理 由 |
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1 本件商標 |
本件国際登録第1630140号商標(以下「本件商標」という。)は、「KUSHKI」の文字を横書きした構成からなり、2022年(令和4年)10月19日に国際商標登録出願(事後指定)、第36類及び第42類に属する別掲のとおりの役務を指定役務として、令和5年7月31日に登録査定、同年9月8日に設定登録されたものである。 |
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2 引用商標 |
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、引用する商標は、「KUESKI」(以下「引用商標」という。)の文字からなり、申立人がオンライン・マイクロファイナンス及びオンライン・インスタント・パーソナル・ローンの分野において、著名であると主張するものである。 |
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3 登録異議の申立て理由 |
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである旨申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第39号証(枝番号を含む。)を提出した。 |
(1)「KUESKI」がメキシコにおいて著名であること |
ア 申立人について |
申立人は、2012年にメキシコのハリスコ州グアダラハラで設立された主に以下の内容の事業を行うテクノロジー企業であり(甲1)、その事業にあたって「KUESKI」という商標(引用商標)を使用している。また、「KUESKI CASH」及び「KUESKI PAY」というサービスを提供している。 |
(ア)消費者が提供するクレジットを使用して支払いを行うことができるように、様々なベンダーのオンラインプラットフォーム上で支払いオプションを提供。 |
(イ)無担保ローンを提供するために設計された上記のサービスを実行するマイクロ・レンディング・プラットフォームを開発。同プラットフォームは、ユーザーの信用履歴、ソーシャルグラフ、その他のオンライン情報を活用して信用リスクモードを構築し、数分でローン審査を実施。 |
(ウ)銀行間電子決済システムを利用し、ローンの支払いを融資先名義の銀行口座に直接入金することが可能なサービスを提供。 |
イ 申立人の保有する商標登録 |
申立人は、2013年2月4日から「KUESKI」の文字の商標を使用しており、メキシコにおいて「KUESKI」の文字を含む商標について、第36類及び第42類に商標登録を得ている(甲2の1~45)。 |
なお、メキシコ以外にも、アメリカ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、エルサルバドル、ハイチ、香港、ジャマイカ、ニュージーランド、ペルー、英国、ドミニカ共和国においても商標登録を得ている(甲3~甲21)。 |
ウ メキシコ産業財産庁(IMPI)の認定 |
申立人は、メキシコの有名な金融会社であり、業界で高い名声を得ている。「KUESKI」の長期にわたる広範な使用とプロモーションの結果、「KUESKI」は市場で強い識別力と評判を獲得しており、メキシコ産業財産庁(IMPI)も「KUESKI」に関して、「オンライン・マイクロファイナンス、オンライン・インスタント・パーソナル・ローン、「KUESKI」及び「デザイン」の商標の著名性を証明する適切かつ十分な証拠が提供されたと判断される。」と認定している(甲22、甲23)。 |
そのため、引用商標は、オンライン・マイクロファイナンス、オンライン・インスタント・パーソナル・ローンの分野において、著名であるといえる。 |
エ 小括 |
したがって、引用商標は申立人の出所表示として、メキシコにおいて著名であるといえ、その分野は、オンライン・マイクロファイナンス、オンライン・インスタント・パーソナル・ローンの分野である。 |
(2)本件商標が引用商標と類似すること |
ア 本件商標について |
本件商標は、「KUSHKI」という文字を、一般的な書体で表示した構成からなり、その文字をローマ字読みした「クシュキ」という称呼が生じる。その他、本件商標の出願人はラテンアメリカを商圏としているところ(甲24)、現地での発音としては「クーシュキ」と発音されており(甲25)、そのため、本件商標からは「クーシュキ」という称呼も生じる。 |
また、「KUSHKI」という用語は、日本の一般的な辞書には掲載されていない用語であり、特段の観念は生じない。 |
イ 引用商標について |
引用商標は「KUESKI」という文字を一般的な書体で表示したものから構成され、その文字に対応して「クエシュキ」「クエスキ」という称呼が生じる。 |
また、「KUESKI」という用語は、日本の一般的な辞書には掲載されていない用語であり、特段の観念は生じない。 |
ウ 本件商標と引用商標の対比 |
(ア)外観について |
本件商標「KUSHKI」と引用商標「KUESKI」とは、その構成文字中「K」「U」「S」「K」「I」と、比較的多い文字数である6文字中、5文字を共通にしており、その順列もほぼ一致している。 |
本件商標及び引用商標のような日本において一般的に認識されていない欧文字の用語で、かつ、母音の欠如により自然な発音が一目で明らかでない場合、外観を観察した際に印象に残りやすいのは、当該商標を構成する各欧文字であり、特に語頭、語尾の構成文字である。そのため、中間の3、4文字目において、本件商標が「SH」、引用商標が「ES」という相違点を有しているとしても、6文字中、5文字を共通にしており、その順列がほぼ一致していることから、本件商標は、引用商標と外観上有意な差異を有しない相紛らわしい商標といえる。 |
(イ)称呼について |
本件商標からは「クーシュキ」、引用商標からは「クエシュキ」という称呼が生じるところ、1音目から2音目にかけて、本件商標が「クー」と長音を伴う音声であるのに対して、引用商標が「クエ」という清音からなる点において相違する。もっとも、引用商標は「ク」の音が強く、「シュ」の音が弱く発声されるため、「エ」の音は強く発声される前音の「ク」の音に吸収されやすいといえる。その結果、「エ」の音は長音風に発音され、引用商標を実際に称呼した場合、「クーシュキ」に近い発音がされることとなる。 |
