異議の決定


異議2023-685014
RabanusstraΒe 14-16, 36037 Fulda(Germany)
 商標権者  
LUQOM Holding GmbH
大阪府大阪市北区角田町8番1号 大阪梅田ツインタワーズ・ノース 青山特許事務所
 代理人弁理士
山尾 憲人
  
大阪府大阪市北区角田町8番1号 大阪梅田ツインタワーズ・ノース 青山特許事務所
 代理人弁理士
田中 陽介
  
ドイツ国,マンヘイム D-68229,マーキルシェール ストリート. 20
 商標登録異議申立人  
リンディーエレクトロニック ゲーエムベーハー
東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル 協和特許法律事務所
 代理人弁理士
宮嶋 学
  
東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル 協和特許法律事務所
 代理人弁理士
本宮 照久
  
東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル 協和特許法律事務所
 代理人弁理士
高田 泰彦
  
東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル 協和特許法律事務所
 代理人弁理士
柏 延之
  
東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル 協和特許法律事務所
 代理人弁理士
猿山 純平
  


 国際商標登録第1653798号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際商標登録第1653798号商標の商標登録を維持する。



 理 由
  
第1 本件商標
 本件国際登録第1653798号商標(以下「本件商標」という。)は、「Lindby」の欧文字を横書きしてなり、2021年3月31日にドイツ連邦共和国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、同年9月30日に国際商標登録出願、第9類、第11類及び第35類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和5年7月10日に登録査定、同年10月20日に設定登録されたものである。
 
第2 登録異議申立人が引用する商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する登録商標は、次の1及び2のとおりであり、いずれの商標権も、現に有効に存続しているものである。
 1 登録第5381802号商標(以下「引用商標1」という。)
 商標の構成:LINDY(標準文字)
 登録出願日:平成21年7月17日
 設定登録日:平成23年1月7日
 指定商品及び指定役務:第2類、第9類、第20類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
 2 国際登録第1197821号商標(以下「引用商標2」という。)
 商標の態様:別掲のとおり
 国際商標登録出願日:2013年10月1日
 優先権主張:2013年5月22日(EUIPO)
 設定登録日:平成27年9月11日
 指定商品及び指定役務:第9類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
 なお、引用商標1及び引用商標2をまとめていう場合は、以下「引用商標」という。
 
