理 由 |
|
第1 本件商標 |
本件国際登録第1511500号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり、「CloudWAN」の欧文字を横書きしてなり、2019年5月9日に中国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2019年(令和元年)11月8日に国際商標登録出願、第9類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和4年3月15日に登録査定、同年5月13日に設定登録されたものである。 |
|
第2 登録異議の申立ての理由(要旨) |
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証(枝番号を含む)を提出した。 |
1 本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当する理由 |
(1)本件商標はその大文字・小文字の配列と用語の存在から、前半部「Cloud」と後半部「WAN」が結合したものと自然に理解される。そして、本件指定商品及び指定役務の分野において、「Cloud」(クラウドコンピューティング)と「WAN」は、以下の意味を有する(甲4~甲6)。 |
ア Cloud: |
クラウドとは、IT用語としては「クラウドコンピューティング」の略又はクラウドコンピューティングにおいて利用される不特定多数のサーバーのことである。 |
クラウドの語はクラウドコンピューティングの形態を示す際に「クラウドコンピューティング」を意味する語として用いられることが多い。例えば、クラウドコンピューティングによって提供されるサービスは「クラウドサービス」呼ばれる(甲4)。 |
イ クラウドコンピューティング: |
クラウドコンピューティングとは、インターネットを通じて提供されるサービスやストレージなどのコンピュータリソースをユーザーが特にリソースの所在を意識することなく利用できるというコンセプトのことである。 |
クラウドコンピューティングは複数のマシンを合わせてひとつの資源を構成するという点でグリッドコンピューティングに該当する。その上でクラウドコンピューティングは、インターネットとその中のコンピュータを、存在してはいるが漠然としており実体の捉えがたい「雲」(cloud)に見立てている。「雲」の中のどのマシンにアクセスしているかといった具体的な事柄を見分けることは難しいが、「雲」にアクセスすればその中のどこからかサービスの提供を受けることが可能であるというニュアンスがある(甲5)。 |
ウ WAN: |
WANとは、離れた場所にあるLAN(Local Area Network)同士を電話回線などによって接続したネットワークのことである。広域ネットワーク(Wide Area Network)と和訳されることもある(甲6)。 |
(2)上記のとおり、「Cloud」は「クラウドコンピューティング」の略語であり、インターネットを通じて提供されるサービスやストレージを利用できるというコンセプトである。一方、「WAN」は「Wide Area Network」の略語で、複数のLANを接続した広域ネットワークを意味する。 |
したがって、両者を組み合わせた商標は、「ストレージ等のリソース(クラウドサービス)を利用できる、または組み込んだ広域ネットワーク」(クラウド対応のWAN)といった本件指定商品及び指定役務の品質、機能又は目的を表示するにすぎないものである。 |
そのことは、次のとおり、多数の有名なIT企業が、CloudとWANを組み合わせたサービスを、実際に「ストレージ等のリソース(クラウドサービス)を利用できる、または組み込んだ広域ネットワーク」として提供していることからも裏付けられる。 |
ア Amazon Web Services(AWS)社の「AWS Cloud WAN」 |
AWS社は、クラウドとオンプレミスをシームレスに接続できるWANサービス「AWS Cloud WAN」を提供している。ウェブ記事に「AWS、クラウドとオンプレミスをシームレスに接続できるWANサービス『AWS Cloud WAN』をプレビュー」(甲7)、「Cloud WAN がクラウドとオンプレミスネットワークの統合にどのように役立つかについての詳細をご覧ください。」(甲8)との記載がある。 |
イ Cisco社の「Cisco SD-WANソリューション」 |
