異議の決定


異議2023-685001
6 Karewa Place,Te Rapa,Hamilton 3200(New Zealand)
 商標権者  
Flow imports Limited
東京都千代田区大手町1丁目1番2号 大手門タワー 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
 代理人弁護士
岩瀬 ひとみ
  
東京都千代田区大手町1丁目1番2号 大手門タワー 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
 代理人弁理士
宇梶 暁貴
  
アメリカ合衆国 カリフォルニア州 92879 コロナ モンスター ウェイ1
 商標登録異議申立人  
モンスター エナジー カンパニー
神奈川県横浜市港北区新横浜3-23-3新横浜AKビル 5階 柳田国際特許事務所
 代理人弁理士
柳田 征史
  


 国際登録第1652645号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。



 結 論
  
 国際登録第1652645号商標の商標登録を維持する。



 理 由
  
第1 本件商標
 本件国際登録第1652645号商標(以下「本件商標」という。)は、「MONSTAMAT」の欧文字を横書きしてなり、2021年(令和3年)12月17日に国際商標登録出願、第20類「Sleeping mats including sleeping mats for camping; mattresses; camping mattresses; inflatable mattresses, not for medical purposes; furniture; camping furniture; beds; cushions; pillows; sleeping pads.」を指定商品として、同4年12月20日に登録査定され、同5年2月24日に設定登録されたものである。
 
第2 引用商標
 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下の1ないし3のとおりであり、いずれの商標権も、現に有効に存続しているものである。
 1 登録第5379390号商標(以下「引用商標1」という。)
 商標の構成:MONSTER(標準文字)
 指定商品:第32類「アルコール分を含まない飲料,清涼飲料,果実飲料」
 登録出願日:平成22年7月8日
 設定登録日:平成22年12月24日
 2 登録第5057229号商標(以下「引用商標2」という。)
 商標の構成:別掲1のとおり
 指定商品:第32類「エネルギー補給用清涼飲料,スポーツ用清涼飲料,その他の清涼飲料,果実飲料,エネルギー補給用のアルコール分を含有しない飲料,スポーツ用のアルコール分を含有しない飲料,ビール風味の麦芽を主体とするアルコール分を含有しない飲料,その他のアルコール分を含有しない飲料」
 登録出願日:平成18年6月9日
 設定登録日:平成19年6月22日
 3 登録第5393681号商標(以下「引用商標3」という。)
 商標の構成:MONSTER ENERGY(標準文字)
 指定商品:第32類「アルコール分を含まない飲料,清涼飲料,果実飲料」
 登録出願日:平成22年7月8日
 設定登録日:平成23年2月25日
 以下、引用商標1ないし引用商標3をまとめて「引用商標」という。
 
