわけです。

ところが実務上は、裁判所で審決がひっくり返る事案を見ますと、むしろ認定段階、判断プロセスの(1)~(4)までの段階のものが非常に多い。一例として、平成18年に弁理士会の特許委員会では、平成17年7月から平成18年6月という約1年間のサンプリングに基づいて、審決取消事例の判決の分析を進歩性について行ったんですけれども、この中を見ますと、取り消された事例26例中5例のみが論理づけであって、20%に満たない。あとは、その前段階である引用発明認定とか一致点・相違点の認定レベルの判断の誤りであるということが示されております。これは私自身の実務感覚とも一致していまして、審決取消しを争う際には、論理づけで争うということを決めた途端に負けるというのが実務感覚であります。

ましてや、新規性判断と全く一緒としてよいのかということになりますと、進歩性の引用例は新規性のような近い引用例がないからこそ進歩性が問題になるわけでして、当然、本願発明と遠いものとも一致を見なければいけない。そうすると、必ずしも新規性についての引用発明の認定対比がそのまま適用されるというふうには思われないということです。ですから、審査基準の見直しをされるに当たっては、このような各判断プロセス、特に認定レベルの説明、判断基準をお示しいただきたいと考えています。

次に後知恵防止ということです。後知恵防止というのは特許法29条2項で「特許出願前に」と規定していることの当然の帰結となりますけれども、では「出願時を基準に判断する」とだけ書けばよいのかということの問題です。あらゆる技術は陳腐化いたします。代替技術が出てきて、次世代の技術が出てきて陳腐化していくことになります。「出願時に」ということを担保するためには、判断するものは本願発明を一たん頭の中から追い出して、判断基準時を出願時に時計を戻して判断するという極めて不自然な、人工的なことをやらなければいけないことになるわけで、後知恵による判断のリスクは経時的に高まってくるというのが後知恵の本質ではないかと考えています。

審査基準2000年の改訂において削除された記載がございます。ここにありますとおり、いわゆる後知恵を防止することの記載とともに、「例えば、原因の解明に基づく発明であって、いったん原因が解明されれば解決が容易な発明の進歩性を分析するときは、原因の解明も含めて技術水準に基づいて検討する。解決手段を考えることが当業者にとって容易であるという理由だけでは進歩性を否定することができない。」と非常によいことが書いてありますが、これが残念ながら削除されました。現在では、引用例の適格性や当業者の定義のところに「出願時」ということを担保する規定はありますけれども、果たしてこれで特許法29条2項が言っている「出願時において容易」というものを十分に担保しているのかということについては疑問を持っております。本願発明ありきでの判断をするというのは極めて自然な考え方なので、これを排除するためのさまざまなインコーポレーションが必要なのではないかと考えています。

例えばEPOの審査基準を見ますと、ex post facto analysis、いわゆる事後的分析を戒める規定とともに、課題解決アプローチの中の一手法として、Could-wouldアプローチ、要するに、Could、本願発明に想到し得ただけであっては不十分であって、本願発明に想到する蓋然性といいますか、would have doneというレベルを要求している。そしてその蓋然性というのは、基本的には先行技術に黙示ないし明示の示唆がないとだめだという構成になっています。

MPEPにおいても、アメリカの場合は歴史的に後知恵排除というものを非常に重要視しているわけですけれども、審査官の一応の自明性の立証のためには、いわゆるTSMテストを具現化したものだと思いますが、審査官がリファレンスを修正するための示唆ないし動機づけとともに、本願発明に成功裏に想到する合理的な見込み、Reasonable Expectationを要求しているということになります。

これはやはり必要な考え方なのではないかと考えています。具体的には後知恵防止という留意規定はもちろん必要だと思いますけれども、それ以上に、判断プロセスの各段階において後知恵を排除するような、本質発明ありきでの引用発明の認定や一致点・相違点の認定を排除するような規定、あるいは論理づけの段階であっても、本願発明に想到する何らかの蓋然性を要求するような縛りが必要ではないかと考えます。

次に「設計変更等」ということですけれども、平成5年(2000年)の審査基準改訂前においては、動機づけがなければ本願発明に想到する論理づけが得られないということになっておりました。そして動機づけのファクターとして、ここにありますように「引用発明内容中の示唆」、「課題の共通性」、「機能、作用の共通性」、「技術分野の関連性」というものが記載されていたわけですが、これが2000年の改訂によって、動機づけを要しなくても本願発明に想到する論理づけが立つ部分が付加されました。ここに入ってくるのが、「最適材料の選択」、「数値範囲の最適化」、「均等物による置換」、「設計変更」、「単なる寄せ集め」です。

これは実務上非常に大きなインパクトを与えたもので、しばしば見受けられるのが、例えば第1引用例と第2引用例を組み合わせて、出てこない構成要件があったとする。出願人としてはそこが発明のポイントであるというふうに考えているにもかかわらず、これは単なる設計変更である、ないしは均等物による単なる付加である、そういう拒絶理由をいただくといったことです。

