異議の決定


異議2018-685017
Zum Kaiserstuhl 16 79206 Breisach (Germany)
 商標権者  
Badischer Winzerkeller eG
大阪府大阪市北区中之島3丁目3番3号
 代理人弁理士
特許業務法人R&C
  
イギリス国 スコットランド バンフシャー ダフタウン ザ グレンフィディック ディスティラリー (番地なし)
 商標登録異議申立人  
ウイリアム グラント アンド サンズ リミテッド
東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル4階
 代理人弁理士
小谷 武
  


 国際登録第1353061号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際登録第1353061号商標の商標登録を取り消す。



 理 由
  
第1 本件商標 
 国際登録第1353061号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,2017年1月25日にGermanyにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し,2017年(平成29年)5月12日に国際商標登録出願,平成30年6月6日に登録査定,第33類「Wines and sparkling wines; all the above goods made in Germany.」を指定商品として,同年10月5日に設定登録されたものである。 
         
第2 引用商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は,次の1ないし3のとおりであり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである(以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)。
1 登録第4633051号商標(以下「引用商標1」という。)
 商標の態様 別掲2のとおり
 指定商品 第33類「英国スコットランド産のウイスキー」
 出願日 平成14年3月20日
 設定登録日 平成14年12月27日 
2 国際登録第919341号商標(以下「引用商標2」という。)
 商標の態様 別掲3のとおり
 指定商品 第33類「Alcoholic beverages [except beer], but insofar as whisky and whisky based liqueurs are concerned, only scotch whisky and scotch whisky based liqueurs produced in Scotland.」
 国際商標登録出願日 2007年(平成19年)3月1日
 設定登録日 平成21年5月22日
3 国際登録第919342号商標(以下「引用商標3」という。)
 商標の態様 別掲4のとおり
 指定商品 第33類「Alcoholic beverages [except beer], but insofar as whisky and whisky based liqueurs are concerned, only scotch whisky and scotch whisky based liqueurs produced in Scotland.」
 国際商標登録出願日 2007年(平成19年)3月1日
 設定登録日 平成20年9月19日
  