第3 登録異議の申立ての理由
 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第506号証(枝番号を含む。)及び別紙1ないし別紙9を提出した。
 以下、証拠については、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載し、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略して記載する。
 1 「MONSTER」及び「モンスター」の周知著名性
(1)MONSTERブランドの創設及び「MONSTER」の使用
 申立人は、2002年に「MONSTER」なるエナジードリンクのブランドを創設し、これ以降、現在に至るまで、「MONSTER」をMONSTERブランドのエナジードリンク(以下「申立人商品」という。)の出所識別標識として使用している。
 申立人商品は、2002年に米国でMONSTERブランドの第1号の個別製品「MONSTER ENERGY」を発売後、世界各国における販売も開始し、現在は日本を含む世界130以上の国及び地域で販売中である。
 申立人商品には、2002年以降現在まで一貫して、「MONSTER」の文字を基調とする個別商品名(例えば、「MONSTER ENERGY」、「MONSTER ASSAULT」、「MONSTER KHAOS」、「MONSTER M-80」、「MONSTER RIPPER」等)が採用されている。また、これらの個別製品の包装容器は同じデザインで統一されており、特徴的な書体で大きく表示した「MONSTER」の文字(甲416)を独立して見る者の目をひきつける態様で顕著に表示している(別紙1、別紙2)。
 このように、規則的なネーミング法(すなわち「MONSTER」に他の語を結合する方法)で命名された個別製品名と特徴的な書体で表示した「MONSTER」の文字を顕著に表示した統一的デザインの包装容器を特徴とする申立人商品は、需要者の間でたちまち人気となり、申立人のMONSTERブランドのエナジードリンク事業を拡大し、その成功は経済界で高い評価を受けている(甲2~甲33、甲51~甲58、甲391~甲393)。
 国内では、2012年5月の「MONSTER ENERGY」(モンスターエナジー 缶 355ml)及び「MONSTER KHAOS」(モンスター カオス 缶 355ml)発売以降、現在まで約30種類の申立人商品(リニューアル商品を含む。)を販売している(別紙1)。
(2)広告宣伝活動
 申立人商品に関する広告宣伝活動は、幅広く継続的なものであり、国際的に活躍する多数の有名アスリート・チーム及びイベントに対するスポンサー活動を中核として、ウェブサイト及びプレスリリースによる広告、申立人商品サンプルの配布、大手コンビニエンスストアやイベント主催者と提携した大規模な販売キャンペーン(景品・賞品のプレゼントを含む。)、スポーツイベント等の開催、契約アスリート等の動画・画像の公開、MONSTERブランドのライセンス商品の開発及び販売、ビデオゲーム会社と提携したMONSTERブランドを使用したビデオゲームの開発及び共同販売促進活動の実施など極めて多彩な内容である。こうした広告宣伝活動は、「MONSTER」の文字(特徴的な書体で表示したものを含む。)、爪の図柄と特徴的な書体で表示した「MONSTER」の文字と活字体で表示した「ENERGY」の文字からなるロゴマーク、「MONSTER ENERGY」の文字(以下、これらを併せて「MONSTERブランドマーク」という。)を使用して、本件商標の登録出願日前から継続的かつ頻繁に全国規模で実施されている。
 また、申立人は、申立人商品の中心的需要者層である10代~30代の若い世代(特に男性)に人気が高いモータースポーツ、エクストリームスポーツの分野を中心にスポンサー活動を行うとともに、全16の異なるウェブサイト及びソーシャルメディアのアカウント(別紙9)を開設して、こうした若い世代が多く利用するインターネットメディアによる大規模な情報発信を通じてMONSTERブランドを需要者に強くアピールするための効果的な広告を実施している。
(3)ライセンス商品の輸入差止め
 需要者におけるMONSTERブランドのライセンス商品の人気の高さに便乗して、海外で製造された申立人の商標権侵害物品が日本の税関で輸入差止めされる事案が遅くとも平成25年7月から度々発生している(別紙8)。
(4)国内外における商標登録
 MONSTERブランドマークについて、申立人は、引用商標を始めとして、国内外において多数の商標登録を取得している(甲486~甲504)。
(5)ブランド認知度及び市場占有率
 複数の第三者が実施したエナジードリンクに関する市場調査及び消費者アンケート調査によれば、既に2013年時点で申立人商品の国内市場占有率は25%を超えており、一般消費者におけるブランド認知度も第2位であったことが明らかである。2013年以降も、申立人商品は着実に売上げを伸ばしており、若い世代の男性を中心とした従来の主要需要者層にとどまらず、美しいカラフルな色使いのボトル缶に大きく目立つ態様で表示された爪の図柄が人目をひきつけ、男性のみでなく女性の間でもMONSTERブランドの認知度を高めてきた。2018年には、申立人商品の販売実績は1千万ケースに近づき、それまで首位の「レッドブル」を超えて市場占有率トップに立った(甲311~甲322、甲383~甲385、甲433)。
