特許行政年次報告書2018年度版
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特許行政年次報告書2018年版vi特許行政年次報告書2018年版vi~明治初期からの産業財産権制度の歩み~冒頭特集な防錆塗料が開発されれば我が国そして世界の大きな利益となるとの旨の情報を政界要人から聞いた。従来の木船では防汚機能が重要課題としてあったが、鉄船の使用により防錆機能の開発が重要課題として加わっていたといえる。堀田瑞松は、漆を使用する中で漆の優れた防錆効果を認識していたことから、漆工芸家の経験を活かして錆止塗料の研究開発に着手した。その結果、海軍省からも証状が与えられる程の効果の錆止塗料が完成し、専売特許の出願も行い特許を得た。その後、堀田瑞松は、漆を用いた塗料の販路拡大を目的として渡米するなど、我が国で生まれた技術が海外でも活用されるよう尽力してきた。その際には米国特許を2件取得しており(US916869及びUS916870)、この時、すでに海外進出時における産業財産権取得の重要性にも気づいていたといえよう。1. 特許第一号1専売特許の第一号は、明治18年に特許として認められた、堀田瑞松(東京都)からの出願である。この出願は、「堀田錆止塗料およびその塗法」との名称であり、錆止めを目的とした、漆を主成分とする塗料とその塗装方法に関する発明である。堀田瑞松は、もともと美術工芸家であり、漆を用いた家具や什器等の作品も高く評価されていた。明治維新以降、欧米諸国の製品や文化の導入が進む潮流の中、漆を塗って刀の鞘を装飾する刀鞘塗師としての経験も持つ堀田瑞松は、我が国の伝統工芸である漆工芸の活用に力を入れた。我が国の文化も大事にし絶やさないようにするという姿勢が窺われる。そして、ある時、堀田瑞松は、世界の鉄製船舶が海水による錆に悩まされており、6か月ごとにドックに入る必要あるので、より強力1  産業財産権制度設計への道1特許・意匠・商標の三条例制定後の登録第一号21 この項に関する主な参照文献  北垣實一郎、安田清「堀田瑞松傳」(豊岡尋常高等小学校、1931年)、28-50頁  日本化工塗料社史編纂委員会編「社史 波濤を越えて」(日本化工塗料株式会社、1993年)、28-34頁  鈴木雄一「堀田瑞松と特許第一号」(金属、Vol.84、No.9、2014年)、51-58頁特許第一号の明細書

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