異議の決定


異議2022-685016
101 CECIL STREET, #17-07 TONG ENG BUILDING Singapore 069533(Singapore)
 商標権者  
PACIFIC PHARMACEUTICALS PTE LTD
スイス国 4002 バーゼル
 商標登録異議申立人  
ノバルティス アクチェンゲゼルシャフト
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
田中 伸一郎
  
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
中村 稔
  
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
井滝 裕敬
  
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
吉田 和彦
  
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
藤倉 大作
  
東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
 代理人弁理士
相良 由里子
  


 国際登録第1590836号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際登録第1590836号商標の商標登録を維持する。



 理 由
  
第1 本件商標
 本件国際登録第1590836号商標(以下「本件商標」という。)は、「CERTEC」の欧文字を横書きしてなり、2020年11月7日にSingaporeにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2021年(令和3年)1月28日に国際商標登録出願、第5類「Mineral dietary supplements for humans; pharmaceutical drugs.」を指定商品として、令和4年2月17日に登録査定され、同年7月1日に設定登録されたものである。
 
第2 引用商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、以下の3件(以下、これらをまとめていうときは、「引用商標」という。)であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
 1 国際登録第704670号商標(以下「引用商標1」という。)は、「CERTICAN」の欧文字を横書きしてなり、2014年(平成26年)6月2日に国際商標登録出願(事後指定)、第5類「Pharmaceutical products except preparations for veterinary use.」を指定商品として、平成27年1月16日に設定登録されたものである。
 2 登録第4339912号商標(以下「引用商標2」という。)は、「CERTICAN」の欧文字及び「サーティカン」の片仮名を上下2段に横書きしてなり、平成11年2月4日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同年12月3日に設定登録されたものである。
 3 登録第4869009号商標(以下「引用商標3」という。)は、「サーティカン」の文字を標準文字で表してなり、平成16年9月13日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同17年6月3日に設定登録されたものである。
 
第3 登録異議の申立ての理由
 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証を提出した。
 1 本件商標と引用商標の類似性の検討
 本件商標は、欧文字「CERTEC」を左から横書きした構成であり、他方、引用商標1は、欧文字「CERTICAN」の構成からなる。
 本件商標を構成する欧文字と引用商標1の欧文字とは、左から5文字目において「E」と「I」の相違があり、引用商標1の語尾に「AN」がある点で異なるが、語頭の左から4文字目までの「CERT」及び6文字目の「C」を共通にし、相違は見すごされやすい。
 よって、本件商標と引用商標1を構成する欧文字は、外観上の印象が全体としてきわめて近似している。
 また、本件商標と引用商標2の構成中の欧文字とを比較すると、本件商標の6文字中「CERT」及び「C」の5文字を引用商標2の欧文字と共通にし、相違は見すごされやすい。
 よって、両商標は、外観上の印象が全体としてきわめて近似している。