Cisco社は、あらゆるアプリケーションに接続するクラウド提供型 WAN ソリューション「Cisco SD-WANソリューション」を提供している。なお、SD-WAN(Software Defined WAN)とは、「ソフトウェア的なアプローチだけで、WANの構築・運用・管理を可能にする仕組み」で、 SDN(Software Defined Network)から派生したWANとして知られている(甲14)。クラウド対応のWANとして広く一般に利用されている(甲7~甲11)。ウェブサイトに「Cisco(R) SD-WAN は、あらゆるユーザをあらゆるアプリケーションに接続するクラウド提供型 WAN ソリューションで、セキュア アクセス サービス エッジ(SASE)対応アーキテクチャ向けに構築されたマルチクラウド、セキュリティ、高度な可視性、分析などの機能が統合されています。」(甲9:決定注「(R)」は「○」中に「R」の文字を小さく表したもの。)との記載がある。 |
ウ Versa Networks社の「クラウドWAN」 |
Versa Networks社は、複数のクラウドを単一のネットワークアーキテクチャ内に包含したクラウド型WANソリューション「クラウドWAN」を提供している。ウェブサイトに「クラウドWANは、複数のクラウドコンピューティングやストレージサービスを単一のネットワークアーキテクチャ内に包含した、クラウド型のWANソリューションです。」(甲10)、「クラウドWANは、複数のクラウド環境にまたがるクラウド資産、ソフトウェア、アプリケーションなどで構成される分散型コンピューティングアーキテクチャです。」(同上)、「Versa Secure SD-WANは、ブランチオフィスの接続性をプライベートクラウドやパブリッククラウドに安全かつ確実に拡張します。」(同上)との記載がある。 |
エ 申立人の「Master’sONE CloudWAN」 |
申立人は、SD-WAN技術を用いてクラウドへ直接アクセス可能となる等の特長を有するソリューション「Master’sONE CloudWAN」を提供している。ウェブサイトに「Master’sONE CloudWAN は、NTTグループで開発したSD-WAN技術を用いたネットワークサービスです。」(甲11の1)との記事がある。 |
(3)以上のとおり、世界的にも有名な多くのIT企業が、CloudとWANを組み合わせたソリューションを提供し、そのソリューションの名称には「Cloud WAN」(甲7、甲8)、「クラウドWAN」(甲10)、「CloudWAN」(甲11の1)という用語が使用されている。 |
また、「クラウド環境の快適な利活用を実現する WAN 最適化」(甲12)、「クラウドが変えるWANの在り方」(甲13)、「先兵はSD-WAN『クラウド最適』で企業ネットを取る」(甲14)、「SD-WAN は IoTやクラウドに向く」(甲15)といった論文・記事のタイトルが端的に示すとおり、Cloud対応のWANは、技術的にも一般的な研究対象となっており、それらの用語を組み合わせたCloudWANは、各々の組合せ技術を示すものと当然に理解される。 |
したがって、本件商標が自他商品識別力を有していないことは明らかである。 |
(4)さらに、特許庁も、本件商標に識別力がないことを認めている(甲16参照。)。 |
(5)以上のことから、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものである。 |
2 本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当する理由 |
本件商標は申立人の有する次の登録商標と類似し、その業務に係る商品及び役務と混同を生じるおそれがある。 |
(1)引用商標 |
ア 登録第6013460号商標(甲2:以下「引用商標1」という。) |
商標の構成:「Master’sONE CloudWAN」の欧文字を横書きしてなるもの |
登録出願日:平成29年(2017年)5月26日 |
設定登録日:平成30年(2018年)1月19日 |
指定商品及び指定役務:第9類、第37類、第38類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務 |
イ 登録第6013461号商標(甲3:以下「引用商標2」という。) |
商標の構成:「Master’sONE CloudWAN」(標準文字) |
登録出願日:平成29年(2017年)5月26日 |
設定登録日:平成30年(2018年)1月19日 |
指定商品及び指定役務:第9類、第37類、第38類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務 |
