理 由 |
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1 手続の経緯 |
本願は、2019年(令和元年)12月16日に国際商標登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 |
2021年(令和3年) 2月26日付け:暫定拒絶通報 |
2021年(令和3年) 6月 9日 :意見書、手続補正書の提出 |
2022年(令和4年) 2月28日付け:拒絶査定 |
2022年(令和4年) 6月10日 :審判請求書の提出 |
2022年(令和4年) 6月27日 :上申書の提出 |
2023年(令和5年) 7月 7日付け:証拠調べ通知書 |
2023年(令和5年)11月 9日 :意見書の提出 |
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2 本願商標 |
本願商標は、「CHT」の欧文字を横書きしてなり、第1類「Chemicals for the separation of biomolecules, namely ceramic hydroxyapatite.」を指定商品として登録出願され、その後、指定商品については、上記1の手続補正書により、第1類「Ceramic hydroxyapatite for chemicals for the separation of biomolecules」と補正されたものである。 |
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3 引用商標 |
原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した国際登録第1381763号商標(以下「引用商標」という。)は、「CHT」の欧文字を横書きしてなり、2017年(平成29年)11月13日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、同年11月16日に国際商標登録出願、第1類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成30年11月30日に設定登録され、その後、指定商品については、2019年(平成31年)2月4日付け、同年(令和元年)5月3日付け及び同年12月18日付けで国際登録簿に記録された限定及び取消の通報があった結果、最終的に、第1類「Polymers of polyitaconic acid and polymeric additives of itaconic acids for use as a chelant for water conditioning, namely, as a component in consumer and household dishwasher and laundry detergents and cleaners, excluding chromatography chemicals.」とされ、その商標権は現に有効に存続しているものである。 |
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4 原査定の拒絶の理由の要点 |
原査定は、本願商標と引用商標は、観念においては比較できないが、その外観において欧文字のつづりを共通にし、「シーエイチティー」の称呼を共通にするから、互いに相紛れるおそれのある類似する商標であり、かつ、別掲1に掲げる事実によれば、本願の指定商品と引用商標の指定商品は、化学品として使用される点で用途、生産部門、販売部門等が一致し、これらに同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売に係る商品であると誤認されるおそれがあって、同一又は類似するものといえるから、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当する旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。 |
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5 当審における証拠調べ通知 |
当審において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べをした結果、別掲2及び別掲3に示すとおりの事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対して、令和5年7年7日付け証拠調べ通知書によって通知し、期間を指定してこれに対する意見を求めた。 |
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6 証拠調べ通知に対する請求人の意見証拠調べ通知に対する請求人の意見の要点 |
請求人は、上記5の証拠調べ通知に対して、以下のとおり意見を述べた。 |
(1)証拠調べ通知書に記載の事実のとおり、本願の指定商品は、化学品の範ちゅうに属するものである。 |
(2)引用商標の指定商品は、原料プラスチックの範ちゅうに属するものである。 |
(3)本願の指定商品と引用商標の指定商品が、それぞれ化学品の範ちゅうに属するものであると判断されたとしても、生産部門・販売部門・原材料及び品質・用途・需要者の範囲が一致しておらず、完成品と部品との関係にない上、引用商標の商標権者が非類似である旨、陳述しているから、両商標の指定商品は非類似である。 |
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7 当審の判断 |
(1)本願商標と引用商標との類否について |
ア 本願商標 |