 申立人商品は、2018年に国内エナジードリンク市場でトップシェアを獲得後は、首位を独走状態であり(甲448、甲476、甲479)、第三者の市場調査では2022年時点における申立人商品の市場占有率は約40%であった(甲450)。
(6)「MONSTER」及び「モンスター」の表示で認識されていたこと
 上記のような販売実績を通じて、申立人商品は、飲料業界で「モンスター」と称され、「MONSTER」又は「モンスター」と表示され、「MONSTER(モンスター)」のブランドとして認識されている(甲10、甲16、甲17 ほか)。
 この点に関しては、特許庁の審査においても、「モンスター」は、申立人が飲料等について使用する商標「MONSTER ENERGY(モンスターエナジー)」の略称として需要者の間で広く認識されていると認定されている(甲433、甲447)。
(7)小括
 以上の事柄に照らせば、申立人の使用に係る「MONSTER」の文字及びその音訳「モンスター」の文字は、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、申立人の製造販売に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたことが明らかである。
 2 商標法第4条第1項第15号該当性
(1)本件商標の構成文字「MONSTAMAT」は、辞書等に記載されている成語ではないところ、「MAT」の文字及びその音訳「マット」は、「床などに敷く敷物。また、布団の下に敷く、弾力性のあるもの」、「寝具用の弾力性のある敷物」等を意味する外来語の「マット(mat)」(甲505、甲506)として一般に広く浸透しているから、本件商標は、「MONSTA」と「MAT」の2語を結合したものとして容易に看取される。
 「MAT」の文字は、本件商標の指定商品中、「Sleeping mats including sleeping mats for camping; mattresses; camping mattresses; inflatable mattresses, not for medical purposes; sleeping pads.(スリーピングマット(キャンプ用寝袋を含む。),マットレス,キャンプ用マットレス,空気注入式マットレス(医療用のものを除く。),スリーピングパッド)」といった敷物類に使用する場合、当該商品の普通名称又は品質表示として認識されるにとどまり、出所識別標識として機能しない。仮に、「MAT」の文字が自他商品識別力を発揮する場面があったとしても、その識別力の程度は、「MONSTA」の文字と比較して極めて弱いことは明白である。
 よって、本件商標の指定商品に使用される「MONSTA」の文字と「MAT」の文字は、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないものであり、当該指定商品について十分な識別力を有する「MONSTA」の文字部分が出所識別標識として需要者に強い印象を与えることが明らかである。
 本件商標の構成文字「MONSTAMAT」及びその要部「MONSTA」と申立人の使用に係る商標、すなわち、「MONSTER」の文字を包含する商標(引用商標、別紙1の個別製品名)は、「MONST」の連続する5文字及び「モンスタ」の連続する4音を共通にし、外観及び称呼における類似性が高い。
 加えて、「MONSTAMAT」は、「MONSTA」と「MAT」との結合と認識されるから、申立人商品の個別製品名のネーミング規則(「MONSTER」と他の語の結合)と類似の規則で構成されたものであり、構成中に「MONST」の連続する5文字及び「モンスタ」の連続する4音を包含する点でも申立人商品の個別製品名のネーミング規則と一致する。
 よって、本件商標は、申立人の使用に係る商標と類似性の程度は高い。
(2)本件商標の指定商品と申立人商品は、いずれも一般消費者を需要者とする商品であるから、需要者が共通する。
 また、本件商標の指定商品の需要者は一般消費者であるから、通常の需要者の注意力の程度は高いものとはいえない。
 申立人の使用に係る「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されていた。
(3)したがって、本件商標が本件指定商品に使用された場合、これに接した需要者、取引者は、申立人の使用に係る「MONSTER」及び申立人を直観し、当該商品が申立人又は申立人と経済的若しくは組織的関係を有する者の取扱いに係るものであると誤信し、その出所について混同を生じるおそれがある。
 また、本件商標の使用は、申立人の商品及び役務の出所識別標識として広く認識されている「MONSTER」の出所表示力を希釈化するものであり、さらに、その名声、顧客吸引力にフリーライドするものといわざるを得ない。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
 3 商標法第4条第1項第7号該当性
 本件商標は、社会一般道徳及び公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神及び国際信義に反するものであり、公の秩序を害するおそれがある。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
 
第4 当審の判断
 1 「MONSTER」、「モンスター」の周知著名性について
(1)申立人提出の甲各号証、各別紙及び同人の主張によれば、次のとおりである。
 ア 申立人は、米国の飲料メーカーであって、我が国においてはアサヒ飲料株式会社を通じて2012年5月にエナジードリンク「MONSTER ENERGY(モンスターエナジー)」及び「MONSTER KHAOS(モンスターカオス)」の販売を開始し、その販売量は同年9月には累計100万箱を超え、同年12月には累計157万箱となった(甲7~甲9)。
 その後、申立人は、2022年まで毎年、新製品やリニューアル商品を約30種類販売した(甲7、甲8、甲10~甲13、甲59、甲60、甲101、甲127、甲130、甲256、甲257、甲291、甲323、甲324、甲354~甲361、甲434~甲442、甲445、甲446、別紙1 ほか)。
 イ 申立人商品のほとんどの種類の商品(の容器)には、3本の爪痕のような図形(以下「爪の図柄」という。)並びにデザイン化された「MONSTER」の文字(以下「MONSTERロゴ」という。)及び「ENERGY」の文字からなる別掲2のとおりの商標(色彩が異なるものを含む。以下「別掲2商標」という。)が表示されている(甲7、甲8、甲10~甲13など上記アと同じ。)。
 ウ 申立人は、我が国で開催される各種のスポーツ競技会、イベントにおいて、看板、ユニフォーム、車体など多種多様なものに、別掲2商標又はこれとともに爪の図柄を表示している(甲73~甲80、甲82 ほか)。
 エ 我が国において、別掲2商標又はこれとともに爪の図柄が表示されたステッカー、衣類、帽子、ヘルメットなどが販売されている(甲47、甲48、甲98 ほか)。
 オ 平成25年7月以降、我が国の税関において、申立人の商標権(国際登録第1048069号など)を侵害する疑いがある貨物(帽子、ショートパンツ、Tシャツなど)が多数発見されている(甲169~甲224、別紙8)。
 カ 有限会社飲料総研の調査によれば、我が国における2013年のエナジードリンクの出荷数は約950万ケース(1ケース30本換算)であり、首位のレッドブルが550万ケース、2位のモンスターエナジーは240万ケースであった(甲317、甲318、甲320)。
 キ ジャストシステムによるエナジードリンクに関する調査(2014年4月)によれば、認知度が高い商品の1位は82.8%の「RedBull」、2位は47.6%の「MONSTERENERGY」であった(甲319)。
 ク JMR生活総合研究所による消費者調査(No.196「エナジードリンク(2014年7月版)」)によれば、ブランド認知率の1位は「レッドブル・エナジードリンク」で45%、2位が「モンスターエナジー」で31%であり、同消費者調査No.232「エナジードリンク(2016年8月版)」によれば、ブランド認知率の1位は「レッドブル・エナジードリンク」、2位は「モンスターエナジー」であったと推認できる(甲311、甲312)。
 ケ 株式会社商業会運営のウェブサイトにおいて2019年8月18日付けの「ドリンク剤とは対照的な市場動向 エナジードリンク市場:急成長の要因は若い男性の支持」の見出しの下「エナジードリンクは3年前に比べて市場規模が約1.4倍に拡大」との記載がある(甲401)。
 コ 申立人、モンスターエナジージャパン合同会社及びアサヒ飲料株式会社は、本件商標の登録出願の日前から、申立人商品のキャンペーンに係るニュースリリース、ポスターなどで申立人商品を「モンスター」と表示しているものが見受けられ、また、両社以外のウェブページにおける当該キャンペーンについてのポスターやその他の記事においても「MONSTER」及び「モンスター」の文字が表示されているところ、当該ニュースリリース、ポスター、ウェブサイト等には、申立人商品の画像又は別掲2商標若しくは「モンスターエナジー」の文字又は別掲2商標とともに爪の図柄が表示又は掲載されている(甲69、甲71、甲79、甲101~甲103、甲111、甲113、甲115、甲118、甲119、甲124 ほか)。
(2)上記(1)のとおり、申立人は、我が国において、2012年(平成24年)5月からエナジードリンク「MONSTER ENERGY」及び「MONSTER KHAOS」の販売を開始し、その後現在まで、約30種類の申立人商品を販売するとともに、各種のスポーツ競技会、イベント及びキャンペーンなどを通じ、申立人商品の広告宣伝を行っていたこと、2013年(平成25年)のエナジードリンクの出荷数約950万ケースのうち、申立人商品の出荷数は240万ケースで第2位であったこと、申立人商品の認知度が2014年(平成26年)において、その数値は31%と47.6%と差異はあるものの、いずれの調査でも第2位であったことが認められ、2016年(平成28年)の認知度はその数値は不明であるものの2位であったと推認できる。そして、申立人商品の2017年(平成29年)以降の認知度及び出荷数等に係る証拠の提出がないものの、エナジードリンクの市場は2019年(令和元年)において成長を続けており、現在においても、同様であると推認されることを併せみれば、申立人商品は、本件商標の登録出願日(令和3年12月17日)前から、登録査定日(令和4年12月20日)においても、我が国のエナジードリンクの需要者の間に広く認識されているものと判断するのが相当である。
 そして、申立人商品は、そのほとんどの容器の中央に、「MONSTER ENERGY」の文字が別掲2のとおりの態様で表示されていること、常にこれとともに爪の図柄が表示されていること、さらに、ニュースリリース、各種記事などにおいて「MONSTER ENERGY」「モンスターエナジー」と表示され、「モンスターエナジー」と称されていることから、「MONSTER ENERGY」及び「モンスターエナジー」の文字並びに別掲2商標に爪の図柄を加えた構成は、いずれも本件商標の登録出願日前から、登録査定日はもとより現在においても継続して、申立人及びアサヒ飲料株式会社の業務に係る商品(エナジードリンク)を表示するものとして、エナジードリンクの需要者の間に広く認識されているものといえる。
 そうすると、「MONSTER ENERGY」の文字からなる引用商標3、また、別掲2商標に爪の図柄を加えた構成からなる引用商標2は、いずれもその指定商品中にエナジードリンクを含むものであるから、申立人商品(エナジードリンク)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものというべきである。
 しかしながら、申立人商品の広告宣伝は、各種のスポーツ競技会、イベント及びキャンペーンなどを通じて行われているものの、老若男女を問わず幅広い需要者層が目にする機会の多い一般的なメディアを通じたものとはいえないばかりか、我が国における清涼飲料に対する申立人商品の市場占有率等も確認することができないこと等を総合的に判断すると、申立人商品は、幅広い需要者層を有する一般的な清涼飲料の分野においてまで、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたとまでは認めることができない。
 また、申立人商品は、その容器に「MONSTER」及び「ENERGY」の各文字が比較的近接して表示されているもの(別掲2を含む。)がほとんどであり、MONSTERロゴのみが表示されている商品についての出荷数、シェア等の販売実績は確認できない。
 さらに、「MONSTER」の文字(申立人商標)は、ニュースリリース、ポスター、ウェブサイト等において、申立人又は申立人商品の略称として表示又は掲載が見受けられるとしても、常に申立人商品又は「モンスターエナジー」若しくは別掲2商標の文字とともに表示又は掲載されていることからすれば、これに接する需要者は、そこに表示又は掲載された「MONSTER」の文字(申立人商標)を、申立人商品(「モンスターエナジー」)の一連の名称として使用されていることを前提に、申立人商品(「モンスターエナジー」)を指称する文字として理解するというべきである。
 そうすると、申立人商品又は「モンスターエナジー」の文字若しくは別掲2商標と関連なく表示されている「MONSTER」の文字(申立人商標)までもが、需要者において申立人商品を表示するものと理解されるとはいい難い。
 したがって、申立人商標と同一のつづりである「MONSTER」の文字からなる引用商標1は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
 2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人は、引用商標との関係で、出所の混同を生ずるおそれがある旨主張していると認められるので、以下検討する。
 ア 本件商標と引用商標の類似性の程度
(ア)本件商標
 本件商標は、上記第1のとおり、「MONSTAMAT」の欧文字を横書きしてなるところ、構成各文字は、同書、同大、等間隔で外観上まとまりよく一体に表されており、本件商標全体から生じる「モンスタマット」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。
 そうすると、本件商標は、構成全体をもって一体不可分のものと認識、把握されるとみるのが相当である。
 したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して「モンスタマット」の称呼を生じ、当該文字は辞書等に載録されている成語ではなく、特定の意味合いを有するものとして認識されているともいい難いことから、特定の観念を生じないものである。
(イ)引用商標
 引用商標1は、「MONSTER」の文字からなるところ、その構成文字に相応して「モンスター」の称呼を生じ、「怪物、化け物」の観念を生じる。
 引用商標2は、別掲1の構成からなるところ、爪の図柄と文字部分とは、重なることなく配置されていることにより、両者を分離して看取する場合もあると考えられることから、文字部分を捉えて「モンスターエナジー」の称呼及び「怪物の力、化け物の力」の観念を生じる。
 引用商標3は、「MONSTER ENERGY」の文字よりなるところ、その構成文字に相応して「モンスターエナジー」の称呼及び「怪物の力、化け物の力」の観念を生じる。
(ウ)本件商標と引用商標との類否
 本件商標と引用商標1は、外観においては、「AMAT」及び「ER」の文字の有無の差異により相違し、称呼においては、両者はいずれも「モンスタ」の音を含むものの、「マット」及び長音「ー」の音の有無の差異で相違し、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標1は「怪物、化け物」の観念を生じるものであるから、相紛れるおそれはない。
 また、本件商標と引用商標2の文字部分及び引用商標3とは、外観においては、「AMAT」、「ER」及び「ENERGY」の文字部分の有無の差異、引用商標2の全体との比較においては、図形の有無の差異で相違し、称呼においては、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは、「マット」、長音「ー」及び「エナジー」の音の有無の差異で相違し、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないのに対し、引用商標2及び引用商標3からは、「怪物の力、化け物の力」の観念が生じるものであるから、相紛れるおそれはない。
 そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、別異の商標というべきものである。
 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
 イ 本件商標の指定商品と申立人商品との関連性並びに需要者の共通性
 本件商標の指定商品は、第20類に属する商品であるところ、申立人の業務に係るエナジードリンクとは、商品の生産部門、販売部門、原材料、用途等が相違するといえるから、これら商品の関連性があるとはいえない。
 ウ 出所混同のおそれ
 上記イのとおり、本件商標の指定商品と申立人商品との関連性はなく、上記1(2)のとおり、引用商標2及び引用商標3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品(エナジードリンク)を表示するものとして、その需要者の間に広く認識されているものと認めることはできるとしても、申立人商品の分野を超えた商品の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできないし、引用商標1は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
 そして、上記ア(ウ)のとおり、本件商標は引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標である。
 そうすると、これらを踏まえて、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標は、その商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
 その他、申立人のいずれの主張及び提出された証拠を検討してみても、本件商標がその商品の出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
(2)申立人の主張について
 申立人は、本件商標「MONSTAMAT」は成語ではなく、また、「MAT」の文字及びその音訳「マット」は「床などに敷く敷物。」等を意味する外来語として一般に広く浸透していることから、本件商標の指定商品中、敷物類に使用する場合、当該商品の普通名称又は品質表示として認識され、出所識別標識として機能しないこと、及び、仮に「MAT」の文字部分が自他商品識別力を発揮する場合があったとしても、その識別力の程度は、「MONSTA」の文字と比較して極めて弱いことから、本件商標からは「MONSTA」の文字が出所識別標識として需要者に強い印象を与える旨主張している。
 しかしながら、本件商標「MONSTAMAT」は、上記(1)ア(ア)のとおり、同書、同大、等間隔で外観上まとまりよく一体に表されており、本件商標全体から生じる「モンスタマット」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。また、「MONSTER」の文字のみからなる引用商標1は上記1(2)のとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできないものであるから、たとえ、本件商標の構成中の「MAT」の文字が「床などに敷く敷物。」などの意味を有する親しまれた語であるとしても、これらを併せ考慮すれば、本件商標は、看者をして「MONSTA」の文字部分が出所識別標識として需要者に強い印象を与えることなく、「MONSTAMAT」の構成文字全体をもって、一体不可分のものとして認識、把握されるものと判断するのが相当である。
 したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)小括
 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
 3 商標法第4条第1項第7号該当性について
 本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。
 また、本件商標は、上記2のとおり、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることのないものである。
 その他、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる具体的な証拠の提出はない。
 そうすると、本件商標は、引用商標の出所表示力を希釈化するとか、その名声にフリーライドするなど不正の目的をもって使用するものとはいえず、また、他に商標権者が本件商標をその指定に使用することが社会の一般的道徳観念に反し公正な取引秩序を乱す、あるいは国際信義に反するなど、公序良俗に反するものというべき事情は見いだせない。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
 4 むすび
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
 よって、結論のとおり決定する。
 


        令和 6年11月 7日

     審判長  特許庁審判官 鈴木 雅也
          特許庁審判官 馬場 秀敏
          特許庁審判官 小田 昌子

 
別掲1 引用商標2
 
 
別掲2 別掲2商標(甲7、甲8、甲10~甲13等参照。)
 
 
 
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〔決定分類〕T1651.22 -Y  (W20)
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上記はファイルに記録されている事項と相違ないことを認証する。
認証日 令和 6年11月 7日  審判書記官  奥田 智子