(2)引用商標は分離して類否判断ができること |
ア 引用商標の構成は、(ア)前半部「Master’sONE」と後半部「CloudWAN」の間にスペースが介在すること、(イ)前半部が冒頭1文字のみ大文字の「Master’s」と3文字全て大文字の「ONE」の結合文字であるのに対し、後半部も冒頭1文字のみ大文字の「Cloud」と3文字全て大文字の「WAN」の結合文字である点で、大文字・小文字の選択が共通し、対応関係にあることから、外観上、前半部と後半部は分離して看取される。 |
イ さらに、全体として生ずる「マスターズワンクラウドワン」の称呼は冗長で、それ自体特定の意味を看取させるものではない。 |
したがって、簡易・迅速を旨とする取引の実際においては、「マスターズワンクラウドワン」の称呼をもって取引に供されるとは考え難く、前半部「マスターズワン」、又は後半部「クラウドワン」の称呼をもって取引に資するものと考えるのが自然である。 |
ウ また、引用商標の前半部「Master’sONE」は、申立人のビジネスネットワークサービスの総称であり、「Master’sONE」のサービスの1つとして、CloudWANは位置付けられている。したがって、前半部「Master’sONE」は、申立人の個別具体的なサービスを示すものではなく、一般消費者や関係者は、後半部「CloudWAN」をもって申立人のWANサービスを特定・認識している。 |
仮に「CloudWAN」に識別力が認められるというのであれば、「Master’sONE CloudWAN」の後半部「CloudWAN」も単独で同じ識別力が認められるということになる。そうであれば、後半部分は、個別に需要者の印象に残りやすいものといえる。 |
エ 以上によれば、引用商標は前半部と後半部を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。したがって、分離して観察することが許されるものである(最一小判昭和38年12月5日(同37年(オ)第953号)、知財高判令和3年7月29日(同年(行ケ)第10026号)も同旨)。 |
(3)本件商標は引用商標と類似していること |
本件商標を引用商標の後半部と比較すると、外観はほぼ同一(字体が若干異なるだけで大文字、小文字の選択も同一)で、称呼、観念が完全に一致する。 |
また、「CloudWAN」が識別力を有するというのであれば、その特別顕著性に基づき、本件商標と引用商標との類似性はより明らかである。 |
そして、両商標の指定商品及び指定役務は、「コンピュータプログラム(記憶されたもの)」「クラウドコンピューティング」「ウェブサイトの設計に関する助言」等が共通で、その他も類似している。 |
したがって、本件商標は、引用商標と紛れるおそれのある類似の商標で、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。 |
|
第3 当審における取消理由の要旨及びそれに対する商標権者の意見 |
1 当審において、本件商標は、その指定商品の品質及び指定役務の質を普通に用いられる方法で表示してなる商標であって、自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たし得ないものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する旨の取消理由を本件商標権者に対し令和5年4月28日付けで通知し、相当の期間を指定して意見を求めた。 |
2 商標権者の意見 |
商標権者は、上記1の取消理由に対して、要旨次のように意見を述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。 |
(1)「CloudWAN」が「クラウドに対応したWAN」という意味を理解、認識させるかに関しては、例えば、Versa Networks社は「クラウドWAN」という同社のサービスを紹介するに当たり、冒頭で「複数のクラウドコンピューティングやストレージサービスを単一のネットワークアーキテクチャ内に包含した、クラウド型のWANソリューションです。」と丁寧に説明している(乙1)。そこでGoogleによりネット上での「クラウドWAN」の使用例を確認したところ、抽出数は1110件であり、これより、「Cloud」部分を日本語で表した「クラウドWAN」であっても、一般的には使用されておらず、直接的かつ具体的に意味を理解させるにはいまだ至っていないと考える。 |