第3 登録異議の申立ての理由
 申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであると申し立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第35号証を提出した。
 1 商標法第4条第1項第11号について
 本件商標は,最下段の英文字が意味合いや大きさにおいて付記的表示と認められるため,これは主として上段の鹿図形と,その下の「BLACK FOREST」の英文字から構成される商標である。そして,英語で「黒い森」を意味する「BLACK FOREST」の文字は,鹿図形とは意味的な一体性はなく,図形とも分離して表されているため,これらは常に一体として把握されるべき態様にない。また,我が国で馴染みあることばとはいえない「BLACK FOREST」よりも,直感的に鹿と認識できる図形部分は単独で記憶に残りやすいといえる。
 したがって,本件商標は,鹿図形のみが独立した識別標識として機能するものであって,需要者らは,本件商標の鹿図形に着目して取引にあたる場合も多い。
 次に,引用商標1は,本件商標と同様の鹿図形が単独で表されたものである。この図形は白抜きで表されているが,これは単に背景が黒色というのみであって,図形の把握に本件商標との白黒反転が特段影響を持つものではない。引用商標2及び引用商標3は,鹿図形と「Glenfiddich」の文字が,本件商標と同様に二段で表されているが,「Glenfiddich」はゲール語で「鹿の谷」を意味し(甲5),必ずしも鹿図形そのものを意味するものではなく,また,構成上図形とは分離して表されていることから,引用商標2及び引用商標3も鹿図形のみが単独の識別標識として機能する場面があるといえる。「Glenfiddich」の意味を知らない場合はさらに,直感的に鹿と認識できる図形部分に強い印象を持ち,これを単独で記憶することとなる。
 そこで,本件商標及び引用商標の鹿図形を対比すると,これらは外観上酷似するものである。まず,本件商標の鹿図形は,胸から上の部分がシルエット風に描かれたものであるが,その姿は,身体は正面を向きつつ,立派な角の生えた頭,顔を右の方に向けて遠くを見るような,全体として牡鹿にふさわしい,静かで超然とした印象を与える描写がなされている。他方,引用商標の鹿図形についても,胸から上がシルエット風に描かれている点,立派な角が生えている点,頭,顔を右に向けている点において共通し,やはり全体として超然とした牡鹿の印象を与えるものである。
 両者の鹿図形は,輪郭を含めたこのような基本態様において共通するうえ,細かい部分の描かれ方にも多くの共通点を有する。牡鹿の特長である角については,両図形とも立派な大きな角が描かれている。いずれも左右や上に大きく広がった角であり,途中や先に小さく出た角についても,その形や数が両者でほぼ同じである。特に引用商標2及び引用商標3との対比では,本件商標の角の描かれ方はこれらと酷似しており,太さや角度,本数や小さな角の出方まで,ほぼ同じである。また,両者は,顔が右の方を向いているが,その様子は真横に向かって4分の3程度にまで顔を向ける態様で,いずれも共通する。顔の角度も上を向くではなく,ほぼ水平に横を向いており,この点も共通する。
 描き方についても,鹿であることが一見して分かるように,線と黒影を上手く利用してシルエット風に表されており,とりわけ引用商標2及び引用商標3との対比においては,胸の左右の部分の黒影の形や,顔のあごの部分の形,目,耳,鼻や角の形などがいずれも共通し,線の太さや全体の輪郭を含めほぼ同一である。
 鹿の一般的な姿というものはあろうが,わざわざ上に述べるような手法や態様をもって,鹿を本件商標のように表す必然性はない。仮に鹿を表すとしても,その代替的な描き方は数多あるのであり,全体的な輪郭から顔の向きや角度,黒影の配し方,角やその他の部分の形状や線の太さなど,本件商標が敢えて引用商標と酷似する鹿の態様を採用しなければならない必然性はない。
 このような共通性により,需要者らは両商標の鹿図形をそれぞれ見紛うこと必至で,これらは外観上類似する商標である。殊に,上記のように記憶に残りにくい場合もある文字部分ではなく,分かりやすく視覚に訴える鹿の図形で各商標を記憶している需要者らは,時と所を異にした場合,強い鹿図形の印象のもと,ますます両者を混同することとなる。例えば,たまたまバーなどで「Glenfiddich」のボトル(ラベル)を見てこれを知った者は,それまで「Glenfiddich」に親しんでいるとはいえないが,むしろその分,これを鹿図形のラベルのお酒と直感的に記憶し,この部分が共通する本件商標を「Glenfiddich」と混同してしまうのである。
