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特許から見た遺伝子組換え作物について(改訂版) ~ 遺伝子組換えイネを巡る状況 ~

平成13年1月

技術調査課

1.はじめに

(1)遺伝子組換え作物のメリット

世界の人口は2025年には83億人に達するものと見込まれており、現在の世界の食糧生産力では、この増加に追いつくことはできないと言われている。一方、作物の成育環境は地球温暖化による砂漠化・近年の異常気象などによって年々悪化しており、さらに先進国では農業従事者の高齢化が食糧生産力の拡大を阻害している。

このような中で、遺伝子組換え技術の作物への応用は、食糧生産性の飛躍的な向上を可能とし、人類が直面している深刻な食糧危機問題を解決するものとして期待されている。

また、遺伝子組換え技術の進展は、生活水準の向上に伴い多様化した人々の嗜好を満たすべく作物の味覚等を向上させたり、作物の医療分野への応用を可能とすべく特定の栄養価を高めたりアレルギー物質を少なくするなど、作物の品質向上に役立つといわれている。

(2)遺伝子組換え作物の課題

昨今、遺伝子組換え食品の安全性に関する議論が急速に高まりつつあり、我が国も国際世論の動向に対応し表示の適正化等を図っている。今後も、遺伝子組換え食品の安全性の確保と国民の理解の促進には十分に配慮することが求められるが、この問題を克服することができれば、遺伝子組換え作物は、上述のような大きな恩恵をもたらす可能性を秘めている。

(3)本調査の目的

ここでは、遺伝子組換え作物について、我が国の主食穀物であるコメを中心に、すでに商品化されているダイズ、トウモロコシの例を含めて、特許からみた技術的、経済的な分析を行うことにより、遺伝子組換え作物の現状及び今後の課題についてとりまとめた。

2.遺伝子組換え作物分野における米国の優位性

(1)米国の政策(参考資料1)

  1. バイオ産業の育成
    米国議会の技術評価局(OTA)は、1981年、84年および91年に報告書を発表し、農業分野を含むバイオテクノロジー産業の育成と国際競争力強化を提言している。
    これを受けて、米国政府は、農業バイオ技術の集中研究センター設置等の基礎研究基盤の整備、技術集約型新規事業への優遇税制等の政策を実施したが、この政策が、米国における遺伝子組換え技術発展の最大の要因となったと言われている。
  2. 規制緩和等による実用化の促進
    1986年に科学技術政策局(OSTP)、1991年には大統領競争力評議会がバイオテクノロジー安全規制の緩和を提言・勧告し、1993年には農務省(USDA)等の規制が緩和された。この結果、試験栽培許可件数が大幅に増加した。
    また、1996年の農業法により、農業生産にも市場原理が導入されるようになった。
    米国での遺伝子組換えダイズ、トウモロコシの例をみると、試験栽培後、比較的短期間で市場に普及している。

参考資料1

(2)米国市場の急速な拡大

規制緩和等の結果、遺伝子組換え作物の試験栽培が90年代前半から盛んになり、1996年頃から実際の生産が急速に拡大しはじめた。1998年には作付け面積でダイズの約50%、トウモロコシの約30%が遺伝子組換え作物になったと言われている。

ダイズ、トウモロコシ等の遺伝子組換え種子の市場は、特許権を有する欧米企業の寡占状態となっているが(参考資料2-1)、これは、90年代後半に米国の大企業がM&Aを積極的に活用し、ベンチャー企業等が所有する遺伝子組換え技術とその特許及び販売チャンネルを取り込むことにより急激にビジネスを拡大したためである。(参考資料2-2、2-3)

参考資料2の1

参考資料2の2

参考資料2の3

(3)米国特許の動向(参考資料1、3)

遺伝子組み換え作物に関する基本特許は1980年代に出願されている。代表的な技術としては、作物の細胞に外部から望ましい遺伝子を導入する遺伝子導入技術、遺伝子の持つ性質が作物に現れる度合いを調節する遺伝子発現調整技術、作物に病害虫や農薬に強い性質を与える表現型改変技術などがあるが、これらの技術に関する特許のほとんどは欧米の企業、大学が所有している。