「設計変更」というのは、動機づけのファクター、例えば技術分野が関連するとか課題が共通するものとはレベルが違うと考えています。技術分野が関連するとか課題が共通するというのは、2つの引用例を対比する、あるいは引用例の中を検討することによって導かれる事実ですけれども、設計変更か、それとも発明的なポイントであるかというのは、より評価に近い事実ですので、それを根拠づける事実が示されなければ、出願人としては合理的な反論ができないことになります。

例えばEPOの審査基準を見ますと、ここは非常にニュートラルな記載になっていまして、Annexの記載においては、「設計変更」に当たる場合と当たらない場合、あるいは単なる寄せ集め発明である場合と進歩性がある組み合わせ発明である場合が例示とともにちゃんと説明されているということでありまして、これはかなり参考になるのではないかと思っております。したがいまして、審査基準の見直しにおいても、両面から「設計変更」を基礎づける評価根拠術とともに、「設計変更」を越えて技術的意義を有することを根拠づける事実というものをできるだけ類型化して載せていただきたいと考えております。

最後に、先ほど山口様もお話になりましたけれども、動機づけの4つのファクター――私は今ファクターと申しましたけれども、これがファクターであるのか、それとも完結した要件であるのかということも記載からは必ずしも明らかではないことになりますし、アンド条件なのかオア条件なのかということも必ずしも明らかではない。その関連、優先順位、重みづけを明らかにしていただけたら、今後、さらに円滑なコミュニケーションに資するのではないかと考えております。

どうもありがとうございました。

中山座長

ありがとうございました。

審査基準の進歩性の点検について

中山座長

以上のプレゼンテーション、御意見を踏まえまして、事務局で議論のポイントをまとめておりますので、説明をお願いいたします。

田村審査基準室長

資料9の「進歩性に関する『特許・実用新案審査基準』の点検におけるポイント」というペーパーをごらんいただけますでしょうか。

まず「1.審査基準の点検における基本的な考え方」といたしまして、前回の会合で委員の皆様からいただきました御意見を整理させていただいております。

(1)として、審査基準の位置づけは「審査官の判断の指針」であるというところを一義的に持ってきて点検するということを御発言いただいております。

次に(2)として、「特許の質」を高める、安定させるという観点では、産業・社会等の変化に即した内容であるかどうかを点検し、即していないのであれば修正することが必要であるということでございますが、必要以上に改訂を行わないことも法的安定性の観点からは重要であるという御指摘がございました。

(3)として国際的な調和を図ること。これは当然必要ということでございます。

(4)の審査の予見性を高めるという観点も必要。

そして(5)として、出願人等が審査基準を利用しやすくするという観点も重要だという御発言をいただいております。

2.には、先ほど日本知的財産協会と日本弁理士会から要望をいただき、それ以外にもヒアリングでいただいた御意見をこちらに整理させていただいております。時間の関係もございますので項目だけ簡単に御紹介しますと、(1)裁判例の充実化、次のページにまいりまして(2)発明の認定の関係、これは本願発明の認定や引用発明の認定のところでございます。(3)として判断における留意点、これは後知恵防止の記載が必要かどうか。そして(4)は、ここが一番重要になってまいりますが、論理づけについてということで、「設計事項」とか「動機づけ」のところについての御意見がございました。そして(5)拒絶理由に対する反駁関係、(6)国際関係、(7)基準策定関係、(8)品質・運用、(9)その他、(10)進歩性のレベルについて等の御意見をいただいております。

このような御意見を踏まえまして、3.では既に特許庁で行っている取り組みについて整理させていただいております。

(1)は三極における審査実務の調和。先ほど御説明させていただきましたように、日・米・欧の三極特許庁プロジェクトにおいて進歩性に係る比較研究を行っておりまして、本年度は新規性に関する比較研究を行う予定でございます。今後はビジネスの観点で重要になってまいります中国や韓国も含めた審査実務の比較研究もさせていただきたいと考えております。

(2)は産業界の参画による納得感のある審査基準の改訂ということです。従来から弁理士会、日本知的財産協会をはじめとしてユーザーの皆様方の御意見を伺わせていただき、パブリックコメントもとって審査基準の改訂をやらせていただいておりましたが、今後はそれに加えて当専門委員会からも御意見を伺いつつ、納得感のある基準改訂をやらせていただくという方向にあろうかと思われます。

(3)は品質監理の充実です。2年ほど前に品質監理室を設置させていただきましたが、個々の審査官が審査基準に齟齬することなく適切な審査を行っているかどうかというところを現実にチェックさせていただいておりまして、今後もここを充実していきたいと考えております。

