理 由 |
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第1 本件商標 |
本件国際登録第1164321号商標(以下「本件商標」という。)は、「SINA」の欧文字を横書きしてなり、2013年(平成25年)5月29日に国際商標登録出願、第9類「Data
processing equipment, computer hardware components; computer accessories;
data carriers of all kinds with programs installed, magnetic data carriers,
in particular data carriers with IT encoding programs; secure network
connections in the form of architecture for the secure processing and
transmission of highly sensitive data and risk-free access to an unprotected
IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system.」、第38類「Telecommunications, in particular the transmission of
electronic signatures being online services.」及び第42類「Computer software
development and computer software creation, in particular computer software
for automatically creating electronic signatures; creation of programs for
data processing; software
consultancy.」を指定商品及び指定役務として、平成26年8月22日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 |
本件審判の請求の登録日は、平成29年10月17日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の期間である同26年10月17日から同29年10月16日までを、以下「要証期間」という。 |
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第2 請求人の主張 |
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を答弁及び回答に対する弁駁並びに令和3年7月16日付け上申書において、要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。 |
1 請求の理由 |
本件商標は、その指定商品及び指定役務について(以下「本件指定商品及び指定役務」という。)、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者及び通常使用権者のいずれによっても使用された事実がないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。 |
2 答弁に対する弁駁 |
(1)「ウェイバックマシン」の資料について |
「ウェイバックマシン」の資料(乙1、乙5)は、記録内容の正確性が担保されておらず、真実と異なる内容が表示された例が存在することから、その資料により本件商標の使用を認めることはできない(乙4)。 |
また、被請求人(本件商標権者)は、株式会社JTS(以下「JTS」という。)及び株式会社UGSE(以下「UGSE」という。)が本件商標権者の販売代理店であった旨主張するが、両者の間に代理店契約が存在したことを示す資料は何ら提出されておらず、JTS及びUGSEが本件商標権者の販売代理店であったとは認められない。 |
(2)説明資料について |
説明資料(乙2、乙3、乙12、乙13)は、いずれも本件商標権者の販売代理店である三井物産セキュアディレクション株式会社(以下「MBSD」という。)が作成した資料であるが、これらが実際に需要者に頒布されたか不明である。 |
被請求人は、説明資料(乙12)が「平成29年9月21日に開催された展示会『エネコムフェア2017』」(以下「エネコムフェア」という。)で配布された旨主張するが、当該展示会に出展した際の写真(乙16、乙17の2)を見ると、同説明資料とは異なる資料が机上に置かれていることを確認でき、同説明資料は配布されていなかったと推察される。 |
(3)インボイスについて |
平成26年8月6日付けのインボイス(乙4)は、要証期間外の資料である。また、予定していた商標使用が実際には行われないことは多々あり、将来の役務に関する記載があるからといって、直ちに将来の役務について本件商標の使用が示されたことにはならない。 |
商標法上の「役務」は「取引の対象」と示されているところ、同インボイスについて本件商標権者が主張する「役務の提供」が、独立して取引の対象となるものか明らかでなく、むしろ、いわゆる付随役務として、商標法上の役務には該当しないと考えられる。 |
(4)インターネット記事について |
平成24年11月13日付けのインターネット記事(乙6)は、要証期間外の資料である。 |
(5)書簡について |
書簡(乙7、乙8)には、本件商標権者が他人のために「コンピュータソフトウェアの開発及びコンピュータソフトウェアの作成」を行ったと認められる記載はなく、その記載内容から、同人の提供する役務は「コンピュータソフトウェアの貸与」と推測され、第42類「Computer
software development and computer software
creation」とは認められない。加えて、コンピュータソフトウェアの開発を内容とした見積書等は提出されていない。 |
(6)MBSDとの間における内部書簡について |
本件商標権者と本件商標権者の販売代理店であるMBSDとの間における内部書簡(乙9)は、需要者との取引書類とは認められない。 |
(7)エネコムフェアのちらしについて |
エネコムフェアのちらし(乙10)は、本件商標が表示されていない。 |
(8)メールのやり取りを示す資料について |
MBSDの担当者とエネコムフェアの担当者との間のメールのやり取り(乙11)は、本件指定商品及び指定役務との具体的な関係は明らかでなく、商標的使用も確認できない。 |
(9)販売代理店契約に関する契約書について |
本件商標権者とMBSDとの間のいわゆる販売代理店契約に関する契約書(乙14)は、本件商標の商標的使用は認められない。当該契約書の第2条では、第1項で対象製品の非独占的販売権を与える旨が規定され、同条第3項ではMBSDが対象製品に本件商標権者を表す商標を付する義務が規定されているものの、MBSDに自己の出所標識として本件商標を使用する権利が許諾されたとは明記されていない。したがって、MBSDが本件商標の通常使用権者であるとは認められない。 |
(10)「警察政策」に掲載された論説について |
「警察政策」に掲載された論説(乙15)は、本件商標の商標的使用を示すものではなく、また、誰によって、どの指定商品及び指定役務について、どのように本件商標が使用されているか明らかでない。 |
(11)エネコムフェア会場の写真について |
