理 由 |
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1 本件商標 |
本件国際登録第1685613号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり、「Brunello」の欧文字を表してなり、2021年12月23日にItalyにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2022年(令和4年)6月15日に国際商標登録出願、第24類「Linings[textile]」を指定商品として、令和5年6月22日に登録査定、同年10月20日に設定登録されたものである。 |
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2 登録異議申立人が引用する商標 |
登録異議申立人(以下「申立人」という。)の引用する登録商標は、以下の(1)及び(2)のとおりであり、それらの商標権は現に有効に存続しているものである。 |
(1)登録第2042034号商標(以下「引用商標1」という。) |
商標の構成:BRUNELLO CUCINELLI |
登録出願日:昭和61年7月31日 |
設定登録日:昭和63年4月26日 |
書換登録日:平成20年10月8日 |
最新更新登録日:平成30年4月24日 |
指定商品:第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第24類「布製身の回り品」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子」 |
(2)国際登録第1284225号(以下「引用商標2」という。) |
商標の構成:BRUNELLO CUCINELLI |
国際商標登録出願日(事後指定):2017年(平成29年)2月13日 |
設定登録日:平成30年5月18日 |
指定商品・指定役務:第26類「Lace and embroidery, ribbons and braid; buttons, hooks and eyes, pins and needles; artificial flowers; hair ornaments; haberdashery, except thread; brassards; bows for the hair; zippers; zippers for bags; dress fastenings; monogram tabs for marking linen; numerals for marking linen; cords for rimming, for clothing; ornamental badges; hair bands; belt clasp; barrettes; fastenings for braces; buckles; artificial flowers; sequins; elastic ribbons; ribbons; shoe ornaments, not of precious metal; hat ornaments, not of precious metal; passementerie; beads other than for making jewellery; silver embroidery; gold embroidery; brooches; laces.」並びに第4類、第8類、第14類、第16類、第21類、第23類、第27類、第34類、第40類、第41類及び第43類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務 |
以下「引用商標1」及び「引用商標2」をまとめていうときは「引用商標」という。 |
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3 登録異議の申立ての理由 |
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証(枝番号を含む。)を提出した。 |
以下、証拠の記載に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する場合があり、枝番号を全て記載するときは、枝番号を省略して記載する。 |
(1)商標法第4条第1項第11号について |
ア 本件商標は、「Brunello」の欧文字を筆記体風に書してなり、第24類「Linings[textile]」を指定商品とし、2021年12月23日を優先日、2022年(令和4年)6月15日を国際登録日とし、2023年(令和5年)10月20日に国内登録されたものである。 |
本件商標は、「ブルネロ」「ブルネッロ」の称呼が生じ、イタリア人男性の氏姓又は名に由来すると思われるものの、我が国において馴染みのある語ではなく、その意味合いをもって広く知られているものではない。 |
イ 申立人は、欧文字「BRUNELLO CUCINELLI」の語からなる商標について、引用商標1(甲2)及び引用商標2(甲3)に係る商標を所有している。 |
