異議の決定


異議2022-685022
2nd Floor, Building H, Gang Zhi Long Technology Park, No. 6, Qinglong Road, Qinghua Community, Longhua Street, Longhua District, Shenzhen City 518000 Guangdong Province(China)
 商標権者  
Shenzhen Damai IOT Technology Co., Ltd.
中華人民共和国カントン、ドングァン、チャンアン、ウーシャ、ハイビン、ロード、ナンバー18
 商標登録異議申立人  
オッポ広東移動通信有限公司
東京都千代田区大手町一丁目1番1号 大手町パークビルディング アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
 代理人弁理士
城山 康文
  
東京都千代田区大手町一丁目1番1号 大手町パークビルディング アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
 代理人弁理士
岩瀬 吉和
  
東京都千代田区大手町一丁目1番1号 大手町パークビルディング アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
 代理人弁理士
横川 聡子
  
東京都千代田区大手町一丁目1番1号 大手町パークビルディング アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
 代理人弁理士
大島 良太
  


 国際登録第1592398号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際登録第1592398号商標の商標登録を維持する。



 理 由
  
第1 本件商標
 本件国際登録第1592398号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、2021年(令和3年)3月12日にChinaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、同年3月30日に国際商標登録出願、第9類「Wearable activity trackers.」のほか、第10類、第16類及び第21類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、令和4年7月28日に登録査定され、同年10月14日に設定登録されたものである。
 
第2 引用商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由において引用する登録第6461188号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、令和3年1月8日に登録出願、「体重計,家庭用体脂肪計」を含む商標登録原簿に記載のとおりの第9類の商品を指定商品として、同年10月25日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
 
