理 由 |
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第1 本件商標 |
本件国際登録第1529750号商標(以下「本件商標」という。)は、「little peanut monster」の欧文字を横書きしてなり、2019年(令和元年)9月3日にEUIPOにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2020年3月3日に国際商標登録出願、第29類、第30類及び第35類に属する国際登録原簿記載のとおりの別掲1の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和3年10月8日に登録査定され、同年12月3日に設定登録されたものである。 |
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第2 登録異議申立人が引用する商標 |
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり、以下、これらをまとめて「引用商標」という。また、引用商標1ないし引用商標6は、現に有効に存続しているものである。 |
1 登録第5379390号商標(以下「引用商標1」という。) |
商標の態様 「MONSTER」(標準文字) |
指定商品 第32類「アルコール分を含まない飲料,清涼飲料,果実飲料」 |
登録出願日 平成22年7月8日 |
設定登録日 平成22年12月24日 |
2 登録第5057229号商標(以下「引用商標2」という。) |
商標の態様 別掲2のとおり |
指定商品 第32類に属する商標登録原簿に記載の商品 |
登録出願日 平成18年6月9日 |
設定登録日 平成19年6月22日 |
3 登録第5393681号商標(以下「引用商標3」という。) |
商標の態様 「MONSTER ENERGY」(標準文字) |
指定商品 第32類に属する商標登録原簿に記載の商品 |
登録出願日 平成22年7月8日 |
設定登録日 平成23年2月25日 |
4 登録第5844119号商標(以下「引用商標4」という。) |
商標の態様 MONSTER ENERGY(標準文字) |
指定役務 第35類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務 |
登録出願日 平成27年1月30日 |
設定登録日 平成28年4月22日 |
5 登録第6052913号商標(以下「引用商標5」という。) |
商標の態様 「MONSTER MEAL DEAL」(標準文字) |
指定商品・役務 第29類、第30類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務 |
優先権主張 2017年(平成29年)6月28日 アメリカ合衆国 |
登録出願日 平成29年12月26日 |
設定登録日 平成30年6月15日 |
6 登録第6096929号商標(以下「引用商標6」という。) |
商標の態様 「MONSTER ENERGY ULTRA」(標準文字) |
指定商品 第5類、第32類及び第30類に属する商標登録原簿に記載の商品 |
登録出願日 平成29年10月16日 |
設定登録日 平成30年11月9日 |
7 「モンスター」の片仮名からなる商標(以下「引用商標7」という。)。 |
なお、引用商標7は、申立人主張の全趣旨から合議体が引用商標と認めたものである。 |
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第3 登録異議の申立ての理由 |
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第452号証(枝番号を含む。)を提出した。 |
1 「MONSTER」「モンスター」の周知著名性 |
(1)MONSTERブランドの創設及び「MONSTER」の使用 |
申立人は、2002年に「MONSTER」なるエナジードリンクのブランドを創設し、これ以降、現在に至るまで、「MONSTER」をMONSTERブランドのエナジードリンク(以下「申立人商品」という。)の出所識別標識として使用している。 |
申立人商品は、2002年に米国でMONSTERブランドの第1号の個別製品「MONSTER ENERGY」を発売後、世界各国における販売も開始し、現在は日本を含む世界130以上の国及び地域で販売中である。 |
申立人商品には、2002年以降現在まで一貫して、「MONSTER」の文字を基調とする個別商品名(例えば、「MONSTER ENERGY」「MONSTER ASSAULT」「MONSTER KHAOS」「MONSTER M-80」「MONSTER RIPPER」など)が採用されている。また、これらの個別製品の包装容器は同じデザインで統一されており、特徴的な書体で大きく表示した「MONSTER」の文字(甲416)を独立して見る者の目をひきつける態様で顕著に表示している(別紙1、別紙2)。 |