 ところで、通常の商取引においては、商標は直接並べて対比されるわけではなく、時と処を異にしてその商標に接した者の曖昧な記憶とイメージに基づいて認識・判断されるので、商標の類否判断はいわゆる離隔的観察によるべきものとされている。
 上記のとおり、本件商標と引用商標1及び引用商標2の構成中の欧文字とは、前半部分「CERT」及び中間における文字「C」を共通し、曖昧な記憶とイメージに基づいて時と処を異にして両商標に接した場合には、本件商標と引用商標1及び引用商標2中の欧文字を即座に明確に区別することは困難である。
 すなわち、本件商標と引用商標1及び引用商標2は、外観上紛らわしいというべきである。
 以上のとおり、本件商標は、外観上、引用商標と混同を生じるおそれのある類似の商標である。
 2 次に、称呼についてみると、本件商標は、「サーテック」と称呼され、これに対し、引用商標は、「サーティカン」と称呼される。本件商標と引用商標の称呼を比較すると、両称呼は、共に称呼識別上重要な要素を占める語頭音の「サーテ」の音を同じくする。後半において「ク」と「ィカン」の差異を有するが、相違する「ク」と「力」は子音を共通にする近似音であり、「ン」は弱音であるので、後半における相違は、必ずしも明瞭に聴取されにくく、両者の音の差が全体に与える影響は少ない。
 よって、両商標を一連に称呼したときは、これらがいずれも造語であることとも相まって、語調・語感が近似し、聞き誤るおそれがあるというべきである。
 3 本件の場合の抵触する商品は、人体・生命に関わる安全性が重視されるべき薬剤及び関連商品なので、上述した本件商標のような紛らわしい商標の使用・登録は、避けられるべきである。
 これに関し、薬剤に関して、「CELEMAC/セレマック」と「ZELMAC」、「ゼルマック」、「ZELMAC/ゼルマック」の商標(の称呼)が類似と判断された異議決定もある(甲5)。この先例では、聴覚上印象の強い語頭部の2音の相違であっても、両称呼は類似と判断されている。
 本件商標と引用商標とは、印象の薄い後半部分の音の相違があるにすぎず、より称呼において類似するというべきである。
 4 医療の現場において、医薬品関連の医療事故発生を踏まえ、例えば、日本病院薬剤師会のリスクマネジメント特別委員会によって、医療事故報道のあった事例、又は、厚生労働省のヒヤリハット報告で誤処方・調剤エラー・誤投与の報告が比較的多くみられた事例を、「処方点検や調剤時、病棟への供給時に注意を要する医薬品」として医薬品各商標を挙げる等して、これらの「混同による医療事故等発生の防止」を図るべく、関係者への注意・警告が継続的かつ積極的に行われてきている(甲12)。
 さらに、他の刊行物等(甲12~甲18、甲21、甲24~26)にも医薬品商標類似による誤認事例について掲載されている。
 上記各事例に鑑みれば、本件商標と引用商標においても、薬剤の誤処方・調剤エラー・誤投与の可能性がある。
 引用商標は、日本においてすでに使用されているが(甲27)、本件商標が登録され、取り違えることによってリスクの高い医薬品について使用されると、誤処方・調剤エラー・誤投与により、医療事故が起きるおそれがある。
 なお、前述した「混同による医療事故発生の防止」は、現在に至るまで、厚生労働省、医師、薬剤師、医薬品業者等の関係者において積極的に取り組まれている課題である(甲13~甲15、甲20、甲23)。
 このための具体的な解決手段の1つとして、東京医科歯科大学(附属病院)のT氏によって「類似名称検索システム」が開発され、係るシステムを利用することにより、医薬品承認申請前に類似名称の発生を防止するための事前調査ができるようになった(甲13、甲15、甲19、甲22、甲24)。このシステムは、事実上、当該承認の基準としても大きな役割を果たしている。このシステムは、上述したような「医療事故報道例、誤処方・調剤エラー・誤投与の報告例」に基づいて開発・作成されたもので、このシステムの設立趣旨及び検索結果は、特許庁におかれても、「薬剤」及び関連商品・役務に関する商標の登録性について十分勘酌されるのが適当と考える。すなわち、医薬品商標の誤認は医薬品の誤処方投与等を引き起こし、人体生命を脅かすものなので、特許庁の商標登録における商標の混同・類似の判断にも、誤用例等の上記経験則が十分に生かされるべきである。
 5 また、過去の審決例においても、2つの商標(の称呼)が各々類似と判断されている(甲6~甲11)。
 6 したがって、本件商標と引用商標は、称呼、外観において類似し、これらの指定商品が抵触するので、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
 