エネコムフェア会場の写真(乙16、乙17)は、具体的にどの本件指定商品及び指定役務について本件商標が使用されているのか明らかでない。また、上述したとおり、MBSDが本件商標の通常使用権者であるとも認められない。 |
3 回答に対する反論(弁駁、意見及び上申) |
(1)使用を主張する商品及び役務について |
ア 「SINA Workstation」について |
(ア)「SINA Workstation」が「暗号ファイルシステムと通信機能を備えたパソコン」であるとしても、「パーソナルコンピュータ」は、「データ処理装置」及び「ネットワーク接続器」とは異なり、また、同機器がモデムやルーターのように接続器として用いられることは明らかではない(乙33)。むしろ、「VPNゲートウェイを介して」の説明より、「SINA Workstation」は単に接続される端末であると考えられる。加えて、「SINA Workstation」がネットワーク接続器として日本で販売されている事実も確認できない。よって、「SINA Workstation」のハードウェアは、第9類「secure
network connections in the form of architecture for the secure processing
and transmission of highly sensitive data and risk-free access to an
unprotected IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system」に該当するとは認められない。 |
また、「パーソナルコンピュータ」は、「データ処理装置」と異なるから、「SINA Workstation」のハードウェアが第9類「data
processing equipment」に該当しない。 |
(イ)「SINA Workstation」は、ハードウェアとソフトウェアが一体となったものであることから、ソフトウェアのみが単体で取引されるものではない。そのため、「SINA Workstation」で使用されるソフトウェアを記録したCD又はUSBが存在するとしても、それ自体が独立した商品とは認められず、実際に当該CD又はUSBが独立した商品として取引されたことは何ら証明されていない。 |
この点、被請求人は、SINA製品の販売に当たって関連機器・部品等を1パックとして販売している旨を主張するが、コンポーネント一式のリスト(乙39)は単に欧文字が羅列された画面の写しであり、その具体的な内容は一切不明であって、我が国において関連機器等が1パックとして販売されていたことは証明されない。よって、「SINA Workstation」のソフトウェアを記録したCD又はUSBは、第9類「data
carriers of all kinds with programs installed, magnetic data carriers, in
particular data carriers with IT encoding programs」に該当しない。 |
(ウ)「SINA Workstation」の機能の一つとして、専用トークンを使用して電子署名を送信するとしても、これ自体を独立の役務として提供しているとは認められない。そのため、第38類「Telecommunications,
in particular the transmission of electronic signatures being online
services」を提供しているとは認められない。 |
イ 「SINA Box」について |
(ア)「SINA Box」が「双方向に働く暗号化・複合化機器」であるとしても、それは、「暗号化用及び復号化用の機器」であって、「ネットワーク接続器」とは異なるから、第9類「secure
network connections in the form of architecture for the secure processing
and transmission of highly sensitive data and risk-free access to an
unprotected IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system」とは認められない。 |
(イ)「SINA Box」の機能の一つとして、専用のスマートカード又は専用USBを使用して電子署名を送信するとしても、これ自体を独立の役務として提供しているとは認められない。そのため、第38類「Telecommunications,
in particular the transmission of electronic signatures being online
services」を提供しているとは認められない。 |
ウ 「SINA One Way」について |
(ア)「SINA One Way」が「一方方向にのみ情報を伝達する機器」であるとしても、それは「送信装置(電気通信用のもの)」であって、「ネットワーク接続器」とは異なるから、第9類「secure
network connections in the form of architecture for the secure processing
and transmission of highly sensitive data and risk-free access to an
unprotected IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system」とは認められない。 |
(イ)「SINA One Way」の機能として、専用のスマートカード又は専用USBを使用して電子署名を送信するとしても、これ自体を独立のサービスとして提供しているとは認められない。そのため、第38類「Telecommunications,
in particular the transmission of electronic signatures being online
services」を提供しているとは認められない。 |
エ 使用を主張する指定商品について |
被請求人の主張する「SINA Box」、「SINA One Way」及び「SINA Workstation」は、いずれも我が国において要証期間内に独立した商品として取引されていることが何ら証明されていない。むしろ「SINAとは・・・インターネットや衛星回線あるいは専用線等の物理回線を用いセキュアなネットワークを構築するソリューションを提供します」及び「SINAコンポーネント」との記載(乙2)並びに「セキュリティサービスのご紹介」(乙3)との記載(乙3)等を考えると、本件商標権者は第42類「コンピュータセキュリティ対策のためのコンピュータプログラムの提供」又は「データの暗号化処理」の役務を提供しており、「SINA Box」、「SINA One Way」及び「SINA Workstation」は、それら役務に付随して提供されるものと考えられる。よって、本件商標が第9類に係る指定商品について使用されているとは認められない。また、本件商標の第42類に係る指定役務は、第42類「コンピュータセキュリティ対策のためのコンピュータプログラムの提供」又は「データの暗号化処理」と同一の役務とは認められない。 |
オ 役務「software consultancy」について |
被請求人は、一般社団法人メディカルITセキュリティフォーラム(以下「メディカルITセキュリティフォーラム」という。)が愛知医科大学病院に対してSINAシステムの運用保守や指導等の役務の提供を行い、「SINA Workstation」の納品を行っており、本件商標権者が我が国において要証期間に第42類「software