次のページにまいりまして、4.のユーザーの要望に基づいて特許庁が改善策を検討すべき事項でございます。

(1)裁判例の充実としては、現在審査基準で引用されております裁判例の中には古くなったものもあると思われますので、そのアップデート、さらに、御指摘ございましたように審査基準の中で引用されている裁判例はどちらかと言うと特許性を否定する裁判例が多いので、肯定するような裁判例も参考にさせていただきたいと思います。しかしながら、知財協からも御指摘がございましたが、裁判例を引用する場合には射程を十分見極めてやらせていただかないといけませんので、射程がはっきりしないことから審査基準に引用されないような裁判例については参考資料として公表させていただくなど、審査官あるいはユーザーが参照しやすいような環境を整えることも必要かと思われます。

(2)として審査基準及びその関連情報へのアクセス性の向上です。昨年度行われた「イノベーションと知財政策に関する研究会」において、審査基準の可視化・構造化を進める、例えばハイパーテキスト化等を行うことが提言されました。特許庁ではこの提言に沿いまして審査基準のハイパーテキスト化を準備しているところですが、本日御指摘がございましたように、例えば審判部で行われた進歩性検討会報告書等へのリンクも考えたいと思いますし、審査基準を明確化する際には、基準の本文自体をいじらないまでも、出願人や経験の少ない審査官等に対して審査基準を明確化するような関連情報もIT技術を使って公表するようなことも検討していきたいと考えております。

5.は「今回の審査基準専門委員会で検討が必要と思われる事項」としておりますが、事務局から提案させていただいている点が5点ほどございます。

1点目が進歩性のレベルでございまして、先ほど特許率について三極の比較を御説明させていただきましたが、日本での特許率は平成12年(2000年)の基準改訂以後、ここ数年は50%前後で安定して推移している。一方、アメリカでは特許率がここ数年非常に落ちてきて、日本の50%をさらに超えて45%近くまで下降している状況ですし、ヨーロッパも50%ぐらいまで下降してきています。こういう状況を踏まえまして、日本の経営者層からは、パテントトロール等を考慮して進歩性のレベルを高くしてはどうかという御提案もございますが、実際の実務にかかわられている皆様からは日本の進歩性のレベルは既に十分高いという御意見もありますので、進歩性のレベルをどのようにすべきかというところを点検のポイントとして挙げさせていただいております。

2点目は後知恵防止でございます。弁理士会さんから御提案がございましたように、いわゆる後知恵防止のための記載を審査基準に追加すべきではないかという御要望があろうかと思われます。これについては実際の審査基準を見ていただきたいのですが、お手元の参考資料1に審査基準がございます。こちらは新規性と進歩性が一緒になっていますが、進歩性の基準は12ページから始まっています。

13ページの下のほう、2.4に「進歩性判断の基本的な考え方」という項目がございます。そこの(1)に「進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。」とございます。ここが進歩性判断の基本でございまして、「論理づけ」ができるかどうかということを検証する際に、当業者さらには「出願時」の技術水準を的確に把握してやる。

さらに、そのちょっと上ですが、2.2の(2)に当業者の定義がございます。2行目に「出願時の技術常識を有し、」とありまして、さらに3行目の後ろのほうに「出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者」とありますが、いずれも審査基準の中には「出願時」という言葉が何度も出てまいりまして、進歩性の論理づけをやる際には、審査官も「出願時」の頭になって、本当にそれが簡単にできたのかどうかというところを考えていただきたいということが書かれてございます。したがいまして、そういうところを見ていただいて、後知恵防止は十分に効果があるのかどうかというところが2番目の点検ポイントになろうかと思われます。

そして3番目の点検ポイントといたしましては、最適材料の選択・設計変更等についてでございます。こちらのほうは参考資料1の14ページ、「2.5 論理づけの具体例」として書かれていまして、(1)として「最適材料の選択・設計変更、単なる寄せ集め」という項目がございます。そして(2)として「動機づけとなり得るもの」ということで、(1)と(2)に分けられています。もともとは(2)の動機づけのところを進歩性なしの論理づけの主たる観点としていましたが、2000年の基準改訂において、「動機づけ」というところに至らなくても、(1)の最適材料の選択・設計変更とか単なる寄せ集めの場合は、「論理づけ」ができたとして進歩性なしというふうに判断してもよろしいと明確化されました。

どのような場合かと言いますと、基本的には相違点が些細なものである場合が(1)に当たりまして、弁理士会さんから御指摘のございました「設計変更」については、(1)の1)に「一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更などは」というふうに書かれています。この辺を適用する際の条件を明確にしていただきたいという御要望かと思われますが、今読みましたように、審査基準の中には「一定の課題を解決するために」と書かれています。この「一定の課題」とは、当業者が本願の出願当時に知り得た「一定の課題」――例えば携帯電話ですと、携帯電話をコンパクト化するとか軽量化するとか、当時の当業者が意識するような一般的な課題が相違点という場合に限って、この辺を適用するというふうに通常は読んでいると思われますが、この辺についても現行の基準でそういうふうに解釈できるかどうかというところを点検のポイントとしていただければと考えています。

