特許行政年次報告書2018年度版
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特許行政年次報告書2018年版139第5章第6章第7章第8章第4章第3章第2部・特許庁における取組第1章第2章上記の状況を受けて、特許庁は、デザインによる我が国企業の競争力強化に向けた課題の整理とその対応策の検討を行うため、2017年7月に、著名デザイナー、デザイン担当役員、知的財産担当、経営コンサルタント、学者からなる「産業競争力とデザインを考える研究会」(座長:鷲田祐一一橋大学大学院商学研究科教授)を立ち上げて、全11回にわたる議論を行い、2018年5月に『「デザイン経営」宣産業競争力とデザインを考える研究会における検討1言』を本研究会の報告書として取りまとめた。本報告書では、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する「デザイン経営」の手法及び効果、並びに、意匠法改正を含む、「デザイン経営」を推進するための政策提言について整理した。報告書には、意匠制度の課題や今後の検討の必要性を記した『産業競争力の強化に資する今後の意匠制意匠における取組製品の同質化(コモディティ化)が急速に進む今日、機能や品質のみで、他者製品を凌駕するだけの差別化が困難な時代を迎えている。事実、我が国製品は、機能等で優れた製品を上市しても、直ちに新興国企業がこれに追随し、販売価格の下落を招き、競争優位を確保しがたい状況に直面している。一方、米アップル社や英ダイソン社をはじめとする欧米企業は、明確な企業理念に裏打ちされた自社独自の強みや技術、イメージをブランド・アイデンティティとしてデザインによって表現し、製品の価値を高め、世界的な市場拡大に結び付けている。こうした例は、欧米のプレミアムカーや服飾品のデザイン戦略にも長く見られるものである。近年は中国や韓国等のアジア企業も、こうした欧米企業にならってデザイン開発に注力しており、デザイン力を加速度的に向上させている。我が国においても、デザインによって製品やサービスの価値を高め、ブランド構築に尽力する企業が出現しはじめている。デザインは、以前から競争要因のひとつではあったが、近年はその重要性が更に増してきているといえる。しかしながら、優れたデザインは利益を生み出す反面、それに便乗するような模倣品が発生する可能性も高い。デザイン戦略により高付加価値化した製品の利益を正当に確保するためには、意匠権による保護が必要不可欠であり、意匠権による効果的な保護を可能とするためには、ユーザーにとっていかに使いやすい意匠制度とするかが重要となる。また、我が国企業活動の更なるグローバル化に伴い、海外、特にアジアの新興国等の競争環境の激しい地域では模倣問題が多発しており、その対策として意匠権が有効であるとの評価と期待が示されている。我が国企業が、国内外の市場において外国企業と競争していくためには、簡便で低廉な意匠の国際登録制度の活用や、我が国意匠制度ユーザーの利便性向上を前提とした意匠制度の国際調和等が不可欠となっている。本章では、このような状況に対応するため、特許庁が実施してきた主な取組について紹介する。第2章
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