平成12年8月
総務課企画調査室
第1章 総論
1. はじめに
近年における世界的な環境保護意識の高まりのもと、経済活動と環境保全の両立が、今後ますます要請される状況である。
OECD特別専門委員会は、1994年よりバイオテクノロジーを応用した環境関連技術に関しての検討を継続的に行い、このほどその報告書が「バイオテクノロジーと21世紀の産業」としてまとめられた(日本ではバイオインダストリー協会の編訳として出版されている)。報告書の要旨は以下の通り。
(1)21世紀は持続可能(sustainable)な工業の発展のために、環境調和型技術が要求される時代。
(2)今後は、レメディエーション(汚染修復技術)ではなく、プリベンション(汚染をひきおこさない製造プロセスと製品)が特に重要。
(3)バイオテクノロジーは、上記の目的に最適な、環境調和型のクリーンテクノロジー。
(4)環境破壊が問題になっている化学、医薬品、紙、パルプ、織物、皮革、食品、飼料、金属、鉱物、エネルギーなどの分野を中心に一層の発展を期待。
このような潮流を受け、当該分野の特許出願状況を世界的な観点から把握するとともに、出願の底流となっている技術動向の推移の確認、当該技術の対象となる市場の認識、企業活動および研究開発活動の状況把握等を有機的に関連づけることが有用と考えられる。
2. 調査対象分野
「バイオテクノロジーの環境技術への応用」は、
(1)生物由来資源を原料として利用するなどして、環境負荷が少ない方法で製品を製造する。
(2)従来の製品を、生物由来資源を用いた環境負荷の少ない製品で代替する。
(3)汚染された環境を、生物および生物由来物質を用い浄化修復する。
というきわめて広い概念を包含しているが、全体を21の注目技術分野に整理し、調査を行った。注目技術の一覧を表1-1に示す。
表1−1:「バイオテクノロジーの環境技術への応用」注目技術
①製造方法・製品に関するもの:プリベンション技術として重要

②資源に関するもの

③環境浄化修復に関するもの

④情報処理に関するもの:プリベンション技術として重要
3.出願動向
3.1 全出願件数推移
世界的にみた本分野の出願件数推移を図1-1に、日本の出願件数推移を図1-2に示す。
全般に件数が多いのは有機物質およびその製造方法についてであるが、最近はバイオインフォマティクス関係等、出願が急増している技術がいくつかあることも認められる。
図1-1 全出願件数推移(範囲:世界,DB:WPI)

(注意)WPIはFamily出願があるが、Basicの出願を1件としてカウントした。
図1-2 全出願件数推移(範囲:日本、DB:PATOLIS)

(注意)
日本において96年以降出願数が見かけ上減少しているのは、PCT出願がデータに反映されていないため。PATOLISは日本の公開公報をベースにしているので、日本で再公表されるのに時間がかかるPCT出願のデータが反映されない傾向にある。
3.2 日本に対する出願比率
全世界の出願に占める日本に対する出願比率を図1−3に示す。
技術全体では日本出願は世界の約4割を占めている。
個々の技術により、日本出願比率にはかなり差があることが判る。すなわち、製造方法、製品、環境浄化に関するものは平均的な比率で日本出願がなされているが、資源に関するものは低めである。特に、強化原油回収や金属抽出に関する出願が少ないのは、資源小国である等の日本の国情が示されていると云えよう。さらに、情報処理技術であるバイオインフォマティクスについては日本出願の比率も著しく低く、この分野における日本の立ち遅れ状況を明瞭に示しているものと思われる。
また、分離技術、水の多段階生物処理等、プロセス工学に関する出願も日本は低めである。
図1-3 日本に対する出願比率

(注意)
PATOLIS出願件数/WPI出願件数で算出。ただし、WPIのbasic特許は、平均1.4件のprimary出願が含まれることから補正。
第2章. 各論
1.はじめに
全体の中から特に重要な技術分野と考えられる個別技術を抽出し、それぞれにつき特許出願状況、技術動向、市場動向、企業動向等の調査を詳細に行い、またこれらを解析して将来予測を行った。抽出にあたっては、各テーマの技術や市場の成熟度等を考慮して、できるだけバラエティを持たせるように心がけ、結果として以下の4テーマを選定した。
(1)有機物質の製造方法
①1,3-プロパンジオール
②アクリルアミド
③抗生物質中間体(特にセファロスポリン、ペニシリン関連)
(2)製紙関連技術
(3)バイオマスエネルギー(特にバイオマスエタノール)
(4)汚染土壌のバイオ浄化(バイオレメディエーション)
2.調査結果
各テーマ毎の調査結果の概要を表2-1にまとめた。参照すべき図表の番号が適宜示されているが、これは次節の「3.参照データ」に掲載されている。
| テーマ | 背景 | 現状と将来展望 | |
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①従来法での大量の廃棄物発生が問題。 ②触媒の適合性が必要。 ③少量高品質の生産(コスト低減による競争がおきない)
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3.参照データ
各テーマ毎に、調査結果を把握する上で有用と思われる、技術概要、特許出願動向、市場動向等に係るデータを参照データとして提示した。
(1) 有機物質及びその製造方法
① 1,3-プロパンジオール(PDO)
表2-2にバイオ合成法によるPDOの製造関連特許件数をまとめた。