第3 登録異議の申立ての理由
 申立人は、本件商標は、その指定商品中、第9類「全指定商品」について、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するものであるから、当該指定商品についての登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第15号証(枝番号を含む。)を提出した。
 1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標
 本件商標は、その構成から「エアーボクス」、「エアーボックス」の称呼が生じる。本件商標の「Air」の部分については「空気」の意味があるが、「Vocs」の語とはスペース等なく一連で構成されていることから「AirVocs」で一語と認識されるものである。
 そうすると、「AirVocs」の語は辞書に載っていない造語であり、特定の観念を生じない。
(2)引用商標
 引用商標は、「AirVOOC」の欧文字を横書きしてなるものである。引用商標は、その構成から「エアーボーク」、「エアーボック」、「エアブーク」、「エアブック」の称呼が生ずる。引用商標の「Air」の部分については「空気」の意味があるが、「VOOC」の語とはスペース等なく一連で構成されていることから「AirVOOC」で一語と認識されるものである。
 そうすると、「AirVOOC」の語は辞書に載っていない造語であり、特定の観念を生じない。
(3)本件商標と引用商標の類否について
 外観についてみると、本件商標及び引用商標は、ア.それらの書体が非常に近似した印象を与えるものであること、イ.共に欧文字7文字で構成されていること、ウ.共に需要者の印象に残りやすい語頭の4文字が欧文字の「AirV」であること、エ.共に5文字目に欧文字の「o」、「O」を配置していること、オ.共に後半に欧文字の「c」、「C」を配置していることが共通しており、一方で、ア.5文字目に配置された「O」の文字が、本件商標は小文字、引用商標は大文字であること、イ.両商標の後半に配置された「C」の文字が本件商標は小文字、引用商標は大文字であること、ウ.本件商標の最後の2文字が「cs」であるのに対し、引用商標は「OC」であることが相違している。
 両商標の上記の共通点を考慮すれば、上記の相違点ア.及びイ.における大文字小文字の差は僅かであり、これらの差異が看者に対し出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいえないものである。この点、知財高裁判決平成28年(行ケ)10177等にて、大文字と小文字の差異は外観上顕著な差異を与えない旨判じられており、審査基準においてもその旨明記されている。してみると、両商標の上記相違点ウ.のみをもって、両商標が、外観上顕著な差異があるとは到底いい難いものである。
 特に両商標の上記の共通点ア.ないしウ.は、一見して両商標が近似している印象を与えるのに十分であり、加えて共通点エ.及びオ.があるのだから、両商標は、外観上多くの共通点がある。これに対し、相違点のア.及びイ.は実質的な差異ではないのであるから、これに鑑みれば、両商標が看者をして出所の混同を生じさせるおそれがあるといえる。
 したがって、両商標は外観上相紛れるおそれのある類似の商標であると考えるのが相当である。
 次に、両商標から生ずる称呼を比較すると、上記のとおり、本件商標からは「エアーボクス」、「エアーボックス」が生じる。一方、引用商標からは「エアーボーク」、「エアーボック」、「エアブーク」、「エアブック」の称呼が生じる。
 そうすると、引用商標を「エアーボック」と称呼した場合、本件商標の「エアーボックス」とは、語尾における弱音の「ス」の有無のみの相違となる。審査基準において称呼類似の例として弱音の有無の差にすぎない場合が挙げられていることに鑑みれば、両商標は称呼上も相紛れるおそれのある類似の商標と考えるのが相当である。
 観念については、上記のとおり、いずれも造語であると解するのが相当であるから、観念については比較できない。
 以上のとおり、本件商標と引用商標は、観念について比較できず、外観、称呼において類似するものであることから、出所の混同を生じるおそれのある類似の商標である。
(4)指定商品の類否について
 本件商標の指定商品中、第9類「Wearable activity trackers.」は、引用商標の指定商品中、第9類「体重計,家庭用体脂肪計」と類似する。
(5)小括
 以上より、本件商標は、外観、称呼において、引用商標と相紛れるおそれのある類似の商標であることは明らかであり、また、本件商標は、上述のとおり、引用商標の指定商品中の第9類の指定商品と同一又は類似の商品に使用するものである。
 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
 2 商標法第4条第1項第19号について
(1)申立人について
 申立人「オッポ広東移動通信有限公司」(Guangdong OPPO Mobile Telecommunications Corp.,Ltd.)は、中華人民共和国に所在する、「OPPO」の名称で知られているスマートフォン市場における大企業である。申立人は、2004年に設立され、2008年に携帯電話事業、2011年にスマートフォンの事業に参入し、今日に至るまでスマートフォンの製造・販売を行っており、60以上の国や地域の市場をカバーする世界的な企業である(甲3)。
 申立人が提供するスマートフォンは2020年には世界で3380万台を売り上げ、世界シェアの8.8%を占め、世界第4位のシェアを獲得している(甲4)。2021年には世界シェアを2020年の倍近い16%まで伸ばし、世界シェア第2位の地位に躍進し、世界的なスマートフォンブランドとして認知されるに至っている(甲5)。日本国内においてもSIMフリースマートフォンに関して2021年上期のシェア第3位を占めるに至っている(甲6)。中国においては2021年に21%のシェアを獲得し、中国国内で第1位のシェアを獲得している(甲7)。このことから、少なくとも中国国内において「OPPO」ブランドは相当の業務上の信用を獲得している。
(2)「AirVOOC」が少なくとも中国における需要者の間に広く認識されている商標であること
 上記のように、OPPOブランドは中国国内で相当の業務上の信用を獲得しており、周知性を獲得している。また、申立人は先進独自技術として有名な充電規格である「VOOC」を開発し、2015年に最初の急速充電を発表して以来発達を続けている(甲8)。このような経緯から、申立人の動向は市場において注目されており、引用商標「AirVOOC」を付したワイヤレスモバイルバッテリーの販売に関しては、多数のインターネット記事において取り上げられ、かつその製品に関しては評価が高く、一定の業務上の信用を獲得している(甲9~甲12)。また、申立人は引用商標を付したワイヤレスモバイルバッテリーを2020年9月26日から10月5日に開催された北京モーターショーにて発表している(甲13、甲14)。当該北京モーターショーの来場者数は53万人にも達している(甲15)。
 以上の事実及び経緯に鑑みれば、申立人のブランドである「AirVOOC」が、ワイヤレスモバイルバッテリーの分野において、本件商標の先願権発生日である令和3年3月12日に出願された以前から、少なくとも中国における需要者・取引者に、申立人の業務に係る商品の出所表示として広く知られていたことは明白である。
(3)本件商標が引用商標に類似すること
 本件商標と引用商標は、上記1(3)のとおり、観念について比較できず、外観、称呼において類似するものであることから、出所の混同を生じるおそれのある類似の商標である。
(4)不正の目的があること
 ア.申立人は上記(1)のとおりスマートフォンの出荷に係る世界シェアで第2位を占めるほどの極めて有名な大手企業であること、イ.「VOOC」が有名な充電規格であること、ウ.上記(2)のとおり引用商標である「AirVOOC」は本件商標の出願された時点において少なくとも中国の需要者の間に相当程度広く認知されていたこと、エ.本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)と申立人はいずれも広東省に所在するものであり地理的に非常に近いこと、に鑑みれば、商標権者は申立人がワイヤレスモバイルバッテリーを販売するための商標として「AirVOOC」を使用していたことを知っていたと考えることが自然である。
 また、引用商標は辞書に載録のない造語であり、偶然に引用商標と語頭の4文字が一致し、書体も相当程度近似している構成に至るとは考え難い。さらに、「VOOC」の部分については、その外観、称呼の印象を残しつつ似た言葉に変えることで、あえて外観、称呼において混同を生じさせやすい構成にしている。これらの点に鑑みれば、商標権者が本件商標を登録出願したことは、引用商標の業務上の信用及び名声に便乗し不正の利益を得る目的があったことは明白であり、不正の目的があったことが容易に推認できる。
 以上からすれば、本件商標は、不正の目的をもって使用する商標に該当する。
(5)したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。
 3 まとめ
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に違反してされたものであるから、取り消されるべきである。
 
