特許行政年次報告書2018年度版
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分野別に見た国内外の出願動向第5章Column 5 特許行政年次報告書2018年版98ヒト幹細胞関連技術1. 幹細胞とは「幹細胞」とは、細胞分裂により自己と同じ能力を有する細胞を生ずる能力(自己複製能)と、自己とは異なる細胞になる能力(分化能)とを併せ持つ細胞をいい、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが含まれる。ヒト幹細胞に関連する技術は、ヒトの発生という生命の理解に役立つと同時に、再生医療・細胞治療、疾患モデル、創薬への活用など産業への応用が進みつつあり、大量の細胞を製造する技術などの開発も活発に進められている。2. ヒト幹細胞関連技術に関する特許出願の動向ヒト幹細胞関連技術に関する我が国からの特許出願件数は、PCT出願件数1で米国に次ぐ2位、日米欧中韓への出願件数2では米国、中国に次ぐ3位と上位にある。ヒト幹細胞の種類別にみると、日米は多能性幹細胞の割合が高い一方で、中韓は間葉系幹細胞の割合が高く、中でも我が国はiPS細胞の研究が重視される傾向にある3。また、要素技術と応用産業の観点でみると、応用産業の占める比率は諸外国の方が高くなっている4。3. 再生医療の産業化に向けて再生医療・細胞治療製品は、材料となる細胞から最終製品ができあがるまでの工程で様々な製品・サービスが必要であり、受託製造、試薬、機器、物流などの各分野で、様々な業種の企業にビジネスチャンスがある。近年、ヒト幹細胞関連技術に関わる日本企業は、2013年度の90社から228社(2017年6月末時点)と大きく増えている。日本企業の保有する様々な技術が、開発のあらゆる工程で活用されることが期待されるが、企業側は原材料から最終製品まで必要な技術で結ばれたバリューチェーンの構築を意図した開発を行うことが期待される。ヒト幹細胞関連技術俯瞰図(資料)特許庁「平成29年度特許出願技術動向調査報告書 ヒト幹細胞関連技術」再生医療・細胞治療等に関する規制病院企業産学連携PJ企業大学参入企業工程管理・一貫パッケージ品質管理加工分離精製分化誘導凍結解凍品質管理培養標準化2Dシート最終製品最終製品要素技術幹細胞の種類解決手段新規な幹細胞分離精製・増殖保存胚性iPS多能性幹細胞造血系間葉系神経系皮膚系体性幹細胞等分化・制御細胞解析・品質管理細胞加工細胞製造周辺その他要素技術再生医療・細胞治療創薬支援・有用物質生産等その他応用産業方法装置器材加工材料その他培地試薬設備・システム高分子添加剤等低分子添加剤等1 出願人国籍(地域)別PCT国際出願件数、米国3,258件、日本967件、韓国461件、ドイツ250件、英国230件(上位5)。2 出願人国籍(地域)別ファミリー件数、米国3,286件、中国2,285件、日本1,577件、韓国 1,476件、ドイツ 284件(上位5)。3 「幹細胞の種類」により区分した出願人国籍(地域)別ファミリー件数(日米欧中韓への出願)(全体に対する割合)多能性幹細胞:日本 28.0%、米国16.9%、欧州11.9%、中国11.4%、韓国13.0%間葉系幹細胞:日本 18.8%、米国14.4%、欧州15.3%、中国37.5%、韓国31.9%iPS細胞:日本 11.0%、米国6.3%、欧州4.6%、中国4.6%、韓国4.8%4 「要素技術・応用産業」で区分した出願人国籍(地域)別ファミリー件数(日米欧中韓への出願)を見ると、全体(要素技術及び応用産業)のうち応用産業の占める比率は、日本25.3%に対して、米国48.8%、欧州41.4%、中国30.9%、韓国39.6%である。※脚注1-4について、出願年(優先権主張年)が2007~2015年の累計件数。※「間葉系幹細胞」とは、体性幹細胞の一種であり、筋肉や骨等に分化し得る幹細胞である。
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