「CloudWAN」という文字列についても、Googleで抽出された日本語ウェブサイトの数はそれほど多くなかった(乙2)。その多くが「Master’s ONE CloudWAN(R)」(決定注:「(R)」は、「○」中に「R」の文字を小さく表示したもの。)に関するもので、同商標において「CloudWAN」部分が何らか記述的な表現として使用されているわけではない。また、「AWS Cloud WAN」(甲7、8)は、「Cloud」「WAN」の間にスペースを入れて2語としており、とくに「CloudWAN」(1語として表現された造語)に意味をもたせる使用はしていない。 |
上記より、今のところ「CloudWAN」が「クラウドに対応したWAN」のような意味合いを直接的かつ具体的に理解されたり、この意味を示す記述的な用語として一般的に広く使用されたりするには至っていないと思料する。よって、本件商標は、自他商品等の識別標識として機能し得るものである。 |
(2)一方、「CloudWAN」が、今後その使用が予想され、第9類、第42類に係る取引に際し何人もその使用を欲するものとなるかに関しては疑問がある。「クラウドに対応したWAN」を表す用語として、「クラウドネットワーキング」(乙3)や「クラウド型ネットワーク」などが散見されるからである。「クラウド対応型○○○」という言い回しも多くあり、取消理由通知書に示された中にも、「クラウド提供型WAN(ソリューション)」(甲9)や「クラウド型WAN(ソリューション)」(甲10)が見られる。 |
したがって、「クラウドに対応したWAN」を表現する言葉としては上記に挙げたような用語が使用されると予想され、「クラウド」部分を英語「Cloud」とし、「WAN」と合わせて1語とした造語「CloudWAN」が、広く一般に使用されるようになるか、又は何人もその使用を欲するものとなる、とは到底考えられない。よって、本件商標は独占適応性を欠くものではなく、その使用を一般に開放しておく必要もないと思料する。本件商標「CloudWAN」は、自他商品等の識別標識としての機能を有し、独占適応性を欠くものではないことから、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものではない。 |
|
第4 当審の判断 |
1 本件商標について |
本件商標は、別掲1のとおり、「CloudWAN」の欧文字を一般的に用いられるゴシック体風の書体で横書きしてなるところ、当該文字は、「Cloud」の文字(語)と「WAN」の文字(語)とを結合させたものと容易に理解、認識されるものである。 |
2 本件商標を構成する「Cloud」、「WAN」及び「CloudWAN」の文字について |
(1)申立人の提出に係る甲各号証(枝番号を含む。)及び当審における職権調査によれば、「Cloud」、「WAN」及び「CloudWAN」の文字について、以下の事実が認められる。 |
ア 「Cloud」の語の意味について |
(ア)「クラウド(cloud)」の語は、「(雲の意)それを提供するサーバーなどについて意識することなく、ネットワークを通じて様々な場所から利用可能なコンピューターのリソース。」を意味し、また、当該語と同義である「クラウド・コンピューティング(cloud computing)」の語は、「クラウドを使ったコンピュータの利用形態。」を意味する(「広辞苑 第七版」岩波書店)。 |
(イ)「IT用語辞典バイナリ」(甲4)によれば、「クラウド(cloud)とは、IT用語としては、「クラウドコンピューティング」の略、又は、クラウドコンピューティングにおいて利用される不特定多数のサーバーのことである。クラウドの語は、クラウドコンピューティングの形態を示す際に、「クラウドコンピューティング」を意味する語として用いられることが多い。例えば、クラウドコンピューティングによって提供されるサービスは「クラウドサービス」と呼ばれる。他にも、企業が自社利用のために設置するクラウドコンピューティングのシステムは「プライベートクラウド」、特定企業ではなく一般ユーザー向けに広く提供されるシステムは「パブリッククラウド」・・・と呼ばれる。クラウドコンピューティングをプラットフォームにしていることを「クラウドベースの」と表現することもある。」と記載されている。 |
イ 「WAN」の語の意味について |
(ア)「ワン(WAN)」の語は、「(wide area network)ラン(LAN)よりも広域にわたるコンピューターネットワーク。」を意味する(「広辞苑 第七版」岩波書店)。 |