4.の論点といたしましては、参考資料の14ページの下のほうに「(2)動機づけとなり得るもの」とございます。ここは相違点が些細なものではなくて、むしろ主引例と副引例、その両者をしっかり組み合わせることができるかどうかを判断する際に、根拠となるものとしてどういうものがあるかということが1)から4)まで書かれていまして、「1)技術分野の関連性」、そして15ページの中ほどになりますが、「2)課題の共通性」、そして16ページの中ほどより下になりますが、「3)作用、機能の共通性」、そして16ページの下のほうにあります「4)引用発明の内容中の示唆」、この4つの観点で動機づけをやっていくことができるということでございます。この辺の4つの観点をどのように適用していくのか、その辺の優先順位づけがよくわからないという御指摘もあったように考えられます。

審査基準では、例えば「1)技術分野の関連性」、14ページの下から3行目、「関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、」と書いてありますように、「技術手段の適用」という具体的な書き方をしてございます。一方、2)の「課題の共通性」や3)の「作用、機能の共通性」のところは、「引用発明を適用したり結び付けて」という書き方をしておりまして、「技術手段」という書き方はない。

例えば携帯電話を例にとりますと、ユーザーの方の音声を電気信号に変換するような技術的手段が一まとまりあって、それ以外にも例えば電気信号を通信基地に送受信するような技術的手段があろうかと思いますので、そういうまとまりのある技術的手段同士を組み合わせていくようなケースについては「技術分野の関連性」というところで組み合わせができる。すなわち、携帯電話と関連するようなトランシーバーの技術分野であれば電気信号を送受信するような技術的手段を適用していけるのではないか。しかしながら、一つの技術的手段の中のパーツとパーツを組み合わせるような部分については、技術分野という観点ではやってはいけないのではないか。そういう技術的手段の中のパーツとパーツを組み合わせるようなところは、むしろ「課題の共通性」とか「作用の共通性」を問うのかもしれないというような解釈をさせていただけるのではないかというところです。この辺の解釈でよろしいのかということと、この基準から読めるのかというところを点検のポイントにしていただければと思っております。

最後の観点は意見書等で主張された効果の参酌でございまして、審査基準の中には、「明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない」という記載がございます。こちらは参考資料1の18ページ、「2)意見書等で主張された効果の参酌」のところですが、前半部分の当初明細書から推論できるような効果は進歩性の判断のときに参酌するということはもともとございまして、それを裏腹に書いたような記載が最後の「しかし、」以降で、こちらは2000年の基準改訂の際に入れられたところでございます。ここについては、2000年に入れた趣旨がこれでよかったのかどうか。あくまでも先願主義をとっておりますので、出願当初の明細書の記載を尊重いたしまして、そこから推論できるような効果についてだけ意見書等での反論で参酌するというような記載になっているところが、これでよろしいかどうかというところを点検していただければと思います。

以上でございます。

中山座長

ありがとうございました。

自由討論

中山座長

それでは、まずは事務局が挙げました5つの点検ポイントにつきまして、順に御意見をちょうだいしたいと思います。その後、時間がありましたら、それ以外の点につきましても御意見をちょうだいしたいと思います。また、きょうは小西様、山口様にもいらしていただいておりますので、自由討論で実務的な意見をちょうだいできればと思っております。よろしくお願いいたします。

なお、次回も進歩性についての議論をする予定でございますので、積み残しがあれば次回に回したいと思います。

それでは、まず進歩性のレベルについて御意見をちょうだいしたいと思いますけれども、どなたからでも結構でございます。何かございましたら、お願いいたします。

永井委員、どうぞ。

永井委員

きょうは竹中先生から大変有益なお話をお伺いしまして、ありがとうございました。また、知財協及び弁理士会からもいい御提言をいただきまして、大変ありがたいと思っております。

進歩性のレベルの問題についての話をする前にちょっと印象を申し上げますと、審査基準の見直しをすることについて、知財協は、全体的・総合的な観点、国際的な観点等を考慮しながら、あるいは実務界の意見も聞きながらという方法論的なことが提言されておりました。その中で、裁判例の補充ということも議論されておりましたが、裁判例については、御指摘のとおり、射程距離という非常に難しい問題がありますし、そこらあたりの整理の仕方が難しいなという印象を持ちました。

それから、弁理士会の御意見の中に、裁判所の審決取消しの判断においては、論理づけよりもむしろ事実認定の問題が多いとありましたが、実感としてそういう印象を持っています。なぜかと言うと、これは論理づけに結びついている議論ではあるのですが、引用例の認定といっても、どこを取り上げて認定しているのかというと、実は既に一つの評価に基づいて認定作業を行っている。論理づけとのフィードバックをしなければいけない部分があるので、本願発明あるいは本件発明の要旨認定の場面でもそうですし、引用例の認定においても、やはり何かの選択をしている。審決でやや一方的に整理し過ぎた、あるいは見落としたということで、結果的には事実認定のところで間違っているとして、もう一度特許庁できっちり整理し直したほうがいいと判断したことが多くございます。ただ、これが論理づけと無関係かと言うと、常にそれを念頭に置いた議論なわけで、裁判所としては、審決の事実認定に基づくと論理づけの前提が違ってくるのではないかということでやっていたのではないかなという印象を持っております。