このように、規則的なネーミング法(すなわち「MONSTER」に他の語を結合する方法)で命名された個別製品名と特徴的な書体で表示した「MONSTER」の文字を顕著に表示した統一的デザインの包装容器を特徴とする申立人商品は、申立人のMONSTERブランドのエナジードリンク事業を拡大し、その成功は経済界で高い評価を受けている(甲2~甲33、甲51~甲58、甲391~甲393)。 |
国内では、2012年5月の「MONSTER ENERGY」(モンスターエナジー 缶 355ml)及び「MONSTER KHAOS」(モンスター カオス 缶 355ml)発売以降、現在まで16種類の申立人商品(リニューアル商品を含む。)を販売している(別紙1)。 |
(2)広告宣伝活動 |
申立人商品に関する広告宣伝活動は、幅広く継続的なものであり、国際的に活躍する多数の有名アスリート・チーム及びイベントに対するスポンサー活動を中核として、ウェブサイト及びプレスリリースによる広告、申立人商品サンプルの配布、大手コンビニエンスストアやイベント主催者と提携した大規模な販売キャンペーン(景品・賞品のプレゼントを含む。)、スポーツイベント等の開催、契約アスリート等の動画・画像の公開、MONSTERブランドのライセンス商品の開発及び販売、ビデオゲーム会社と提携したMONSTERブランドを使用したビデオゲームの開発及び共同販売促進活動の実施など極めて多彩な内容である。こうした広告宣伝活動は、「MONSTER」の文字(特徴的な書体で表示したものを含む。)、爪の図柄と特徴的な書体で表示した「MONSTER」の文字と活字体で表示した「ENERGY」の文字からなるロゴマーク、「MONSTER ENERGY」の文字(以下、これらを併せて「MONSTERブランドマーク」という。)を使用して、本件商標の登録出願日前から継続的かつ頻繁に全国規模で実施されている(別紙3~別紙7)。 |
また、申立人は、申立人商品の中心的需要者層である10~30代の若い世代(特に男性)に人気が高いモータースポーツ、エクストリームスポーツの分野を中心にスポンサー活動を行うとともに、全16の異なるウェブサイト及びソーシャルメディアのアカウント(別紙9)を開設して、こうした若い世代が多く利用するインターネットメディアによる大規模な情報発信を通じてMONSTERブランドを需要者に強くアピールするための効果的な広告を実施している。 |
(3)ライセンス商品の輸入差止 |
需要者におけるMONSTERブランドのライセンス商品の人気の高さに便乗して、海外で製造された申立人の商標権侵害物品が日本の税関で輸入差止される事案が遅くとも平成25年7月から度々発生している(別紙8)。 |
(4)国内外における商標登録 |
MONSTERブランドマークについて、申立人は、引用商標をはじめとして、国内外において多数の商標登録を取得している(甲433~甲446)。 |
(5)ブランド認知度及び市場占有率 |
複数の第三者が実施したエナジードリンクに関する市場調査及び消費者アンケート調査によれば、既に2013年時点で申立人商品の国内市場占有率は25%を超えており、一般消費者におけるブランド認知度も第2位であったことが明らかである。2013年以降も、申立人商品は着実に売上を伸ばしており、若い世代の男性を中心とした従来の主要需要者層に止まらず、美しいカラフルな色使いのボトル缶に大きく目立つ態様で表示された爪の図柄が人目をひきつけ、男性のみでなく女性の間でもMONSTERブランドの認知度を高めている(甲311~甲322、甲383~甲385)。 |
(6)「MONSTER」「モンスター」の表示で認識されていたこと |
上記のような販売実績を通じて、申立人商品は、飲料業界で「モンスター」と称され、「MONSTER」「モンスター」と表示され、「MONSTER(モンスター)」のブランドとして認識されている(甲10、甲16、甲17、甲34、甲42、ほか)。 |
(7)小括 |
以上の事柄に照らせば、申立人の使用に係る「MONSTER」(以下「申立人商標」という。)及びその音訳「モンスター」は、本件商標の登録出願時及び査定時には、申立人の製造販売に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたことが明らかである。 |
2 商標法第4条第1項第11号該当性 |
(1)本件商標の構成文字「little peanut monster」は、辞書等に掲載されている成語ではなく全体が熟語的観念を生じるものではないところ、「little」は英単語の「little」、「peanut」は英単語の「peanut」、「monster」は英単語の「monster」にそれぞれ通じ、これらの語の音訳は外来語の「リトル」(甲449、甲450)、「ピーナッツ」(甲451、甲452)、「モンスター」(甲447、甲448)としても一般に親しまれている。 |
したがって、本件商標は、外来語としても親しまれている「little」、「peanut」及び「monster」の3語を結合したものであると容易に認識、理解される。 |