引用商標は、申立人の創業者の氏名に由来し、その構成全体から「ブルネロクチネリ」ないし「ブルネッロクチネリ」の称呼を生じ得るが、文字数にして17文字、称呼音数にして8ないし9音という冗長な構成からは、必ずしも常に構成全体として不可分一体に認識されるものではなく、語頭の「BRUNELLO」と、続く「CUCINELLI」とが分離して認識される可能性は否定できない。 |
また、ファッション、アパレル業界において、引用商標に代表されるような、デザイナーや創業者の氏名を含んでなる商標が、それが氏名に由来するが故に、需要者及び取引者の間で、その氏又は名のいずれか一方に略して、親しみを込めて愛称され得ることがあることは、当該業界において顕著な事実である。 |
加えて、引用商標の構成中「BRUNELLO」は、比較的目立つ語頭に配置され、また、イタリア人男性の氏姓ないし名として、我が国において決してありふれて認識されているような語ではないことからすれば(事実、「BRUNELLO」を含むファッションブランドは、申立人のものを除いて存在しない。)、「BRUNELLO」部分をもって、申立人の出所を十分に認識可能である。 |
すなわち、これは、「BRUNELLO」部分が、引用商標において強く支配的な印象を看者に与え、同部分単独で、申立人の業務に係る商品の出所が認識される可能性が相当程度にあることを意味することから、同部分から「ブルネロ」ないし「ブルネッロ」の称呼が単独で生じる蓋然性は十分にあるといえる。 |
ウ 上記のとおり、引用商標において「BRUNELLO」が強く支配的な印象を与える要部であり、「BRUNELLO」の語からなる本件商標は、引用商標の要部と共通し、少なくとも外観、称呼において相紛らわしく、両商標は、互いに出所の誤認混同を生じさせるほどに類似するというべきである。 |
エ さらに、本件商標に係る指定商品「linings[textile]」は、引用商標に係る指定商品、少なくとも、第26類「embroidery」等(引用商標2)と類似し、また、引用商標1に係る指定商品、特に第24類「布製身の回り品」や、第25類の被服類との間では、生地(材料、部品)とその完成品との関係であり、とりわけパターンオーダーなどで生地の選択から注文するフォーマルウェアなどの商品のように、製造業者や販売ルートが共通し、それに伴い、需要者の範囲も重複することも少なくない。すなわち、両商標の指定商品は、同一の営業主の製造・販売に係る商品と誤認されるおそれがあるというべきであって、互いに類似する。 |
オ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 |
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について |
ア 両商標の類似度について |
上述のとおり、本件商標と、引用商標とは、極めて高い類似度を有する。 |
イ 引用商標の周知度 |
申立人は、1978年にブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)氏によって創業され、我が国を含む世界各国において営業活動を行うイタリア発のファッションブランド「BRUNELLO CUCINELLI」を運営する業者であって、とりわけ、イタリアのペルージャ地方のソロメオ村にて製造された、世界最高水準のカシミア素材の高級なニットウェアを取り扱っていることで服飾業界において広く知られるに至っている。 |
近年、著名な芸能人やセレブリティが愛用していることなどもあって、我が国においても、爆発的に名声を高めており、現在、自ら運営するオンラインショップ(甲4)に加えて、東京都銀座、表参道、神戸にある旗艦店や、日本全国の主要な百貨店(高島屋、三越、伊勢丹、松坂屋、西武、阪急、大丸、岩田屋)に店舗を有し、計24店舗を展開している(甲5)。 |
引用商標は、申立人のブランドに係る商品、役務の出所を示す代表的出所標識(ハウスマーク)として、当該ブランド事業の取扱商品全般に長年にわたり使用されてきた。 |
取扱商品は、コート、ニット、ジャケット、ドレス、パンツ、スカートなどの被服類、ハイヒール、スニーカー、ブーツなどの履物類、バッグ類、サングラス、革小物やジュエリーなどのアクセサリー類のみならず、フレグランスなども扱っている(甲4)。 |
申立人の商品は、その素材自体の品質や美しさ、ナチュラルかつ洗練されたデザインで知られており、とりわけ、カシミア素材のニットは、一着50万円以上の高級な価格帯で販売されており、いわゆるハイエンドイタリアブランドの一つとして高い名声と人気を博している。 |
我が国においては、2000年代初頭から商社を通じて本格的な営業活動が開始、2014年には、日本子会社が設立され、現在に至るまで20年以上にわたり、販売されてきた。 |
甲第6号証の1は、日本子会社を設立するに至るまでの申立人商品の沿革や基本的な清報を端的にまとめたウェブサイトである。 |
甲第6号証の2は、申立人の日本子会社「ブルネロクチネリジャパン株式会社」(以下「ブルネロクチネリジャパン社」という。)の代表者であるM氏によるインタービュー記事であって、申立人の日本進出に関する経緯や背景を取材したものである。 |
甲第7号証は、申立人のCEOであるリカルド・ステファネッリ氏による宣誓書(抄訳付)であって、同宣誓書に記載する、申立人の2018年から2022年までの各年売上高(全世界、日本)及び広告支出額のデータが真正なものである旨宣誓するものである。 |
