異議の決定


異議2023-685003
Via Castellana 34 I-31039 RIESE PIO X (TV)(IT)
 商標権者  
FFAUF ITALIA S.p.A.
東京都港区虎ノ門一丁目23番1号 虎ノ門ヒルズ森タワー 青和特許法律事務所
 代理人弁理士
青木 篤
  
東京都港区虎ノ門一丁目23番1号 虎ノ門ヒルズ森タワー 青和特許法律事務所
 代理人弁理士
外川 奈美
  
スペイン国、ア・コルーニャ、アルテイホ 15142、エディフィシオ・インディテクス、アブニーダ・デ・ラ・ディピュタシオン
 商標登録異議申立人  
インダストリア・デ・ディセーニョ・テキスティル・エス・エイ(インディテクス・エス・エイ)
東京都中央区東日本橋三丁目11番8号MKT東日本橋ビル7階
 代理人弁理士
弁理士法人BORDERS IP
  
東京都中央区東日本橋三丁目11番8号 MKT東日本橋ビル7階 弁理士法人BORDERS IP
 代理人弁理士
小暮 君平
  
東京都中央区東日本橋三丁目11番8号 MKT東日本橋ビル7階 弁理士法人BORDERS IP
 代理人弁理士
福井 孝雄
  


 国際登録第1602492号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際登録第1602492号商標の商標登録を維持する。



 理 由
  
1 本件商標
 本件国際登録第1602492号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1とおりの構成からなり、2020年(令和2年)8月19日にItalyにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2021年(令和3年)2月12日に国際商標登録出願され、第29類、第30類、第31類、第32類及び第33類に属する国際商標登録原簿に記載のとおりの商品並びに第35類「Bringing together, for the benefit of others, of food and beverage products (excluding the transport thereof) enabling consumers to conveniently view and purchase those goods (other than retail or wholesale services).」及び第43類「Food and drink catering for pasta parties; restaurant information services; serving food and drinks; agency services for reservation of restaurants; food and drink catering; preparation of food or meals to be consumed on site or to take away; canteens; wine bar services.」を指定商品及び指定役務として、2022年(令和4年)12月20日に登録査定、2023年(令和5年)4月28日に設定登録されたものである。
 
2 登録異議申立人が引用する商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりである(以下、(1)ないし(3)をまとめて「引用商標」という。)
 なお、引用商標に係る商標権はいずれも現に有効に存続している。
(1)登録第4108998号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおり「ZARA」の欧文字を書してなり、平成5年3月31日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、平成10年1月30日に設定登録されたものである。
(2)国際登録第752502号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲3のとおり「ZARA」の欧文字を書してなり、2000年(平成12年)8月1日にSpainにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2001年(平成13年)2月1日に国際商標登録出願され、「Ready-made clothing for women, men and children, footwear (except orthopaedic footwear) and headgear」を含む第25類及び「bringing together for the benefit of others of a variety of goods (excluding the transport thereof) , enabling customers to conveniently view and purchase those goods」を含む第35類に属する国際商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成14年4月12日に設定登録されたものである。
(3)国際登録第1463984C号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲4のとおり「ZARA」の欧文字を書してなり、2019年(平成31年)3月25日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2019年(平成31年)3月29日に国際商標登録出願され、「Services for providing food and beverages」を含む第43類に属する国際商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、令和3年(2021年)2月19日に設定登録されたものである。
 