 以上に加え,両商標の鹿は,牡鹿にふさわしい立派な角を湛え,遠く横を見つめながら静かに佇む姿が共通して描かれており,これがシルエット風に描かれることで余計な印象が排され,いずれも威厳のある超然とした雰囲気の鹿の姿となっている。
 これより,両商標からは,「立派な角を湛えて横を向き佇むシルエット風の鹿」といった観念が生じ,観念同一の商標として両者は類似する。必ずしも具体的で詳細な観念は生じずとも,外観が酷似することは上に述べるとおりであり,当該外観から生じる観念は必然的に同一となるため,いずれにせよ両商標は観念同一の類似商標となる。
 なお,仮に文字部分を含めた全体としての類否を検討しても,少なくとも本件商標と引用商標2及び引用商標3は類似する。
 図形と文字の組み合わせとしてラベル全体をとらえても,それぞれの大きさや配置,バランスは,本件商標と引用商標2及び引用商標3との間で共通するから,互いに全体的な印象が共通する。図形部分が直感的に視覚に訴え,強い印象を残すことに鑑みれば,この部分が酷似する両商標は,その全体としても互いに混同を生じさせるほどに類似するといえる。
 したがって,本件商標は引用商標と外観及び観念において類似し,商標法第4条第1項第11号に該当する。
 2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性
 申立人は,1887年にスコットランドで創業した蒸留所であり,引用商標の「Glenfiddich」は,その蒸留所に付けられた名前である。同時に,これは世界初のシングルモルトウィスキーの銘柄となり,1963年には世界に向けて販売が開始されることとなった(甲5)。その後,「Glenfiddich」は,今日まで製造販売が続く人気銘柄となり,その品質の高さから数々の賞を受賞するなど評価され,シングルモルトウィスキーとしてはおよそ35%のシェアを獲得し,世界で最も飲まれるシングルモルトウィスキーとなっている。
 例えば,申立人のHPでは,日本語版で「Glenfiddich」の歴史や各商品のラインアップが紹介されるほか,英語版では2013年に多くの国が参加する「International Spirits Challenge(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」において,「won eight gold medals(金賞8つを獲得した)」ことなど,具体的な受賞歴が紹介されている(甲5,甲6)。この間,2010年にはウィスキーの専門ウェブサイトに広告を掲載し,「UK(英国)」「France(フランス)」「Germany(ドイツ)」「US(米国)」といった国を対象に,世界的に「Glenfiddich」の周知に努めている(甲7)。
 受賞歴についてはさらに,2010年から2014年の間にも様々な品評会で多数の賞を受賞しており(甲8),我が国の有名な生活総合情報サイトでも,「グレンフィディック(Glenfiddich)」が世界の様々な酒類コンテストにおいてシングルモルトでは最多の受賞歴を誇ることが紹介されている(甲9)。
 このほか,国際的に酒業関係者に5万部発行されている「the drinks business」という雑誌のウェブサイトでは,「Scotch Whisky Brand Champion(スコッチウィスキーブランドのチャンピオン)」として「Glenfiddich」が紹介されている(甲10)。                        
 同時に,スコッチウィスキーの専門サイト「SCOTCHWHISKY.com」では,直近の2018年9月28日の記事で,2017年の「BEST-SELLING SCOTCH MALT WHISKIES(最も販売されたシングルモルトスコッチウィスキー)」として第1位に「Glenfiddich」が紹介されている(甲11)。また,我が国のウィスキーを扱うウェブサイトや個人ブログにおいても,「グレッフィディック(Glenfiddich)」が世界で最も売れているシングルモルトウィスキーであること(甲12,甲13),シェアが35%を占めること,2014年に上記インターナショナル・スピリッツ・チャレンジや,インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション,スコッチウィスキーマスターズといった品評会において,それぞれ金賞や銀賞を受賞したこと(甲12)などが紹介されている。