甲第8号証は、申立人のIR資料として公表されている2018年から2022年までの年間連結収益決算のステートメントの写しであって、全世界売上高の金額の証左であって、甲第7号証に示すその他の金額の供述が確からしいものであることを推認させる。 |
上記のように、我が国での年間売上高は、50~70億円で推移しており、コロナ禍の2020年を除いて、順調に増収傾向にある。 |
申立人の全世界売上高のうち、我が国の割合は、5~7%を占めていることからすると、我が国における広告支出費は、全世界の広告支出費(42~72億円)から、年間3~5億円であることが推認される。 |
甲第9号証は、広告代理店「双葉通信社」「博報堂」から「ブルネロクチネリジャパン社」に対する請求書(2019年~2023年発行)の写しであって、同社が各雑誌を通じて行ったタイアップ記事、広告のための費用支出を証するものである。これらに示すとおり、申立人は、我が国の営業活動のために、コンスタントに広告費を投じていることが分かる。 |
甲第10号証は、申立人ないし引用商標を使用した申立人商品を特集する新聞、雑誌の写しである。 |
甲第11号証の1~5は、申立人ないし引用商標を使用した申立人商品を特集するインターネット記事であり、申立人ブランドの評価、名声の高さを推認させるものである。 |
甲第12号証の1~17は、申立人ないし引用商標を使用した申立人商品が取り上げられた新聞、雑誌記事情報を新聞雑誌記事検索システムにおいて抽出したものである。 |
甲第12号証の1は、繊研新聞(2001年10月18日)の記事であり、2001年当時、日本の代理店を通じて我が国への輸入実績があったことを推認させるものである。「日本向けは売上高九十億円のうち一○%程度だが、品質の良さや高級志向に伴い販売を伸ばしている」との記載がある。 |
甲第12号証の2は、繊研新聞(2003年2月10日、同月20日、同月24日)の記事であり、2003年の秋冬物から、伊藤忠商事が申立人商品を輸入販売し、ウールン商会、シーアイ・ガーメント・サービスが販売していた事実の証左である。 |
甲第12号証の3は、繊研新聞(2003年12月17日、2004年4月26日)及び「繊維ニュース」(2004年3月2日)の記事であり、12月17日の記事によれば、引用商標がミラノコレクションにて展示会を行ったことが報道されており、また、4月26日の記事によれば、東急百貨店にて、申立人商品が「予想を上回る売れ行き。ソフトな素材感と感度の若さが支持されている。」と評されている。 |
甲第12号証の4は、繊研新聞(2005年3月3日、同月4日、同月24日)の記事であり、伊藤忠商事の重点ブランドとして、申立人商品が選抜されたこと、大丸心斎橋店(大阪府)のインポートセレクトショップのフロアにて、申立人商品が販売されていたことが分かる。 |
甲第12号証の5は、繊研新聞(2005年9月9日)、繊維ニュース(2005年8月30日、2006年3月9日)の記事であり、高島屋大阪店のフロアに申立人商品の直営店がオープンしたことが分かる。 |
甲第12号証の6は、繊研新聞(2006年8月17日、同年9月9日、2007年4月27日)の記事であり、2006年3月に松坂屋名古屋店、同年秋に伊勢丹本店、2007年3月に高島屋京都店に店舗をそれぞれ開設し、店舗数が8店になったこと、及びウールン商会を通じた売上高が「前期(07年3月期)の売り上げは30%増の16億円」であったことが分かる。 |
甲第12号証の7は、繊維ニュース(2008年8月6日)、繊研新聞(2008年3月25日、同年5月9日、同年10月30日)の記事であり、2008年春夏物の受注が2007年秋冬物に比べて40%ほど増え、2008年秋冬物も同様であること、ウールン商会の収益が申立人ブランドの増収に伴い黒字回復したこと、2009年秋冬物からメンズ商品を扱うことになったことが分かる。 |
甲第12号証の8は、繊研新聞(2009年3月2日、同年6月17日、同年8月12日、同年9月9日、2010年3月4日)の記事であり、2009年3月期に、三越札幌店、三越本店、大丸神戸店、博多大丸に出店し、2009年8月3日に旗艦店を南青山に出店したことが分かる。 |
甲第12号証の9は、繊研新聞(2010年8月25日、同年12月24日、2011年6月28日、2012年6月29日)の記事であり、2010年3月期のウールン商会による申立人商品の売上高が33%増となったこと、さらに、同年秋に三越銀座店、大丸心斎橋店に出店したこと、南青山の旗艦店の売上高が約1億円を超えたこと、2012年には12店舗に増加したことが分かる。 |
甲第12号証の10は、繊研新聞(2012年10月25日、2013年3月26日、同年6月24日、同年11月7日)の記事であり、2012年度の申立人商品の売上高は、「25億円程度」「小売りベースでは38億円規模となり、さらに阪急うめだ本店、高島屋玉川店に出店し、13店舗となったことが分かる。 |
甲第12号証の11は、朝日新聞(2014年5月1日)、繊研新聞(2014年5月26日、同年6月30日、同年9月2日、同月4日)の記事であり、2014年9月にブルネロクチネリジャパン社が業務を開始したことが分かる。 |
甲第12号証の12は、繊研新聞(2015年5月15日、同月26日、同年8月12日、同年9月8日)の記事であり、2015年5月にブルネロクチネリジャパン社の代表取締役社長にM氏が就任し、同年9月に銀座6丁目(東京都)に旗艦店を開設したことが分かる。 |