そういう印象論は別にいたしまして本題に戻りますと、進歩性のレベルを変えるかどうかというのは、審査基準の問題としては非常に難しいのではないか。根本的な議論、判例との整合性その他も含めて、審査基準を動かすことによって進歩性のレベルを変えるというような発想自体は、慎重であったほうがいいのではないか。現在の日本の審査基準はそれなりによくできている部分があるなと思います。もちろん個別的に指摘されている点は別にいたしましても、それなりによくできている審査基準ではないかと思っておりますので、進歩性のレベルをどうこうするという趣旨から検討するという発想ではなく、むしろいかに使いやすいものにしていくかという現実論から議論していったほうがいいのではないかという印象を持っています。

前段で余分なことを申し上げましたが、とりあえずの感想として申し上げます。

中山座長

ありがとうございました。

それでは、中島委員、お願いします。

中島委員

私も永井委員の意見におおむね賛成でございまして、本日の資料から見ますと、裁判例が特許庁の結果と非常に安定した状態であって、諸外国もそれと同じような状況になりつつあるということから判断すると、今ある状態が安定しているのではないか。もちろん技術分野とか出願人の性質によって個別意見はいろいろあると思いますけれども、今回の段階で審査基準をあえて変えるということになると、また裁判所との考えも違ってくるというふうなことになりますし、今回はむしろ検討必要事項の(2)以下をきちんとして、使いやすいもの、納得感のあるものにすることが優先事項ではないかと思われます。

中山座長

ありがとうございました。

ほかに御意見がございましたら、お願いします。

野間口委員。

野間口委員

私も結論としては同じですが、最近の日本の状況、それから米国、欧州の動きを見ましても、むしろしっかりやっていただくべきは米国、欧州の取り組みではないか、日本は現状レベルを維持することで十分だろうと思います。

特許庁さんの資料9、審査実務の調和というところで三極の話がありました。審査レベルだけではないのでしょうが、非常によくやっていただいていると思います。また、「中韓を含めた」とありますけれども、日本の特許庁はこういうことを真摯に取り組んでいるのだということを中韓の当該部門にも知らしめるような、協調的動きをやっていただきたいと思います。

中山座長

その点、何かございますか。

南特許技監

野間口委員から御指摘いただいた中韓特許庁への取り組みですが、我々は既に先ほど御紹介した三極特許庁プロジェクトでいろいろな比較検討をやっていますが、同様に日中韓の特許庁の会合を持っておりまして、そこでも同様のことをやることで合意しております。そういう取り組みを通じて、お互いの審査実務の一致点・相違点をあぶり出して、調和に向けて取り組んでいきたいと思っております。

中山座長

それでは、竹中委員、どうぞ。

竹中委員

アメリカの立場からお話しさせていただきますと、アメリカの場合、審査基準といいますか、特許性の基準をつくっているのは裁判所でありまして、例えば今回御紹介した審査基準に示されたUSPTOのKSR事件の判断の解釈もあくまでもUSPTOの見解でありますので、アメリカから来た者としては、先ほど永井委員から御指摘がありましたように、特許庁の基準で進歩性のレベルを変えていくということには非常に違和感があるなと考えております。

それから、この中でパテントトロールのことが述べられていました。もちろんアメリカの裁判所に訴えられて問題になることはあるかもしれませんが、日本の場合、特許権者が勝訴する確率が他の国と比べて非常に低いですし、また訴訟費用も非常に低いので、日本に特許権に関連してパテントトロールの問題を心配する必要はないのではないかという印象を持っております。

中山座長

ありがとうございました。

片山委員、どうぞ。

片山委員

先ほど竹中先生からお話がありましたが、ある時期の日本の裁判所における特許の無効になる率、無効だから権利行使ができないという率は、もちろん年によって大分変動はするわけですが、数字から見るとかなり異常な数値ではないかという感じがします。その原因がこの場で議論している審査基準の問題なのかと言うと、それは多分そうではないのだろうなという気はするわけですが。

ただ、一国の産業政策について進歩性のレベルは非常に大きな影響力を持つだろうと思いますので、それの第一次的な方向性とか案といったものはやはり行政庁でつくってしかるべきではないだろうか。そこまで司法に任せることでなくてもいいのではないかという感じがします。そういう意味で、率が変わってくるかどうか、ウォッチを続けていただきたい。特許庁のほうではある意味で安定しているので、そういう意味では問題ないかもしれませんが、その特許が上へ行って取り消される率がどうなっていくのかといったことをウォッチしていただいて、さらに行政庁としての何らかの発信――逆に言いますと裁判所に対する発信かもしれませんが、そういうことをしていただくようなことも考えていただいたらいいのではないかと思います。

