審決


取消2022-670004

大韓民国、ソウル、チュン-グ、タサン-ロ 46-ギル、17、2202ホ
 請求人
パク、イン チョン
  
東京都千代田区六番町2-5 フォルム六番町1F
 代理人弁理士
新保 斉
  
5 South Mills, 38 Jubilee Road Newtownards, County Down BT23 4YH(United Kingdom)
 被請求人
P.R. Golf Distribution Limited
  
東京都港区虎ノ門四丁目3番1号 城山トラストタワー32階 弁理士法人日栄国際特許事務所
 代理人弁理士
田中 秀▲てつ▼
  
東京都港区虎ノ門四丁目3番1号 城山トラストタワー32階 弁理士法人日栄国際特許事務所
 代理人弁理士
田口 健児
  
東京都港区虎ノ門四丁目3番1号 城山トラストタワー32階 弁理士法人日栄国際特許事務所
 代理人弁理士
森 哲也
  


 上記当事者間の国際登録第1238787号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。



 結 論
  
 国際登録第1238787号商標の指定商品中、第25類「Clothing,footwear[other than special footwear for sports],headgear,golf clothing,waterproof clothing for golf,hats,caps,golf leggings,golf jackets,gaiters,galoshes,gloves,money belts,neckties,scarves,slippers,shirts,Tee shirts,trousers,pullovers,socks,sun visors,visors,underwear,wristbands[clothing]and clothing for sportswear,belts」についての商標登録を取り消す。
 審判費用は、被請求人の負担とする。



 理 由
  
第1 本件商標
 本件国際登録第1238787号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、2014年11月5日に国際商標登録出願、「Clothing,footwear [other than special footwear for sports], headgear, golf clothing, waterproof clothing for golf, hats, caps, golf leggings, golf jackets, gaiters, galoshes, gloves, money belts, neckties, scarves, slippers,shirts, Tee shirts, trousers, pullovers, socks, sun visors, visors, underwear, wristbands [clothing] and clothing for sportswear, belts」(以下「請求に係る指定商品」という。)を含む第25類、第18類、第24類及び第28類に属する国際商標登録原簿に記載された商品を指定商品として、平成28年8月12日に設定登録されたものである。
 そして、本件審判の請求の登録日は、令和4年2月9日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成31年(2019年)2月9日から令和4年(2022年)2月8日までの期間(以下「要証期間」という。)である。
 
