理 由 |
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1 手続の経緯 |
本願は、2022年(令和4年)8月31日に国際商標登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 |
2023年(令和5年)10月 3日付け:暫定拒絶通報 |
2023年(令和5年)12月25日 :意見書、手続補正書の提出 |
2024年(令和6年) 3月26日付け:拒絶査定 |
2024年(令和6年) 7月 3日 :審判請求書の提出 |
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2 本願商標 |
本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、日本国を指定する国際登録において指定された第9類及び第42類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2022年3月10日にIslaelにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、国際商標登録出願されたものである。 |
そして、本願の指定商品及び指定役務は、原審における上記1の手続補正書により、別掲2のとおりに補正されたものである。 |
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3 原査定の拒絶の理由(要旨) |
原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録商標は、以下の(1)及び(2)のとおりであり(以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)、いずれも現に有効に存続しているものである。 |
(1)登録第5756840号商標 (以下「引用商標1」という。) |
商標の構成: PRISM (標準文字) |
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品 |
優先権主張:アメリカ合衆国 2012年11月28日 |
登録出願日:平成25年 5月27日 |
設定登録日:平成27年 4月10日 |
(2)登録第6001866号商標 (以下「引用商標2」という。) |
商標の構成: PRISM (標準文字) |
指定役務:第35類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の役務 |
登録出願日:平成28年12月20日 |
設定登録日:平成29年12月 8日 |
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4 当審の判断 |
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について |
ア 本願商標について |
本願商標は、別掲1のとおり、「Prism for PTSD」の文字を一列に横書きしてなるところ、その構成中、「Prism」の文字は「プリズム、角柱」を、「for」は「~のために、~を目的として」などを、それぞれ意味する語であり、また、「PTSD」の文字は「心的外傷後ストレス障害」を意味する「post-traumatic stress disorder」の略語である(出典:「新英和中辞典 第七版」株式会社研究社)。 |
そうすると、本願商標構成中の「for PTSD」の文字よりは、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)のために」ほどの意味合いが認識し得るものであるところ、本願の指定商品及び指定役務は、別掲2のとおり、いずれも「for the treatment of posttraumatic stress disorder (PTSD)」、すなわち「心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療・手当てのための」ものであることからすると、同文字部分は、本願の指定商品及び指定役務との関係において、商品の品質若しくは用途又は役務の質若しくは用途を表示したものといえ、自他商品役務の識別標識としての機能を有しないか、又は、同機能が極めて弱い部分であるといえる。 |
他方、本願商標構成中の「Prism」の文字が、本願の指定商品及び指定役務との関係において、自他商品役務の識別標識としての機能を有しないというべき事情は見当たらないものである。また、請求人は、本願商標からは「心的外傷後ストレス障害のための多角柱としてのプリズム」ほどの一体的な意味合いが生じる旨主張するが、当該意味合いは明瞭又は具体的なものとはいえず、本願商標が一般的にそのような意味合いで理解、認識されるというべき事情も見当たらないものであることからすると、本願商標全体として観念的につながりがあるともいえないものである。 |
また、本願商標の構成文字全体より生じる「プリズムフォーピーティーエスディー」の称呼は、14音と冗長である。 |
以上のことからすると、簡易迅速を尊ぶ商取引の実情においては、本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中、目立ちやすい語頭に位置し、自他商品役務の識別標識としての機能を十分に発揮し得る「Prism」の文字部分に着目し、これより生じる称呼、観念をもって取引に当たる場合もあるものというのが相当である。 |
そうすると、本願商標よりは、その構成中の「Prism」の文字部分(以下「本願要部」という。)に相応した「プリズム」の称呼も生じ、また、「プリズム、角柱」ほどの観念が生じるものというのが相当である。 |
イ 引用商標について |
引用商標は、いずれも「PRISM」の文字を標準文字で表してなるものであるから、これよりは「プリズム」の称呼が生じ、また、「プリズム、角柱」ほどの観念が生じるものといえる。 |
ウ 本願商標と引用商標の類否について |
本願商標と引用商標を比較するに、外観においては、全体としては文字数などが異なり明らかに相違するものであるが、本願要部と引用商標との比較においては、書体や欧文字の大小という相違はあるものの、いずれも「Prism(PRISM)」のつづり字を共通にするものであるから、視覚上、相当程度近似した印象を与えるものといえる、 |
そして、称呼においては、「プリズム」を共通にし、また、観念においては、「プリズム、角柱」を共通にするものである。 |
そうすると、本願商標と引用商標とは、外観において、全体としては相違するものの、本願要部と引用商標の対比においては相当程度近似した印象を与えるものであり、また、称呼及び観念を共通にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標は、商品の出所について誤認混同を生じるおそれのある、互いに類似の商標というのが相当である。 |
エ 本願商標と引用商標の指定商品の類否について |
(ア)本願の指定商品(第9類に属するもの。別掲2参照。)は、引用商標1の指定商品中、第9類「埋め込み型神経刺激装置用コンピュータソフトウェア,埋め込み型神経刺激装置の刺激パラメーターの設定に使用されるコンピュータソフトウェア,埋め込み型神経刺激装置の作動を監視・制御するためのコンピュータソフトウェア,医療用コンピュ-タソフトウェア,その他のコンピュータソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品」と同一又は類似するものである。 |
(イ)本願の指定役務(第42類に属するもの。別掲2参照。)は、引用商標2の指定役務中、第42類「電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),ウェブサイトの作成・ホスティング及び保守,電子計算機用プログラムの提供に関する情報の提供,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)に関する情報の提供,ウェブサイトの作成・ホスティング及び保守に関する情報の提供,オンラインによるダウンロードが不可能なソフトウェアの一時的使用の提供」と同一又は類似するものである。 |
オ 小括 |
上記アないしエによれば、本願商標は引用商標と類似する商標であって、かつ、本願の指定商品及び指定役務は、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 |
(2)請求人の主張について |
ア 請求人は、本願商標は、外観、称呼及び観念のいずれの観点からも、常に一連一体のものとして看取されるべきものであり、「Prism」の部分のみが独立して認識されるものではない旨主張する。 |
しかしながら、本願商標を構成する「Prism」「for」及び「PTSD」の各文字の間には空間(スペース)があることから、本願商標はそれらの3語を結合してなるものと容易に看取し得るものである上、上記(1)アのとおり、本願商標構成中の「for PTSD」の文字部分は、その指定商品及び指定役務との関係において、自他商品役務の識別標識としての機能を有しないか、又は、同機能が極めて弱い部分であるといえ、また、本願商標全体として観念的につながりがあるともいえず、構成文字全体より生じる称呼も冗長であることからすると、簡易迅速を尊ぶ商取引の実情においては、本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「Prism」の文字部分に着目し、これより生じる称呼、観念をもって取引に当たる場合もあるものというのが相当である。 |
イ 請求人は、引用商標と併存登録されている他の商標の例や、過去の審決例を挙げ、本願商標もそれらと同様に登録を認められるべきである旨主張する。 |
しかしながら、商標の類否の判断は、出願された商標と他人の登録商標との対比において、個別具体的に判断すべきものであり、また、請求人の挙げる登録例・審決例と本願とは、商標の構成等を異にするものであるから、当該登録例・審決例によって、直ちに本願商標に係る判断が左右されるものではない。 |
そして、本願商標と引用商標とが類似の商標であることは、上記(1)ウのとおりである。 |
ウ したがって、請求人の上記ア及びイの主張は、採用することができない。 |
(3)まとめ |
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、これを登録することができない。 |
よって、結論のとおり審決する。 |
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