中山座長

確かにウォッチは大事で、安定期に達する前の事件が今ごろ裁判所に行っている件も多いわけですから、確かにウォッチしていかなければいけないと思います。ありがとうございました。

それでは、途中で御退席される予定なので、まず榊委員からお願いします。

榊委員

私は学術世界におりますので特許のことはやや疎くて筋違いのことを申すかもしれませんが、進歩性に関しては、学術論文の場合を例に見ますと、御承知のとおりに幾つかランクのある学術論文があって、かなり高い価値がない限り、掲載を認めない論文誌と、そこそこ価値があると掲載を認めて幅広くやるものとの分業になっています。特許は唯一ですので、そういうオプションがないわけですね。そういう意味で、進歩性があるかないかは、グレーな部分での線引きをどこに設定するのかということにかかっているのだと思います。

その際に、事務的に対処できる上限の数や、あるいは国の産業政策の観点から、採否の線の高低が決定されると思います。学術論文の世界では、近年、中国の論文がものすごい速さで数が増え、質も平均値が上がってきているということです。今後の対応の中で、中韓を視野に入れていろいろな取り組みをされることは重要だと思いますが、「アジアの盟主」的に振る舞うのが良いか、発展途上で膨大な人口を抱えているという要素を考慮して、立場の違いを十分に考慮した対応をするのか、十分な検討が必要と思います。筋違いであったかもしれませんが、コメントさせていただきました。

中山座長

ありがとうございました。

それでは、長岡委員、お願いします。

長岡委員

進歩性の基準は、最初に御説明がありましたように、意図するかどうかは別にして特許の質にかなり大きな影響があるということは確かですし、それが結果的にイノベーション、どういう目的で特許を取るのか、どういう目的で研究開発をするか、そういったこと自体にも非常に大きな影響があると思っておりますので、そういう意味で非常に重要な問題です。

ただ、現状の水準から更に高めるべきかどうかということを知るための十分な実証的なデータはなかなかない。そして、先ほど委員長も指摘されましたように、裁判所と特許庁の判断のずれ自体の原因も必ずしも十分にわかっていないということですと、実証的な研究をもう少しきちんとやることが先決だと思います。そういう意味で、日本は審査基準が変わったことでかなり大きな影響が出ていると思いますし、米国も最近大きく変わったということで、それが一体どういう影響をもたらすのかということについて、十分に研究をし、ウォッチする必要があると思います。

それから、特許の質はベンチャー企業を支える資本市場の育成の観点からも非常に重要です。特に先端的な企業等がベンチャーで参入してくる場合にも、特許を持っていることが非常に有効なシグナルとして資本市場に機能するといったことも非常に重要ですから、そういったことも含めて、特許の質のコントロールがイノベーション促進の観点で非常に重要で、進歩性というのが非常にクリティカルな役割を果たしているということだけ申し上げたいと思います。

中山座長

ありがとうございます。

ほかによろしいでしょうか。

皆様の意見を伺っておりますと、法的安定性の観点等から審査基準の改訂によって審査レベルを変更するということ自体につきましては、どうも否定的な方が多かったように思われますので、今回は審査基準の変更によって進歩性のレベルを変更すべきではないという結論でよろしいでしょうか。もちろん、先ほど室長がお話になりましたとおり、ハイパーテキストを使うなど基準外でいろいろ見る人にとってわかりやすくすることはできると思いますけれども、基準自体は一応進歩性については従来どおりということで、よろしいでしょうか。

〔「はい」の声あり〕

中山座長

ありがとうございます。

それでは、次に後知恵防止について議論をしていただきたいと思います。この点につきまして、御意見がある方、お願いいたします。

中島委員、お願いします。

中島委員

いろいろな要素から判断しますと、後知恵防止ということを明記することが必要だというふうに思われます。

2000年の改正前には明記されていたことでもありますし、裁判の判例でも後知恵はいけませんということが明記されて出ているわけでございます。それから、アメリカ、ヨーロッパでも、それが明記されている。そういうことになりますと、全体の記載を寄せ集めれば当然後知恵防止ということが判断できるということではなくて、先ほどのプレゼンにありましたように、審査をする段階で頭を過去に切りかえなければいけない、特殊な操作をするためにはそういうことが明記されていることが必要だと思われる。

そういう観点から、材料がそろえば全部あとは完成しますというふうな考えではなくて、開発時点・研究時点での立場に積極的に立ちなさいということを知らしめる、思い起こすということが審査の現場では大変重要だと思われますので、これは2000年より前のように、もう一回、明記されることが必要だという考えでございます。

中山座長

室長から話がありましたように「出願時」ということは書いてありますし、裁判でも後知恵はだめだと述べられておりますし、どの教科書を見ても後知恵はだめだとか、「コロンブスの卵」はだめだとか、あるいは吉藤先生の本を読みますと、種明かしを見て手品を見るようなものだから気をつけなさいとか、ありとあらゆるところに書いてあって、皆その意識は持っているけれども、それでもなおかつ必要だと、こういう話でしょうか。