consultancy」について本件商標を使用していた旨主張するが(乙40、乙42)、メディカルITセキュリティフォーラムが本件商標権者と同視できる者とは認められず。かつ、同フォーラムが本件商標の使用権者であると認められない等の理由により、被請求人のかかる主張は認められない。 |
(2)使用商標について |
ア 使用商標を示す資料について |
被請求人は、乙各号証において、どの指定商品・役務についてどの商標が使用されているかを示す資料(乙18)で、乙号証のどの部分の表示が本件指定商品及び指定役務について本件商標の使用であるか等を説明しているが、いずれも本件商標の使用を証明するものではない(甲5)。 |
イ 「SINA」のロゴマークについて |
本件商標権者の提出する証拠(乙1、乙6、乙19等)は、別掲1のとおりの構成態様からなる「SINA」のロゴマーク(以下「ロゴ」という。)を確認できるが、ロゴは、「S」又は「A」と認識できないほどに改変されているため、本件商標について「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」ということはできず、本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない。 |
ウ 係争商標の使用について |
被請求人は、「SINA Workstation」、「SINA Box」及び「SINA One Way」について、「SINA」の部分を分離抽出できることから、これらが「SINA」と社会通念上同一である旨主張するが、「SINA Workstation」、「SINA Box」及び「SINA One Way」は、それぞれ一連一体で表示されており、「SINA」部分のみが分離抽出して認識されるとはいえない。 |
また、「SINA One Way」については、「One Way」が識別力のある造語として商標登録されていることから、「SINA One Way」に接した取引需要者が識別力のある「One Way」の文字部分を捨象して「SINA」の文字部分のみに着目するとは考えられず、「SINA One Way」が「SINA」と社会通念上同一であるとは認められない。 |
(3)使用行為について |
ア 官公庁に対する説明資料(乙2)について |
本件商標権者は、2015年12月2日付けメール記録(乙24の1)及び2016年1月5日付けメール記録(乙24の2)により、同年10月21日に商品説明会が開かれたことを推認できると主張するが、これらメール記録から半年以上経過した同年10月21日に同様の商品説明会が開催されることの論理必然性はなく、十分に推認されるとは認められない。被請求人は「SINA勉強会」の目的が「販売のための機器の紹介」であった旨主張するが、被請求人の主観にすぎず、「勉強会」と称される催しの目的は一般的に「知識や技芸の教授」であると考えられる。 |
イ 説明資料(乙3)について |
要証期間内に説明資料(乙3)が頒布されたことは証明されていない。 |
ウ エネコムフェアにおける説明資料の頒布について |
(ア)被請求人は、説明資料(乙12)がエネコムフェア担当者宛てのメールに実際に添付されていたと主張するところ、要証期間外に被請求人の代理人宛てのメールに添付ファイルがあったことを確認できるが(乙29の1)、要証期間内にMBSDから株式会社エネルギーコミュニケーションズへのメールに添付ファイルがあったことは確認できない。また、「g_SINA_説明MBSD_TOTAL版_0170908b」の記載(乙29の2)は後付けであり、説明資料(乙12)の提出が乙第29号証によって示されていない。 |
(イ)説明資料がエネコムフェアのブースにおいて厚紙カバーに入れて実際に頒布されたことを裏付ける証拠について、MBSDの説明資料としては、乙第2号証、乙第3号証、乙第13号証など様々な別の資料が存在することから、ブースにおいて実際に説明資料(乙12)が厚紙カバーに入れられていたことを直接確認できない以上、同展示会において同資料が当該厚紙カバーに入れられて頒布されたことは証明されていない。 |
さらに、被請求人は、SINAの性質及び顧客層からして、家電製品のような一般消費者向けの商品のように、同一内容のちらしやパンフレットを大量に印刷して頒布するといった方法はそぐわない旨説明しているが、不特定多数の人が来場したと推測されるエネコムフェアのブースにおいて説明資料を頒布したとする主張は、かかる説明と矛盾しており、頒布数も一切不明であることから、信憑性に欠ける。 |
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第3 被請求人の答弁 |
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を答弁書及び審尋に対する回答書において、要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第42号証(枝番号を含む。)を提出した。 |
1 答弁の理由 |
(1)使用に係る商品及び役務 |
ア 本件商標権者の販売代理店であったJTSのウェブサイトは、既にクローズされているが、インターネットアーカイブ(ウェイバックマシン)には、本件商標権者が開発・作成及び製造するコンピュータソフトウェア及びデータ処理用プログラム並びに第9類に係る各商品をJTSが日本で販売していることが記載されている(乙1)。 |
イ 現在の販売代理店であるMBSDが官公庁等に対して配布した説明資料(乙2、乙3)には、本件商標が本件商標権者によって第9類の各指定商品、第38類「the
transmission of electronic signatures being online
services」及び第42類の各指定役務に使用されていることが記載されている。 |
ウ 本件商標権者が当時の販売代理店であるUGSE(乙5、乙6)に宛てたインボイス(乙4)には、本件商標権者が愛知医科大学病院に平成26年6月10日ないし同29年6月9日の3年間のサポートサービスを提供する旨記されているところ、記載されたサポート内容はコンピュータソフトウェアに関する指導及び助言であり、これらのサービスは第42類「software
consultancy」に該当する。 |
エ 本件商標権者が愛知医科大学病院に対し本件商標を付したコンピュータソフトウェアをダウンロードするためのリンク先を通知した書簡(乙7、乙8)により、本件商標権者が第42類「Computer
software development and computer software creation」を提供していることが明らかである。 |
オ 本件商標権者がMBSDに対して発行した見積書及び見積りに係る商品の説明書(乙9)により、本件指定商品及び指定役務について本件商標が使用されていることが証される。 |
カ 2017年9月21日に開催されたエネコムフェアのちらし(乙10)及びエネコムフェア主催者とMBSDの担当者のメールでのやり取り(乙11)から明らかなように、MBSDは当該展示会に本件商標を付した第9類の指定商品を展示し、デモンストレーションを行うと共に展示会の来場者に説明資料(乙12)を配布した。 |
キ MBSDが顧客に提供した商品説明及び費用見積書(乙13)により、本件商標が本件指定商品及び指定役務に使用されていることが証される。 |
ク MBSDの従業員が書いた論説(乙15)により、本件商標が本件指定商品及び指定役務に使用されていることが証される。 |
(2)商標の使用者 |
ア 本件商標権者及びその日本代理店は、本件商標の使用者である。ウェブサイト(乙1の4)の記載から、JTSが代理店であったことは明らかである。また、ウェブサイト(乙5の4)の記載、プレスリリース(乙6)により、2013年1月からUGSEが日本国内で販売を開始していたことは明らかである。 |