第3 登録異議申立ての理由
 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証(枝番号を含む。)を提出した。
 以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように簡略して記載し、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略して記載する。
 1 本件商標の構成について
 本件商標は、「Lindby」の欧文字よりなるところ、当該文字は、辞書等に掲載された成語ではなく、特定の意味合いを有しない造語として認識される。
 そして、特定の観念を有しない欧文字については、英語風の読みにならって発音されることが一般的であり、例えば、「by」を語尾に有する英単語である「baby」、「rugby」、「booby」、「wallaby」は、それぞれ「ベイビー」、「ラグビー」、「ブービー」、「ワラビー」と発音されるところ、末尾に配された「by」の文字は「ビー」と称呼されるものと捉えられるため、本件商標からは、その構成文字に相応し「リンドビー」の称呼のみが生じる。
 したがって、本件商標からは、「リンドビー」の称呼のみが生じ、特定の観念を生じない。
 2 引用商標の構成について
 引用商標1は、「LINDY」の文字を標準文字で表してなり、引用商標2は、横書きされた「LINDY」の欧文字と、1文字目の「L」と二文字目の「I」の間に配された赤色の正方形から構成されるところ、引用商標からは、その構成文字に相応して「リンディー」の称呼が生じる。
 また、「LINDY」は、辞書等に掲載された成語ではないため、引用商標は特定の意味合いを有しない造語として認識されるといえる。
 したがって、引用商標からは、「リンディー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
 3 本件商標と引用商標との類否について
 本件商標と引用商標の称呼を比較すると、本件商標の称呼「リンドビー」と引用商標の称呼「リンディー」とは、「リ」及び「ン」の音を共通にし、「ド」の音の有無及び語尾の「ビー」と「ディー」の音の差において相違する。
 そして、本件商標の称呼中の「ド」の音は、比較的聴取されにくい中間に位置する上、その前後の語頭音である「リン」及び濁音である「ビー」の各音が「ド」の音と比較して強く発音されるため、本件商標の称呼中の「ド」の音は、印象が弱く聴取されにくい。
 また、相違する「ビー」と「ディー」の音は、母音を共通にし、語調、語感が近似する。
 したがって、本件商標と引用商標を一連に称呼すると、称呼全体の語感が極めて近似したものとなり、本件商標と引用商標は、称呼上類似する。
 次に、外観を比較すると、本件商標と引用商標の構成文字は、「L」、「i」、「n」、「d」、「y」の文字を共通にし、「b」の1文字の有無において相違するにすぎない。
 そして、相違点の「b」についても、看者が比較的に見落としやすい中間部に位置する上、その直前に配置されている「d」の文字を反転させた構成であるため、視覚的な印象に与える影響が小さく、外観上見誤るおそれがある。
 よって、本件商標と引用商標は、外観上も類似する。
 以上より、本件商標と引用商標は、観念上対比することはできないとしても、称呼及び外観において類似性が認められることから、商品の出所について誤認混同が生じるおそれが高いといえ、互いに類似する商標であると認められる。
 4 取引の実情について
 申立人は、ドイツに本社を置くAV機器、コンピュータ機器等の製造、販売を行う1932年に設立された90年の歴史を有する会社であり、申立人のブランドである「LINDY」を冠した商品は、ドイツのほか、イギリス、イタリア、スイス、フランス、アメリカ、オーストラリア、台湾等の国において販売されている(甲3)。
 我が国では、株式会社リンディー・ジャパン(以下「リンディー・ジャパン社」という。)を通し(甲3、甲4)、「LINDY」のブランド名を用いて、引用商標が付されたHDMI・DVI・VGA・USB・ネットワーク等のケーブル類、コネクタ、コンバータ、アダプタ、PCアクセサリー、切替器、分配器、ハブ等の様々なPC周辺機器の販売を行っている状況が存在する(甲5~甲12)。
 上記の点に照らすと、引用商標は、第9類に属するケーブル、電気通信機械器具及びコンピュータ周辺機器の商品においては、日本国内外の需要者の間で長年親しまれているブランドであり、「LINDY」のブランド名は商品との間に密接な関連性、ひいては強い業務上の信用が化体しているといえる。
 そして、このような取引の実情があり、業務上の信用が強い引用商標と「b」の1文字の有無において相違するにすぎない本件商標をあえて採択し、その指定商品に本件商標を使用する場合、引用商標との間で、商品の出所について誤認混同が生じるおそれが高いといえる。
 以上の点からも、本件商標と引用商標とは、互いに類似する商標であると認められる。
 5 指定商品及び指定役務の類否について
(1)第9類について
 本件商標は、第9類において様々な電気式・電子式の商品を指定しているところ、引用商標は「電力供給装置、電気通信機械器具、電子応用機械器具、ケーブル」といった様々な電気式・電子式の商品を指定しており、いずれの指定商品も本件商標の第9類に係るすべての指定商品と同一又は類似と判断されるべきものである。
(2)第11類について
 本件商標の第11類の指定商品中の「sockets for electric lights;」等(類似群:11A01 11A02)は、引用商標1の第9類の指定商品中、「プラグ」等の商品と類似し、また、引用商標2の第9類の指定商品中、「power switches; LED lights, USB lights;」等の照明に関する商品と類似する。
(3)第35類について
 本件商標に係る小売等役務の対象となる商品は、引用商標の第9類の指定商品と類似する関係にあるため、第35類の指定役務のうち、照明装置、音響又は映像の記録用・送信用及び再生用の装置、コンピュータハードウェア及びソフトウェアを対象とする小売等役務は、引用商標に係る第9類の指定商品と類似するとみなされるものである。
 