(イ)「IT用語辞典バイナリ」(甲6)によれば、「WANとは、離れた場所にあるLAN(Local Area Network)どうしを、電話回線などによって接続したサービスのことである。広域ネットワーク(Wide Area Network)と和訳されることもある。LANはWANと対比すれば局所的なネットワークといえるが、そのLANにおいて、例えば企業の本社と支社のように互いに遠隔地に存在しているネットワークを連携させたいといった場合にWANが用いられる。・・・接続機器にはモデムやターミナルアダプター、ブリッジ、ルーターなどが用いられる。最近では、LANどうしを接続する手段として、インターネットを(高度なセキュリティを施した上で)仮想的に専用線として扱うVPNが用いられる例も増えている。」と記載されている。 |
ウ コンピュータ、情報通信技術の分野における「Cloud(クラウド)WAN」の文字、「Cloud(クラウド)」の文字(語)及び「WAN」の文字(語)の使用事実について |
(ア)「Amazon Web Services(AWS)社」は、「クラウドとオンプレミスをシームレスに接続できるWANサービス」として「AWS Cloud WAN」を提供している(甲7、8)。 |
(イ)「Cisco社」は、「あらゆるアプリケーションに接続するクラウド提供型WANソリューション」として「Cisco SD-WANソリューション」を提供している(甲9)。 |
(ウ)「Versa Networks社」は、「複数のクラウドを単一のネットワークアーキテクチャ内に包含したクラウド型WANソリューション」として「クラウドWAN」を提供している(甲10)。 |
(エ)「NTT PC コミュニケーションズ」(申立人)は、「SD-WAN技術を用いてクラウドへ直接アクセス可能となる等の特長を有するソリューション」として「Master’sONE CloudWAN」を提供している(甲11)。 |
(オ)「UNISYS TECHNOLOGY REVIEW EXTRA EDITION 第112号 JUN.2012」(19頁)には、「クラウド環境の快適な利活用を実現するWAN最適化-WAN最適化技術の新たな展開と仮想環境での活用」の見出しの下、「企業活動におけるクラウドの利活用はもはやIT基盤設計の前提条件となっている。社内外とのコミュニケーションや業務処理においてクラウドサービスの利活用が増大している。いきおいインターネット接続や自社拠点間接続における通信データの量は増加の一途をたどり、WAN回線の帯域拡張と品質向上は企業のITシステム運用において危急に解決すべき課題となっている。本稿では、回線帯域あたりの通信量を増やしコストを低減するソリューションであるWAN最適化装置の最新の技術動向と適用例を紹介する。・・・」との論文がある(甲12)。 |
(カ)「日経コミュニケーション」(2014年2月1日発売号)には、「協調か競争か岐路に立つキャリアクラウド」と題する特集記事中(22頁)、「パート2:WAN編/インターネットと閉域網のせめぎ合い/クラウドが変えるWANの在り方」の見出しの下、「クラウドサービスの急激な普及に、WANも変わろうとしている。通信事業者は新市場を狙うキャリアクラウド戦略を推進すると同時に、変化するWANへの対応も同時に進めている。」の記載とともに、「クラウドの普及で求められるWANの新しい要件」を示した下記図表が掲載されている(甲13)。 |
(キ)「日経コミュニケーション」(2017年6月1日発売号)には、「先兵はSD―WAN「クラウド最適」で企業ネットを取る」と題する特集記事中(13頁~)、「図2」(15頁)において「企業のクラウド化に合わせてWANも仮想化へ/サーバーやストレージといった企業のIT資産がどんどんとクラウドに移行して仮想化する中で、WANがその波に乗り遅れていた。」の記載とともに、「クラウド」と「WAN」の関係を示した下記図表が掲載されている(甲14)。 |
(ク)「日経コンピュータ」(2018年7月5日号124頁~)には、「AI・IoT時代のネットワーク技術」と題する連載記事(最終回)に、「社内通信網を用途ごとに仮想化/SD-WANはIoTやクラウドに向く」の見出しの下、「企業がクラウドやAI、IoTといった技術を円滑に利用できるようにするネットワーク技術があります。「SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)」です。ソフトウェアによって物理ネットワーク上に仮想的なネットワークを構成する技術です。」との記事がある(甲15)。 |