1993年以降、遺伝子組換え作物に関する米国特許出願が急増しているが、日本からの出願は極めて少ない。

代表的な技術の例としては、次のようなものがある。

  1. 遺伝子導入技術
    • a)バイナリーベクター法(1983年出願;対応日本特許2003610号)
      有用遺伝子を土壌細菌の一種であるアグロバクテリウムに組み込み、その細菌の感染力を利用して有用遺伝子を植物細胞に組み込むアグロバクテリウム法の一種で、アグロバクテリウムのDNAのうち、植物細胞への感染力を有するDNAとは別のDNA上に有用遺伝子を組み込むことにより、容易に遺伝子導入を行えるようにした方法。
    • b)パーティクルガン(遺伝子銃)法(1986年出願;対応日本特許2606856号)
      有用遺伝子を金などの微粒子に付着させ高速で植物細胞組織に打ち込むことにより、簡単に遺伝子導入を行えるようにした方法。
  2. 遺伝子発現調整技術
    アンチセンス法(1983年出願;対応日本特許2651442号)
    遺伝子によるタンパク質の合成を抑制する作用を持つDNAを植物細胞に組み込むことにより、遺伝子の持つ性質が植物に現れるのを抑制する方法。実用化の例としては、日持ちの良いトマトなどがある。
  3. 表現型改変技術
    • a)BT毒素(1984年出願;対応日本特許2116547号)
      農薬として使用されているBT菌が産み出す殺虫性蛋白質の形成遺伝子を植物に導入することにより、害虫に対する抵抗力を強化した作物を得る技術。実用化の例としては、害虫抵抗性コーンなどがある。
    • b)グリホサート耐性(1985年出願;対応日本特許2615013号)
      除草剤グリホサートに対する耐性作用を与える遺伝子を植物細胞に組み込むことにより除草剤に対して強い作物を得る技術。実用化の例としては、除草剤耐性ダイズなどがある。

参考資料3

3.遺伝子組換えイネについての状況

(1)コメおよびイネの重要性(参考資料4)

コメは、我が国を含む世界人口の約50%の人々が主食としている重要な食糧資源であり、その生産地域も、中国、インド、東南アジア等広範囲にわたっている。

また、イネは他の多くの穀類と遺伝子の構造が類似しており、かつ、ゲノム(DNAの塩基配列)のサイズが比較的小さいため、穀類ゲノム研究の優れたモデル植物として重要視されている。

このため、世界各国の植物バイオ分野の研究者がイネゲノム解析やその機能解明に力を注いでいるところである。

参考資料4

(2)我が国の政策(参考資料5)

我が国においては、イネゲノムおよび遺伝子組換えイネに関する研究・開発の重要性に鑑み、1991年にイネゲノム計画が開始された。1997年には第2期イネゲノム計画が開始され、1999年にはバイオテクノロジー産業基本戦略が策定された。さらに、現在ミレニアムプロジェクトにおいてイネゲノム解析が推進されており、イネゲノムおよび遺伝子組換えイネの研究・開発に積極的に取り組んでいるところである。

参考資料5

(3)代表的技術

作物の遺伝子組換えを行うためには、細胞内に外部から望ましい遺伝子を導入する遺伝子導入技術、遺伝子の持つ性質が作物に現れる度合いを調節する遺伝子発現調整技術の確立が不可欠である。遺伝子導入技術としては、前述のように1980年代に種々の手法が開発されていた。代表的な技術としては、有用遺伝子を土壌細菌の一種であるアグロバクテリウムに組み込み、その細菌の感染力を利用して有用遺伝子を細胞に組み込むアグロバクテリウム法、細胞壁を取り除いた細胞に電圧パルスを印加して有用遺伝子を細胞の核内に入れ込むエレクトロポレーション法、有用遺伝子を金などの微粒子に付着させ細胞組織に打ち込むパーティクルガン法等がある。

これらの手法のうち、アグロバクテリウム法は、ダイズ等の双子葉植物に対しては有効であったものの、イネをはじめとする単子葉植物に対してはアグロバクテリウムが感染しないため遺伝子導入を行うことは困難と考えられていた。また、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法は細胞に損傷を与えるため、遺伝子導入効率が低かった。

1990年代になると、イネを含む単子葉植物の遺伝子組換え効率を高める技術が開発され、これに伴い従来の遺伝子導入技術の単子葉植物への応用に関する特許出願が増加した。

(4)日本特許出願の動向(参考資料5、6、7)

遺伝子組換えイネに関する日本特許出願は近年増加傾向にある。出願の7割は日本の出願人によるものであり、米国の出願人によるものは15%である。日本の出願人の内訳は大企業、国公立研究所であるのに対して、米国の出願人はほとんどが大企業である。

日本人はイネの遺伝子組換えに不可欠な「遺伝子導入技術」に関する特許(WO94/00977)を出願しているが、米国人も単子葉類に着目した「遺伝子導入技術」、「発現調整技術」に関する特許出願を多く行っている。

参考資料6

参考資料7

1.外国出願人の日本特許出願内容(参考資料8)

外国出願人の出願は、イネに限定したものは極めて少なく、イネ科植物を含む植物全体を対象とするものが多い。遺伝子組換えに不可欠な「遺伝子導入技術」、「発現調整技術」に関する特許出願が多いのが特徴である。

パーティクルガンをイネに応用した「形質転換された稲植物の製法」(特表平6-500474号公報)、エレクトロポレーション法をイネ科植物に用いた「単子葉植物細胞形質転換方法」(特表平7-505531号公報)等が出願されている。

  • b)品質改変技術
    栄養不足を補うためアミノ酸含有量を増加させる技術に関する出願が多い。
  • c)耐性・抵抗性改変技術
    トウモロコシ、ダイズ等と同様、イネに除草剤への耐性、害虫への抵抗性を付与する技術が出願されている。このように、外国人出願人の出願は、栽培に際しての労力低減を目的とする出願が多い。

参考資料8

2.日本出願人の日本特許出願内容(参考資料9)