イ MBSDと本件商標権者の間で締結されている契約書(乙14)の第2条は、本件商標権者がMBSDに対し通常使用権を許諾する旨が明記されている。当該契約書の書式は本件商標権者が定型として使用しているもので、JTS及びUGSEが同様の契約を本件商標権者と交わしていたことは容易に推認できる。よって、これら日本代理店は本件商標権者である本件商標権者から本件商標を付した商品を我が国に輸入し、譲渡することを認められた通常使用権者である。 |
(3)使用商標 |
乙第1号証の4、乙第2号証ないし乙第4号証、乙第5号証の3、乙6号証ないし乙第9号証、乙第12号証、乙13号証、乙第17号証の1及び2、乙第19号証、乙第22号証の3並びに乙第23号証の2には、本件商標と同一又は社会通念上同一というべき商標が示されている(乙18)。 |
(4)使用時期、使用行為 |
ア 平成26年12月18日、同27年3月8日、同月10日及び同27年8月13日、同月18日及び同年10月16日時点の販売店のウェブページ(乙1の2~4、乙5の2~4)に本件商標を付して情報を電磁的方法により提供する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。 |
イ 官公庁に対する説明資料(乙2)は、平成28年10月21日に配布され、顧客に対する説明資料(乙3)は2017年(平成29年)1月に顧客に配布されたものであるから、かかる行為は商標法第2条第3項第8号に該当する。 |
ウ 平成26年8月6日付けインボイス(乙4)は、発行日自体は要証期間内ではないが、本件商標権者は、その始期から平成29年6月9日までの3年間、本件商標に係る役務を提供するのであるから、かかる行為の使用時期は要証期間に該当し、使用行為は商標法第2条第3項第8号に該当する。 |
エ 平成27年12月1日付けの書簡(乙7)、平成29年3月9日付けの書簡(乙8)に係る行為は、商標法第2条第3号第8号に該当する。 |
オ 平成29年8月31日付けの見積書(乙9)に係る行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。 |
カ エネコムフェア(乙10、乙11)において商品に本件商標を付して譲渡のために展示した行為は、商標法第2条第3項第1号及び同項第2号に該当し、同日に展示会場で説明資料(乙12)を配布した行為は商標法第2条第3項第8号に該当する。また、MBSDが上記展示会に出展した際の写真(乙16)には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付されている指定商品及び本件商標が付されたパネルがあり(乙17の1、乙17の2)、商品若しくは役務に関する広告に本件商標を付して展示していたこと(商標法第2条第3項第8号)は明らかである。 |
キ 平成28年12月7日に顧客に提供された見積書(乙13)に係る行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。 |
2 審尋に対する回答 |
(1)使用を主張する指定商品について |
ア 「SINA Workstation」は、暗号ファイルシステムと通信機能を備えたパソコンで(乙15)、非常に機微なデータを確実に処理・送信するためのアーキテクチャーの形態のセキュアなネットワーク接続器であり(乙13他)、ハードウェア及び関連ソフトウェアから構成され、ソフトウェアは出荷の際にハードウェアにインストールされ、かつCD又はUSBに記録されて購入者に提供される(乙34)。購入時より開始されるソフトウェアのメンテナンスとサポートサービスに従い、購入後にソフトウェアのバージョンがアップデートしたときは、購入者はダウンロードにより最新バージョンを得ることができる(乙7、乙8)。「SINA Workstation」はデスクトップ、ノートブック、又はタブレットとして使用することができる(乙35)。 |
「SINA Workstation」は、各種コンポーネント(役務を含む。)を1パックとして販売しており(乙39)、そのハードウェアは、第9類「data
processing equipment」及び「secure network connections in the form of
architecture for the secure processing and transmission of highly sensitive
data and risk-free access to an unprotected IT system, in particular the
Internet, from a protected IT system」に、また、ソフトウェアを記録したCD又はUSBは「data carriers
of all kinds with programs installed magnetic data carriers, in particular
data carriers with IT encoding
programs」に該当する。さらに、当該機器は専用トークンを使用して電子署名を送信しVPN接続を行うから(乙12)、第38類「Telecommunications,
in particular the transmission of electronic signatures being online
services」に該当する。 |
請求人は、「パーソナルコンピュータ」は「データ処理装置」とは異なる旨述べているが、「データ処理」とは必要な情報を得るためにデータに対して一連の作業を行う作業であり、例えばコンピュータによって大量の資料について集計・分類・照合・翻訳などの算術的・論理的処理を行うこと(乙36)であるから、請求人の主張は失当である。 |
イ 「SINA Box」と「SINA L3 Box」、「SINA L2 Box」は、送信速度などの違いがあるものの、いずれもゲートウェイ及び暗号化装置(乙32、乙33)であり、ネットワーク接続の安全な通信経路を設定する機器となる。 |
これらの機器は、第9類「secure network
connections in the form of architecture for the secure processing and
transmission of highly sensitive data and risk-free access to an unprotected
IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system」に該当する。また、これらの機器は証明書が格納された専用のスマートカード又は専用USB(乙19)を使って電子署名を送信するので、第38類の指定役務に該当する。 |
ウ 「SINA One Way」は、制御システムへの攻撃や機密情報システムからの情報漏洩を防止するための物理的な一方向通信を実現する。データダイオードと転送コンピュータとして使用される2つの周辺プロキシから構成される(乙32)。 |
よって、第9類「secure network
connections in the form of architecture for the secure processing and
transmission of highly sensitive data and risk-free access to an unprotected
IT system, in particular the Internet, from a protected IT system」に該当する。 |