(ケ)日経産業新聞(2020年3月25日付け 5頁)には、「クラウド接続、速度落とさず、英コルト、新型コロナで需要増。」の見出しの下、「企業の広域ネットワーク(WAN)を提供する英コルトテクノロジーサービス(コルト)の日本法人(東京・港)は、WANの構築サービスを拡大する。米オラクルのクラウドシステムと接続できるサービスを始めた。新型コロナウイルスの感染で在宅勤務が増えるなど、ネットワークの安定接続がこれまで以上に求められている。WANの帯域を柔軟に増減できる同社の技術ニーズは高いとみている。コルトのネットワーク構築サービスは、外部のクラウドを使う企業などに提供する。・・・」との記事がある(職権調査)。 |
(コ)化学工業日報(2017年12月12日付け 10頁)には、「富士通研究所、WANデータ転送40ギガビット、サーバーにFPGA」の見出しの下、「富士通研究所は11日、FPGA(大規模プログラム可能ロジックデバイス)を搭載したサーバーを活用することにより、クラウド間の大量のデータ転送において最大毎秒40ギガビット(Gbps)の転送速度を実現するWAN(モバイル網と国際網といったデータ欠落や遅延などの特性が異なる通信網を含む広域網)高速化技術を開発したと発表した。同技術をクラウド環境で利用可能なFPGA搭載サーバー上のアプリケーションに実装し、実環境での評価を進める。2018年度中の実用化を目指す。」との記事がある(職権調査)。 |
(サ)化学工業日報(2017年6月6日付け 3頁)には、「マクニカネットワークス、イスラエル企業と販売代理店契約を締結」の見出しの下、「マクニカネットワークスは、ネットワークとセキュリティーをクラウドで再構築したNetwork Security as a Service(NSaaS)プラットフォームを提供するイスラエルのケイトーネットワークス社と販売代理店契約を締結した。ケイトーは、運用が簡単で手頃な価格のエンタープライズグレードのセキュアなネットワークをあらゆる規模の企業にクラウドで提供する。ネットワークとセキュリティーのさまざまな機能をクラウドベースで提供するため、WAN(広域通信網)最適化アプライアンスなどのセキュリティーアプライアンスを削減可能。」との記事がある(職権調査)。 |
(シ)日刊工業新聞(2015年9月2日付け 13頁)には、「ネットワンシステムズ、クラウドで広域通信-来月から基盤構築サービス」の見出しの下、「ネットワンシステムズは10月から、企業のクラウド基盤を構築する新サービスを相次いで打ち出す。クラウド型の新たな広域通信ネットワークサービスを提供し、企業のコスト削減や生産性向上を支援する。・・・10月にもクラウド型で、企業の拠点間を接続する新たな広域情報通信網(WAN)サービスを始める。クラウド上から、利用するアプリに応じて通信性能を自動調整できる。従来型より導入期間や設定時間を大幅に短縮し関連コストを圧縮する。複数のセキュリティー機能や、通信を高品質化する機能も追加できる。」との記事がある(職権調査)。 |
(2)上記(1)で示した事実を総合すれば、「Cloud」の文字は、「それを提供するサーバーなどについて意識することなく、ネットワークを通じて様々な場所から利用可能なコンピューターのリソース。クラウドを使ったコンピュータの利用形態。」を意味する語として、コンピュータの分野及び情報通信の分野において一般に知られた語といえ、また、該「Cloud(クラウド)」の語は、例えば、「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」「クラウドベース」のように、クラウドに対応することを表す文字として他の語と結合して用いられることが多いものといえる。 |
また、「WAN」の文字は、「広域ネットワーク」の意味を有する「wide area network」を表す語であって、コンピュータの分野及び情報通信の分野において広く一般に用いられている語といえる。 |
さらに、近時、コンピュータの分野及び情報通信の分野においては、「Cloud(クラウド)」の語及び「WAN」の各語は、「クラウド」に対応した「WAN(広域ネットワーク)」の文脈で、例えば「CloudWAN」「クラウドWAN」「クラウド提供型WANソリューション」のように、密接に関係する語として企業ホームページ、論文、新聞記事等に多数使用されている。 |
そうすると、「Cloud」の文字及び「WAN」の文字を結合した「CloudWAN」の文字は、コンピュータの分野及び情報通信の分野においては、本件商標の登録査定時(令和4年(2022年)3月15日)を含む現時点において、これに接する取引者、需要者に「クラウドに対応したWAN(広域ネットワーク)」との意味を容易に理解、認識させるものといえる。 |
3 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について |