第4 当審の判断
 1 引用商標の周知著名性について
(1)申立人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。
 ア 申立人は、2004年に設立され、2008年に携帯電話事業、2011にスマートフォンの事業に参入し、今日に至るまでスマートフォンの製造・販売を行っており(甲3、甲4)、申立人の業務に係るスマートフォンは2021年には世界シェアが16%であり、これは、世界シェア第2位であり(甲5)、日本国内においてもSIMフリースマートフォンに関して2021年上期のシェア第3位を占めている(甲6)。中国においては2021年に21%のシェアを獲得し、中国国内で第1位のシェアを獲得している(甲7)。
 イ 申立人は、充電規格として「VOOC」を開発し、2015年に最初の急速充電を発表した(甲8)。引用商標「AirVOOC」を付した申立人の業務に係るワイヤレスモバイルバッテリー(以下「申立人商品」という。)は、2020年4月から2021年2月までの間に、中国のものと見られるインターネット記事4件において紹介された(甲9~甲12)。また、申立人は申立人商品を2020年9月26日から同年10月5日に開催された北京モーターショーにて発表した(甲13~甲15)。なお、当該北京モーターショーの来場者数は10日間で53万人である(甲15)。
(2)判断
 上記(1)で認定した事実によれば、申立人の業務に係るスマートフォンは、中国国内で第1位のシェアを獲得しており、日本国内においてもSIMフリースマートフォンに関して2021年上期のシェア第3位を占めていることから、申立人は、スマートフォンの事業者として、少なくとも中国又は日本において一定程度知られているものと認められる。
 しかしながら一方で、申立人商品については、上記(1)イのとおり、2020年4月から2021年2月までの間に、中国のものと見られるインターネット記事4件において紹介され、2020年9月26日から同年10月5日に開催された北京モーターショー(10日間で53万人が来場)にて発表したことが認められるのみであって、我が国又は外国における、申立人商品の販売数量、市場シェア、宣伝広告実績等は明らかではない。
 そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係るワイヤレスモバイルバッテリーを表示するものとして我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
 2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
 本件商標は、別掲1のとおり、「AirVocs」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は、辞書類に載録された既成語ではなく一種の造語と認められるものであり、欧文字からなる造語は、通常、英語又はローマ字の読みに倣って発音されるものであるから、これよりは、「エアボクス」又は「エアボックス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
 引用商標は、別掲2のとおり、「AirVOOC」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は、辞書類に載録された既成語ではなく一種の造語と認められるものであり、欧文字からなる造語は、通常、英語又はローマ字の読みに倣って発音されるものであるから、これよりは、「エアボーク」、「エアボック」、「エアブーク」又は「エアブック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
 本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、いずれも欧文字7文字からなり、「AirV」の文字部分を共通にするものの、後半部分において、「ocs」と「OOC」とで異なり、この差異は、共に7文字という比較的短い文字構成からなる両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さくなく、外観上、紛れるおそれはないものとみるのが相当である。
 次に、本件商標から生じる「エアボクス」又は「エアボックス」の称呼と、引用商標から生じる「エアボーク」、「エアボック」、「エアブーク」又は「エアブック」の称呼を比較すると、両者は語尾部における「ス」の音の有無等の差異を有し、この差異が、長音又は促音を含めた5音ないし6音という比較的短い音構成からなる両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、互いに聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。
 さらに、観念においては、両商標はいずれも特定の観念を生じるものではないから、比較することができない。
 そうすると、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において紛れるおそれがなく、観念において比較することができないものであるから、両者の外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える引用、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
(4)小括
 以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
 3 商標法第4条第1項第19号該当性について
 上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係るワイヤレスモバイルバッテリーを表示するものとして我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものである。
 また、本件商標が不正の目的をもって使用をするものであることを示す証拠の提出はない。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
 4 まとめ
 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するとはいえず、その指定商品中、第9類「全指定商品」についての登録は同項の規定に違反してされたものとはいえない。
 他に、本件商標の第9類「全指定商品」についての登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせない。
 したがって、本件商標の第9類「全指定商品」についての登録は、商標法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
 よって、結論のとおり決定する。


        令和 6年 1月18日

     審判長  特許庁審判官 鈴木 雅也
          特許庁審判官 山田 啓之
          特許庁審判官 渡邉 あおい

 
 
別掲1 本件商標
 
別掲2 引用商標
 
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〔決定分類〕T1652.261-Y  (W09)
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上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年 1月18日  審判書記官  奥村 恵子