3 登録異議の申立ての理由
 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第40号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
 ア 申立人商標「ZARA」の周知・著名性について
(ア)申立人のファッションブランド「ZARA」は、1975年にスペインにて1号店がオープンして以来、現在では世界で約2,040を超える店舗が展開されており(甲8)、日本においても1997年に日本法人が設立され、翌年に1号店を渋谷に開店した後(甲8)、その後、統廃合を経て、現時点で国内に67の店舗が存在し(甲9、甲10)、ほかにもオンライン販売が行われている(甲11~甲14)。
(イ)2023年1月期の申立人の連結の売上収益は325億6900万ユーロ(約4兆5,922億2,900万円、1ユーロ=141円で換算、以下同じ)であり、主力業態である「ZARA」(「ZARA HOME」を含む)ブランドに関する2023年1月期の世界全体の売上高は、237億6,100万ユーロ(約3兆3,503億100万円)である。ECオンラインでの売り上げが、78億ユーロ(約1兆998億円)となっている(甲15)。
(ウ)また、申立人の「ZARA」ブランドは、米Interbrand社が毎年公表するブランド価値評価ランキング「Best Global Brands」において、2020年度では第35位に選出されている(甲16)。
(エ)申立人の「ZARA」は日本の時事用語事典Imidasにおいて2017年3月の時点で掲載され、「ファストファッションの草分け的ブランド」と説明され、「全国の服飾専門学校生を対象にした「好きなプランド」「よく買うブランド」調査(繊研新聞)では、どちらもザラが1位に選ばれた。」の記載がある(甲17)。
 日本経済新聞の記事(2019年6月21日)においても、「「ZARA(ザラ)」を展開するアパレル最大手のインディテックス」との記載があり(甲18)、2010年の雑誌BLENDA(ブレンダ)の「好きなブランドアンケート」では、1位に選出(甲29)、WWDジャパンの記事では、2019年12月時点でのSNS世代1600人を対象とした、好きなブランドのアンケート調査では、「ザラ(ZARA)」が1位に選出されている(甲30)。
(オ)申立人は、店舗そのものを広告塔とすることで広告宣伝費を抑える戦略を採っており、2022年の世界での広告費は約2億2千万ユーロ(約282億円)である。
 広告宣伝がインターネットやソーシャルメディアを通じても行われている今日の事情に鑑みれば、広告宣伝費の多寡以外でも「ZARA」の周知著名性を判断することは可能であり、「ZARA」の周知著名性は、主要なソーシャルメディアでのフォロワー数で示すことも可能である。ソーシャルメディアでのフォロワー数は、需要者が積極的に、対象のアカウントにアクセスをして、情報を継続的に得るフォロワーの数を示すものであり、客観的な周知著名性を示す有力な資料と言えるからである。
 申立人の2020年版アニュアルレポートによれば、「ZARA」ブランドの主要なソーシャルメディアにおいて約1億600万ものフォロワーが存在していることが示されている(甲31)。
(カ)以上のことからすると、申立人の商標「ZARA」は、本件商標の登録出願時(優先日)には、少なくともファッションの分野において外国及び我が国の需要者・取引者の間で広く認識されており、強い顧客吸引力を持つ周知又は著名な商標であるといえる。
(キ)さらに、特許庁における、本件商標の登録出願時(優先日)以前の異議申立ての決定(異議2009-900093号)及び無効審判の審決(無効2019-890038号)においても、商標「ZARA」が少なくとも「被服」の分野において、我が国の需要者・取引者の間で広く認識されている旨が認定されている(甲32、甲33)。そして、J-platpatにおいても日本周知著名商標の一つとして「ZARA」は記録されている(甲34)。
 イ 「被服」と「飲食物の提供」「飲食物」等の関連性について
 昨今、アパレル企業がフードビジネスに参入し、カフェなどの飲食できる場をプロデュースするといった、アパレルカフェが日本においても展開されており、コーヒーや紅茶、スムージーなどのドリンクから、パスタやハンバーガー、パンケーキやクレープなどのスイーツに至るまで、企業によって種々展開されている(甲35)。
 現に、東京の銀座においては、2017年12月時点で、「クリスチャン・ディオール」「シャネル」「アルマーニ」「エルメス」「ブルガリ」「ダンヒル」、東京の表参道及び原宿においては、「ティファニー」「ラルフローレン」「エンポリオアルマーニ」「アニエスベー」などといった有名アパレルブランドが、日本においてカフェやレストランを展開している事実がある(甲36、甲37)。
 また、これらのアパレルカフェは、海外ブランドのみが展開しているものではなく、2018年12月時点では、少なくとも17の国内由来のファッションブランドがカフェを展開している(甲38)。