(2)本件商標の指定商品及び指定役務(以下「本件指定商品等」という。)はチョコレート等の加工食品及び飲料、並びにチョコレートの小売・卸売役務として把握されるものであるから、これらに使用される「little」及び「peanut」の文字は、当該商品及び当該役務の提供に係るものの大きさ及び原材料を表示するもの、すなわち品質(質)表示として認識理解されるに止まり、自他商品識別力を欠く。仮にこれらの文字が自他商品識別力を発揮する場面があったとしても、「monster」の文字と比較して自他商品識別力が薄弱であることは明白であるから、本件商標においては「monster」の文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を需要者に与え、独立の出所識別標識として機能することが明らかである。 |
(3)「monster」の文字は、引用商標1の構成文字「MONSTER」と実質的に同一のものであるから、本件商標は引用商標1と類似のものである。本件指定商品等は、引用商標1の登録に係る指定商品と類似のものである。当該引用商標は、本件商標よりも先に登録出願されたものである。 |
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 |
3 商標法第4条第1項第15号該当性 |
(1)本件商標の構成文字「little peanut monster」は、「MONSTER(monster)」の文字、「モンスター」の音(称呼)、「モンスター」の観念を包含する点で、引用商標1ないし引用商標6、並びに「MONSTER」を使用した申立人商品の個別製品名(別紙1)と一致し、これらの申立人の使用に係る商標と外観、称呼及び観念の印象が類似する。 |
また、本件商標の構成文字は、申立人商品に使用されているすべての個別製品名と同一のネーミング規則、すなわち、「MONSTER(monster)」に他の語を結合する方法によって構成されている点でも申立人の使用に係る上記商標と一致する。 |
上記のとおり、本件指定商品等に使用される「little」及び「peanut」の文字部分は品質等の表示として認識理解されるものであって自他商品識別力の程度が極めて薄弱であるから、本件商標は構成中の「monster」の文字部分が出所識別標識として需要者に強い印象を与える。 |
よって、本件商標は、申立人の使用に係る商標と類似性の程度が極めて高いことが明らかである。 |
(2)本件指定商品等は、引用商標1ないし引用商標6の指定商品又は指定役務と同一又は類似のものであることに加えて、申立人商品のエナジードリンクと製造部門、販売場所、原材料、用途、効能、需要者層を共通にする類似のもの、あるいは関連性が極めて強いものである。 |
本件指定商品等の最終的な需要者は一般消費者であるから、通常の需要者の注意力の程度はさほど高いものとはいえない。先に述べたとおり、「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は、本件商標の登録出願時及び査定時に申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されていた。 |
(3)したがって、本件商標が本件指定商品等に使用された場合、これに接した需要者は、申立人の使用に係る「MONSTER」及び申立人会社を直感し、当該商品等が申立人あるいは申立人と経済的又は組織的関係を有する者の取り扱いに係るものであると誤信し、その出所について混同を生じるおそれがある。 |
また、本件商標の使用は、申立人の商品及び役務の出所識別標識として広く認識されている「MONSTER」の出所表示力を希釈化するものであり、また、その名声、顧客吸引力にフリーライドするものといわざるを得ない。 |
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 |
4 商標法第4条第1項第7号該当性 |
本件商標は、社会一般道徳及び公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神並びに国際信義に反するものであり、公の秩序を害するおそれがある。 |
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 |
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第4 当審の判断 |
1 「MONSTER」「モンスター」の周知性について |
(1)申立人提出の甲各号証、各別紙及び同人の主張によれば、次のとおりである。 |
ア 申立人は、米国の飲料メーカーであって、我が国においてはアサヒ飲料株式会社を通じて2012年5月にエナジードリンク「MONSTER ENERGY(モンスターエナジー)」及び「MONSTER KHAOS(モンスター カオス)」の販売を開始し、その後、2022年まで毎年、新製品やリニューアル商品を合計16種類以上販売した(甲7~甲13、甲59、甲60、甲101、甲127、甲130、甲256、甲257、甲291、甲323、甲324、甲354~甲361、別紙1 ほか)。 |
イ それら商品(我が国で販売された申立人商品、以下単に「申立人商品」という。)のほとんどの種類の商品(の容器)には、爪痕のような図形(以下「爪の図柄」という。)並びにデザイン化された「MONSTER」の文字(以下「MONSTERロゴ」という。)及び「ENERGY」の文字からなる別掲3のとおりの商標(色彩が異なるものを含む。以下「別掲3商標」という。)が表示されている(甲7~甲13など上記アと同じ。)。 |