本件商標は、別掲1のとおり、「CloudWAN」の欧文字を一般的に用いられるゴシック体風の書体で横書きしてなるところ、当該文字は、特徴のない通常用いられる書体で表した文字のみからなるものであって、普通に用いられる方法で表示してなるものであることは明らかである。 |
また、本件商標は「Cloud」の文字(語)と「WAN」の文字(語)とを結合させたものと容易に理解、認識されるものであるところ、当該「CloudWAN」の文字は、上記2(2)のとおり、コンピュータの分野及び情報通信の分野においては、これに接する取引者、需要者に「クラウドに対応したWAN(広域ネットワーク)」との意味を理解、認識させるものであり、また、「クラウド」に対応した「WAN(広域ネットワーク)」の普及に伴って、今後、「Cloud」の文字(語)及び「WAN」の文字(語)は、その使用が増えることが容易に予想されるところであって、これらの文字(語)を単に結合したにすぎない「CloudWAN」の文字(語)も、コンピュータの分野及び情報通信の分野の商品及び役務が含まれる本件商標の第9類の指定商品及び第42類の指定役務の取引に際し、何人もその使用を欲するものと判断するのが相当である。 |
そうすると、本件商標は、その指定商品及び指定役務に使用した場合には、将来も含め、これに接する取引者・需要者によって、当該商品及び役務が「クラウドに対応したWAN(広域ネットワーク)」に関するものであるという商品の品質及び役務の質を表したものと一般に理解、認識されるにとどまり、自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、かつ、その構成文字の意味及びこれが用いられている状況に照らせば、特定人による独占使用を認めることは公益上適当でないとともに独占適応性を欠くものというべきである。 |
したがって、本件商標は、その指定商品の品質及び指定役務の質を普通に用いられる方法で表示してなる商標であって、商標法第3条第1項第3号に該当する。 |
4 商標権者の意見について |
(1)商標権者は、今のところ「CloudWAN」が「クラウドに対応したWAN」のような意味合いを直接的かつ具体的に理解されたり、この意味を示す記述的な用語として一般的に広く使用されたりするには至っておらず、本件商標は自他商品等の識別標識として機能し得るものである旨主張している。 |
しかしながら、上記2で示した「Cloud」の文字及び「WAN」の文字の語義や、使用の事実を踏まえれば、本件商標がその指定商品及び指定役務に使用された場合、これに接する取引者、需要者によって、「クラウドに対応したWAN」のような意味合いを表したものと一般に認識され得るというのが相当であって、本件商標の自他商品及び役務の識別力の判断に当たって「CloudWAN」の文字が一般に用いられていた実情があったことまでを必要とするものではないというべきである(平成12年9月4日東京高裁 同年(行ケ)第76号参照)。 |
(2)商標権者は、「クラウドに対応したWAN」を表現する言葉として「クラウドネットワーキング」(乙3)などの用語や「クラウド対応型○○○」という言い回しが使用されると予想され、「クラウド」部分を英語「Cloud」とし、「WAN」と合わせて1語とした造語「CloudWAN」が、広く一般に使用されるようになるか、又は何人もその使用を欲するものとならないから、本件商標は独占適応性を欠くものではなく、その使用を一般に開放しておく必要もない旨主張している。 |
しかしながら、「Cloud」及び「WAN」は、その語義、文字の使用状況に加え、「クラウド提供型WAN(ソリューション)」(甲9)や「クラウド型WAN(ソリューション)」(甲10)の用例に見られるように、両者は技術的にも密接な関連性があることからすれば、コンピュータ、情報通信技術の分野における商品及び役務を含む本件商標の指定商品及び指定役務の分野において、これらの文字(語)をそのまま結合したにすぎない本件商標「CloudWAN」は、将来一般に使用される蓋然性が高く、何人もその使用を欲するものとして、独占適応性に欠け、その使用を一般に開放しておく必要があるものと判断すべきものである。 |
(3)以上のとおり、商標権者の主張は、いずれも採用することはできない。 |
5 むすび |
以上のとおり、本件商標は、その指定商品及び指定役務について、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるから、その他の登録異議の申立ての理由について論及するまでもなく、同法第43条の3第2項の規定に基づいて、その登録を取り消すべきものである。 |
よって、結論のとおり決定する。 |