日本出願人の出願は、イネ科植物に限定した技術が多いのが特徴である。

  • a)イネへの遺伝子導入・発現調整技術
    従来単子葉植物には感染しないとされていたアグロバクテリウムを用いた効率的、安定的な単子葉植物の形質転換方法が出願されている。(WO94/00977)
  • b)品質改変技術
    コメの味に大きく影響を与える含有デンプンの改良技術に関する出願が多い。
  • c)耐性・抵抗性改変技術
    寒冷地、乾燥地、日照不足等の過酷な環境でも育つような耐性・抵抗性を付与する技術に関する出願が見られる。

参考資料9

(5)米国特許出願の動向(参考資料10)

1993年頃から、イネを対象とした遺伝子組換え技術に関する出願が急増している。

出願人を国籍別にみると米国人が70%と多く、日本人は7%と少ない。

参考資料10

(6)国内・外国への出願状況(参考資料11)

米国出願人は、自国のみならず豪州、欧州、日本などへも数多く特許出願を行っている。

日本出願人も積極的に外国出願を行っているが、米国と比較するとその数は少ない。

参考資料11

(7)試験栽培品種数(参考資料12)

米国における遺伝子組換えイネの試験栽培品種数は近年急速に増加している。我が国の国内における試験栽培品種数は合計で13品種であり、増加傾向はみられない。なお、遺伝子組換えイネに関しては、商品化され市場に流通しているものはまだない。

参考資料12

4.今後の課題と対応

米国は80年代からバイオ技術の研究開発とバイオ産業の育成に積極的に取り組んでいるのに対して、我が国は90年代に入ってからイネゲノム計画を開始し、現在ミレニアムプロジェクトにおいてイネゲノム解析等に取り組んでいるところである。

遺伝子組換えイネに関する特許出願件数についてみると、米国特許登録件数約100件のうち米国人出願人が70%であるのに対して、日本特許出願公開件数約100件のうち日本人出願人が72%となっており、自国内での特許出願件数に関する限り、現在までのところ日米とも同程度の出願状況と考えられる。しかしながら、近年の米国特許出願件数が急増しているのに対して、日本特許出願公開件数の増加は緩やかである。

また、海外への特許出願件数をみると、米国が約400件であるのに対して、我が国は約100件と少ない。

特許出願の内容についてみると、米国出願人はイネの遺伝子組換えに不可欠な「遺伝子導入技術」や「発現調整技術」に関する出願を1980年代後半から積極的に行っているのに対して、我が国出願人がこのような技術に関する出願を開始したのは1990年代前半からである。

さらに、米国における遺伝子組換えイネの試験栽培許可件数は近年急増している。

このように、米国は、遺伝子組換えダイズやトウモロコシと同様に、遺伝子組換えイネに関しても、研究・技術開発、実用化、特許出願において、非常に積極的であると考えられる。

我が国としても、このような米国の積極的姿勢を参考に、イネを中心とした遺伝子組換え技術の研究・開発を一層強化していくとともに、その成果を特許権によって十分に保護していくことが求められる。(参考資料13)

参考資料13

具体的方策

(1)研究開発の推進と特許権の取得

イネの遺伝子組換え技術に関しては、我が国研究機関は世界でもトップレベルの研究開発を行っているが、作物の遺伝子組換え技術全般の研究開発、実用化において先行している米国等に、今後我が国が技術面で対抗していくためには、我が国はイネを始めとした遺伝子組換え技術に関する研究・開発をより積極的に行い、有効な特許を米国等に先んじて取得することが必要である。

そのためには、国立研究所等において、更なる研究開発の推進を図るとともに、研究成果の十分な特許保護を支援するための体制整備を行うことが求められる。

(2)我が国の農業ビジネスの育成

米国では、多くのベンチャー企業やこれをM&Aによって取り込んだ大企業が、遺伝子組換え作物に関連する農業ビジネスの中心となっている。

これに対して、我が国ではこのような農業ビジネスは米国ほど発達していない。

しかしながら、イネの遺伝子組換え技術に関しては我が国は世界でもトップレベルの技術を有しており、このような高い技術水準を活かすことによって、我が国の農業関係ビジネスを育成できる可能性が十分あるものと考えられる。

例えば、国の研究機関が有する特許権の民間への譲渡・実施許諾を通じた技術移転を実施することにより、種子メーカー等の民間ビジネスの育成を図ることが考えられる。

(3)世界のコメ市場への積極的参入

コメは世界人口の約50%の人々が主食としている重要な食糧資源であり、特に、中国、インド、東南アジアの生産量、消費量は非常に多い。米国企業は、このような世界のコメ市場を念頭において、海外への特許出願を積極的に行っていると考えられる。

しかしながら、米国だけでなく我が国にとっても、世界のコメ市場は十分魅力的である。そこで、将来、我が国企業がアジアをはじめとする世界のコメ市場においてビジネスを行うことも視野に入れ、我が国の遺伝子組換えイネの研究成果について、世界各国での積極的な特許取得が求められる。

[更新日 2001年1月11日]

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