ウ 申立人は、我が国で開催される各種のスポーツ競技会、イベントにおいて、看板、ユニフォーム、車体など多種多様なものに、別掲3商標又はこれと共に爪の図柄を表示している(甲73~甲80、甲82 ほか)。 |
エ 我が国において、別掲3商標又はこれと共に爪の図柄が表示されたステッカー、衣類、帽子、ヘルメットなどが販売されている(甲47、甲48、甲98 ほか)。 |
オ 平成25年7月以降、我が国の税関において、申立人の商標権(国際登録第1048069号など)を侵害する疑いがある貨物(帽子、ショートパンツ、Tシャツなど)が多数発見されている(甲169~甲224、別紙8)。 |
カ 有限会社飲料総研の調査によれば、我が国における2013年のエナジードリンクの出荷数は約950万ケース(1ケース30本換算)であり、首位のレッドブルが550万ケース、2位のモンスターエナジーは240万ケースであった(甲317、甲318、甲320)。 |
キ ジャストシステムによるエナジードリンクに関する調査(2014年4月)によれば、認知度が高い商品の1位は82.8%の「RedBull」、2位は47.6%の「MONSTERENERGY」であった(甲319)。 |
ク JMR生活総合研究所による消費者調査 No.196「エナジードリンク(2014年7月版)」によれば、ブランド認知率の1位は「レッドブル・エナジードリンク」で45%、2位が「モンスターエナジー」で31%であり、同消費者調査No.232「エナジードリンク(2016年8月版)」によれば、ブランド認知率の1位は「レッドブル・エナジードリンク」、2位は「モンスターエナジー」であったと推認できる(甲311、甲312)。 |
ケ 株式会社商業会運営のウェブサイトにおいて2019年8月18日付けの「ドリンク剤とは対照的な市場動向 エナジードリンク市場:急成長の要因は若い男性の支持」の見出しの下「エナジードリンクは3年前に比べて市場規模が約1.4倍に拡大」との記載がある(甲401)。 |
コ 申立人、モンスターエナジージャパン合同会社及びアサヒ飲料株式会社(以下、3者をあわせて「申立人等」という。)は、本件商標の登録出願の日前から、申立人商品のキャンペーンに係るニュースリリース、ポスターなどで申立人商品を「モンスター」と表示しているものが見受けられ、また、申立人等以外のウェブページにおける当該キャンペーンについてのポスターやその他の記事においても「MONSTER」及び「モンスター」の文字が表示されているところ、当該ニュースリリース、ポスター、ウェブサイト等には、申立人商品の画像又は別掲3商標若しくは「モンスターエナジー」の文字又は別掲3商標と共に爪の図柄が表示又は掲載されている(甲69、甲71、甲79、甲101~甲103、甲111、甲113、甲115、甲118、甲119、甲124 ほか)。 |
(2)上記(1)のとおり、申立人等は、我が国において、2012年(平成24年)5月からエナジードリンク「MONSTER ENERGY」及び「MONSTER KHAOS」の販売を開始し、その後現在まで16種類以上の申立人商品を販売するとともに、各種のスポーツ競技会、イベント及びキャンペーンなどを通じ、申立人商品の広告宣伝を行っていたこと、2013年(平成25年)のエナジードリンクの出荷数約950万ケースのうち、申立人商品の出荷数は240万ケースで第2位であったこと、申立人商品の認知度が2014年(平成26年)において、その数値は31%と47.6%と差異はあるものの、いずれの調査でも第2位であったことが認められ、2016年(平成28年)の認知度はその数値は不明であるものの2位であったと推認できる。そして、申立人商品の2017年(平成29年)以降の認知度及び出荷数等に係る証拠の提出がないものの、エナジードリンクの市場は2019年(令和元年)において成長を続けており、現在においても同様であると推認されることを併せみれば、申立人商品は、本件商標の国際登録出願の日(2020年(令和2年)3月3日)前から、登録査定日(令和3年10月8日)においても、我が国のエナジードリンクの需要者の間に広く認識されているものと判断するのが相当である。 |
そして、申立人商品は、ほとんどの容器の中央に、「MONSTER ENERGY」の文字が別掲3のとおりの態様で表示されているとこと、常にこれと共に爪の図柄が表示されていること、さらに、ニュースリリース、各種記事などにおいて「MONSTER ENERGY」「モンスターエナジー」と表示され、「モンスターエナジー」と称されていることから、「MONSTER ENERGY」及び「モンスターエナジー」の文字並びに別掲3のとおりの態様に爪の図柄を加えた態様は、いずれも本件商標の登録出願の日前から、登録査定日はもとより現在においても継続して、申立人等の業務に係る商品(エナジードリンク)を表示するものとして、エナジードリンクの需要者の間に広く認識されているものといえる。 |