甲第12号証の13は、朝日新聞(2016年3月3日、同年4月21日)、繊研新聞(2016年9月23日)の記事であり、様々なイベントやファッションショーに参加してきたことが分かる。 |
甲第12号証の14は、繊研新聞(2018年6月1日、同年9月19日)の記事であり、「全国・街のレディス専門店アンケート(婦人服専門店50社)」の回答で示された「好調ブランド」として、申立人ブランドが挙げられている。 |
甲第12号証の15は、繊研新聞(2020年12月23日、2021年1月15日)、朝日新聞(2021年1月21日)の記事であり、イタリア・フィレンツェで2021年1月に行われた展示会「第99回ピッティ・ウォモ」のデジタルイベントが行われ、各紙に取り上げられたことが分かる。 |
甲第12号証の16は、繊研新聞(2021年3月1日、同月31日、同年8月11日)の記事であり、2021年3月26日に、日本最大の旗艦店を南青山のみゆき通り沿いに開設したこと、同年9月~11月の間に期間限定で東京、大阪、福岡の5店舗で臨時店舗を開設したことが分かる。 |
甲第12号証の17は、繊研新聞(2022年3月4日、同年7月15日、2023年7月3日)の記事であり、「第102回ピッティ・ウォモ」などの展示会やイベントにて積極的に申立人ブランドを発信し続けてきたことが分かる。 |
甲第13号証は、上記「繊研新聞」の発行部数等の情報を示すところ、「繊研新聞」は、繊維、ファッションビジネス業界を代表する業界紙であり、発行部数は20万部、読者の90%近くが、同業界の需要者、取引者に該当することからすると、発行回あたり18万人の目に触れたことが推認される。 |
甲第14号証は、上記「朝日新聞」の発行部数等の情報を示すところ、「朝日新聞」は言うまでもなく五大紙のーであり、上記記事が掲載された東京本社版の夕刊の発行部数は、712,640部であり、夕刊のファッション面の接触率は全体で63.1%とすると、発行回あたり約42万人の目に触れたことが推認される。 |
以上の各種メディアによる申立人ないし申立人商品に関する報道、評価から、申立人商品が、ハイエンドかつラグジュアリーなブランド商品であり、一般的に流通する被服商品とは一線を画す「高級」な存在であることが分かる。 |
このような高級品に使用される商標は、その販売規模や、一般的な被服類の市場を母集団とする市場占有率のみから単純に類推することは妥当ではない。このことは、自動車の商標に関する事案ではあるが、知財高裁判決(平成19年(行ケ)第10050号)にて、「有名な自動車メーカーの数自体がさほど多くないこと、新車等の発表は、極めて頻繁に行われるとまではいえないこと、性能やスタイルヘの魅力等から、特に、高級とか有名とされる自動車に注目する取引者、需要者は数多くいることなどから、有名な自動車メーカーが新たに発表する自動車や、名車とされるもののシリーズとして新たに発売される自動車について、その名称も含め積極的に注目する取引者、需要者が、類型的に相当程度いることは明らかである」と判示されているとおりである。 |
よって、この点、申立人商品は、その高級さゆえに、我が国ファッション業界において知る人ぞ知る存在で、かつ、いわば羨望の対象であり、単なる数値的な情報から計り知ることのできない高い名声や知名度をすでに獲得していることは、上記メディアの報道や評価から容易に推認可能というべきである。 |
以上のことから、我が国のファッション、アパレルの分野において、引用商標は、一定以上の知名度を獲得しており、申立人の業務に係る商品の出所を示す表示として、我が国の関連する需要者・取引者の間で広く認知されている、周知ないし著名な商標というべきである。 |
その結果、遅くとも本件商標の国際登録日である2022年6月15日には、引用商標は、関連する需要者及び取引者の間で、申立人の業務に係る商品の出所を示す表示として、広く知られるに至っていたというべきであり、その周知・著名性は、現在に至るまで維持されている。 |
ウ 引用商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するか、ないしハウスマークであるか |
引用商標は、当該業界において、ありふれて採択されていない、申立人の創業者の氏名に由来する、独自に創作、採択された商標である。 |
また、引用商標は、申立人のハウスマークとして、長年にわたって使用されてきたものである。 |
エ 企業における多角経営の可能性、商品・役務間の関連性ないし商品等の需要者の共通性その他取引の実情について |
上述のとおり、引用商標は、広く被服類、履物類、アクセサリー類について使用されている。 |
他方、本件商標に係る指定商品は、引用商標が使用されている商品の素材ないし部品として用いられるものである。とりわけ申立人商品は、カシミア製ニットの素材、洗練されたデザインをもって、高い人気を博しており、素材たる生地へのビジネス展開の可能性は十分想像可能な範囲である。また、上述のとおり、生地は、フォーマルウェアなどの商品との関係で、製造業者や販売ルートが共通することは少なくなく、それに伴い、需要者の範囲も重複することがあるのは明らかである。 |
すなわち、両商標の商品は、同一の営業主の製造・販売に係る商品と誤認されるおそれがあるものであって、互いに密接な関連性を有するものである。 |