 申立人の集計によれば,2001年から2018年8月までの全世界における「Glenfiddich」の販売実績は,2001年604,434ケース,2002年690,030ケース,2003年695,439ケース,2004年744,161ケース,2005年790,537ケース,2006年831,298ケース,2007年870,636ケース,2008年827,458ケース,2009年818,664ケース,2010年941,596ケース,2011年999,351ケース,2012年1,036.696ケース,2013年1,129,043ケース,2014年1,110,899ケース,2015年1,105,188ケース,2016年1,217,139ケース,2017年1,258,931ケース,2018年(1-8月)827,733ケースである(1ケースの内訳は9リットル=ボトル12本。以下同じ。)。
 また,同期間における我が国での販売実績は,2001年5,995ケース,2002年9,046ケース,2003年8,496ケース,2004年10,277ケース,2005年11,579ケース,2006年15,207ケース,2007年15,808ケース,2008年13,611ケース,2009年13,772ケース,2010年11,727ケース,2011年12,065ケース,2012年13,349ケース,2013年14,251ケース,2014年17,208ケース(この年の集計未完成),2015年26,545ケース,2016年21,006ケース,2017年19,873ケース,2018年(1-8月)20,324ケースである。
 このような歴史と世界的な評価を背景に,多くの販売実績を有する申立人の「Glenfiddich」は,スコッチウィスキーの有名ブランドとして,酒類の業界において既に著名性を獲得している。
 そして,「Glenfiddich」のラベルには常に鹿図形が象徴的に描かれており,「Glenfiddich」の著名性は同時に鹿図形の著名性を意味する。
 鹿図形は多少の修正を経つつも,遅くとも1990年代には現行のデザインとほぼ同一のデザインが採用されており,例えば1994年版の「世界の名酒事典」には,鹿図形が描かれたラべルの「Glenfiddich」が紹介されている。この中の説明記事では,鹿の図柄がシンボルマークとなっていることが合わせて記されている(甲14)。1998年には甲第15号証に掲げるバージョンが採用され欧州で商標登録されるとともに,2007年には甲第16号証に掲げるバージョンが,また2014年には甲第17号証に掲げるバージョンが欧州他7か国で商標登録あるいは国際登録(オーストラリア他6か国)されている(甲18~甲25)。また,中国においては,2つのバージョンが著作権登録されており(甲26,甲27),このように申立人は鹿図形についてはその単独で世界的な保護を図っている。そして,我が国においては現在,引用商標が登録されているところである(甲2~甲4)。
 鹿図形は「Glenfiddich」のシンボルともなっているもので,これが紹介される際には多くの場合,鹿図形の表されたラベルとともに紹介される(甲28)。
 また,「Glenfiddich」を紹介する書籍やウェブサイトには,これが世界で最も多く飲まれているシングルモルトウィスキーであることのほか,鹿図形について言及するものも多い(甲14,甲29~甲34)。ウィスキーなどのお酒は,ラベルやボトルの全体写真とともに商品紹介,あるいは広告がされることも多く,その分,需要者らはラベルのデザインに親しみを持ちやすい。有名なお酒のブランドにあっては,ラベルやそこに描かれたシンボル的な図形が同時に有名となってゆくのであり,「Glenfiddich」についても,多くの需要者が鹿図形に愛着を持ち,これを「Glenfiddich」のシンボルマークととらえている。