そうすると、「MONSTER ENERGY」の文字からなる引用商標3、また、別掲3のとおりの態様に爪の図柄を加えた態様からなる引用商標2は、いずれもその指定商品中にエナジードリンクを含むものであるから、申立人商品(エナジードリンク)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものというべきである。 |
しかしながら、申立人商品の広告宣伝は、各種のスポーツ競技会、イベント及びキャンペーンなどを通じて行われているものの、老若男女を問わず幅広い需要者層が目にする機会の多い一般的なメディアを通じたものとはいえないばかりか、我が国における清涼飲料に対する申立人商品の市場占有率等も確認することができないこと等を総合的に判断すると、申立人商品は、幅広い需要者層を有する一般的な清涼飲料の分野においてまで、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたとまでは認めることができない。 |
また、申立人商品は、その容器に「MONSTER」及び「ENERGY」の各文字が比較的近接して表示されているもの(別掲3を含む。)がほとんどであり、MONSTERのロゴのみが表示されている商品についての出荷数、シェア等の販売実績は確認できない。 |
さらに、「MONSTER」の文字(申立人商標)及び「モンスター」の文字(引用商標7)は、ニュースリリース、ポスター、ウェブサイト等において、申立人又は申立人商品の略称として表示又は掲載が見受けられるとしても、常に申立人商品又は「モンスターエナジー」若しくは別掲3商標の文字と共に表示又は掲載されていることからすれば、これに接する需要者は、そこに表示又は掲載された「MONSTER」の文字(申立人商標)及び「モンスター」の文字(引用商標7)を、申立人商品(「モンスターエナジー」)の一連の名称として使用されていることを前提に、申立人商品(「モンスターエナジー」)を指称する文字として理解するというべきである。 |
そうすると、申立人商品又は「モンスターエナジー」の文字若しくは別掲3商標と関連なく表示されている「MONSTER」の文字(申立人商標)及び「モンスター」(申立人商標の表音)の文字(引用商標7)までもが、需要者において申立人商品を表示するものと理解されるとはいい難い。 |
したがって、申立人商標と同一のつづりである「MONSTER」の文字からなる引用商標1及び「モンスター」の文字からなる引用商標7は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 |
さらに、引用商標4ないし引用商標6は、「MONSTER ENERGY」、「MONSTER MEAL DEAL」及び「MONSTER ENERGY ULTRA」の文字からなるところ、当該商標が使用された指定商品及び指定役務についての販売実績や取引実績が確認できないものであるから、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 |
2 商標法第4条第1項第11号該当性について |
(1)申立人は、本件商標は、引用商標1との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当する旨主張している。 |
(2)本件商標 |
本件商標は、上記第1のとおり、「little peanut monster」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成各文字は、同書、同大で、外観上まとまりよく一体的に表されているものであり、当該文字に相応して生じる「リトルピーナッツモンスター」の称呼は、無理なく一連に称呼し得るものである。 |
そして、本件商標の構成中の「monster」の文字は、上記1のとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものではないことから、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないものである。そうすると、「monster」の文字は、当該文字が有する「怪物、化け物」(甲445、甲446)の意味のみを認識させる語であるといえる。 |
また、本件商標の構成中の「little」の文字は「小さい、小型の」(甲449、甲450)、「peanut」の文字は「落花生、南京豆」(甲451、甲452)の意味をそれぞれ有する広く親しまれた語であるところ、当該文字が、本件指定商品との関係において、本件商品の品質等を表示するものである等、出所識別標識としての機能を果たし得ないとみるべき事情は見いだせない。 |
加えて、「little peanut monster」の文字は、辞書等に載録されている語ではないが、上記の「little」、「peanut」、「monster」のそれぞれの意味から、全体として「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」程の意味合いを理解させるものである。 |