第2 請求人の主張
 請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、令和4年4月22日付け審判事件答弁書(以下「答弁書1」という。)に対する同年6月22日付け弁駁書(以下「弁駁書」という。)及び同5年5月12日付け審判事件答弁書(以下「答弁書2」という。)に対する同年12月25日付け上申書(以下「上申書」という。)においてその理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証を提出した。
 以下、証拠の記載にあたっては、「甲(乙)○号証」を「甲(乙)○」のように省略して記載する場合がある。
 1 請求の理由
 本件商標は、その指定商品中、請求に係る指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により、取り消されるべきである。
 2 弁駁書の要旨
 被請求人が提出した証拠は全て英語表記であり、日本国内における使用とはいえない。
 甲第1号証(審決注:「乙第1号証」の誤記と思われる。以下、弁駁書における「甲第○号証」の記載部分について「乙第○号証」に読み替えて記載する。)については、当該商標を付した商品写真と日付は確認できるが、日本国内にいる者を対象とした使用であるかが不明であり、画面構成を見ても、少なくとも日本国内での登録商標の使用には該当せず、商標法第2条第3項に規定する、いずれの商標の使用態様であるかも明確にしていない。
 乙第2号証及び乙第3号証も、どこで行われたイベントか不明であり、日本語の記載が一切なく、日本人の参加者や日本人と思われるスタッフも不在のように思われ、明らかに日本国内での使用とはいえず、具体的に、どのような展示会で日本国内の具体的な開催場所に関する説明がないので、登録商標の使用証拠にはなり得ない。
 また、関係者と思われる人物が、登録商標を付したと思われる被服等を着衣している様子に印をつけているが、これは商標法第2条第3項に規定する使用態様のいずれにも該当せず、その他の登録商標の表示についても、同項に規定する、いずれの商標の使用態様であるかも明確にしていない。
 加えて、乙第4号証については、金額の記載が米ドル表示であり、日本国内での使用ではない。
 3 上申書の要旨
 被請求人が主張した「CREW.15株式会社(以下「CREW.15社」という。)が通常使用権者である」旨の内容については、何ら具体的な証拠を示していない。本件商標権者と米国PRG社との関係が不明であるとともに、米国PRG社が本商標権の専用使用権者でなければ通常使用権を許諾できる立場にないと思われる。なお、本商標権について専用使用権者はいないものと思料する。
 また、代理店契約をした旨の記載のみでは、通常使用権者であるとはいえない。少なくとも代理店契約書とは別に、通常使用権の許諾に関する契約事項(対象とする登録商標の内容、独占的な通常使用権か否か、許諾範囲、許諾期間、使用料等に関する取り決めなど)が必要であると思料する。CREW.15社も、自身が通常使用権者であることの認識もないものと考えられる。
 次に、乙第6号証には、PRGカタログ2017があるが、要証期間において、実際のカタログ(乙7)が閲覧できたとの証拠はない。そうすると、乙第6号証の表示のみでは、広告等への使用とは該当しない。特に、要証期間は、2019年2月9日から2022年2月8日であることに鑑みると、その期間よりもはるかに古いカタログがダウンロードできたことは懐疑的と言わざるを得ない。
 加えて、乙第8号証では、2020年のカタログが存在することからも、それよりも古い2017年のカタログがダウンロードできたものとは考えにくい。
 また、これらのカタログ(乙6、乙8)は、CREW.15社が作成したものとも考えにくいので、同社が登録商標を使用したものとは解釈できない。
 さらに、乙第9号証ないし乙第15号証では、本審判での対象商品に関する使用については、特段、見て取れない。
 以上の観点から、本件商標は、取り消されるものである。
 