第4 当審の判断
 1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
 本件商標は、「Lindby」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は、辞書等に載録されている成語ではなく、直ちに何らかの意味合いを理解させるものではないから、特定の観念を有しない一種の造語というのが相当である。
 そして、特定の意味を有しない欧文字については、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は英語読みに倣って発音されるのが自然であるところ、「by」の文字が、我が国において親しまれている「バイ」と発音される英語であることから、「Lindby」の文字からなる本件商標からは「リンドバイ」の称呼が生じるといえ、また、我が国おいて広く一般に親しまれている英語「baby」及び「ruby」が「ベビー」及び「ルビー」と発音されることに照らせば「リンドビー」の称呼も生じ得るとみるのが相当である。
 そうすると、本件商標は、「リンドバイ」又は「リンドビー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
(2)引用商標
 ア 引用商標1は、上記第2の1のとおり、「LINDY」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、「激しいジルバダンスの一種。」(「ランダムハウス英和大辞典 第2版」株式会社小学館。)を意味し、「リンディ」と発音される英単語として掲載されている英和辞典があるものの、当該文字は、一般に慣れ親しまれた英単語とはいい難く、また、本件商標の指定商品及び指定役務の分野において、特定の意味合いを有する語として知られているという事情は見いだせない。
 そして、特定の意味を有しない欧文字については、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は英語読みに倣って発音されるのが自然であることからすると、本件商標は、「リンディー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
 イ 引用商標2は、別掲のとおり、「LINDY」の欧文字を横書きし、「L」の文字の右上部のスペースに収まるように描いた赤色の四角形との構成からなるところ、図形部分と文字部分とが常に不可分一体のものとしてのみ認識し把握されるべき格別の理由は見いだし難く、図形部分と欧文字は、それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。
 そして、当該図形部分は、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないものである。
 また、当該構成文字部分は、上記アのとおり、一般に慣れ親しまれた英単語とはいい難く、また、本件商標の指定商品及び指定役務の分野において、特定の意味合いを有する語として知られているという事情は見いだせない。
 そして、特定の意味を有しない欧文字については、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は英語読みに倣って発音されるのが自然であることからすると、本件商標は、「リンディー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
 本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、本件商標と引用商標1とは、6文字又は5文字という比較的短い文字数での中間における「b」の文字の有無及び本件商標が語頭のみ大文字でそれ以外が小文字で構成されるのに対し、引用商標1は大文字のみから構成されるという差異があり、また、本件商標と引用商標2とは、上記の差異に加えて、赤色の四角図形の有無の差異を有するものであるから、本件商標と引用商標とは、外観上、明確に区別できるものである。
 次に、称呼においては、本件商標と引用商標は、本件商標から生じる「リンドバイ」及び「リンドビー」の称呼と、引用商標から生じる「リンディー」の称呼とは、語頭の「リン」の音を共通にするとしても、後半の「ドバイ」及び「ドビー」と「ディー」の音が相違し、両商標をそれぞれ一連に称呼しても、全体の語調、語感が異なったものとなり、互いに聞き誤るおそれはなく、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
 さらに、観念においては、両商標は、いずれも特定の観念を生じないから、観念上、比較することができないものである。
 そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較できなとしても、外観において明確に区別でき、称呼において聞き誤るおそれはないものであるから、これらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に勘案すれば、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
 なお、申立人は、引用商標を付した様々なPC周辺機器の販売を行っており、第9類に属するケーブル、電気通信機械器具及びコンピュータ周辺機器の商品においては、日本国内外の需要者の間で長年親しまれているブランドであって、「LINDY」のブランド名は商品との間に密接な関連性、強い業務上の信用が化体しているといえる取引の実情があり、業務上の信用が強い引用商標と「b」の1文字の有無において相違するにすぎない本件商標をあえて採択し、その指定商品に本件商標を使用する場合、引用商標との間で、商品の出所について誤認混同が生じるおそれが高い旨主張している。
 申立人の上記主張は、引用商標が上記商品の需要者の間に広く認識されている旨の主張と解されるところ、提出された証拠によれば、リンディー・ジャパン社が、引用商標を使用した「オーディオセレクター、スプリッター」等の商品を我が国において販売していることはうかがえるものの(甲3~甲12)、これらの事情をうかがい知ることができる証拠は、いずれも本件商標の登録査定後である2024年1月19日を印刷日とするインターネット情報であって、掲載日が確認できないものであり、また、引用商標を表示した商品の売上高、販売量、市場シェアなどの販売実績及び広告宣伝の期間・規模・頻度等など、その周知・著名性を数量的に判断し得る具体的な証拠は提出されていないから、引用商標が、需要者にどの程度認識されるに至ったかを確認することはできず、その他、引用商標が、取引者、需要者の間で、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていると認めるに足りる事実は見いだせない。
 そうすると、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人に係る商品を表示するものとして、需要者に広く認識されていたものと認めることはできない。
 よって、申立人の上記の主張は採用することができない。
(4)小括
 上記(3)のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、その他の要件について検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
 2 むすび
 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するとはいえず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
 よって、結論のとおり決定する。
 


        令和 6年 9月19日

     審判長  特許庁審判官 大橋 良成
          特許庁審判官 杉本 克治
          特許庁審判官 渡邉 あおい

 
別掲 (引用商標2.色彩は原本を参照。)
 
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〔決定分類〕T1651.261-Y  (W091135)
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            263

上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年 9月19日  審判書記官  加賀 泉