そのため、本件商標は、引用商標と称呼上有意な差異を有していないから、称呼において相紛らわしいといえる。 |
(ウ)観念について |
本件商標、引用商標ともに特定の観念が生じないため、対比することができない。 |
(エ)小括 |
よって、本件商標は、引用商標との関係において、観念において対比できず、外観及び称呼において多少の相違点は有するものの、いずれも有意な差異ということはできず、相紛らわしい商標であり、類似するといえる。 |
エ 役務の類似 |
本件商標は、国際登録公報記載の指定役務において出願されている。 |
これに対し、引用商標は、オンライン・マイクロファイナンス、オンライン・インスタント・パーソナル・ローンの分野において著名であると認定されている(甲22、甲23)。かかる分野は、オンラインでの支払い手段の提供や金融又は財務取引に関するものであるから、本件商標が第36類に指定する役務と類似する。また、オンライン上での金融に関するASPやAPIサービスの提供に関するものでもあるから、本件商標が第42類で指定する役務と類似する。 |
したがって、本件商標と引用商標の役務は同一又は類似である。 |
(3)メキシコにおける審査状況 |
メキシコにおいて「KUESKI」と「KUSHKI」が類似するとの判断がされている(甲26~甲39)。 |
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4 当審の判断 |
(1)引用商標の周知性について |
申立人は、引用商標は、申立人の役務である「オンライン・マイクロファイナンス、オンライン・インスタント・パーソナル・ローン」(以下「申立人役務」という。)について、申立人の出所表示として著名である旨主張し、証拠を提出している。 |
しかしながら、申立人の提出に係る証拠は、メキシコ及びその他の諸外国における「KUESKI」の文字からなる商標又は当該文字を含む商標の商標登録証(甲2~甲21)や、メキシコ産業財産庁(IMPI)が発行した「KUESKI」の著名性に関する宣言書(甲22、甲23)とされるものであるところ、「KUESKI」又は当該文字を含む商標が、メキシコその他の諸外国において商標登録されているとしても、それらが直ちに引用商標の周知著名性に結びつくものではなく、また、「KUESKI」の著名性に関する宣言書についても、引用商標とは異なる構成の商標(「KUESKI」と図形からなる商標)について判断されているものであるだけでなく、我が国において引用商標が広く知られていることをうかがわせるような証拠は見いだせない。 |
また、引用商標が使用された申立人役務について、使用期間、使用地域、広告宣伝規模や売上げの規模等、引用商標の周知性を客観的に判断するための具体的な証拠が提出されていないことから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。 |
その他、申立人の提出に係る証拠を総合してみても、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めるに足りる事実は見いだせない。 |
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人役務を表すものとして、需要者の間に広く認識されるに至っていたと認めることができない。 |
(2)本件商標と引用商標の類否について |
ア 本件商標 |
本件商標は、上記1のとおり、「KUSHKI」の文字からなり、その構成文字に相応し「クシュキ」の称呼を生じ、当該文字は、一般的な辞書等に載録された語ではなく、直ちに何らかの意味合いを理解させないから、特定の観念を生じない。 |
イ 引用商標 |
引用商標は、上記2のとおり、「KUESKI」の文字からなり、その構成文字に相応し「クエスキ」の称呼を生じ、当該文字は、一般的な辞書等に載録された語ではなく、直ちに何らかの意味合いを理解させないから、特定の観念を生じない。 |
ウ 本件商標と引用商標の比較 |
本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、いずれも6文字からなるところ、3文字目及び4文字目における「SH」と「ES」の文字のつづりの差異により、両商標は、構成全体として、異なる語を表示した印象を与えるというのが相当であるから、両商標は、外観において区別し得る。 |
また、称呼においては、本件商標から生じる「クシュキ」の称呼と引用商標から生じる「クエスキ」の称呼とは、3音と4音の音数において相違するだけでなく、いずれも短い音構成において、中間における「シュ」と「エス」の音が明らかに異なるものであるから、十分に聴別し得る。 |
観念においては、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、比較することはできない。 |
そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観において明確に区別できるものであり、称呼においても明瞭に聴別し得るものであるから、これらを総合して考察しても、相紛れるおそれのない非類似の商標である。 |
なお、申立人は、メキシコにおいて「KUSHKI」と「KUESKI」が類似する旨の判断がされている旨述べている(甲26~甲39)が、商標の類否の判断は、諸外国の判断例に拘束されるものではなく、商標の外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し判断するところ、この判断による当審における本件商標と引用商標の類否は上記のとおりであるから、この主張は採用できない。 |
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について |
上記(1)及び(2)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、申立人役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されている商標ではなく、また、本件商標は、引用商標と類似する商標ではないから、その他の要件を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 |
(4)むすび |
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、維持すべきである。 |
よって、結論のとおり決定する。 |