 以上の取引の事情からすると、本件商標の登録出願時(優先日)以前において既に、ファッションの中心アイテムである商品「被服」と役務「飲食物の提供」、商品「飲食物」とは、特に有名ファッションブランドにあっては、需要者・取引者の層が共通し、互いに関連性が強いものとなっているというべきである。
 そして、上述のとおり、申立人のファッションブランド「ZARA」も、世界で最も成功しているファッションブランドの一つとして知られるものであることから、商品「被服」に関する申立人商標「ZARA」の周知・著名性は「飲食物の提供」「飲食物」等といった商品・役務にも及んでいることは明らかである。
 ウ 本件商標と引用商標の類否について
 本件商標は、その構成から、需要者・取引者はその中央部分に配された楕円形内の文字に着目すると考えられる。そして、本件商標中の「Sublime」「pasta」の文字は、「ZARA」と分離して異なる書体で記載されており、さらに、指定商品・指定役務との関係において、識別力が強い語句とはいえない。そうすると、「ZARA」部分が需要者に支配的な印象を与えるものであり、本件商標の要部は「ZARA」部分であるというべきである。
 本件商標の要部である「ZARA」部分から生じる「ザラ」の称呼と、先登録である引用商標から生じる「ザラ」の称呼は互いに同一であり、また要部の構成文字「ZARA」の共通性により、外観も同一又は類似している。
 特に、引用商標を構成する「ZARA」は独創性の高い商標であり、このような造語より構成される創造商標については一般に強い識別性が認められ、他人がその商標と類似するような商標を使用した場合には、既成語から構成される商標よりも需要者に対する印象・連想作用等から出所の混同が生ずる幅は広いというべきである。
 さらに上述のとおり、申立人の「ZARA」は少なくとも「被服」の分野で周知・著名であって、本件商標が指定商品・指定役務に使用された場合には、周知・著名なブランド「ZARA」を想起・連想させるため、互いに観念上の類似性も認められる。
 本件商標の第35類の全指定役務は、引用商標2の指定役務と類似群(35B01)が共通し互いに同一又は類似の関係にある。そして、本件商標の第43類の全指定役務は引用商標3の指定役務と類似群(42B01)が共通し互いに同一又は類似の関係にある。
 したがって、本件商標と引用商標は互いに類似する商標であり、本件商標と引用商標の指定役務も同一又は類似することから、本件商標は、商標法第4条第1項11号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号違反について
 上述のとおり、申立人が使用する商標「ZARA」は、世界最大の売上高を誇るアパレル企業である申立人の基幹ブランドとして知られ、申立人のハウスマークと同等に位置づけられるべきものである。それ自体は辞書に採録のない造語であり、少なくとも「被服」分野においては周知・著名性を獲得しており、本件商標の要部である「ZARA」と引用商標は外観及び称呼が同一又は類似する。そして、引用商標を構成する「ZARA」は独創性の高い商標である。
 上述のとおり、多くの国内外のファッションブランドが、そのブランドの世界観を表現したカフェやレストランなどをプロデュースしていることが知られるに至っており、「被服」と「飲食物の提供」「飲食物」とは、取引者・需要者の層は共通する。さらに、このような実情より、申立人のファッションブランド「ZARA」に関しても、申立人自身が多角経営の一環として、「飲食物の提供」「飲食物」等に関する商品・役務に進出する可能性も十分に認識され得るといえる。
 そうすると、本件商標が指定商品・指定役務に使用された場合は、これに接した需要者・取引者は、申立人と経済的又は組織的関係を有する者の業務に係る商品・役務であると誤信することで、商品・役務の出所について混同を生じるおそれが高いものである。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第19号違反について
 引用商標が外国及び我が国の需要者・取引者の間で周知・著名な商標であること、さらに、本件商標が引用商標と類似することは、上述のとおりである。
 申立人とは無関係の他人である本件商標の権利者が、周知・著名な商標と類似する本件商標を採択することは、自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、著名商標に化体した信用にただ乗り(フリーライド)することによって得ようとするものであり、不正の目的が認められる。
 したがって、本件商標の使用は、引用商標に化体した出所表示機能の希釈化を招き、またその信用、名声、顧客吸引力等を毀損させる不正の目的が認められるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(4)なお、本件商標と同一商標である欧州商標出願007016439号は、申立人の異議申立ての結果、第30類で指定した全ての商品「Fresh,dried,frozen,deep-frozen and ready-to-use pasta.」について、登録拒絶となった(甲39、甲40)。
 