第3 被請求人の主張
 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、答弁書1、答弁書2及び令和5年12月25日付け回答書(以下「回答書」という。)において、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第17号証を提出した。
 1 答弁書1の要旨
 請求に係る指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者(以下「本件商標権者」という。)が本件商標の使用をしている(乙1~乙4)。
 2 答弁書2の要旨
(1)2020年8月4日付けのCREW.15社(以下、答弁書2において「通常使用権者」という。)のホームページから、2017年2月25日にアメリカのPRG社(以下、答弁書2において「本件商標権者」という。)と日本代理店契約を締結したことが見て取れる(商標法第31条)(乙5)。
(2)2019年7月29日付けの通常使用権者のホームページから、PRGカタログ2017がダウンロードできることが見て取れる(乙6)。
(3)2019年1月29日(審決注:「7月29日」の誤記と認める。)にダウンロード可能であったPRGカタログ2017から、通常使用権者が、指定商品「帽子,手袋」について、商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法第2条第1項第8号)を行っていたことが見て取れる(乙7)。
(4)PRGカタログ2020から、通常使用権者が、指定商品「帽子」(以下「使用商品」という。)について、商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法第2条第1項第8号)を行っていたことが見て取れる(乙8)。
(5)2020年8月4日付けの通常使用権者のホームページから、通常使用権者が、本件商標権者の商品について、商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法第2条第1項第8号)を行っていたことが見て取れる(乙9)。
(6)通常使用権者のインスタグラムから、通常使用権者が、本件商標権者の商品について、商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法第2条第1項第8号)を行っていたことが見て取れる(乙10、乙11)。
(7)通常使用権者のフェイスブックから、通常使用権者が、本件商標権者の商品について、商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法第2条第1項第8号)を行っていたことが見て取れる(乙12~乙15)。
 3 回答書の要旨
(1)CREW.15社が本件商標の専用使用権者又は通常使用権者であることを示す書面
 本件商標権者は、世界中の多くの国で商標権を有しており、その各国に総代理店がある。総代理店とは書面で代理店契約書を交わしておらず、口頭や電子メールなどでの承認後、本件商標権者のウェブサイトに総代理店として登録し、公開している。
 このウェブサイトで日本をクリックすると、CREW.15社の電子メールアドレス、ウェブサイト及び電話番号が表示されることから、CREW.15社が本件商標権者の日本における総代理店であることが明らかである。
 また、本件商標権者は総代理店に対して、使用許諾契約書を交わしていないものの、その国における登録商標を使用することを許可し、その画像データを無償で供与している。
 そして、その使用態様について制限は加えないものの、使用態様を監視しており、この事は陳述書において、本件商標権者及びCREW.15社の双方が認めている。
 上記の事実から、本件商標権者がCREW.15社に通常使用権を許諾しているものと推認される。
(2)PRG Bespoke社、PRG社及び本件商標権者の関係を示す書面
 乙第7号証の商品カタログの裏表紙の「Head Office/PRG Bespoke Golf Accessories」という表記の「PRG Bespoke Golf Accessories」部分は、会社名ではない。
 「Bespoke」は、「オーダーメイドの」という意味の形容詞で、この表記は、「PRG社のオーダーメイドのゴルフアクセサリー」という意味を表している。PRG社は、ゴルフアクセサリーのビジネスにおいて、この表記をDBA(doing business as 通称)として使用している。乙第7号証の2枚目や、乙第8号証の1枚目を参照すれば、「PRG」部分と「Bespoke Golf Accessories」部分が分離して記載されており、一連の会社名でないことが明らかであり、本件商標権者は、この事実を同人の陳述書において申し述べている。
(3)乙第8号証の商品カタログの印刷や頒布の事実及び日付などを示す書面
 乙第8号証の商品カタログは、CREW.15社が本件商標権者から、この登録商標の画像データ及び商品素材データを無償で入手し、2020年2月3日に作成している。CREW.15社は、このカタログを2020年5月から2023年6月まで、自社ウェブサイトから、無料でダウンロードできるようにしており、CREW.15社は、この事実を同社の陳述書において申し述べている。
 令和元年(行ケ)第10078号審決取消(商標)請求事件によれば、本件商標権者は、CREW.15社に対し、日本において消費者に販売されることを認識しつつ、本件商標データ及び本件商標を付した使用立証対象商品を譲渡し、CREW.15社は,本件要証期間中に、本件商標を付した状態で日本の消費者に対して本件使用対象商品を譲渡した事実を推認することができるし、少なくとも、CREW.15社が譲渡のためのカタログを配布したことは明らかである。
 かかる事実によれば、本件商標は、本件要証期間内に、本件商標権者によって、日本国内で、使用立証対象商品に、使用されたものと評価することができる。
 