第4 当審の判断
 1 本件商標
 本件商標は、上記第1のとおり、「CERTEC」の欧文字を横書きしてなるところ、該文字は一般の辞書に掲載のない造語といえるものであり、我が国において特定の意味合いを有する語として用いられているという事情も見当たらないことからすると、該文字は造語として認識されるというべきものである。
 そして、そのような欧文字からなる造語については、これを称呼する場合、我が国において親しまれている英語の読み又はローマ字の読みに倣って称呼するのが自然であることからすれば、本件商標は、その構成文字に相応して「セルテック」又は「サーテック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
 2 引用商標
(1)引用商標1
 引用商標1は、上記第2の1のとおり、「CERTICAN」の欧文字を横書きしてなるところ、該文字は一般の辞書に掲載のない造語といえるものであり、我が国において特定の意味合いを有する語として用いられているという事情も見当たらないことからすると、該文字は造語として認識されるというべきものである。そして、そのような欧文字からなる造語については、これを称呼する場合、我が国において親しまれている英語の読み又はローマ字の読みに倣って称呼するのが自然であることからすれば、引用商標1は、その構成文字に相応して「サーティカン」又は「セルティカン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標2
 引用商標2は、上記第2の2のとおり、「CERTICAN」の欧文字及び「サーティカン」の片仮名を上下2段に横書きしてなるところ、下段の片仮名は上段の欧文字の読みを特定したものと無理なく認識するのが自然であることから、引用商標2は、その構成文字全体として「サーティカン」の称呼を生じるものである。また、引用商標2の構成中、欧文字部分は一般の辞書に掲載のない造語といえるものであり、我が国において特定の意味合いを有する語として用いられているという事情も見当たらないことからすると、該文字は造語として認識されるというべきものであるから、特定の観念を生じないものである。
(3)引用商標3
 引用商標3は、上記第2の3のとおり、「サーティカン」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応して「サーティカン」の称呼を生じるものである。また、該文字は一般の辞書に掲載のない造語といえるものであり、我が国において特定の意味合いを有する語として用いられているという事情も見当たらないことからすると、該文字は造語として認識されるというべきものであるから、特定の観念を生じないものである。
 3 本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標と引用商標1との類否について
 本件商標と引用商標1は、上記1及び上記2(1)のとおりの構成からなるところ、両者は、外観において、語頭から4文字目の「CERT」の文字を共通にするとしても、5文字目の以降の文字について「EC」と「ICAN」と異なり、明確に区別できるものである。
 また、称呼において、本件商標から生ずる「セルテック」の称呼と引用商標1から生ずる「サーティカン」の称呼、あるいは、本件商標から生ずる「サーテック」の称呼と引用商標1から生ずる「セルティカン」の称呼とは、その構成音、音質が明らかに異なるから、称呼上聞き誤るおそれはないものといえる。
 次に、本件商標から生ずる「サーテック」の称呼と引用商標1から生ずる「サーティカン」の称呼、あるいは、本件商標から生ずる「セルテック」の称呼と引用商標1から生ずる「セルティカン」の称呼とは、語頭及び2文字目の「サー」又は「セル」の音を共通にするとしても、3文字目以降において「テック」と「ティカン」の音の差異があることからすれば、5音と6音という比較的短い音構成においては、この差異が称呼全体に与える影響は少なくなく、これらを一連に称呼しても語調語感が相違し、称呼上聞き誤るおそれはないものといえる。
 さらに、観念においては、両商標は、互いに特定の観念を生じないものであるから、比較できないものである。
 してみれば、本件商標と引用商標1は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼のいずれにおいても相紛れるおそれのないことからすれば、両商標は非類似の商標というべきである。
(2)本件商標と引用商標2との類否について
 本件商標と引用商標2は、上記1及び上記2(2)のとおりの構成からなるところ、両者は、外観において、1段書きと2段書き、片仮名の有無という明確な差異があり、欧文字部分の比較においても、引用商標2の欧文字のつづりは引用商標1の欧文字のつづりと同一であるから、上記(1)と同様に明確に区別できるものである。
 また、引用商標2は、その構成文字全体として「サーティカン」の称呼を生じるものであるから、「サーテック」又は「セルテック」の称呼を生じる本件商標とは、上記(1)と同様に、称呼上聞き誤るおそれはないものといえる。
 さらに、観念においては、両商標は、互いに特定の観念を生じないものであるから、比較できないものである。
 してみれば、本件商標と引用商標2とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(3)本件商標と引用商標3との類否について
 本件商標と引用商標3は、上記1及び上記2(3)のとおりの構成からなるところ、両者は、外観において、欧文字と片仮名からなり、その文字種が相違することからすれば、明確に区別できるものである。
 また、引用商標3は、その構成文字から「サーティカン」の称呼を生じるものであるから、「サーテック」又は「セルテック」の称呼を生じる本件商標とは、上記(1)と同様に、称呼上聞き誤るおそれはないものといえる。
 さらに、観念においては、両商標は、互いに特定の観念を生じないものであるから、比較できないものである。
 してみれば、本件商標と引用商標3とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(4)小括
 上記(1)ないし(3)のとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれはない非類似の商標であるから、本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似する商品であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
 その他、両商標が類似するという理由は見いだせない。
 4 申立人の主張について
 申立人は、引用商標の指定商品と抵触する本件商標の指定商品は、人体及び生命に関わる、安全性が重視されるべき薬剤及び関連の商品及び役務であって、本件商標は引用商標と紛らわしい商標であるから、本件商標の使用・登録は、避けられるべきである旨、及び、混同による医療事故発生の防止の課題は、現在に至るまで、厚生労働省、医師、薬剤師、医薬品業者等の関係者において積極的に取り組まれており、このための具体的な解決手段の1つとして開発された「類似名称検索システム」の利用により、医薬品承認申請前に類似名称の発生を防止するための事前調査ができることに触れ、当該システムは、「医療事故報道例、誤処方・調剤エラー・誤投与の報告例」に基づいて開発・作成されたものであるから、当該システムの設立趣旨及び検索結果は、特許庁においても、「薬剤」及び関連商品・役務に関する商標の登録性について十分勘酌するのが適当である旨主張している。
 しかしながら、「商標の類否判断は、諸種の社会的要請をも考慮しなければならないとしても、混同しやすい名前の医薬品から生じるであろう危険を回避し、国民の生命、健康を保護するのは、医薬品の製造承認の権限を有する厚生省の所管に属することであるから、いかなる医薬品に類似した名前を使用した場合に、混同を生じて国民の生命、健康に影響を及ぼすかは、厚生省に判断を委ねるべきであり、商品の出所について誤認混同を生じるおそれを防止すべき商標の登録の当否の判断に、かかる事項までをも考慮し、一般の商標の類否判断とは異なる基準に基づき判断すべきではない(東京高等裁判所 平成2年9月10日判決 平成2年(行ケ)第72号参照)」と判示されていること、及び本件商標は引用商標と非類似の商標であることは、上記3(4)のとおりであるから、申立人の上記主張を採用することはできない。
 5 むすび
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
 よって、結論のとおり決定する。


        令和 6年 1月30日

     審判長  特許庁審判官 大森 友子
          特許庁審判官 小俣 克巳
          特許庁審判官 石塚 利恵

 
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〔決定分類〕T1651.261-Y  (W05)
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上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年 1月30日  審判書記官  眞島 省二