 このように,「Glenfiddich」の著名性は,すなわち,そのラベルに特徴的,象徴的に表される鹿図形の著名性をも表し,少なくとも20年以上にわたって使用されてきた鹿図形は,需要者らの印象に強く残り,「Glenfiddich」の鹿図形として既に馴染みとなっている。鹿図形は上に挙げるようにいくつかのバージョンがあるが,その態様は基本的には同じであり,時代に合わせたデザインをおこなっているものの,需要者らにとっての鹿図形は,いずれも上記1で述べたところと同じ特徴をもって印象付けられるデザインのものである。
(2)混同のおそれ
 上記の鹿図形の著名性を背景にすれば,本件商標と申立人の「Glenfiddich」との間で混同が生じることは必至である。
 本件商標と引用商標の鹿図形が酷似することは上記のとおりであり,この点をもって両者は混同のおそれがある。たとえ文字部分が異なるとしても,長年の間幅広く使用されてきた「Glenfiddich」の鹿図形は,それ自体上記のとおり有名で,単独で使用されることが想定されたり(甲2,甲18~甲25),実際に単独で紹介され表示される場合もあるので(甲28,甲35),鹿図形自体が独自に識別標識として機能する。
 そして,本件ほどの図形の共通性があれば,既に「Glenfiddich」の鹿図形をよく知る需要者らは,本件商標の付された商品を申立人の業務に係る商品であるかのように誤解し,互いに混同が生じる。
 本件商標の指定商品はワインであるが,ウィスキーとは審査基準の上でも類似商品とされているのであり,この点の相違が混同を否定する方向に作用することはない。
 そもそも,これらが類似商品とされる理由の一つは,販売店や需要者の共通性にあると思料されるが,例えばウィスキーを好きな者が同時にワインを好むことは何らおかしなことではなく,そのような需要者も多数存在すると考えられる。本件の指定商品の分野では,既に「Glenfiddich」の著名な鹿図形に慣れ親しんだ需要者が,新たに本件商標の付された商品に接する機会も多いといえ,当該鹿図形が直ちに申立人を想起させる以上,本件商標は同人の業務に係る商品との間で混同を生じさせる。
 本件商標は,申立人と切り離すことのできない鹿図形と酷似したものであり,本件商標が付された商品は,あたかも申立人の商品ラインアップであるかのような誤解を需要者らに生じさせる。「Glenfiddich」も複数の種類が製造販売されているのであり(甲5等),必ずしも全体的な外観が全て同一というわけではない。
 したがって,目立つ鹿図形に着目した需要者らは,本件商標が付された商品を見て申立人の新しい商品群であると誤解し,申立人あるいは同人と何らかの関係のある者による商品であると誤信するので,申立人の商標の希釈化にもつながる。
 このほか,例えば大きな醸造所や酒類メーカーであれば,同じ業者から異なる種類の酒類が販売されることも普通なので,種類を超えた商品が同じ出所から展開されることも需要者らの念頭にはあるといえ,この場合混同の可能性はさらに大きくなる。
 このように,本件商標が申立人の商品との間で混同を生じさせるおそれは,様々な面において考えられるが,要するにその原因は,両者の図形部分が酷似するところにある。一方で既に著名な鹿図形があり,他方でこれに酷似した図形が類似商品について使用されれば,両者間で混同を生じることは必然である。
 したがって,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
 3 商標法第4条第1項第19号について
 申立人の「Glenfiddich」に係る引用商標や鹿図形は,我が国で広く認識されているものであり,世界で最も多く飲まれるシングルモルトウィスキーであることからは,我が国以上に,母国の英国をはじめ,外国各地の需要者に広く認識されている。
 そして,本件商標は申立人の引用商標及び鹿図形に類似する商標であり,申立人が長年にわたって築き上げた名声を利用する不正の利益を得ようとするものでもある。同じ欧州の酒類のメーカーとして,本件商標権者が「Glenfiddich」を知らぬはずはなく,この点で不正の目的が認められるので,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。
 4 商標法第4条第1項第7号について
 本件商標の申立人商標との類似性は既に述べるところであり,著名な「Glenfiddich」も知らぬではない本件商標権者のために本件商標の登録を維持することは,公正な取引秩序を乱し,商道徳にも反する。
 したがって,本件商標は公序良俗を害し,商標法第4条第1項第7号に該当する。
 