エ 上記を含むSINA製品は、デジタル鍵、証明書、電子署名がなければ接続(VPN接続)されず、このVPN接続はソフトウェア「SINA Management」によって管理される。 |
(2)使用事実を示す資料やちらし等の具体的な作成部数、頒布の方法、頒布先、頒布日等について |
本件商標権者に係る商品は、システムを構築する機器を購入することでよりセキュアな通信が実現するものであって、特殊なものであり、ターゲットとする顧客も非常に高度な機密情報を扱う政府、機関、軍隊、警察、企業、病院等に限られている(乙2、乙12他)。製品を導入する規模、ニーズは顧客によって異なるが、目的は機密情報の漏洩を防ぐという点で一致し、購入する機器の数が多くなれば、システム全体の総額はそれに応じて高額となる(乙4)。このような商品の性質及び顧客層からして、家電製品のような一般消費者向けの商品のように、同一内容のちらしやパンフレットを大量に印刷して頒布するといった方法はそぐわない。そこでMBSDは顧客のニーズ等に応じカスタマイズした資料をその都度自社で作成し、顧客の関係部署に、メールに添付又は直接持参する形で頒布した(乙21、乙22の1、乙23の1、乙24の2)。 |
ア 官公庁に対する説明資料(乙2) |
MBSDが説明資料(乙2)を頒布した顧客の一つが総務省行政管理局である。MBSD内で作成し、適宜必要部数を印刷したので、外注印刷には出していない。MBSDは、総務省行政管理局に対し、2016年1月6日の「SINA勉強会」、同年10月21日の会を含め、複数回、本件商標を付した商品等についての説明を行い、説明資料(乙2)を手渡している。また、2016年1月5日のメール(乙24の2)にも当該資料を添付している。 |
イ 顧客に対する説明資料(乙12) |
顧客に対する説明資料(乙12)は、MBSDによって作成され、多くの訪問先に配布され、エネコムフェアにおいても頒布された(乙25~乙27)。 |
紙媒体による頒布数は、エネコムフェアでは、100部程度、他の訪問先は1社当たり10部程度となる。 |
(ア)エネコムフェアでは、説明資料(乙12)は、他の資料と合わせて厚紙のカバーに入れて頒布した。また、エネコムフェアに先立つ2017年9月8日に、MBSDからエネコムフェア担当者に宛ててメールに添付の形で説明資料(乙12)が送付された(乙11、乙28、乙29)。 |
(イ)MBSDは、日本電気株式会社NSS事業部(以下「NEC」という。)において、販売を目的として「SINA Workstation」のデモンストレーションを2017年3月22日に行った(乙25)。NECには2016年5月より、メール及び手渡しで乙第12号証とは異なる資料を複数回頒布し、2017年3月22日のデモンストレーション当日、参加者に説明資料(乙12)を手渡しで頒布した。 |
(ウ)MBSDは、第一生命保険株式会社(以下「第一生命」という。)とSINA商品の販売を目的とする面談を行い(乙26)、2016年7月28日に開催された打合せ時に説明資料(乙12)を参加者に手渡した。第一生命からの見積依頼(乙26の2)に対し、後日、見積書を提示した(乙22の3)。MBSDが第一生命に対して2016年8月1日付けのメール(乙22の1)に添付して送付した提案書(乙22の2)及び見積書(乙22の3)のうち、見積書中の「SINA L3 BOX」は第9類の指定商品に該当する。 |
(エ)MBSDが掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター(以下「中東遠総合医療センター」という。)に対して2017年8月17日の面談時に説明資料(乙12)を参加者に手渡し、後日、中東遠総合医療センターに見積書を提示した(乙23)。2017年9月12日付けのメール(乙23の1)に添付して送付した見積書(乙23)の「SINA Box」及び「SINA Work station」は、第9類の指定商品に該当する。 |
ウ フェリカネットワークス株式会社に対する見積書(乙13) |
MBSDがフェリカネットワークス株式会社(以下「フェリカネットワークス」という。)に提示した見積書の「SINA L3 Box」及びは「SINA Workstatio」は、第9類の指定商品に該当する。また、「SINA L3 Box」用スマートカード(乙19)は第38類の指定役務に該当する。MBSDがこの見積書をメールに添付して顧客に送ったのは、要証期間内の2016年(平成28年)年12月7日である(乙21)。 |
エ MBSDに対する見積書(乙9) |
MBSDに対する見積書において、本件商標権者は、エンドユーザーが一般財団法人航空保安研究センターであることは承知しつつ、MBSDに対する販売価格を見積っている。当該見積書の「SINA One Way」は第9類の指定商品に該当する。 |
(3)役務「software
consultancy」についての使用について |
UGSEは、愛知医科大学病院に本件商標を付した商品を販売し本件商標の指定役務「software
consultancy」を提供していた。UGSEが撤退した後、愛知医科大学病院は代ってメディカルITセキュリティフォーラムから、両者が交わしたシステム保守契約に則り(乙40)、SINAシステムの運用保守や指導等の役務の提供を受け(乙41)、またメディカルITセキュリティフォーラムより「SINA Workstation」の納品を受けていた(乙42)。これらの証拠により、被請求人が我が国において要証期間に指定役務「software
consultancy」について本件商標を使用していたことは明らかである。 |
(4)通常使用権について |
請求人は、本件商標権者とMBSD間の契約書からは通常使用権がMBSDに付与されていることは認められない旨主張しているが、通常使用権の許諾は口頭若しくは黙示の意思表示でも足りると解されているところ、本件商標権者はMBSDに出所識別標識である本件商標等を事前の承諾なしに変更・追加補足することなく使用することを求めており、両者はこの契約書(乙14)をもって本件商標の通常使用権を付与し付与されたと認識している。 |
(5)ロゴについて |
請求人は、被請求人が使用するロゴは図案化されていて欧文字「S」及び「A」が認識できないほどに改変されている旨主張する。しかし、「S」を特徴づける要素は2つのカーブであるところ、ロゴの左の文字の上部は明らかに右方向に向けて曲がり始めているので、この文字が「S」であることは明らかであり、また、右の文字は「A」の文字の全ての要素を含んでいる。よって、上記ロゴは図案化されてはいるもののその程度は相当程度とはいい難くものであって、それらが欧文字「SINA」を表したと特定し得る。 |
(6)その他の請求人の主張について |
ア 「ウェイバックマシン」の証拠能力の有無についての判断は事件ごとに異なり(乙20)、本件の場合は商標の「使用」の事実を証明するに十分足りるものであって、これを否定する特段の理由はない。 |
イ 乙第4号証は単なる見積書ではなくインボイスであるから、本件商標権者がここに記載の3年間のサポートを顧客に提供することは確かであり、また、ソフトウェアの2年間のメンテナンスとして単独の費用が見積られていることから(乙9)、ソフトウェアのメンテナンス(指導及び助言を含む)は、付随する役務ではなく単独の役務として提供されている。 |
ウ 係争商標について |
「SINA」と「Workstation」の間には明確なスペースがあり、これら2語を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいえないこと等から、「SINA」の部分は分離抽出して認識され、よって、乙各号証中の「SINA Workstation」は、本件商標が使用されている。「SINA Box」、「SINA One Way」においても同様のことがいえるので、被請求人が提出した乙各号証中の「SINA Box」及び「SINA One Way」は、本件商標が使用されている。 |
