特許行政年次報告書2018年度版
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中小企業・ベンチャー企業・地域・大学等への支援・施策第6章Column 17 特許行政年次報告書2018年版178ベンチャー・エコシステム活性化のための 「3つの知財コンテンツ」の使い方特許庁では、ベンチャー・エコシステムを構成する各プレイヤーそれぞれに有用な知財関連情報を提供するために、2018年4月、「3つの知財コンテンツ」を取りまとめた。本コラムでは、それぞれのコンテンツの概要と使い方を紹介する。1. 一歩先行く国内外ベンチャー企業の知財戦略事例集“IP Strategies for Startups”①概要 業種や成長ステージの異なる国内10社、海外8社(イスラエル、ドイツ、シンガポール、中国)のベンチャー企業について、事業と知財戦略との関係、直面した課題とその対応策や外部専門家との連携を含む体制構築など、具体的な取組をまとめた事例集。②使い方 読者として、ベンチャー企業の経営者や経営幹部を想定。 自社に近い業種やステージの先行例から、自社における事業と知財の関わりについて振り返り、具体的な知財戦略の策定や社内体制の構築を進める際のよりどころとして活用できる。2. オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集“IP Open Innovation”①概要 大企業や中堅企業がベンチャー企業とのオープンイノベーションに取り組む上で生じる課題とその対応策について、国内外企業へのヒアリング等で得られた知見から、オープンイノベーションの目的に応じた類型化と各プロセスの進め方、知財部門の役割や協業で生まれた知財の取扱いなど、オープンイノベーションを成功に導くためのポイントをまとめたベストプラクティス集。②使い方 読者として、ベンチャー企業とのオープンイノベーションに関心のある大企業や中堅企業の知財部門、企画部門、事業部門の幹部及び担当者を想定。 自社が進めようとするオープンイノベーションについて、その目的が明確になっているか、目的に沿った「Win-Win」の知財の取り扱い(権利の帰属等)を行っているか、知財部門がリスク評価以外でも有効に関わっているか、ベンチャー企業のスピード感に対応しているか、相手方に知財面の支援を行っているか、などをチェックし、取り組み方を見直す際に活用できる。 また、ベンチャー企業側としても、大企業等との連携を行う際に相手方の取組を評価する上で参考にすることができる。平成29年度知的財産国際権利化戦略推進事業「ベンチャーの知財戦略」経済産業省特許庁(委託先:PwCコンサルティング合同会社)一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集IP Strategies for Startups4株式会社カブク~製造業のデジタル化をコアに、技術経営を推進~5. 知財の活用・大企業との協業のトリガーに知財の獲得は、大企業との事業連携や戦略的提携などの協業へのトリガーとして機能。特許ポートフォリオの構築は、連携先から他社の権利を侵害しているリスクが少ないとして見られることとなり、同社の信頼性を確保する安心材料の一つとなっている。またこれは大企業にとって、特許を取得している同社と組んでいる限りは余計なリスクを踏まなくて済むということも意味する。逆に同社と近しい事業を勝手に展開しようとすると危険なのだと示唆することができるため、連携に向けて有利に機能する。これは、大企業ではできないポイントをあえて意識し、付加価値として何が提供できるかを明確に提示できるようにすることで数々のアライアンス締結を成功に導いてきた。・資金調達などへのインパクト知財の取得は、資金調達やM&Aなどのベンチャーファイナンスでもポジティブな効果がある。・戦略PRやブランディング、マーケティングツールとして活用スピードが命運を握るソフトウェア業界における知財は、他社により模倣の防止などといったその本来の目的だけではなく、自社ブランディングや他社との位置づけを優位にするマーケティングツールとしての意味合いも大きい。大企業との連携・協業に向けて有効に活用3. 活動体制同社では、1社の弁理士に頼らず、複数の弁理士や法律事務所と提携。社長と経営管理の担当役員、業務経営エリアが中心となって意思決定し、扱う技術の分野や特性によって最適な弁理士や法律事務所を使い分け、特許を出願・管理している。これにより、幅広い範囲の技術を扱う同社においても、各専門分野に通じたパートナーが特許を出願することが可能に。強固な戦略的特許ポートフォリオを構築することができるようになった。もちろん、こうした運用には適切な知識が必要となるが、ここには社長自身が学生時代に学んだMOTや起業前の実務経験が活かされているほか、専門書を複数読むことで学習したことも大きく寄与。社内に共有された社長の経験により、同社は適切な社外専門家の使い分けとディレクションを可能とした。複数の法律事務所と連携し、強い特許網を構築著作権に強い弁理士・法律事務所製造技術に強い弁理士・法律事務所ファイナンスに強い弁理士・法律事務所AIに強い弁理士・法律事務所社内役員社長業務経営適宜使い分け・ディレクション【M&A】大企業からの買収より早く、大きな社会的インパクトある事業を行うためにM&Aを選択。4. 活動の変遷前述のとおり、同社では社会的にインパクトのある事業を展開するために将来的に大企業となることを想定した経営をつづけてきた。しかし、同社の今後のビジネス展開を考えると、世界中のメーカーとのコネクション構築や工場の立ち上げ、検品人員の確保や教育などが必要となり膨大な資金と時間が必要になる。M&Aによって、事業を加速化知財活動直面した壁・チャレンジ【創業からのビジョン】社会的インパクトのある企業をめざす創業時から特許戦略を意識。特許ポートフォリオも戦略的に構築。そこで、電⼦部品や電⼦機器、生産器材の設計から製造、販売を行っている東証一部上場企業の双葉電⼦工業株式会社からのM&Aを受ける。大きな山を一気に登り、さらに事業を加速させている。
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