②アクリルアミド
1978年以降1997年までの特許出願の原出願地別の年次別推移を図2-1に示した。原出願地は日本、米国、欧州、その他の4つに分類した。20年間の総件数は116件である。
図2-1 原出願地域別の出願件数推移

③抗生物質中間体
現代の多くのセファロスポリン系、ペニシリン系抗生物質は、微生物により得られた天然型抗生物質から共通の中間体を製造し、これを原料として化学的に合成操作を行って得られる。共通中間体として重要なものは次の4種である。
6-アミノペニシラン酸(6-aminopenicillanic acid、6-APA)
7-アミノセファロスポラン酸(7-aminocephalosporanic acid、7-ACA)
7-アミノデスアセトキシセファロスポラン酸(7-aminodesacetoxycephalosporanic acid、7-ADCA)
GCLE注
それぞれの構造を図2-2に示す。
図 2-2 βラクタム系抗生物質中間体
バイオ技術によるペニシリン、セファロスポリン製造関係の出願すべてについては、他の分野と異なり、欧州勢が強い。その年度別分布を図2-3に示す。また、出願人上位10人とその件数を表2-3に示す。
図2-3 原出願地域別件数推移
表2-3 上位出願人(1-10位)−全体−
7-ADCAのバイオ合成法の例として、DSM社(オランダ)と、同社に統合されたGist-Brocades社(オランダ)の合弁であるChemferm社(オランダ)が開発した中間工程に酵素を用いるCefalexin(7−ADCAの誘導体)の新しい製造工程の要旨を図2-13-14に示す。
この関連の特許出願として、PCT/EP94/2543(WO95/4148公報), PCT/EP94/2544(WO95/4149公報), PCT/EP96/2434(WO96/38580公報), PCT/EP95/3249(WO96/5318公報)等がある。

(2)製紙関連技術
紙パルプ産業において、バイオテクノロジーおよび酵素が利用され得る場面を大観すると、図2-5のようにまとめられる。
図2-5 紙パルプ産業におけるバイオテクノロジー

日米欧の出願件数の推移を図2-6に示す。また、どの技術が出願増に寄与しているかを示すため、図2-7に漂白技術についての各地域間における件数推移比較を掲げる。日本に関していえば、従来塩素系漂白剤の使用により水質汚染が問題化(90年AOX自主規制)したため、酵素利用が注目されその研究開発が進んだもとの見られる。
図2-6 出願件数推移

図2-7 対象別件数推移(漂白)

図2-8にバイオテクノロジーを用いた環境に優しい樹木の育種に関する出願の出願人のカテゴリー分布を示す。日本ではほとんど企業からしか出願されていない。特に大学関係からの出願の欠如が特徴的である。一方、米国においては大学が主導的な役割を果たしている。欧州においては民間企業からの出願もあるが、大学又は公的な研究機関からの出願が相対的に多い。
図2-8 出願人カテゴリー分布

(3)バイオマスエネルギー
エタノール製造工程の概略を図2-9に示す。
図2-9 エタノールの製造工程
図2-10に原地域別の出願地域選択動向を示す。
図2-10 原出願地域と他地域出願の選択傾向

(4)汚染土壌のバイオ浄化
農林水産技術情報協会の推定(1995年)による日本の潜在市場を表2-4に示す。
表2-4 日本の土壌浄化潜在市場

出典;農林水産技術情報協会、生物機能を利用した農林水産環境修復技術に関する調査報告書、p.256
(1995年における推定値)
ついで汚染原因別の出願件数分布を調べた。結果を図2-11に示す。
図2-11 汚染原因種別分布(延数)

各地域において大きな違いが見られる。日本では塩素系溶剤が主な対象であるが、米国、欧州では農薬等の有機化学品、重金属の比率が高い。汚染の実態が各地域でかなり異なっていることを反映しているものと思われる。日本出願に関し、経年的に整理した結果を図2-12に示す。
図2-12 汚染原因種別推移(日本) 延数

図2-13に塩素系溶剤に関する上位出願人の状況を示す。
図2-13 対象別上位出願人(塩素系溶剤)

機械・電気加工系のメーカーが上位に来ており、これらは自社の事業で使用する有機塩素系溶剤に関係する周辺領域への問題への対応を図っているものと考えられる。
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- 特許庁総務部技術調査課技術動向班
- 担当:千壽、田代
- 電話:03-3593-1101(内線2155)
- FAX :03-3593-5741
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[更新日 2001.1.6]