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第4 当審の判断 |
1 被請求人が提出した証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。 |
(1)我が国における販売者について |
本件商標権者とMBSDの間で、日本国内での「SINA」の販売に関し、いわゆる販売代理店契約である「再販売評者契約」が締結されている(乙14)。その第2条によれば、「(1)本件契約書期間に限定して、secunet社(審決注:本件商標権者。以下同じ。)はMBSDに対して、通常の業務販売ルートの過程で、契約製品を自己の名義と責任において市場に出し、その日本国内に販売する非独占権を与える。」、「(3)MBSDは、それぞれの契約製品に、secunet社の商標及びsecunet社の“SINA”商標に関する製品の注記、・・・を付ける義務を負う。MBSDによる商標“SINA”への変更・追加補足その他は、secunet社の事前の承諾なしには許可されない。」とされる(乙14)。 |
なお、当該契約書(乙14)においては、2016年5月24日に、MBSDが、同年6月22日に本件商標権者が、それぞれ署名を行っている。 |
(2)「SINA」について |
ア システムとしての「SINA」 |
警察政策学会編集・発行「警察政策 第17巻(2015)」(発売 立花書房 平成27年3月31日発行)の掲載論文である「重要インフラ、特に医療分野におけるサイバーセキュリティ」と題する論説(著者 深津博他)に、「SINA」について以下の記載がある(乙15)。 |
「(二)アクセスレベルごとの境界防御/・・・アクセスレベルごとに隔離する場合、アクセスレベルごとに端末のPCを準備することは、コストが掛かることとなる。アクセスレベルごとの境界防御のアーキテクチャーの事例として、ドイツ連邦政府が開発し、EUやNATOにおいても採用されているSINA(Secure Inter-Networking Architecture)が挙げられる。SINAの特徴は、モバイルで持ち込んでもクローズドシステムを容易に構成できることである。」、「(三)セキュアなOSとPKIによる認証/SINA専用のOSであるSINA-OSは、・・・セキュアなOSであり、全てのSINAコンポーネント(PCに搭載するSINAワークステーションや、外部ネットワークとの境界に設置してVPN回線を設定するSina-Box 等)にインストールされている。さらに、SINAのセキュリティを確保するため、マネージメント装置によりPKIによる認証基盤が提供されており、全てのコンポーネントは認証局により認証されたコンポーネント間でのみ通信を行うことが可能になる。伝送路は、インターネット、モバイルネットワーク、専用線、ホテル等のLAN及び衛星通信回線と多様な回線が選択可能であり、VPN回線を構成することかできることから、場所を問わずクローズドシステムが利用できる環境を構築することができる。」、「(四)安全なデータ通信/・・・SINAはPKIを実装したSINAマネジメントがクローズドシステム全体を統制し、そのPKIから発行されたデジタル証明書が入ったSINAコンポーネント間の相互通信に限定することにより、クローズドな環境を実現している。通信を行う際はVPNによりデータを暗号化しており、またその暗号鍵は一定時間ごとに自動的に交換が行える機能を有している。」 |
イ 製品としてのSINA |
(ア)MBSDの作成に係る2016年10月21日付けの説明資料(乙2)の12頁には、「7.SINAとは」の見出しの下、「インターネットや衛星回線あるいは専用線等の物理回線を用いセキュアなネットワークを構築するソリューションを提供します」の記載がある。 |
(イ)上記(ア)の説明資料の27頁に「12-3.SINAコンポーネント」の見出しの下、以下の記載及び画像が掲載されている。 |
a 「SINA L3 Box」として、「SINA L3 Boxは、標準的な暗号を複数搭載しIPSECによるVPN通信を行います。」の記載と共に機器の画像が掲載されている。 |
b 「SINA Workstation/SINA Tablet」として、SINA WorkstationはPCのハードディスクを独自の技術で暗号化し、分離したセッションを最大同時に5つ起動できます。」の記載がある。 |
c 「SINA Management」として「SINA Managementは、登録局(RA)、認証局(CA)などの公開基盤鍵(PKI)が統合されたパッケージシステムです。」の記載がある。 |
d 「SINA One way」として、「SINA One wayは、2つのProxy ServerとData Diodeによる技術でデータの流れを一方通行に制御し、サイバー攻撃を含む脅威の侵入をハード的に遮断します。」の記載と共に機器の画像が掲載されている。 |
e 「SINAのコンポーネントには、セキュリティ強度を保つ専用OS『SINA-OS』が組み込まれており、統一されたアーキテクチャで高度なセキュリティを実現します。」の記載がある。 |
(ウ)「SINA Workstation」は、ハードウェアにインストールされて提供される場合とCD又はUSBの媒体に記録されて提供される場合がある(乙13、乙34)。 |
(3)エネコムフェアについて |
ア エネコムフェアのちらし |
エネコムフェアのちらしとされる書面には、1葉目の上部に「エネコムフェア2017」と大きく表示され、その下に、「開催日」として「2017年9月21日(木)12:00~17:30」、開催場所として「ホテルグランヴィア広島 4階『悠久の間』」等の記載があり、また、参加申込先として「株式会社エネルギア・コミュニケーション」の記載がある(乙10)。 |
イ エネコムフェア会場写真 |
(ア)MBSDがエネコムフェアに出展した際の会場とされる写真画像には、1葉目上部の写真画像に、ホテルの会議室と思しき部屋の入口に「悠久」及び「エネコムフェア2017/展示・ミニセミナー 会場」と表示された看板と共に「エネコムフェア2017」と題するパネルが掲示され、同パネルに表示されたプログラムは、上記アのエネコムフェアのプログラムとおおむね一致し、「展示 時間/12:00~17:30」の表示が確認できると共に、会場内に複数のブースが出展され、同フェアの参加者が実際に展示されたパネルの前にいる様子が確認できる(乙16:別掲2)。 |
(イ)また、1葉目下部ないし3葉目の4枚の写真画像は、上記会場内に、ロゴ、機器の画像等が表示されたパネルが展示され、当該パネルの下部に設置された横長長方形の机上にディスプレイ機器、ノート型パソコン、機器が設置されたブースが確認できる(同上)。 |
(ウ)さらに、エネコムフェアの会場写真の拡大部分とされる写真画像の1葉目には、上記(イ)と同じく、ロゴ、機器の画像が表示されたパネルが写っており、同パネル中には「国家レベルの最高機密を守るため、ドイツが生んだ統合セキュリティ・ソリューション『SINA』。ブロックを積むような手軽さで、ネットワークの安全性を世界最高レベルに引き上げます。」の文字の表示と共に、「ネットワークの保護/多層防御 分離/SINA L3 BOX」、「外部からの安全なアクセス/SINA Workstation/Tablet」、「統合管理(PKI)/SINA Management」、「一方通行通信/安全なエアギャップ接続/SINA OneWay」の文字及び各機器の写真画像の表示がある。そして、さらにその下部には「MBSD」の欧文字と共に「三井物産セキュリティディレクション株式会社」の文字の表示がある(乙17の1:別掲3)。 |