第4 当審の判断
 1 事実認定
 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証は、被請求人がWaybackによる本件商標権者の過去のホームページの写しと主張するものであり、1葉目に要証期間内の2021年1月15日を示す日付、本件商標と同視し得る標章を付した商品写真が確認でき、2葉目に要証期間内の2020年11月1日を示す日付、本件商標と同視し得る標章を付した使用商品の写真が確認できる。
 しかしながら、当該証拠は、英語で表記されていることから、日本国内に在住している者を対象としたものであるかが不明である。
(2)乙第2号証ないし乙第4号証は、被請求人が、本件商標権者のインスタグラムのページの写しと主張するものであり、これらの証拠において、何らかのイベントのブースと思われる写真に本件商標と同視し得る標章が確認でき、それぞれ2019年1月24日、要証期間内の2020年1月22日及び同月24日の日付が確認できる。
 しかしながら、これらのイベントがどこで行われたものか不明であり、かつ、これらの証拠は全て英語で表記されていることから、日本国内に在住している者を対象としたものであるかが不明である。
(3)乙第5号証及び乙第6号証は、被請求人がWaybackによる使用権者の過去のホームページの写しと主張するものであり、乙第5号証には、要証期間内の2020年8月4日を示す日付、及び「2017.02.25 PRG社と日本代理店契約 CREW.15株式会社はアメリカのPRG社と日本代理店契約を締結しました。」(以下「アメリカのPRG社」を「米PRG社」という。)の記載がある。
 また、乙第6号証には、要証期間内の2019年7月29日を示す日付、及び「PRGは・・・現在は米国をベースに多くのオリジナルゴルフアクセサリーをゴルフ場に販売しております。弊社は日本の代理店としてPRG社のオリジナル商品だけでなく、お客様のニーズに合った商品をPRG社と企画・販売もしております。カタログ内の定番商品だけで120品以上あり、全て小ロットから生産が可能です。詳しくは弊社までメールかお電話でお問い合わせください。」の記載がある。
 そして、「COMPANY」の見出しの下、「社名 CREW.15株式会社」、「事業内容 ゴルフ用品、スポーツ用品、ゴルフアクセサリーのOEM、製造販売」の記載がある。
 また、当該ホームページには、本件商標と同視し得る標章の記載とともに「PRGカタログ2017」という名称のファイルが添付されている。
(4)乙第7号証は、被請求人がPRGカタログ2017の写しと主張するものであり、同号証の1葉目には、別掲2のとおりの標章(以下「使用商標1」という。)の記載とともに、「PRG・・・現在は米国をベースに多くのオリジナルゴルフアクセサリーをゴルフ場で販売しております。弊社は日本の代理店としてPRGのオリジナル商品を小ロット(24個~)で製作します。PRGカタログはこちら↓からご覧いただけます。」の記載がある。
 また、同号証の2葉目には、使用商標1の記載とともに、「2017」及び「Bespoke Golf Accessories」の記載がある。
 さらに、同号証の66ページには、「Caps」の見出しの下、「帽子」の写真が掲載されており、同号証の最終ページには、「Distributors」の見出しの下、「Japan Crew 15.Co.,Ltd」の記載、「Head Office PRG Bespoke Golf Accessories」の記載がある。
 そして、乙第6号証のホームページに添付された「PRGカタログ2017」という名称のファイルと乙第7号証のカタログには、使用商標1及び「2017」の数字が共通して記載されていることから、両者は、同一のカタログであり、乙第7号証のカタログは、要証期間内の2019年7月29日に閲覧可能な状況であったことが推認できる。
(5)乙第8号証は、被請求人がPRGカタログ2020の写しと主張するものであり、同号証の1葉目には、別掲3のとおりの標章(以下、色彩が異なるものを含み「使用商標2」という。「使用商標1」と「使用商標2」をまとめていうときは「使用商標」という。)とともに、「BESPOKE GOLF ACCESSORIES」及び「2020」の記載がある。
 また、同号証の38ページに使用商標2が付された帽子の写真が掲載されており、同号証の最終ページに、使用商標2とともに、「OFFICIAL DISTRIBUTOR」、「CREW.15株式会社」及び同社の住所、電話番号及びFAX番号の記載がある。
 乙第5号証ないし乙第8号証よりすれば、少なくとも2017年2月から要証期間内の2019年7月にかけて、米国をベースにゴルフ用品などを販売している米PRG社との間で日本における代理店契約を結んでいたCREW.15社が要証期間内の2019年7月29日時点に閲覧可能な状況であった「PRGカタログ2017」において、使用商品「帽子」を取り扱っていたこと、要証期間内の2020年に作成されたと思われる「PRGカタログ2020」において、使用商品「帽子」を取り扱っていたものと推認し得るものである。
(6)乙第9号証は、被請求人がWaybackによる使用権者の過去のホームページの写しと主張するものであり、同号証には、要証期間内の2020年8月4日を示す日付及び使用商標2が記載されている。
(7)乙第10号証及び乙第11号証は、被請求人が使用権者のインスタグラムの写しと主張するものであり、乙第10号証には、店舗内と思われる写真の広告に「CREW.15株式会社」の表示とともに使用商標1が使用され、同号証の記事部分に要証期間内の2021年3月1日を示す日付の記載がある。