そうすると、本件商標は、かかる構成、称呼及び上記実情よりすれば、その構成文字全体を一体不可分のものとして認識、把握されるものであって、「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念を生じるものである。 |
したがって、本件商標は、「リトルピーナッツモンスター」の称呼のみを生じ、「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念を生じるものである。 |
(3)引用商標1 |
引用商標1は、上記第2の1のとおり、「MONSTER」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は「怪物、化け物」を意味する英単語として親しまれているから、これより「モンスター」の称呼を生じ、「怪物、化け物」の観念を生ずるものである。 |
(4)本件商標と引用商標1との類否 |
本件商標と引用商標1とは、外観において本件商標の構成中の「little peanut」の文字の有無の差異を有するから判然と区別でき、称呼においては「リトルピーナッツ」の音の有無に差異を有するから明瞭に聴別できるものであり、観念においては本件商標から「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念を生じるのに対し、引用商標1は「怪物、化け物」の観念を生じるから、観念において明らかに異なるものである。 |
そうすると、本件商標と引用商標1とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。 |
したがって、本件の指定商品に引用商標1の指定商品と同一又は類似の商品が含まれるとしても、本件商標は引用商標1と非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 |
3 商標法第4条第1項第15号該当性について |
(1)申立人は、引用商標との関係で、出所の混同を生ずるおそれがある旨主張していると認められるので、以下検討する。 |
ア 本件商標と引用商標の類似性の程度 |
(ア)本件商標 |
本件商標は、上記第1のとおり、「little peanut monster」の欧文字を横書きしてなるところ、上記2(2)のとおり、「リトルピーナッツモンスター」の称呼のみを生じ、「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念を生じるものである。 |
(イ)引用商標 |
引用商標1及び引用商標7について、引用商標1は、上記第2の1のとおり、「MONSTER」の文字を標準文字で表してなり、引用商標7は、上記第2の7のとおり「モンスター」の片仮名を横書きしてなり、いずれも当該文字に相応して「モンスター」の称呼を生じ、「怪物、化け物」の観念を生じるものである。 |
引用商標2は、別掲2のとおりの構成よりなるところ、爪図形と文字部分を分離し看取する場合もあると考えられることから、これより文字部分を捉えて、「モンスターエナジー」の称呼及び「怪物の力、化け物の力」の観念を生じる。 |
引用商標3及び引用商標4は、上記第2の3及び4のとおり、「MONSTER ENERGY」の文字よりなるところ、その構成文字に相応して「モンスターエナジー」の称呼及び「怪物の力、化け物の力」の観念を生じる。 |
引用商標5は、上記第2の5のとおり、「MONSTER MEAL DEAL」の文字よりなるところ、その構成文字に相応して「モンスターミールディール」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。 |
引用商標6は、上記第2の6のとおり、「MONSTER ENERGY ULTRA」の文字よりなるところ、その構成文字に相応して「モンスターエナジーウルトラ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。 |
(ウ)本件商標と引用商標との類否 |
本件商標と引用商標1は、上記2(4)で述べたとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標である。 |
そして、本件商標と引用商標2の文字部分、引用商標3及び引用商標4とは、「MONSTER」の文字を共通にするとしても、「little peanut」及び「ENERGY」の文字部分の差異があり、さらに、引用商標2の全体との比較については、図形の有無の差異もあることから、全体の外観において判然と区別できるものであり、称呼においては、本件商標と引用商標2、引用商標3及び引用商標4とは、「モンスター」の音を共通にするとしても「リトルピーナッツ」及び「エナジー」の音の差異からすれば明瞭に聴別できるものであり、観念においては、本件商標から「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念が生ずるのに対し、引用商標2、引用商標3及び引用商標4からは、「怪物の力、化け物の力」の観念をそれぞれ生じるものであるから、明らかに相違する。 |