ウ エネコムフェアについての担当者間のメール |
2017年8月31日から同年9月8日にかけて、株式会社エネルギア・コミュニケーションズの担当者とMBSDの担当者の間で、「エネコムフェアのブース情報について」を件名とするメールのやり取りがあり、MBSDがエネコムフェアのブースの展示について、展示用パネル、インターネット環境、ディスプレイ機器、ノートPC、NW機器、SINAの紹介資料等の準備、会場への送付等について事前に打合せを行ったことがうかがえる(乙11)。 |
(4)MBSDが他者に提示した提案書(見積書)について |
ア 第一生命 |
MBSDは、2016年8月1日に、第一生命宛てのメールにおいて、「高度セキュリティソリューションSINAに関する提案」との記載がある「■■■ご提案」(審決注:「■■■」の部分はマスキングされている。以下同じ。)と題する提案書及び「品名」に「SINA機器費用 SINA L3 Box S 30M」等と記載された2通の「御見積書」を添付ファイルで送信した(乙22)。 |
イ フェリカネットワークス |
MBSDは、2016年12月7日に、フェリカネットワークス宛てのメールにおいて、「SINA L3 Box S 10」、「SINA Workstation S」等、機器ごとの品目の費用見積が記載された「高度統合セキュリティ ジーナ セキュアな持出PCのご提案(2016.12.7)」と題する提案書をメールの添付ファイルで送信した(乙13、乙21)。 |
ウ 中東遠総合医療センター |
MBSDは、2017年9月12日に、中東遠総合医療センター宛てメールにおいて、「高度セキュリティソリューション SINAに関する提案」との記載がある「■■■ご提案」と題する提案書を添付ファイルで送信した。当該提案書には、「SINA Box S 1G」、「SINA Box S 30M」」、「SINA Workstation S」等、機器ごとの導入費用の見積りが記載されている(乙23)。 |
2 上記1の認定事項に基づき、以下判断する 。 |
(1)使用商品について |
ア 請求に係る商品及び役務 |
本件審判の請求に係る商品及び役務は、上記第1のとおり、第9類、第38類及び第42類に属する本件指定商品及び指定役務である。 |
イ SINAコンポーネントの商品該当性 |
(ア)「SINA」は、上記1(2)を総合するに、アクセスレベルごとの境界防御等の基本設計に基づき、ネットワークに接続するコンピュータ端末のセキュリティを向上させるためのシステムであるところ、当該システム(以下「本件システム」という。)によるネットワーク上のセキュリティの実現は、「SINA-OS」というOSと当該OSがインストールされた各ハードウェアとが協働して行われるとみることができるから、「SINA」の名称の下で顧客に提供される製品には、少なくとも、コンピュータプログラム(SINA-OS等)及び当該OSがインストールされたハードウェアが含まれているところ、「SINAコンポーネント」構成する製品として紹介されている「SINA L3 Box」及び「SINA One Way」はその紹介文及び掲載された機器の画像より、当該ハードウェアに相当する製品であると認められる。 |
(イ)そして、本件システムのうち、当該ハードウェアに相当する製品は、上記1(2)イのとおり、コンピュータ端末が安全にネットワーク接続するために暗号化等のデータの処理を行う装置であるとともに、本件システムの一部(SINAコンポーネント)として機能するコンピュータのハードウェアでもあることから、本件商標の指定商品及び指定役務中、第9類「Data
processing equipment, computer hardware components」に該当するといえる。 |
(ウ)また、当該ハードウェアに相当する製品は、アクセスレベルごとの境界防御等に基づくネットワーク上のセキュリティの実現という本件システムの基本設計に鑑みれば、いずれも、保護されたコンピュータから保護されていないネットワーク(インターネット等)へのリスクのないアクセス及び安全な送受信のためのシステムを形成する、安全が確保されたネットワーク接続のための機器ということができ、当該機器は本件商標の指定商品及び指定役務中、第9類「secure
network connections in the form of architecture for the secure processing
and transmission of highly sensitive data and risk-free access to an
unprotected IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system.」に該当する商品といい得る。 |
(エ)さらに、「SINAコンポーネント」を構成する「SINA Workstion」については、持出パソコン等にインストールするために、ネットワーク接続、暗号化等の機能を有するソフトウェアのデータが記録されたCD又はUSB等の記録媒体が提供される場合もあることから、当該製品は本件商標の指定商品及び指定役務中、第9類「data
carriers of all kinds with programs installed, magnetic data carriers, in
particular data carriers with IT encoding programs;」に該当する商品といえる。 |
ウ 小括 |
以上より、本件システムの下、SINAコンポーネントとして顧客に提供される上記各製品は、本件商標の指定商品及び指定役務中、第9類「Data
processing equipment, computer hardware components; computer accessories;
data carriers of all kinds with programs installed, magnetic data carriers,
in particular data carriers with IT encoding programs; secure network
connections in the form of architecture for the secure processing and
transmission of highly sensitive data and risk-free access to an unprotected
IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system.」に該当する商品と認められる(以下「使用商品」という。)。 |
(2)使用商標について |
本件商標は、上記第1のとおり、「SINA」の欧文字を横書きで表してなるものである。 |
他方、上記1(3)イ(ウ)のとおり、エネコムフェアの会場において設置されたパネル(別掲3)中には、ロゴと共に「国家レベルの最高機密を守るため、ドイツが生んだ統合セキュリティ・ソリューション『SINA』。」との宣伝文があるところ、当該宣伝文中に横書きされた「SINA」の欧文字は、漢字、片仮名、平仮名からなる日本語の文中に、日本語では通常用いられない欧文字を「かぎ括弧」で強調して表わしているものであって、当該欧文字自体が独立した標章として理解、認識できる(以下、当該「SINA」の欧文字を「使用商標」という。)。 |