第4 取消理由通知
 当審において,本件商標の商標権者に対し,本件商標は,引用商標2及び引用商標3と類似する商標であり,かつ,引用商標2及び引用商標3の指定商品と類似する商品に使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する旨の取消理由を令和2年3月25日付けで通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。
 
第5 商標権者の意見
 上記第4の取消理由に対し,商標権者は,何ら意見を述べていない。
 
第6 当審の判断
 1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について 
 本件商標は,別掲1のとおり,顔を左に向け,先端が7つに枝分かれした大きな角を有する牡鹿と思しき動物の頭部をシルエット様に描いた図形(以下「本件鹿図形」という。),「BLACK FOREST」の文字及び「FINEST WINE QUALITY FROM GERMANY」の文字(「BLACK FOREST」の文字の大きさに比して,極めて小さく表されている。)を三段に表示してなるところ,「FINEST WINE QUALITY FROM GERMANY」の文字部分は一見して何かの説明文のように看取され,いわば付記的な部分として認識し把握されるというべきであるから,本件商標は,本件鹿図形部分及び「BLACK FOREST」の文字部分が強く看者の印象に残るものといわなければならない。
 そして,本件商標の構成中,本件鹿図形部分及び「BLACK FOREST」の文字部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないものであり,かつ,いずれの部分も取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
 そうすると,本件商標は,その構成中,本件鹿図形部分を要部として抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるというべきである。
 そして,本件鹿図形部分は,大きな角を有する牡鹿と思しき動物の頭部と看取されるものであるから「牡鹿」の観念を生じるといい得るものの,特定の称呼を生じるとまではいえない。  
(2)引用商標2及び引用商標3について 
 ア 引用商標2は,別掲3のとおり,うすい灰色の帯線で囲った枠の内側を濃い灰色で塗り,その枠内に,顔を左に向け,先端が8つに枝分かれした大きな角を有する牡鹿と思しき動物の頭部をシルエット様に描いた図形(以下「引用鹿図形」という。)及び「Glenfiddich」の文字を二段に表示してなるところ,その構成中,引用鹿図形部分と文字部分は,分離して構成されており,両者の強い観念上のつながりなども認められないから,引用鹿図形部分が独立して看取される場合もあるといえる。
 そうすると,引用商標2は,その構成中,引用鹿図形部分のみをもって取引に資されることも決して少なくないというのが相当である。
 そして,引用鹿図形部分は,大きな角を有する牡鹿と思しき動物の頭部と看取されるものであるから「牡鹿」の観念を生じるといい得るものの,特定の称呼を生じるとまではいえない。
 イ 引用商標3は,別掲4のとおり,濃い灰色の横長長方形内に,引用鹿図形及び「Glenfiddich」の文字を二段に表示してなるところ,その構成中,引用鹿図形部分と文字部分は,分離して構成されており,両者の強い観念上のつながりなども認められないから,引用鹿図形部分が独立して看取される場合もあるといえる。
 そうすると,引用商標3は,その構成中,引用鹿図形部分のみをもって取引に資されることも決して少なくないというのが相当であり,上記アと同様に,引用鹿図形部分は,「牡鹿」の観念を生じ,特定の称呼を生じない。
(3)本件商標と引用商標2及び引用商標3との類否について 
 本件商標と引用商標2及び引用商標3とを比較すると,両者は,別掲1並びに別掲3及び別掲4のとおりの構成からなり,その全体の構成は異にするが,上記(1)及び(2)のとおり,本件商標と引用商標2及び引用商標3との類否判断の際には,それぞれの図形部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるものである。
 そして,本件鹿図形部分と引用鹿図形部分は,これらを子細に観察すれば,枝分かれした角の先端の数やその方向において差異を有するとしても,共に顔を左に向けた牡鹿の頭部をシルエット様に描いた図形であって,牡鹿に特有の大きな角を有し,目,鼻,口,耳,首部分の模様などの構成要素がほぼ同じ位置に同じ態様で描かれている点において,その構成の軌を一にするものであるから,外観において近似した印象を与えるものである。
 また,本件鹿図形部分と引用鹿図形部分は,特定の称呼を生じないから,称呼においては,比較することができないものの,両者は,いずれも「牡鹿」の観念を生じることから,観念を共通にするものである。
 してみれば,本件商標と引用商標2及び引用商標3とは,本件鹿図形部分と引用鹿図形部分について,称呼においては,比較することができないものの,外観において近似した印象を与え,観念において共通にするものであるから,これらを総合的に勘案すれば,本件商標と引用商標2及び引用商標3を同一又は類似の商品に使用した場合は,需要者がその出所について混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。
 したがって,本件商標と引用商標2及び引用商標3とは,相紛れるおそれのある類似の商標である。
(4)本件商標の指定商品と引用商標2及び引用商標3の指定商品との類否について 
 本件商標の指定商品と引用商標2及び引用商標3の指定商品とは,同一又は類似する商品と認められる。
(5)まとめ 
 以上のとおり,本件商標は,引用商標2及び引用商標3と類似する商標であり,かつ,引用商標2及び引用商標3の指定商品と同一又は類似する商品に使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
 2 まとめ
 上記のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,取り消すべきものである。
 よって,結論のとおり決定する。


        令和 2年 8月 5日

     審判長  特許庁審判官 齋藤 貴博
          特許庁審判官 小松 里美
          特許庁審判官 山根 まり子

 
別掲1(本件商標)
 
 
 
別掲2(引用商標1)
 
 
 
別掲3(引用商標2)
 
 
 
別掲4(引用商標3)
 
 
 
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)                この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。                 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意)        特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
  
審判長 齋藤 貴博          
 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。


〔決定分類〕T1651.261-Z  (W33)
            262
            263

上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 2年 8月 5日  審判書記官  木村 勝美