理 由 |
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1 本願商標及び手続の経緯 |
本願商標は、別掲1の構成よりなり、第12類、第18類及び第25類に属する日本国を指定する国際登録において指定された、別掲2のとおりの商品を指定商品として、2019年(令和元年)10月16日に国際商標登録出願されたものである。その後、2020年(令和2年)8月26日付けで国際登録簿に記録された一部の商品の取消の通報により、第12類に属する商品の一部が取り消され、同年10月19日付けで国際登録簿に記録された基礎出願又は基礎登録の効力の一部終了の通報により、第12類に属する商品の一部が取り消された。 |
本願は、2021年(令和3年)1月7日付で暫定拒絶の通報がされ、同年2月24日に意見書が提出されたが、2022年(令和4年)11月30日付けで拒絶査定がされた。 |
これに対し、令和5年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 |
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2 引用商標 |
原査定は、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録第6549589号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲3の構成よりなり、令和元年6月14日に登録出願、第12類「自転車用フレーム,自転車用前ホーク」を指定商品として、同4年4月27日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。 |
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3 原査定の拒絶の理由の要点 |
本願商標は、引用商標と同一又は類似の商標であって、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 |
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4 当審の判断 |
(1)結合商標の類否判断について |
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 |
(2)本願商標について |
本願商標は、別掲1のとおり、欧文字「Y」を図案化したとおぼしき図形を左側に配し、その右側の上段に、大きく、「SCORPIO」の文字を、右側の下段に、小さく、「ELECTRiC」の文字を表してなるものである。 |
そして、本願商標の構成中の図形部分は、直ちに特定の事物を想起させないから、これよりは特定の称呼及び観念は生じないものである。 |
また、「SCORPIO」の欧文字は、「さそり座」を意味する英語(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館書店)であるが、これが、我が国において一般に親しまれている語であるとはいえないから、特定の意味合いは想起されず、これよりは、当該欧文字を英語風又はローマ字風に発音した、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 |
他方、「ELECTRiC」の欧文字は、構成中「i」の欧文字が小文字となっているものの、この欧文字全体として、「電気の」を意味する英語(前掲書参照)である「ELECTRIC」の文字を表したものと容易に理解されるものである。 |
そして、この欧文字は、本願の指定商品中、第12類に属する指定商品との関係において、需要者に、商品の品質を表したものと認識させることから、当該部分は自他商品の識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いものというのが相当であり、これより、自他商品の識別標識としての称呼及び観念は生じない。 |
また、本願商標は、図形部分と各文字部分とが、重なることなく、間隔を空けて配置されていることから、視覚上、分離して看取、把握され得るものであり、構成上からは、図形部分と各文字部分とが、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせない。さらに、図形部分及び「SCORPIO」の文字部分は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、これらの図形部分及び各文字部分との間に、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできない。 |
そうすると、本願商標は、その構成中の図形部分と、「SCORPIO」の文字部分とが、それぞれ独立して需要者に対し商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。 |
以上から、本願商標からは、構成中、顕著に表された「SCORPIO」の文字部分を要部(以下「本願要部」という。)として抽出し、これを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。 |
したがって、本願商標からは、本願要部に相応して、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 |
(3)引用商標について |
引用商標は、濃淡のある緑色で、「SCORPiO」の文字を筆書き風に表してなるところ、これよりは、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 |
(4)本願商標と引用商標の類否について |
本願商標と引用商標を比較すると、外観について、全体の構成との比較においては相違するものの、本願要部である「SCORPIO」の文字部分と、引用商標の「SCORPiO」の文字との比較においては、文字の書体や「I」と「i」の大文字と小文字の差異等の相違があるとしても、それぞれの構成中の欧文字7文字全てが、同じ綴りからなるものであるから、両者は外観上、近似した印象を与えるというのが相当である。 |
そして、称呼においては、「スコーピオ」の称呼を共通にするものである。 |
また、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較することができない。 |
したがって、本願要部と引用商標とは、観念において比較できないとしても、「スコーピオ」の称呼を共通にし、外観上近似した印象を与えるものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。 |
(5)本願商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否について |
本願商標の指定商品中、第12類「Motorcycles; electric motorcycles; motor scooters; electrically operated scooters; electrically-powered motor scooters.」は、引用商標の指定商品と類似の商品である。 |
(6)小括 |
以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、その指定商品も引用商標の指定商品と類似のものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 |
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5 請求人の主張について |
請求人は、本願商標の構成中、「SCORPIO」の文字部分が単独で要部として抽出され、この部分をもって商標の類否を判断されることはないと主張し、その根拠として、以下のとおり述べている。 |
ア 本願商標の構成中、「SCORPIO」の文字部分と「ELECTRiC」の文字部分とは、文字の大きさに差異を有するものの、これは、視覚上、「SCORPIO」の文字部分のみを分離して認識されるほどの差異ではなく、「ELECTRiC」の文字部分は、需要者が十分に認識できる大きさで明瞭に記載されている。 |
イ 両文字部分は、非常に近接した位置に配され、図形部分も相まって、全体として統一感のある構成となっている。また、両文字部分は、統一感を出すために、同様の態様でそろえられており、かつ、「ELECTRiC」の文字部分は、「i」の欧文字を小文字とすることでデザイン性を高めている。 |
ウ 「SCORPIO」の文字部分と「ELECTRiC」の文字部分とを、一連で称呼した場合に生じる、「スコーピオエレクトリック」の称呼は冗長ではなく、過去の審決例において、これより更に音数の多い商標について、冗長ではないと判断しているものも存在する。 |
しかしながら、本願商標の図形部分と各文字部分とは、外観上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせず、また、図形部分及び各文字部分との間には、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできない。加えて、本願商標の構成中、「ELECTRiC」の欧文字が、本願の指定商品中、引用商標と類似する指定商品の品質を表すものであり、自他商品の識別標識としての機能がないか、極めて弱いものであることからすれば、本願商標から、「SCORPIO」の文字部分を要部として抽出し、本願商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきものであることは、上記4(2)のとおりである。 |
また、商標の類否の判断は、対比する商標について個別具体的に判断されるべきものであるところ、請求人の挙げる審決例は、商標の具体的構成等において本願とは事案を異にするものであり、本願商標と引用商標については、上記4においてした判断のとおりであるから、当該審決例をもってその判断が左右されることはない。 |
したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。 |
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6 まとめ |
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。 |
よって、結論のとおり審決する。 |
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