オ 以上のように、(ア)本件商標は、引用商標との間で高い類似度を有し、(イ)引用商標は、申立人の業務に係る商品を示すものとして、関連需要者・取引者の間で、広く知られており、(ウ)引用商標は、申立人により独自に採択された、ありふれて採択されていない独特な創造商標であって、ハウスマークとして使用されているものであり、(エ)本件商標に係る指定商品と、申立人の業務に係る商品とは、密接な関連性を有する。 |
これらの事情を総合的に考慮すれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接した需要者及び取引者は、申立人が新たな生地ブランドを展開したのではないか、あるいは申立人と資本関係又は業務提携関係を有する者の業務に係る商品ではないかと、その出所について誤認混同を生ずるおそれが十分にあるというべきである。 |
よって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。 |
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4 当審の判断 |
(1)引用商標の周知性について |
ア 申立人の主張及び提出された証拠によれば、以下のとおりである。 |
(ア)申立人は、1978年にブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)氏によって創業されたイタリアのファッションブランドである(甲11の1、3~5ほか)。 |
(イ)我が国においては、申立人は2001年頃から商社を通じて申立人の業務に係るカシミヤを中心とした商品の輸入販売を開始し、2014年には日本子会社であるブルネロクチネリジャパン社を設立し、被服を中心とした販売を開始した(甲12の1、2、11)。 |
また、申立人は、自身のオンラインショップ(甲4)のほか、2005年以降現在までに、東京都銀座、南青山、神戸にある旗艦店や、札幌、東京、名古屋、大阪、京都、福岡にある百貨店(高島屋、三越、伊勢丹、松坂屋、西武、阪急、大丸、岩田屋)など計24店舗を展開し、申立人の業務に係る被服を中心とした商品を販売したことがうかがえる(甲5、甲12の4~12、14、16)。 |
(ウ)申立人のCEOの宣誓書によれば、2018年ないし2022年の申立人の日本子会社の売上高は、約44億円ないし67億円で推移しているとされるが、引用商標が使用された商品の売上高は具体的に確認できない(甲7)。 |
(エ)2001年ないし2022年に発行された「繊研新聞」、2014年及び2016年に発行された「朝日新聞」及びウェブサイトなどにおいて、申立人及び申立人の業務に係るカシミヤニットなどの商品に関する記事が掲載されており(甲10~甲12)、例えば、「Forbs JAPAN」(2013年)のウェブサイトによれば、「瞬く間に、世界一流ブランドに上り詰めたブルネロ・クチネリ」の記載(甲11の1)、「Precious.jp」(2017年)のウェブサイトによれば、「・・・世界最高水準のカシミヤ製品を発信するラグジュアリーブランド、ブルネロ クチネリ。」の記載とともに、申立人の業務に係るカシミヤニットの写真の掲載(甲11の2)、「GXOMENS」(2019年)のウェブサイトによれば、「カシミヤの扉を開いたブルネロ クチネリ(Brunello Cucinelli)が次に力を注いだメンズエレガントなアパレルライン」(甲11の3)の記載、「朝日新聞」(2016年)によれば、「カシミヤの高級ニットを得意とする伊ブランド、ブルネロ・クチネリ。」の記載(甲12の13)、「繊研新聞」(2018年)によれば、「全国・街のレディス専門店アンケート(婦人服専門店50社)の回答で示された好調ブランド」中に「ブルネロクチネリ」の記載がある(甲12の14)。 |
(オ)2019年ないし2023年に広告会社からブルネロクチネリジャパン社に対し、複数の雑誌への広告に対する請求がなされているが(甲9)、引用商標を使用した商品の宣伝広告であるかは不明である。 |
イ 上記アによれば、申立人は、1978年にブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)氏によって創業されたイタリアのファッションブランドであり、申立人の業務に係るカシミヤを中心とした商品は、我が国において、2001年頃から販売され、自身のオンラインショップ、申立人の店舗及び百貨店(24店舗)などにおいて販売されたこと、申立人及び申立人の業務に係るカシミヤニットなどの商品に関する記事が、2001年ないし2022年に発行された「繊研新聞」及び「朝日新聞」やウェブサイトなどで取り上げられたことがうかがえる。 |
しかしながら、申立人及び申立人の業務に係るカシミヤニットなどの商品が紹介された新聞やウェブサイトは主として繊維、ファッションビジネス関連の業界新聞及びファッション関連のウェブサイトであり、幅広い需要者を対象とした広告方法とはいえないものである。 |
また、申立人の売上高についても、我が国における引用商標を使用した商品の販売実績を示すものであることは確認できない。 |
さらに、引用商標を使用した商品の市場シェア、広告宣伝の規模、期間なども不明であるから、引用商標の我が国における周知性について判断することができない。 |
そして、ほかに引用商標が、我が国の需要者の間で広く知られていたことを認めるに足りる証拠は見いだせない。 |