また、本件商標と引用商標5及び引用商標6とは、「little peanut」と「MEAL DEAL」及び「ENERGY ULTRA」の文字の差異から外観において判然と区別できるものであり、称呼においては「リトルピーナッツ」と「ミールディール」及び「エナジーウルトラ」の音の差異からすれば明瞭に聴別できるものあり、観念においては、本件商標から「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念が生ずるのに対し、引用商標5及び引用商標6からは特定の観念が生じないものであるから、相紛れるおそれはない。 |
さらに、本件商標と引用商標7は、外観において、欧文字と片仮名という文字種の相違から判然と区別できるものであり、称呼においては、「リトルピーナッツ」の音の有無に差異を有するから明瞭に聴別できるものであり、観念においては、本件商標から「小さな落花生の怪物、小さな落花生の化け物」の観念が生ずるのに対し、引用商標7からは、「怪物の力、化け物の力」の観念を生じるものであるから、明らかに相違する。 |
そうすると、本件商標と引用商標は、外観において判然と区別することができ、称呼においてはそれぞれの音の差異で相違することから明瞭に聴別することができ、観念においては、相違するか相紛れるおそれはないものである。 |
したがって、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、別異の商標というべきものである。 |
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 |
イ 本件商標の指定商品及び指定役務と申立人商品との関連性及び需要者の共通性 |
本件商標の指定商品及び指定役務は、チョコレート風味の飲料、チョコレート菓子、チョコレートの卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供等であるから、申立人商品である「エナジードリンク」とは、一般消費者に向けて提供又は流通する商品である点で、用途等に関連性があり、需要者層も一部重複するものといえる。 |
ウ 出所混同のおそれ |
上記イのとおり、本件商標の指定商品及び指定役務と申立人商品とは、上記イのとおり、用途に関連性があり需要者層も一部重複するものであり、上記1(2)のとおり、引用商標2及び引用商標3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品(エナジードリンク)を表示するものとして、その需要者の間に広く認識されているものと認めることはできるとしても、申立人商品の分野を超えた商品の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできないし、引用商標1及び引用商標4ないし引用商標7は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 |
そして、上記アのとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標である。 |
そうすると、これらを踏まえて、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標は、その商標権者がこれをその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 |
その他、申立人のいずれの主張を検討しても、本件商標がその商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 |
(2)小括 |
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 |
4 商標法第4条第1項第7号該当性について |
本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるものであって、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。 |
また、本件商標は、上記3のとおり、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることのないものである。 |
その他、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る具体的な証拠の提出はない。 |
そうすると、本件商標は、引用商標の出所表示力を希釈化するとか、その名声にフリーライドするなど不正の目的をもって使用するものとはいえず、また、他に商標権者が本件商標をその指定商品に使用することが社会一般の道徳に反し公正な取引秩序を乱す、あるいは国際信義に反するなど、公序良俗に反するものというべき事情は見いだせない。 |
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 |
5 むすび |
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反して登録されたものではなく、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。 |
よって、結論のとおり決定する。 |