 また、乙第11号証には、「チゼルマーカー」と称する商品の写真の下に、使用商標2が使用され、記事部分に要証期間内の2021年3月22日を示す日付の記載がある。
(8)乙第12号証ないし乙第15号証は、被請求人が使用権者のフェイスブックの写しと主張するものであり、乙第12号証には、「チゼルマーカー」と称する商品の写真の下に、使用商標2が使用され、同号証の記事部分に「CREW.15株式会社」及び要証期間内の2021年3月22日を示す日付の記載がある。
 乙第13号証には、何らかの商品の写真の下に使用商標1が使用され、同号証の記事部分に「CREW.15株式会社」及び要証期間内の2019年2月15日の日付の記載がある。
 乙第14号証及び乙第15号証には、ゴルフ用品と思われる商品の写真が掲載され、同号証の記事部分に「CREW.15株式会社」及びそれぞれ要証期間内の2019年3月24日及び2021年3月3日の日付の記載がある。
(9)乙第16号証は、被請求人が、本件商標権者の陳述書と主張するものであり、同号証には、「陳述書」のタイトルの下、「本件商標権者は、自身の登録商標について、書面によって使用許諾の契約を結んでいないが、本件商標権者の総代理店として認めた場合に、その国での総代理店として本件商標権者のホームページに登録し、本件商標権者の登録商標を無償で使用させている」旨、「本件商標権者は、CREW.15社を2017年2月から日本における総代理店として認定し、本件商標権者のホームページに総代理店として登録した」旨、「広告宣伝用に商品サンプル等を無償提供し、CREW.15社の求めに応じて、カタログ冊子の作成も許可し、商品写真や当該商標のデータも無償で提供し、当該カタログ冊子の内容も本件商標権者で確認している」旨、「これらの経緯と、CREW.15社との6年にわたる総代理店としての取引及び他社に当該登録商標の使用を許可していない事実から、本件商標権者が、CREW.15社に本件商標権者の当該登録商標について黙示的に通常使用権を許諾していることが立証される」旨が記載されている。
 そして、同号証には、要証期間外の2023年12月21日の日付で、本件商標権者の取締役社長の氏名及び署名がある。
(10)乙第17号証は、被請求人が、日本総代理店の陳述書と主張するものであり、同号証には、「陳述書」のタイトルの下、「CREW.15社は、2017年2月に本件商標権者から、日本における総代理店として認められ、同社のホームページに正規代理店として登録された」旨、「商品サンプル等は、本件商標権者から無償提供され、カタログ冊子は顧客からの要望により、2020年及び2023年にCREW.15社負担で作成し、カタログ冊子に使用する当該商標の画像データは、本件商標権者から無償で提供されている」旨、「2020年版のカタログは、2020年2月3日に完成し、同年5月から2023年6月までCREW.15社ホームページからダウンロードできるようにしていた」旨、「これらの経緯と、本件商標権者との6年にわたる総代理店としての取引及び他社が当該登録商標を使用していない事実から、CREW.15社は日本において、本件商標権者から通常使用権を許諾されていると認識しており、本件商標権者からその使用について何らかの制限を受けたことはない」旨が記載されている。
 そして、同号証には、要証期間外の2023年12月21日の日付で、CREW.15社の代表者の氏名及び署名がある。
 2 判断
 前記1において認定した事実によれば、以下のとおり認めることができる。
(1)使用者について
 CREW.15社は、少なくとも2017年2月から要証期間内の2019年7月にかけて、米国をベースにゴルフ用品などを販売している米PRG社との間で日本における代理店契約を結んでいたこと(乙5、乙6)、CREW.15社が要証期間内の2019年7月29日時点に存在していた米PRG社に係る「PRGカタログ2017」において、使用商品「帽子」を取り扱っていたこと、要証期間内の2020年に作成されたと思われる「PRGカタログ2020」において、使用商品「帽子」を取り扱っていたものと推認し得るものである(乙6~乙8)。
 しかしながら、提出された証拠から、CREW.15社が要証期間内に米PRG社との間で代理店契約を結び、CREW.15社が米PRG社に係る商品を取り扱っていたとしても、CREW.15社と米PRG社との間における本件商標の使用許諾契約(例えば、対象とする登録商標の内容、独占的な通常使用権か否か、許諾範囲、許諾期間、使用料等に関する取り決めなどが盛り込まれた契約書等)の存在を確認することができないから、CREW.15社は、米PRG社の代理店の一つといえるとしても、直ちに本件商標についての通常使用権者であると認めることはできない。
 加えて、提出された証拠からは、米PRG社と本件商標権者との関係について、米PRG社とイギリスを所在地とする本件商標権者が同一人である、親会社と子会社の関係にある等、米PRG社と本件商標権者が、組織的に何らかのつながりがあることが確認できないことから、CREW.15社が本件商標の通常使用権者であると認めることはできない。
 なお、被請求人は、本件商標権者及びCREW.15社の代表者による陳述書(乙16、乙17)において、CREW.15社は本件商標権者の日本における総代理店であり、本件商標権者は総代理店に対して、使用許諾契約書を交わしていないものの、その国における登録商標を使用することを許可し、その画像データを無償で供与しており、その使用態様について制限は加えないものの、使用態様を監視していることなどを双方が認めていることをもって、本件商標権者がCREW.15社に本件商標について黙示の許諾をしているものと推認できる旨主張している。