そうすると、引用商標は、ファッション、アパレルの分野の需要者の間で一定程度知られていたとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く知られていたものと認めることはできない。 |
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について |
ア 本件商標 |
本件商標は、別掲のとおり、「Brunello」の欧文字を筆記体風に表してなるところ、当該文字は一般の辞書等に記載された成語ではないから、特定の意味を有しない造語である。 |
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して「ブルネロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。 |
イ 引用商標 |
引用商標は、上記2のとおり、いずれも「BRUNELLO CUCINELLI」の欧文字を横書きしてなるところ、「BRUNELLO」と「CUCINELLI」の間に1文字程度の間隔を有するとしても、外観上まとまりよく一体的に表されているものである。 |
上記のようなまとまりのよい構成においては、本件商標に接する需要者は、殊更「CUCINELLI」を捨象して、「BRUNELLO」の文字部分のみに着目するというよりは、むしろ構成文字全体をもって、認識、把握するとみるのが相当である。 |
また、「BRUNELLO CUCINELLI」の文字は、一般の辞書等に載録された成語ではなく、特定の意味を有しない造語である。 |
さらに、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されているものと認めることもできないことを踏まえれば、特定の観念は生じないものと判断するのが相当である。 |
そして、本件商標全体から生じる「ブルネロクチネリ」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。 |
したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して「ブルネロクチネリ」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じない。 |
ウ 本件商標と引用商標の類否 |
本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者はそれぞれ上記ア及びイのとおりの構成からなるところ、外観においては、「CUCINELLI」の文字の有無という差異を有し、この差異が両者の外観全体から受ける視覚的印象に与える影響は大きく、両者を離隔的に観察しても、外観上、明確に区別し得るものである。 |
また、称呼においては、本件商標から生じる「ブルネロ」の称呼と引用商標から生じる「ブルネロクチネリ」の称呼とは、「クチネリ」の音の差異を有し、その差異が称呼全体に与える影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても語調語感が異なり、明瞭に聴別し得るものである。 |
さらに、観念においては、両者はいずれも特定の観念を生じないものであるから比較することができない。 |
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼において明確に区別及び明瞭に聴別し得るものであるから、両者の外観、称呼、観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきである。 |
その他、両商標が類似するというべき事情は見いだせない。 |
エ 小括 |
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 |
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について |
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。 |
また、上記(2)のとおり、本件商標と、引用商標とは、非類似の商標であって、別異の商標であるから、本件商標と引用商標の類似性の程度は低いものである。 |
そうすると、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の関連性や需要者の共通性等を考慮しても、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、需要者に引用商標等を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。 |
その他、本件商標について、出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 |
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 |
(4)むすび |
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11及び同項第15号に違反してされたものとはいえず、他に同法43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、維持すべきものである。 |
よって、結論のとおり決定する。 |