本願商標は、上記2のとおり、「CHT」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字に相応して「シーエイチティー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 |
イ 引用商標 |
引用商標は、上記3のとおり、「CHT」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字に相応して「シーエイチティー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 |
ウ 本願商標と引用商標の類否 |
本願商標と引用商標の類否について検討するに、両商標は、外観においては、書体に差異を有するものの、同じつづりの欧文字を書したものであるから、両者は、近似した印象を与えるものである。 |
次に、称呼においては、本願商標と引用商標は、共に「シーエイチティー」の称呼を生じるものであるから、その称呼を同一にするものである。 |
また、観念においては、本願商標及び引用商標のいずれも、特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができない。 |
そうすると、本願商標と引用商標とは、上記のとおり、観念において比較できないとしても、外観上、近似した印象を与えるものであって、かつ、その称呼を同一にするものであるから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に勘案すれば、両者は互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。 |
(2)本願の指定商品と引用商標の指定商品の類否について |
本願の補正後の指定商品である第1類「Ceramic hydroxyapatite for chemicals for the separation of biomolecules」(参考和訳「生体分子分離用化学品用のセラミックハイドロキシアパタイト」)について検討するに、別掲1(1)及び(2)に掲げる原審で示した事実、及び別掲2に掲げる証拠調べ通知で示した事実のとおり、ハイドロキシアパタイトが工業用原料、食品添加物、化粧品原料、医薬品原料、生体材料等に使用される化学品として取引されていることからすると、当審意見書において請求人も認めるとおり、当該商品は化学品の範ちゅうに含まれる商品であるとみるのが相当である。 |
一方、引用商標の指定商品である第1類「Polymers of polyitaconic acid and polymeric additives of itaconic acids for use as a chelant for water conditioning, namely, as a component in consumer and household dishwasher and laundry detergents and cleaners, excluding chromatography chemicals.」(参考和訳「水質調整用のキレート剤として使用するためのポリイタコン酸のポリマー及びイタコン酸のポリマー添加剤、すなわち消費者用及び家庭用の食器洗い用及び洗濯用の洗剤及び洗浄剤の構成要素としてのもの(クロマトグラフィー化学品を除く。)」)について検討するに、別掲1(3)ないし(5)に掲げる原審で示した事実、及び請求人が令和4年6月10日提出の審判請求書に添付した資料1-21ないし資料1-26のとおり、イタコン酸が有機化合物であって、ポリマー・洗浄剤などの製造や歯科セメントの他価金属化合物のキュア用にも有用であること、ポリイタコン酸も保水材として利用できることからすると、当審審判請求書において請求人も認めるとおり、当該商品は化学品の範ちゅうに含まれる商品であるとみるのが相当である。 |
そうすると、本願の指定商品と引用商標の指定商品は、いずれも化学品として商取引の対象となるものであり、その用途、生産部門、販売部門及び需要者の範囲を一定程度共通にするものであるから、類似の商品とみるのが相当である。 |
(3)小括 |
上記(1)及び(2)によれば、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、かつ、本願の指定商品は、引用商標の指定商品と類似するものである。 |
(4)請求人の主張について |
ア 請求人は、引用商標の指定商品は、原料プラスチックの範ちゅうに属するものであるため、化学品の範ちゅうに含まれる本願の指定商品とは非類似である旨主張している。 |
しかしながら、引用商標の指定商品は、上記(2)のとおり、化学品の範ちゅうに含まれる商品であると解するのが相当である。 |
イ 請求人は、本願の指定商品と引用商標の指定商品が、それぞれ化学品の範ちゅうに属するものであると判断されたとしても、生産部門・販売部門・原材料及び品質・用途・需要者の範囲が一致しておらず、完成品と部品との関係にない上、引用商標の商標権者が非類似である旨、陳述しているから、非類似である旨主張している。 |
しかしながら、請求人が令和5年11月9日提出の意見書に添付した資料6-1(枝番号を含む。)の書面による声明の写し及び翻訳文からは、実際の取引の実情は不明であり、仮に請求人の主張する取引の実情があるとしても、商標の類否判断において考慮することのできる取引の実情とは、単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではなく、その指定商品全体についての一般的・恒常的な実情を指すものと解すべきであり(最高裁昭和47年(行ツ)第33号参照)、請求人の主張する上記実情は、取引における一場面を抽出した特殊的、限定的なものといわざるを得ないものであり、商標の類否判断にあたり考慮すべき一般的、恒常的な取引の実情ということはできない。 |