そうすると、上記パネルに表示されているロゴは、本件商標と社会通念上同一の商標といえないとしても、使用商標は本件商標とは書体にのみに変更を加えた同一の文字からなる商標であるから、本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。 |
(3)商標の使用及び使用時期について |
上記1(3)を総合してみれば、エネコムフェアのちらしに記載された会場、プログラムの情報と、エネコムフェア会場入口付近の看板に表示された情報は、ほぼ一致し、また、MBSDの担当者と同フェアの開催者である株式会社エネルギア・コミュニケーションの担当者は、メールにより事前に同フェアへの出展内容の打合せを行っていることから、2017年(平成29年)9月21日(要証期間内)に、ホテルグランビア広島の悠久の間において、エネコムフェアが開催されたこと、及び、MBSDはその会場に「SINA」を紹介するブースを出展し、当該ブースにおいて同フェアの来場者に対しパネルを展示したことが認められる。 |
そして、当該パネルで紹介されている各機器は、SINAコンポーネントを構成する製品と同じ製品名であるから、SINAコンポーネントを構成する使用商品であり、また、当該パネルには本件商標と社会通念上同一である使用商標が表示されていることから、MBSDは、要証期間内に、エネコムフェアのブースにおいて、使用商品の広告を内容とするパネルに使用商標を付し、同フェアの来場者に対して展示したものと認められる。 |
(4)商標の使用者について |
MBSDは、上記1(1)のとおり、本件商標権者との契約により2016年6月には、使用商品を日本国内で販売する権利を得ていると推認できるところ、本件商標権者の事前の書面での承諾なしにSINA商標の変更、追加等を許可されていない(第2条(3))ことに加え、本件商標権者である被請求人は、答弁書において、MBSDは日本における商標権者の現在の販売代理店であり、本件商標をSINA製品について使用することを認められた通常使用権者である旨の主張をしていることも踏まえれば、同人は、日本国内で本件商標を使用して本件製品を販売することについて本件商標権者から許諾を得ているといえるから、本件商標の通常使用権者とみて差し支えない。 |
(5)小括 |
以上によれば、本件商標の通常使用権者であるMBSDは、要証期間に日本国内において、本件指定商品及び指定役務中、第9類「Data processing
equipment, computer hardware components; computer accessories; data carriers
of all kinds with programs installed, magnetic data carriers, in particular
data carriers with IT encoding programs; secure network connections in the
form of architecture for the secure processing and transmission of highly
sensitive data and risk-free access to an unprotected IT system, in
particular the Internet, from a protected IT
system.」に関する広告に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して展示したものであって、上記使用行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「商品に関する広告に標章を付して展示する行為」に該当する。 |
3 請求人の主張について |
(1)請求人は、「SINA BOX」は、「暗号化用及び複合化用の機器」であり、また、「SINA One Way」は、「送信装置(電気通信用のもの)」であり、いずれも本件商標の指定商品に含まれていない旨主張する。 |
しかしながら、上記各機器は、暗号化及び復号化あるいは送信の機能を有する装置であるとしても、本件システムの基本設計においては、アクセスレベルごとのネットワーク接続や、一方通行のネットワーク接続といったセキュアなネットワーク接続が主な役割であるから、指定商品の該当性については上記2(1)のとおり判断するのが妥当であって、請求人のかかる主張は採用できない。 |
(2)また、請求人は、「SINA Workstation」は、ハードウェアとソフトウェアが一体となったものであることから、ソフトウェアのみが単体で取引されるものではないため、ソフトウェアを記録したCD又はUSBが独立した商品として取引されていない旨主張している。 |
しかしながら、上記1(4)イ及びウのとおり、「SINA Workstation」は、MBSDが他者へ提示した見積書において個別の見積り対象となっていることに加え、そのソフトウェアは出荷時にはハードウェアにインストールされ、かつ、CD又はUSBにも記録されて提供されるものであって、独立性をもって取引の対象となり得るものといえるから、当該CDやUSBが独立し商品として取引されていないとの請求人の主張を採用することはできない。 |
(3)さらに、請求人は、本件商標権者は第42類「コンピュータセキュリティ対策のためのコンピュータプログラムの提供」又は「データの暗号化処理」を提供しており、「SINA Box」、「SINA One Way」及び「SINA Workstation」はそれら役務に付随して提供されるものであるから、本件商標が指定商品について独立した商品として取引されているとは認められない旨主張する。 |
しかしながら、上記各機器は、上記1(4)アないしウのとおり、MBSDが顧客に提示した見積書のように、企業や病院等の様々なニーズに応じてシステムを構成する要素として個別に組み合わせて取引されるものであって、いずれも本件システムの必要な構成要素として独立性をもって取引の対象となり得るものであるから、いずれかの商品又は役務に付随して提供されるものとはいい難く、請求人のかかる主張は採用できない。 |
4 まとめ |
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標の通常使用権者が本件指定商品及び指定役務中、第9類「Data
processing equipment, computer hardware components; computer accessories;
data carriers of all kinds with programs installed, magnetic data carriers,
in particular data carriers with IT encoding programs; secure network
connections in the form of architecture for the secure processing and
transmission of highly sensitive data and risk-free access to an unprotected
IT system, in particular the Internet, from a protected IT
system.」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことを証明したというべきである。 |
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。 |
よって、結論のとおり審決する。 |