中島委員

そうですね。現状の審査基準はいろいろ説明がありましたように裁量の余地が非常に広い、行間が多いという意味で、ベテランの審査官には大変有用で適用しやすいものだと思いますが、最近の事情を見ますと審査官の数も増えたり任期つきの方も大分増えてきている。そういうことになりますと、上級の審査官に聞かなくても自分で見た範囲ですぐわかるような基準が必要ではないか。我々実際に実務をやっている段階からしますと、そういう点を非常に多く感じるというのが日常の実務でございます。

中山座長

ほかに御意見はございますか。

竹中委員、お願いします。

竹中委員

ちょっと質問も入っているんですが、日本の場合、先ほど弁理士会のプレゼンテーションの中では、主引例を決めて、そしてヨーロッパと同じような課題から論理づけをつくるという御指摘がありましたけれども、ヨーロッパのProblem solution approachの場合、主引例、最も近い引例を決めた後で客観的な課題を書き直すといいますか、reformulateするんですが、そのときに特に技術課題の中に発明の解決手段も誤って入れてしまう。そこのことによって後知恵を使いやすいということもあって、強調して後知恵は使ってはいけないのだということを審査基準で強調しているんですが、もし日本も同じように主引例を使い、技術課題を明細書とは別に書き直すようなアプローチをしているのであれば、アメリカのアプローチよりもさらに後知恵を使いやすいフォーミュレーションであるので、したがって、ヨーロッパ特許庁と同様、後知恵防止ということを明記することが必要であろうということと、KSR判決においても最高裁は後知恵防止について言及していますので、3庁の統一という点でも入れておいたほうがいいのではないかと思うわけです。

中山座長

ほかに御意見がございましたら、お願いします。

野間口委員。

野間口委員

私も90%までは入れるべきだと思うのですが、若いころに多くの特許を出した立場で言いますと、出願した時点と審査していただく時点、争う時点で技術も変わりますし、環境も変わる。そうすると大変おもしろい後知恵が出てくるときがあるのです。恐らくそういうものに審査官の方が動かされるので、至るところで後知恵の問題はこう扱うということが記載されていると思うのです。先ほど先生方がいろいろなところに記載されているとおっしゃっていましたが、後知恵というものはそういう悩ましい点を持っているということも踏まえて、どうするか考えるべきだと思います。中小企業等では常にこういう問題が出てくるのではないか。それをどこで救うか、インセンティブをつけて元気づけてやるか、その辺で何か要るのではないかと思います。知財協や私のおりました三菱電機の知財担当でしたら、恐らくお二方がおっしゃったように後知恵防止を明記すべきとの意見だと思うのですが、昔の経験を踏まえますと、そういう悩ましい点もある課題だということを考える必要があると思います。解決でも何でもないのですが。

中山座長

片山委員、どうぞ。

片山委員

審査基準を一から書くのであれば今までおっしゃった先生方と同じ意見ですが、これは前回の改正で削ったわけですね。それで、これが直接の原因かどうかはわからないけれども、かなり進歩性のレベルが変わった。インパクトがあったということですね。今回それをまた変えるということで、メッセージとして進歩性のレベルをどう持っていくのだと受けとられるかということが問題ではないでしょうか。この場のマジョリティが進歩性のレベルは特許庁の審査としては現状でいいのではないかということであるとすると、容易に変えることには、ちょっと躊躇を覚えます。ただ、先ほど申し上げたとおり、一から書くのであれば、確かにあったほうがわかりやすいだろうと思います。

中山座長

基準は法ではないのですが、法改正の場合、文言を変えるとどういうメッセージを与えるかということは十分考えなければいけないことだろうと思います。

前回の改訂でこの部分を抜かした理由はどういうところにあるんですか。

田村審査基準室長

ここを特記しなくても全体を読めば後知恵防止になっているということで、整理した。意図的に削除したというよりは、ほかの部分と込みで、後知恵防止というところは当然のフィロソフィーとしては残っているという整理だったかと思われます。

中山座長

野間口委員、どうぞ。

野間口委員

室長がおっしゃったことで十分ではないかと思います。後知恵が次から次へと出てくるのは防衛しなければいけないのですが。そういう気がいたします。

中山座長

ほかに何か。

永井委員、どうぞ。

永井委員

裁判所にいるときに先輩からよく言われてきたことですが、君らは理工系ではないし本当はわかっていないだろうという話から始まって、今の技術水準から見ると、常識的といいますか、こんなものは当たり前じゃないかという発想になりがちだから、意識して「出願時」であるということを十分銘記しようと言われました。