また、指定商品又は指定役務が類似のものであるかどうかは、商品又は役務が、通常、同一営業主により製造若しくは販売又は提供されている等の事情により、それらの商品又は役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造若しくは販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断すべきである(最高裁昭和33年(オ)第1104号、知財高裁平成27年(行ケ)第10096号参照)旨判示されている。 |
そこでみるに、本願の指定商品と引用商標の指定商品とは、上記(2)のとおり、その用途、生産部門、販売部門及び需要者の範囲を共通にする場合があることに加え、現実に同一の事業者によって取引されることがあることは、別掲4の事実からも確認できる。 |
そうすると、これらの指定商品に同一又は類似する商標が使用された場合には、同一営業主の製造若しくは販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係があるため、両者は類似の商品であるというのが相当である。 |
ウ したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。 |
(5)むすび |
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することはできない。 |
よって、結論のとおり審決する。 |
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別掲1 原審で示した事実 |
(1)「高純度リン酸カルシウム|化学製品|太平化学産業株式会社」のウェブサイトにおいて、「機能性製品」の見出しの下、「ヒドロキシアパタイト 規格:外原規」との記載があり、「化学製品」として分類されている。 |
https://www.taihei-chem.co.jp/product/chemical/functional01/ |
(2)「日本最大の化学ポータルサイト Chem-Station」のウェブサイトにおいて、「サンギ、バイオマス由来のエタノールを原料にガソリン代替燃料|Chem-Station (ケムステ)」の見出しの下、「サンギは、化石資源ではなく稲藁やさとうきびといったバイオマス由来のエタノールを原料に、無機化合物ハイドロキシアパタイト(HAP)を触媒として1-ブタノールや1,3-ブタジエンといった化学工業原料やガソリン代替燃料(バイオガソリン)を合成する技術を開発した。現在、世界各国で特許取得を推進すると同時に、新たなエタノール化学産業の創造を目指している。」との記載がある。 |
https://www.chem-station.com/chemistenews/2005/03/post-146.html |
(3)「磐田化学工業株式会社」のウェブサイトにおいて、「取り扱い品目」の見出しの下、「イタコン酸」との記載がある。 |
https://www.i-kagaku.co.jp/yu |
(4)「PR TIMES」のウェブサイトにおいて、「バイオベース・プラットフォーム化学品市場、2021年から2026年にかけて9.5%のCAGRで成長見込み|株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース」の見出しの下、「バイオベース・プラットフォーム化学品とは、生体材料を分解・加工して製造される化学物質群を指します。一般的に使用されているバイオベース・プラットフォーム化学品には、バイオグリセロール、グルタミン酸、イタコン酸、バイオ3-ヒドロキシプロピオン酸、コハク酸などがあります。これらは、アミノ酸、カルボン酸、イソプレン、プロパン、短鎖オレフィン、ブタンジオール、エタノールなどを原料として製造されます。これらの化学品は、機能性を向上させた化学品や材料を製造するための重要な原料として機能し、ポリマー、接着剤、繊維、プラスチックパッケージ、樹脂、洗浄剤などの製造に使用されます。」との記載がある。 |
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001985.000071640.html |
(5)「J-STAGE」のウェブサイトにおいて、「ポリイタコン酸-PVA系IPNヒドロゲルの調製とその保水材としての評価」の見出しの下、「保水材としての利用を目的として,化学架橋型のポリイタコン酸と物理架橋型のポリビニルアルコール(PVA)からなる相互侵入高分子網目(IPN)ヒドロゲルを調製した。」との記載がある。 |
https://www.jstage.jst.go.jp/article/koron/72/12/72_2015-0027/_article/-char/ja/ |
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別掲2 「Ceramic」の意味 |
(1)「コンサイス英和辞典第13版」(三省堂)において、「ceramic」の項に「a 陶器の,製陶の;陶製の;セラミックスの.」の記載がある。 |
(2)「goo辞書 英和和英」のウェブサイト(小学館プログレッシブ英和中辞典)において、「ceramic」の項に「【形】(通例限定)陶磁器の,窯業製品の,窯業の,製陶の」の記載がある。 |
https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/ceramic/ |