4 当審の判断
(1)「ZARA」の文字からなる商標及び引用商標の周知性について
 申立人の提出に係る証拠及び申立人の主張によれば、以下のとおりである。
 ア 申立人は、ファッションブランド「ZARA」を基幹ブランドとするスペインのアパレル企業であり、1975年にスペインで第1号店をオープンして以来、「ZARA」ブランドの下でアパレル製品の製造、販売を行っており、現在は世界で2,040を超える店舗を展開している(甲8)。我が国においては、1997年に日本法人が設立、1998年に1号店を渋谷に開店し(甲8)、2023年9月17日時点で国内に67店舗存在する(甲9)。また、申立人のECサイトも存在するところ、当該ECサイトでは家具等も販売されている(甲11~甲14)。
 イ 2023年1月期の申立人の連結の売上収益は325億6900万ユーロ(約4兆5,922億2,900万円)であり(甲15)、「ZARA」(「ZARA HOME」を含む。)ブランドの2023年1月期の世界全体の売上高は237億6,100万ユーロ(約3兆3,503億円)である(甲15)。
 ウ 米国Interbrand社のブランド価値評価ランキング「Best Global Brands 2020」において、「ZARA」は第35位である(甲16)。
 エ 「ZARA」ブランド及び申立人の店舗は、日本の時事用語辞典「Imidas」において2017年3月に「ファストファッションの草分け的ブランド」と説明され(甲17)、「WWDジャパン」の記事で、2019年12月時点でのSNS世代1600人を対象とした、好きなブランドのアンケート調査では、「ザラ(ZARA)」が1位に選出されている(甲30)。その他、新聞、雑誌等でも紹介されている(甲18~甲29)。
 オ 過去の異議申立ての決定及び無効審判の審決の中には、商標「ZARA」が「被服」の分野で、我が国において広く認識されている旨判断したもの(甲32、甲33)があり、また、「J-platpat」においても「ZARA」は日本周知著名商標の一つとして記録されている(甲34)。
 カ 上記アないしオによれば、申立人のブランド名「ZARA」及び当該ブランド名と同じつづりからなる引用商標1及び引用商標2は、引用商標1及び引用商標2の指定商品である「被服」(clothing)等を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国における需要者の間に一定程度知られていたことは認め得る。
 しかしながら、申立人提出の証拠からは、引用商標2及び引用商標3の指定役務についての使用開始時期や使用された具体的な役務についての提供実績等の事実を確認することはできない。
 また、「ZARA」の文字が家具等に使用されている事実はうかがえるものの、具体的な使用実績は確認できず、「ZARA」の文字が本件指定商品及び指定役務に使用されている事実も確認できない。
 そうすると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人のブランド名「ZARA」、引用商標2及び引用商標3は、本件指定商品及び指定役務を含む「被服」等を超えた分野においてまで、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)「被服」と「飲食物の提供」「飲食物」等の関連性について
 申立人は、「被服」と「飲食物の提供」「飲食物」等の関連性について、アパレルブランド(「アルマーニ」「エルメス」「ブルガリ」等)が、日本においてカフェ、バー及びレストランを展開している事実をあげて(甲35~甲38)、「被服」と役務「飲食物の提供」及び商品「飲食物」とは、需要者・取引者層が共通し、関連性が強い旨主張しているが、「被服」は、洋服、コートなど人が着用する商品であり、「飲食物の提供」は、消費のための飲食物の用意に関連して提供されるサービスであるから、明らかにその用途や目的などが相違するものであり、申立人が挙げる例があるとしても、通常、同一の営業主により製造販売又は提供されているとの事情があるとは認められない。また、被服の販売場所と飲食物の提供場所は、通常一致するものではない。そして、「被服」及び「飲食物の提供」は、需要者のうち、一般消費者は共通する場合があるとしても、取引者については、一致しているとは認められない。
 そうとすれば、商品「被服」と役務「飲食物の提供」及び商品「飲食物」とは、関連性が強いとはいうことはできない。
(3)商標法第4条第1項第11号該当性
 ア 本件商標
 本件商標は、別掲1のとおり、背景色がグラデーションからなる長方形状の図形の中央部分に配された楕円形内に「pastaZARA」の文字が白抜きで横書きされ、その上方には、麦の束を有する女性が日の出の畑に佇んでいる図が配され、その下方には、斜め方向の白色の帯図形の内部に「Sublime」の文字が記載され、その右横部分に、長短のリボン状の図形を縦に配した構成よりなるものであるところ、文字部分と図形部分とは、観念的に密接な関連性を有しているとは考え難いし、一連一体となった何かしらの称呼が生じるともいえないから、本件商標からは、中央部分の楕円形の内部の「pastaZARA」と下方の「Sublime」の文字部分を分離抽出して観察することができる。
 そして、「pastaZARA」と「Sublime」の文字部分についてみるに、「pastaZARA」の文字部分は、楕円形内にまとまりよく同じ書体で一体的に表されており、かかる構成からすれば、「pasta」の文字部分が指定商品及び指定役務の品質や質等を表示したものとして認識されるというよりは、むしろ、「pastaZARA」の文字全体で一体のものとして認識、把握されるものであるから、当該文字部分からは、「パスタザラ」の称呼が生じるものである。
 そして、「pasta」の文字は「パスタ(スパゲッティ・マカロニなどの麺類の総称)」の意味を有する語(ベーシックジーニアス英和辞典 株式会社大修館書店)として親しまれている語ではあるものの「ZARA」の文字は、辞書等に記載された成語ではなく特定の意味を有しない造語であるから、「pastaZARA」の文字全体としては特定の意味を有しない造語と理解されるものである。
 また、「sublime」の文字は、「荘厳な、崇高な」などの意味を有する英語(同掲書)であるところ、我が国ではそれほど親しまれた英語とはいえないから、当該意味合いを直ちに理解させるものともいえず、指定商品及び指定役務との関係で品質等を理解させるものともいえないものである。
 そうすると、本件商標からは、その文字部分に相応して「パスタザラサブライム」、「パスタザラ」又は「サブライム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものといえる。
 なお、申立人は、本件商標構成中の「pasta」の文字は、「ZARA」と分離して異なる書体で記載され、指定商品・指定役務との関係で識別力が強い語句とはいえない旨主張するが、上記のとおり、「pastaZARA」の文字は同じ書体で楕円形図形の中にまとまりよく表されているから、構成文字全体で一体のものとして認識、把握されるものである。
 また、当該文字部分から生ずる「パスタザラ」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。
 したがって、本件商標の構成中「ZARA」の文字部分が強い印象を与えるものということはできない。
 イ 引用商標
 引用商標は、別掲2ないし別掲4のとおり、書体は異なるものの「ZARA」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は辞書等に記載された成語ではなく特定の意味を有しない造語であるから、その構成文字に相応して「ザラ」の称呼を生じ、また、当該文字は、引用商標1及び引用商標2の指定商品である「被服」(clothing)等との関係においては、申立人のファッションブランドの観念を生じる余地があるから、申立人のファッションブランドの「ZARA」の観念を生じる場合がある。 
 ウ 本件商標と引用商標の類否
(ア)本件商標と引用商標1の類否について
 本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標1の指定商品は、それぞれ上記1と上記2(1)のとおりであるところ、両者は類似のものではない。
 したがって、本件商標と引用商標1の類否を判断するまでもなく、本件商標は引用商標1との関係において商標法第4条第1項第11号に該当しない。
 なお、本件商標と引用商標1とは下記(イ)と同様の理由により非類似の商標と認められる。
(イ)本件商標と引用商標2の類否について
 本件商標は別掲1のとおりの構成からなるものであり、引用商標2は、別掲3のとおり「ZARA」の欧文字を横書きしてなるものであるから、本件商標と引用商標2は、外観上、相紛れることのない、別異のものとして認識し、把握されるというべきである。
 また、本件商標の文字部分と引用商標2を比較してみても、本件商標の「pastaZARA」及び「Sublime」と引用商標2の「ZARA」とは構成文字の相違から、明確に区別できるものである。
 次に、称呼においては、本件商標から生じる「パスタザラサブライム」、「パスタザラ」又は「サブライム」の称呼と引用商標2から生じる「ザラ」の称呼とは、明らかに音数が相違するから、明瞭に聴別できるものである。
 さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないものであり、引用商標2は、その指定商品との関係においては、申立人のファッションブランド「ZARA」の観念を生じる場合があるが、その指定役務との関係においては特定の観念を生じないから、本件商標と引用商標2とは、観念において相紛れるおそれはないか比較することはできない。
 そうすると、本件商標と引用商標2は、外観及び称呼において相違し、観念において相紛れるおそれはないか比較することができないものであるから、これらを総合して判断すれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(ウ)本件商標と引用商標3の類否について、
 本件商標は別掲1のとおりの構成からなるものであり、引用商標3は別掲4のとおり「ZARA」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は書体は異なるものの、引用商標2とつづりを同一にするものである。
 そうすると、本件商標と引用商標3は、上記(イ)と同様の理由により外観上、相紛れることのない、別異のものとして認識し、把握されるというべきである。
 また、称呼においても上記(イ)と同様の理由により、明瞭に聴別できるものである。
 さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないものであり、引用商標3はその指定役務との関係においては特定の観念を生じないから、観念において比較することはできない。
 そうすると、本件商標と引用商標3は、観念において比較することができないとしても外観及び称呼において相紛れるおそれがないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(エ)その他、本件商標と引用商標2及び引用商標3が類似するというべき事情は見いだせない。
 エ 小括
 以上のとおり、本件商標と引用商標1は、その指定商品及び指定役務が非類似のものであり、また、本件商標と引用商標2及び引用商標3は非類似の商標であるから、両商標の指定商品又は指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性
 上記(1)のとおり、申立人のブランド名「ZARA」及び引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標1及び引用商標2の指定商品中の被服(clothing)等に係るファッションブランド名を表示するものとして、一定程度知られているものと認め得るとしても、その被服の分野を超えて、本件指定商品及び指定役務の分野において広く知られていたとまでは認めることができない。
 そして、本件商標と引用商標とは、上記(3)のとおり非類似の商標であって、相紛れるおそれのない別異の商標というべきものであるから、その類似性の程度は低いものである。
 さらに、商品「被服」(clothing)等を取り扱う業界における申立人のブランド名「ZARA」及び引用商標の周知性を考慮したとしても、上記(2)のとおり、本件指定商品及び指定役務中、第43類「全指定役務」(飲食物及び飲食物の提供)と申立人の業務に係る商品「被服」とは、関連性が強いとはいえず、また、本件指定役務中、第35類「全指定役務」と申立人の業務に係る商品「被服」の関連性も認められない。
 そうすると、本件商標権者が本件商標をその指定商品及び指定役務に使用した場合、これに接する取引者・需要者に引用商標を連想又は想起させるとはいえないものであって、その商品及び役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのようにその出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性
 引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「被服」(clothing)等の分野を超えて、本件指定商品及び指定役務の分野における申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、また、本件商標は、上記(3)のとおり、引用商標を連想又は想起させることのない、非類似の商標である。
 さらに、本件商標が、不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的証拠も見いだせない。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(6)むすび
 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当せず、その登録は同条同項の規定に違反してされたものとはいえないものであって、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
 よって、結論のとおり決定する。
 
 
 


        令和 6年 6月 4日

     審判長  特許庁審判官 大森 友子
          特許庁審判官 清川 恵子
          特許庁審判官 白鳥 幹周

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別掲1 本件商標
 
別掲2 引用商標1
 
別掲3 引用商標2
 
別掲4 引用商標3
 
 
 
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〔決定分類〕T1651.261-Y  (W2930313233
            262     3543)
            263
            271
            222

上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年 6月 4日  審判書記官  村守 芙沙子