ではどうすればいいんですかということになります。先輩からも言われましたし、私も現在感じていることなんですが、その技術分野における当該発明の技術的な歴史的進歩を少しうまく説明してもらえるとわかりやすい。歴史的な推移みたいなものですね。それがわかると、文化系の人間でも、なるほど、そういういろいろな問題点があったんだと理解できる。引用例との関係だけではなくて、技術の流れといいますか、全体的な動向といいますか、そういうことがわかると、やはり当時においてはそれなりの難しさがあったんだということが理解しやすい。引用例だけで対比すると非常にわかりにくい。けれども、簡潔的にでも現在までの流れみたいなものを説明していただけると、なるほど、よくわかったということがあります。そういう意味からすると、後知恵防止ということを書くかどうかというより、むしろそういった流れの中で判断するような、何かそういう意識が出るような書き方があるのではないかという感想を持っております。

中山座長

ありがとうございます。

山口さん、どうぞ。

山口参考人

後知恵に関しては、実務者の立場からしても、3年ぐらい前、進歩性が厳しくなったときは、我々も後知恵はけしからんということで、何とか後知恵を排除するような方向に持っていけないかと考えたんですが、今、はたと冷静に考えてみますと、先ほど片山先生が言われたように、振れ幅の問題等がございます。

それから、一番気になるのが言葉の問題です。「後知恵」と言うと後づけの知恵ですから、どうしてもイメージとして、「非常に悪いこと、悪いことは当たり前でわかりきっている」と。しかし、現場の審査官は、審査において後で論理づけするということで、実質的に事後分析をされているわけです。これがいけないと言ったときに、では具体的に何が事後分析であって何が事後分析ではないかということになると、結局はその論理づけの手法によるところだと思うんですが、「こういった手法をとったら、それは後知恵ということで悪いほうに判断される。だけど、これまでは許容される」、結局はそこら辺まで具体的な論議に落としていかないと、現場の審査官や出願人のほうも混乱してしまう。結局出願人としても「それは後知恵だ」というふうに反論することも見えてしまうのですが。そこら辺は、まずいケース、いいケースの具体的な事例を集めて、まずは現状認識をされるところから始める。そして、もし必要であれば改訂ということに結びつけていく必要があるのではないかと思います。

中山座長

ありがとうございます。

小西さん、どうぞ。

小西参考人

追加的に申し上げることは山口様のお考えに近いと思いますが、後知恵防止というのはあくまでも目的ですので、目的をそのまま目的条項として記載していただきたいということよりは、むしろそれぞれの判断基準の中に後知恵が入りがちな点について、それを排除するような具体的な仕組み、システムを基準に生かしていただきたいというのがお願いでございます。発明というものは一たんでき上がってしまうと、しかも人のつくったものは何でも簡単に思えてしまうというのが世の常でございますので、そこの点はお忘れいただきたくないということですけれども、それは具体的な基準の中に生きていればよろしいと考えております。

中山座長

後知恵というのは、一回種明かしを見てしまった後に手品を見ると、幾ら注意したっておもしろくは見えないというのが人間の常でして、どんな条文を書いても難しいことは難しいと思いますが、基準を変えるべきという御意見もございましたし、あるいは、基準は現状のままでも先ほどのハイパーテキスト化等で補充的な資料をつけ加えるとか、現状をもっと分析するとか、あるいは、これ以降で議論をテーマの中で、いろいろな要件・基準がありますから、その中で手当てをするとか、いろいろな意見が出ました。きょうは時間の都合でこれぐらいにしたいと思いますけれども、きょうの各委員の御意見を踏まえまして次回までに取りまとめをお願いしたいと思います。そういうことで、この問題はよろしいでしょうか。

課題が山積しておりますが、時間が来てしまいました。これ以降の点はこの次に議論をしたいと思いますけれども、きょう特にこの点について発言しておきたいということがございましたら、お願いします。

野間口委員、どうぞ。

野間口委員

竹中先生から始まりまして、知財協、そして弁理士会とお三方の報告を聞きまして、大変勉強になりましたし、すばらしいレクチャーだったと思います。それに対して特許庁のほうで検討すべき項目を5点にまとめていただいたのですが、お三方から見て、この5つの論点でいいのかどうか。こういうものを付け加えたらどうかということがありましたら、提案してもらったらどうでしょうか。5点の項目が非常にうまく整理されているものですから、そう思いたくなりました。

中山座長

わかりました。

では、時間の関係もありますので、3先生には、もしございましたら事務局のほうにペーパーを提出していただければと思います。よろしくお願いいたします。

ほかに、この際ぜひ言っておきたいことがありましたら、お願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

その他

中山座長

それでは、最後に、今後のスケジュール等につきまして事務局からお願いいたします。

田村審査基準室長

本日はどうもありがとうございました。

次回の審査基準専門委員会は、6月30日の火曜日、13時30分から、こちらの特別会議室で予定しておりますので、よろしく御参加をお願いいたします。以上でございます。

中山座長

ありがとうございました。

それでは、以上をもちまして第2回審査基準専門委員会を閉会いたします。

本日はどうもありがとうございました。

閉会

[更新日 2009年4月30日]

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