(3)「オックスフォード現代英英辞典」(オックスフォード大学出版局)において、「ceramic」の項に「noun・・・a pot or other object made of CLAY that has been made permanently hard by heat:」(参考訳「名詞 熱により永久に硬くされた粘土からなるつぼ又はその他の物体」)、adj:ceramic tiles」(参考訳「形容詞 セラミックタイル」)の記載がある。 |
(4)「広辞苑第七版」(株式会社岩波書店)において、「セラミックス(Ceramies)」の項に「成形・焼成などの工程を経て得られる非金属無機材料」の記載がある。 |
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別掲3 ハイドロキシアパタイト(ヒドロキシアパタイト)が合成によっても得られるものであり、化学品として取引されている事実 |
(1)「化粧品成分用語辞典2008」(中央書院)において、「ハイドロキシアパタイト(ヒドロキシアパタイト)」の見出しの下、「リン酸カルシウムの一種であり、水酸化カルシウムとリン酸を反応させて得られる。白色微細粉末で、無臭である。歯科、整形外科の分野で人体との親和性がよいことなどから新しい人工歯、人工骨の材料として注目されている。アパタイトを歯みがき剤に配合すると歯質を強化し、再結晶性化(再石灰化)することなどから歯質強化剤として注目されている。形状保持の賦形剤としてファンデーション類にも応用される。」の記載がある。 |
(2)「生化学辞典(第4版)」(東京化学同人)において、「ヒドロキシアパタイト[hydroxyapatite]」の見出しの下、「水に不溶の結晶。CaHPO4・2H2Oをアルカリ水溶液中で加熱処理し作る。タンパク質、核酸などの高分子多価陰イオンを吸着し、低分子物質はほとんど吸着しない。クロマトグラフィー用充填剤としてタンパク質の精製に用いられる他、二本鎖核酸を一本鎖核酸より強く吸着し両鎖を分離できるので、変性DNAの再会合速度を測定するのに必須である。」の記載がある。 |
(3)「株式会社サンギ 化成品」のウェブサイトにおいて、「ハイドロキシアパタイト」の見出しの下、「「HAP」とは」の項に、「人の骨の60%、歯のエナメル質の97%、象牙質の70%がハイドロキシアパタイトという天然のリン酸カルシウム「HAP」[Ca10(PO4)6(OH)2]からできています。合成ハイドロキシアパタイトであっても、人体になじみやすい、安全性の高い生体材料です。またその合成法により、様々な特性を持たすことができます。この高い安全性から工業用原料、食品添加物、化粧品原料、医薬品原料、人工骨などの生体材料までに使用されています。」との記載がある。 |
https://www.sangi-chemical.com/apatite/index.html |
(4)「Sofsera」のウェブサイトにおいて、「ハイドロキシアパタイト」の見出しの下、「ハイドロキシアパタイト(HAp:Hydoroxyapatite)は化学式Ca10(PO4)6(OH)2で示される塩基性リン酸カルシウムで、天然には骨や歯の主成分として、また鉱石として存在し、高い生体親和性を示すことが知られています。下記に代表されるいくつかの方法により合成されており、バイオマテリアルをはじめとする様々な分野で活用されています。」との記載があり、それに続いて「HAp製造法」の項に、「溶液法(湿式法)中性もしくはアルカリ性の水溶液中でカルシウムイオンとリン酸イオンを室温で反応させることにより合成する方法です。代表的なものとして中和反応によるものと塩と塩の反応によるものがあります。」との記載がある。 |
https://sofsera.co.jp/hap.html |
(5)「富士チタン工業株式会社」のウェブサイトにおいて、「ハイドロキシアパタイト」の見出しの下、「■一般的な合成ハイドロキシアパタイトに比べ比表面積が大きい微粒品です。■Ca/Pモル比を調節可能です。■分散剤不使用のため、ユーザー様でお好きな分散剤を選択し、ご使用いただけます。」の記載がある。 |
https://www.fuji-titan.co.jp/products/hap.html |
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別掲4 「ヒドロキシアパタイト」及び「イタコン酸」の双方が同一の株式会社により取引されている事実 |
(1)「富士フイルム和光純薬株式会社」のウェブサイトにおいて、製品検索すると、「ヒドロキシアパタイト」及び「イタコン酸」の双方が取引されている事実を確認できる。 |
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01MPB02150162.html |
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0109-0235.html |
(2)「メルク株式会社」のウェブサイトにおいて、製品検索すると、「ヒドロキシアパタイト」及び「イタコン酸」の双方が取引されている事実を確認できる。 |
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/substance/hydroxyapatite123451306065 |
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/i29204 |
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(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
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審判長 鈴木 雅也 |
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |