理 由 |
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1 本件商標 |
本件国際登録第1698457号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、2022年8月2日にChinaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年9月7日に国際商標登録出願、第1類に属する別掲2のとおりの商品を指定商品として、令和5年8月28日に登録査定、同年10月20日に設定登録されたものである。 |
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2 登録異議申立人が引用する商標 |
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由において引用する、登録第5841883号商標(以下「引用商標」という)は、「INGREDION」の文字を標準文字で表してなり、平成27年11月6日に商標登録出願、第1類に属する別掲3のとおりの商品並びに第2類、第5類及び第30類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同28年4月15日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。 |
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3 登録異議の申立ての理由 |
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番号を含む。)を提出した。 |
(1)本件商標と引用商標の類否 |
本件商標及び引用商標は、文字構成上、末尾の「on」の欧文字2字が相違するものの、先頭から7文字の「Ingredi」を共通にしていることから、外観上、共通性が高く相紛らわしいものである。 |
また、本件商標からは「イングレディ」の称呼が、引用商標からは「イングレディオン」の称呼がそれぞれ生じるところ、両称呼は商標の識別において重要な語頭からの5音「イングレディ」が共通している。しかして、「イングレディオン」の称呼において、第6音目の「オ」の音は、前音の「イ」と二重母音を構成していることから、「イ」の音に吸収されて短く弱い音となり、また、語尾の「ン」の音は、それ自体響きの弱い鼻音であり、前音の「オ」に吸収されて明確に聴取され難い音である。こうした弱く響く音が聴者の印象に残り難い語尾に位置している「イングレディオン」の称呼は、「オン」の音が「ディ」の音に吸収され明確に聴取されないことから、「オン」の音の差異が両称呼の全体に及ぼす影響は決して大きいものということはできず、それぞれを一連に称呼するときには、全体の語感、語調が極めて近似したものとなり、聞き誤るおそれがあるものとなる。 |
「Ingredi」と「INGREDION」は、いずれも一般には特定の観念を生じない造語と考えられるものであるから、本件商標及び引用商標は観念上の対比ができないとしても、外観及び称呼上の類似性を考慮すれば、商標全体として考察した場合、両商標は、互いに相紛れるおそれがある商標というべきである。 |
したがって、本件商標は、商標全体として引用商標と互いに類似するものである。 |
(2)特許庁の審決 |
本件商標と引用商標が互いに類似するものであるという申立人の主張は、特許庁の審決(異議決定)が示す判断においても明確に示されている。 |
審決例は、称呼の要素に基づく商標の類否判断において、二重母音の関係にある二つの母音は、その一方が他方に吸収される等により弱く響く音となること、及び語尾音の「ン」は弱く響く鼻音として明瞭には聴別し難いと説示しており、称呼上、互いに相紛れるおそれが高いものとなると判断している(甲3~甲11)。 |
(3)小括 |
以上のとおり、本件商標は、外観及び称呼上、引用商標に類似するものであることから、商標全体として引用商標に類似する商標であり、本件商標の指定商品は、すべて引用商標にかかる指定商品に類似するものである。 |
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4 当審の判断 |
(1)本件商標と引用商標の類否について |
ア 本件商標について |
本件商標は、別掲1のとおり「Ingredi」の欧文字をデザイン化して表してなるところ、当該文字は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いをもって親しまれている語でもないことから、特定の観念を生じない一種の造語として認識、把握されるものである。 |
そして、欧文字からなる特定の観念を生じない造語にあっては、我が国において親しまれているローマ字又は英語の読みに倣って称呼するのが自然である。 |
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「イングレディ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 |
イ 引用商標について |
引用商標は、前記2のとおり「INGREDION」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いをもって親しまれている語でもないことから、特定の観念を生じない一種の造語として認識、把握されるものである。 |
そして、欧文字からなる特定の観念を生じない造語にあっては、我が国において親しまれているローマ字又は英語の読みに倣って称呼するのが自然である。 |
そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「イングレディオン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 |
ウ 本件商標と引用商標の比較 |
(ア)外観について |
本件商標の書体のデザインの程度は「Ingredi」の欧文字であることが一見して明らかである程度に軽微であるところ、外観において、本件商標と引用商標は、語頭から7文字の構成文字を共通にするが、末尾における「ON」の文字の有無の差異を有するものであり、この差異が両者の外観全体に与える影響は小さいものとはいえず、互いに異なる語を表してなると看取できるから、両者は外観において相紛れるおそれはない。 |
(イ)称呼について |
本件商標から生じる「イングレディ」の称呼と、引用商標から生じる「イングレディオン」の称呼とは、末尾における「オン」の音の有無の差異を有するから、音数及び音構成が明らかに相違し、さほど冗長とはいえない6音ないし8音の音構成において、この差異が両称呼全体の語調、語感に及ぼす影響は決して小さいものではなく、両者をそれぞれ一連に称呼しても聴別し得るものであるから、両者は称呼においても相紛れるおそれはない。 |
(ウ)観念について |
本件商標及び引用商標は、いずれも特定の観念を生じないから、比較することはできない。 |
(エ)判断 |
本件商標と引用商標は、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれがないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 |
以上のことからすれば、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、両者の指定商品が同一又は類似する商品であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 |
なお、申立人は、過去の審決例を挙げ、本件商標と引用商標は称呼上類似する旨を主張しているが、本件と該審決例は、商標の構成等において相違し、事案を異にするものであるから、同一に論ずることは適切ではなく、また、そもそも商標の類否判断は、当該商標の査定時又は審決時において、本件の事案に即して本件商標と引用商標とを対比することにより、個別具体的に判断されるべきものであって、過去の審決例の判断に拘束されるものではないから、申立人のかかる主張は採用できない。 |
(2)むすび |
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録は維持すべきものである。 |
よって、結論のとおり決定する。 |
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