 しかしながら、本件商標権者がCREW.15社に本件商標について黙示の許諾をしていると推認できるとする証拠は、当該陳述書のみであり、CREW.15社と本件商標権者との間における本件商標の使用許諾契約の存在を確認することができないうえ、当該陳述書には、本件商標の登録番号や許諾範囲等、本件商標の使用許諾契約に相当する書類と認めるに足りる記載はなく、当該陳述書の日付は、いずれも要証期間外であるから、当該陳述書をもって、要証期間内にCREW.15社が本件商標権者から、本件商標の使用の許諾を受けた者であると認めることはできない。
 そして、ほかに、CREW.15社が本件商標の通常使用権者であることを証明する書類は提出されてない。
 そうすると、CREW.15社は、本件商標の通常使用権者であるとはいえないから、通常使用権者が本件商標を使用しているものと認めることはできない。
(2)使用商標について
 本件商標は、別掲1のとおりの態様よりなり、使用商標は、別掲2及び別掲3のとおり、本件商標と構成を共通にする態様よりなるものであるから、使用商標は、本件商標と社会通念上同一のものと認められる。
(3)使用商品について
 使用商品は「帽子」であるから、請求に係る指定商品中、「headgear,caps」に含まれるものである。
(4)使用行為について
 要証期間の2019年7月29日に閲覧可能な状況であったCREW.15社が運営する日本語のホームページ(乙6)に添付された「PRGカタログ2017」(乙7)において、使用商品「帽子」が取り扱われ、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標1が使用されたことが認められることから、CREW.15社による当該行為は、商標法第2条第3項第8号(商品に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為)に形式的には該当する。
 また、「PRGカタログ2020」(乙8)において、請求に係る指定商品中、「headgear,caps」に含まれる「帽子」について、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標2が使用されたことはうかがえるとしても、上記(1)のとおり、CREW.15社は、本件商標の通常使用権者とは認められないものである。
 そして、「PRGカタログ2020」の印刷日や頒布日が具体的に確認できる客観的な証拠は確認できないから、当該カタログが要証期間に閲覧、頒布されたとは認められない。
 そうすると、CREW.15社が要証期間に閲覧可能な状況であった自身の運営する日本語のホームページに添付された「PRGカタログ2017」に、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標1を使用し、また、CREW.15社が、「PRGカタログ2020」に、請求に係る指定商品中、「headgear,caps」に含まれる「帽子」について、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を、使用商品「帽子」について使用する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するものとはいえない。
 3 まとめ
 以上のとおり、被請求人が提出した全証拠によっては、被請求人は、要証期間に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、その請求に係る指定商品のいずれかについて、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)を使用したことを証明したものとは認められない。
 また、被請求人は、本件審判の請求に係る指定商品について、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
 したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定商品中、「結論掲記の商品」について、その登録を取り消すべきものである。
 よって、結論のとおり審決する。
 


        令和 6年 5月10日

     審判長  特許庁審判官 冨澤 武志
          特許庁審判官 馬場 秀敏
          特許庁審判官 小田 昌子

 
別掲1(本件商標)
 
 
別掲2(使用商標1。色彩については、乙7参照のこと。)
 
 
別掲3(使用商標2)
 
 
 
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)                この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。         (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)        本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
  
審判長 冨澤 武志          
 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。


〔審決分類〕T132 .1  -Z  (W25)

上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年 5月10日  審判書記官  齊藤 葉月